赤い華を捧げて
少年の作戦は恙無く通り、いよいよ実行の日に移された。
そのときばかりは少女は師匠の補助役として戦場に向かった。携わったからには見届けなければならないと思ったのだ。
フェイが立派な毒花に仕立てたフルール・ド・イガンは触れただけで危険というほどの代物になったらしく、戦場に出るなり、敵はこちらにそれをばらまいてきた。
その赤々とした華に師匠は見惚れ、盾を展開するのも忘れ、赤い一輪に手を伸ばした。
少女は視界の隅で味を占めた敵連中がにやけるのを捉えていた。真相を知る者としては、哀れに見えた。毒なんて狡猾な手段に頼るしかない無力な人間……同じ人間として情けなくなる。
そうして降り注いだ華は誰が触れても毒にかかることはなく、ただただ美しく、魔族たちを魅了した。死人華、幽霊華と碌な呼び名のない華だが、その毒を抜いてしまえば、ただの美しい赤い華なのだ。
魔族は基本的に長命で、今は廃れた人間の文化に触れる者も少なくない。僅かながらに伝承に伝わるフルール・ド・イガンを目にした魔族たちは、これまでの戦いで失った大切な伴侶や家族、恋人を思い、花を捧げられる、と歓喜した。
そんな魔族たちの様子に、殲滅主義者たちは異変に気づき、そこでこの作戦を提案した少年をなぶった。絶望のままに、暗い淵の光を瞳に宿らせて。
──ここからが少女の出番だった。
少女は高らかに詠唱する。
「風よ、罪無き少年に、柔らかなる癒しを与えたまえ」
すると少女の詠唱に応じ、風が少年に吹き荒れる暴力の嵐を遮って、少年を守るように包みながら、少年の傷を癒した。
そこで少女は赤い華の舞う中、ずいずいと殲滅主義者の中へ突っ切っていく。殲滅主義者が少女を亡き者にしようと武器を振るうが、少女は風の防壁魔法を発動しており、誰一人、少女を傷つけることはできなかった。
赤い華の舞う中、ちょうど敵味方の間の中央に立ち、少女はよく通る声で問いかける。
「この戦いを、無意味だとは思いませんか?」
虚を衝かれた殲滅主義者たちが、攻撃の手を止める。
「魔族の皆さんがこれからなさろうとしている、墓前に華を捧げる行為は、元々人間の文化です。
あなたたちには華を捧げたい人はいないのですか? 人間の文化を取り入れて人間に馴染もうとする魔族の皆さんをあなたたちはただ異形だからと非難するのですか?」
少女の演説に、何人もが息を飲んだ。
少女は更に連ねる。
「魔族は確かにかつてセカイを滅ぼす者に加担しました。けれど今ではこんなにも、人間に歩み寄ろうとしているのですよ? あなたたちが受け入れれば、それだけで済む、簡単なお話なのです。
それでも尚、刃を向けるというならば、私が命を賭してでも、魔族の皆さんをお守り致します。人間である、私が」
そんな少女の宣言が終わると、からんと乾いた音がして、地面に殲滅主義者たちが手にしていた武器が落ちていく。
──これにより、ゲブラーでの戦乱は収まっていった。
これは勇敢な白魔法使いの歴史に名を連ねた物語である。
※フルール・ド・イガンとはフランス語で彼岸花です※




