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-傾月-〈貳〉英雄 3


 おかしい、おかしすぎる……


 月璃るりは自分に疑問を投げかけた。


 そうじゃない? だって……自分はいつも天才と呼ばれた。理解力がすごく優れているはずだ。けど、だけと、どうして、いま自分は目の前の全てを全く理解できないの?


 さっきのおぞましい声はなんなの?どうして日琉ひるるの指はその様子になったのか?その……まるで白くておかしい花みたい様子に……


 月璃るりの頭が真っ白になって、うまく考えることできない。


「うわあああああああああああああああああ……」


 生まればかりの赤ちゃんみたいに、日琉ひるるはまた泣いている。日琉ひるるはいつも泣いているが、いまくらいのひどく泣く様子は月璃るりは見たことがない。


 過去、毎回日琉ひるるが泣いている時、月璃るりはいつもすごく煩いと思って、泣いている日琉ひるるを避けたかった。だけと日琉ひるるは彼女を探せなかったら、常にもっと大きな声で泣いた。そういう時、月璃るりはいつも日琉ひるるの側にしゃがんで、耳を押さえて目を見開いて、泣かないでよって警告するしかない。


 しかし、今回、月璃るりはただうつろな目つきで立ち尽くす。何も感じない、何も感じたくない。


 目の前の全てはどたばた劇みたいで、日琉ひるるは大声で泣いて、そして夏涼なつりょうは割り込んで来て大声で何か叫んで、そして邸の医者と使用人たちも部屋に来て、そして自分は誰かに部屋の外に押し出されて、そして、そして……





 正気に戻った時、月璃るりは自分が邸の医療室にいることに気づいた。彼女は椅子の上でうずくまっている。どのくらい時間が過ぎたのか?一時間?二時間?それとも三時間?彼女はわからない。


 日琉ひるる月璃るりの前のベッドによこたわっていた。右手が厚手の包帯で巻かれていた。彼女は左手で黒い子猫を抱いて、泣き疲れて子猫とともに寝てしまった。


「早く寝たほうがいい」月璃るりの後ろに立っている夏涼なつりょうは彼女の肩を叩く。


「……」


日琉ひるるの指の状態を心配しないでください。生の月財が使えましたので、ちゃんと静養するなら、後遺症が残らないと医者に言われました」夏涼なつりょうはもう一度月璃るりの肩を軽く叩く。


 静かにひとしきりの考えを終わると、月璃るりはやっと細い声で答えた。


「そう……なの、夢……じゃないね」


「もう結構遅いです、早く寝なさい。それとも何か食べたいですか?君はずっと食べていません」夏涼なつりょうは優しい口調で話した。


「1400」月璃るりは突然に言った。


「はい?」


「1400、それはあたしは過去に想像した、父と再会する時、様々な状況の数だ。」月璃るりは渋い声で、ゆっくりといった。「予想した全ての状況は、今も覚えている……もし将来、本当に父と再会するなら、少なくとも一つの予想は本物になるって、いつもそう……思ってた」


「……」


「あたしはすごく幼稚だから、そうなればいいなと思ってた。せめて再会する時、父の反応が予想通りだったら、あたしにとっては小さな勝利だ」


「……」


 夏涼なつりょう月璃るりの後ろで黙って聞いていた。返事をしなかった。必要なとき、彼はいつもいい聞き役だが、時々月璃るりは彼はそんなに遠慮しない方がいいと思う。何か考えたら直接に言えばいい。


 長い時間、月璃るりも何も話さず、眼差しは日琉ひるるの傷ついた手に向けた。


「だけと私は失敗した。千四百の予想、全て外れた」


 公爵が初対面で日琉ひるるの指を折ること、あるいは彼女に対しての態度、どれもあたらなかった。


 そうね、月璃るりはいつも日琉ひるるがすごく煩いと思って、思わず彼女をいじめくなった。本来月璃るりは強制的に自分の世界に詰め込まれた妹がそんなに好きじゃない。ずっとお姉さんお姉さんと呼んで、何処でも自分の後ろを付いて回って、本当に面倒くさい……


 ……だけど月璃るりは彼女を傷つけるなって、一度も考えたことはない。


 そして月璃るり自身はどう?十年も待っていた。公爵は彼女を一目も見たくなかった。


月璃るり……」


「涼、あんたがいつも言った通りだわ、私はおかしい妄想が多いすぎる。女の子って、やはりそういう妄想は少ない方がいいね」


月璃るり、これは君のせいではありません」


 だけど夏涼なつりょうの慰める言葉に対して、月璃るりはただそっと笑った。


 月璃るりの様子を見て、夏涼なつりょうは言葉の続きを少し躊躇したが、最後に決心してゆっくりと言った。


「実は……君の父上について、過去に妙な噂がありました」


 月璃るりは振り返って頭を傾げて、彼に眼差しを送った。昔から夏涼なつりょうは彼女の前で、公爵については語るのを避けていたが、公爵が戻った今、夏涼なつりょうはついに公爵の話した。


「ある噂は……君と日琉ひるるのお母様のお二人は……自然な病死ではありませんらしい」


 月璃るりはぼんやりと夏涼なつりょうを見て、夏涼なつりょうの言葉に沿って考える勇気がない。実際に夏涼なつりょうは途中まで話してやめた。しかし隠れた話の中に何があろうと、ただの護衛にいうべきものではない。


 ぼんやりとして夏涼なつりょうを見ていた時、一名の兵士が突然入って来て、二人に敬礼した。


 彼は銀色の鎧を着て直立して、まるで一本の銀色の定規みたいだ。月璃るりは邸でこの兵士を見たことはない。多分、公爵と一緒に帰ってきた親衛隊だ。


「公爵様はあの黒い猫が欲しがっておられます」兵士は日琉ひるるに抱かれて眠ている子猫を指した。


「え……どうして?」月璃るりの表情が強張る。


「公爵様は説明しませんでした」


「で……でも、この猫は……日琉ひるるのぺットだよ」


日琉ひるる殿下は今体が弱いです。その猫は彼女の療養に助けがあります」夏涼なつりょう日琉ひるるの前に立ち、兵士にそういった。


「公爵様の命令です。もし日琉ひるる殿下の猫が頂けないのであれば、日琉ひるる殿下ご本人が公爵様の部屋にお出向きください」士兵の声の中に何の感情もなく、身につけた鎧と同じように冷たかった。


 月璃るりは少し沈黙して、軽い声で言う。「わかりました。先に出て行っていいの?」


 ややためらって、兵士は医療室から出て行った。


 月璃るりは椅子から立ち上がて、日琉ひるるの側に行って彼女の目尻に溜まった涙を拭いて、汗で濡れて横顔に貼りついた髪を少し整えた。そして慎重に日琉ひるるの手から黒い子猫を取り上げて夏涼なつりょうに渡す。


「涼」


 子猫を渡した後、月璃るりはあの翡翠色の瞳を見つめる。


 夏涼なつりょうは両手で子猫を掬い上げて、頷いた。


月璃るり、私はこれからできるだけワンちゃんを持ち帰るようにします。」夏涼なつりょうがいった『ワンちゃん』はあの黒い子猫の名前だ。月璃るりには決してこの猫をこうに呼ばないが、実際にこの名前は月璃るりがつけた。


 夏涼なつりょうは話し続ける。「けど覚えてください、私は君の護衛です」


「わかってるわよ」月璃るりは心ここに在らずといった様子で答える。


 夏涼なつりょう月璃るりの護衛になったのは4年前のことだった。その時はまだこの職位が存在しなかった。しかし執事長は年を取ったので、同時に月璃るりはますます彼の話を聞かなくかった。彼女の安全を考えて、やっと護衛を配置した。


 本来なら執事長が配置したかったのは女性兵士だったが、月璃るりは拒否した。当時、7歳の彼女はちょうど自分のことを可愛すぎると思っていた時期だった。若い男に自分の魅力を試したかった。


 月璃るりはわからない。どうしてこんな当たり前のことをいまさら話したのか?今日は色々なことがあった。色々すぎる。彼女はもう自分の考えを整理することができない。


「私が言いたいことは、必要な時、私は君の護衛であって、日琉ひるるの護衛ではありません」夏涼なつりょうはゆっくり話した。



 そう言葉を殘して、彼をぼんやり眺める月璃るりを置いて、部屋を離れた。


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