-傾月-〈貳拾貳〉夢を追う夢 3
『カッ』
トランプタワーが崩れた同時に、夏涼の胸元にある黒水晶から機械音がして、突然『開いて』、内部の複雑な機械を曝しながら漆黒の空へ細長くて赤い光線を射ち出した。
『着陸地点座標の偽造を完成した。プログラム起動。カウントダウンスタート』黒水晶から無機質の声が流れた。
赤い光線が消えてしまった後、水晶はすぐ閉じたが、声がまだ止まらない。
『十……九……』
夏涼は急に立ち上がって、きょろきょろ見回す。間も無く何かが起こると予想できるが、見当たらない。
黒水晶は……何を遅くカウントダウンしている?
周りに異常なしと確認して、夏涼は顔を上げた。
いくら彼でも、上の景観を見た後、信じられないように口を開けて全身硬直しかできない。
「美しい夢に対して、みんなそれぞれの選択がある」公爵は続ける。
「気にかけすぎるから、ある人はそれがただの美しい夢を知ってても、依然としてその中で溺死することを選択する」公爵は淡々と言う。「それに反して、ある人は受け入れられない。あまりにも重視して気にかけてこそ、このような大切なものに、一抹の虚偽が含まれたことを受け入れられない」
『八……七……』
上の異様な景観を見て、夏涼はやっとわかった。一体公爵は何を話しているのか。一体なぜ月璃は彼に黒水晶の機能を教えなかったのか。
いや、実際に月璃はとっくに彼に教えていた。
一瞬、夏涼は出征前、月璃との対話と約束を思い出す。
……
「行かないで……今そう言っても、もう間に合わないんでしょう」
「月璃、私がどう答えるのか、君が知っているはずです」
「ならせめて、一つだけ約束してほしいです」
「分かりました、言ってください」
「どんなことがあっても……必ず黒水晶を持っていてください」
……
『六……』黒水晶のカウントダウンは続く。
……
「涼君、まだ覚えていますか?このネックレスはアイビスが自分のある願望のために作ったものだとあなたに話しました」
「ええ、具体的な叙述はなかったけど……」
「少女たちの秘密ですから……」
「今話しますか?」
「このネックレスは……【陽の女王】が天上の恋人を自分の隣に戻らせるための道具です」
……
『五……』
……
「……この黒水晶の機能は一体?」
「強いて言えば、これは……力量の月のからの祝福です」
……
『四……』
「なるほど。」夏涼は空を見つめて、呟いた。「これが君の選択ですか?月璃」
此頃、月璃が彼に話した黒水晶をなくしてはいけない理由は彼の頭上にある。
この黒水晶ネックレスは、確かに【陽の女王】が『天上』の恋人を自分の隣に戻らせるための道具だ。けれども、アイビスの恋人がいる『天上』の本当の位置は、魂が戻る場所ー無尽の月を指すのではなく、同じ天上にある……
……力量の月だ。
「あぁ……そうだな、自分の手で夢境を破る。これが私の娘の選択だ」公爵は言う。
「けれど結局、彼女はまだ分からない。夢が覚めてから抱擁の温もりは、依然としてただの……もう一つの夢だ」
『三……』
「鏡の花の如し、繁華落色、無塵、無痕」
「水の月の如し、煙雨湖畔、掬って、散って」
公爵は酒の入った盃を持って月に言いかけて、軽くため息をつく。
「もしかしたら、人が生きることは、しょせん……夢を追う夢なのさ」
『二……』
ついに、夏涼の頭上に、空に浮かぶ力量の月は、移動速度がますます速くなって……体積がますます大きくなって……
まっすぐ落下し、彼の視界全体を覆うまで大きくなる超巨型な火の玉になって、彼らの頭上に落ちてくる。
「綺麗だな」夏涼は火の玉を見つめながら呟いた。
答えが出た。
なぜ月璃は何度も彼にお願いをして、彼を出征させたくなかったのか。
なぜ月璃はずっと記憶を取り戻すことをこんなに嫌がったのか。記憶喪失のフリをし続けてでも、過去の自分に戻りたくなかったのか。
この黒水晶は、月璃が彼に送った最初の、そして最後のプレゼントだ。
彼と公爵を共に葬るためのプレゼント。
ここ数日夏涼が公爵に対して、より一層深めた理解によれば、おそらくそれは確かに、唯一公爵を殺せる方法かもしれない。
記憶を失った月璃にとって、一番大切な人は、確かに夏涼かもしれない。だから彼女は彼の期待に応えて、過去の性格に戻った。
けれど本来の月璃にとって、二者択一なら、彼を選べないだろう。
同時に偽りに立てられたこの愛情を、彼女は絶対に認めないだろう。
だって過去、彼が憧れたあの少女は、このような意地っ張りな少女だった。
でもそれでいい、彼が姉妹二人に犯した罪は、どうしても許されない罪だ。
公爵の共犯者として、過去の月璃を一度殺した犯人として、公爵とともに消えるのは、彼にふさわしい結末だ。
この五年間ずっと被り続けて、唯一、彼が外したくない偽善仮面……
……死ぬことだけが、それを、永遠に彼の顔に嵌め付けることができる。
『一』
頭上から、太陽が盛んに照りつけるかのように、暖かい光を体に浴びる。
夏涼は軽く目を瞑った。
そう、月璃、この世界は優しいものじゃない。
世に君の意図を主張したいなら、このように……全力を尽くさなければならない。これこそが、君のあるべき生き方だ。そうではないか?
「夏涼、お疲れ様です!」
公爵は急に空に向けた盃を夏涼に向けた。気分が高揚しているのか。今までにない熱狂をはらんだ口調で。
「今夜は祝うに値する夜だな、君と私-鋳剣師たちの夜だ。」
「今、彼女自らの手で自分を育てた二人を斬殺することを通して……『剣の魂』が…ようやく完成した!」そう言って、公爵は楽しく最後の一口の美酒を味わう。
そして夏涼は、釈然と笑った。
『ゼロ』
お帰りなさい、月璃。




