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-傾月-〈貳拾壹〉罪 2

 


 ……





「私の……罪証?どういう意味ですか?」


「おい、猟犬、俺たちのさっきの話、また覚えてるか?お前、言ったんだろう、俺は……ただの殺人犯だと」


「……」夏涼は開戦した時の会話を思い出した。「……辱めを受けたと感じていたら、謝罪します」


「いや、お前が言った通りさ」オオカミは血に飢えた笑みを浮かべる。「ボスに拾われる前は、俺は確かに殺人犯だった」


 夏涼は沈黙した。彼は知っている。親衛隊のごく一部の人間は、公爵の歪んだ美学によって恩赦された重罪者だ。


「だから俺を殺人犯と呼ぶこともかまわんさ、俺は自分の欲望に基づいて殺すことを選び、自分の欲望に基づいて殺さないことを選ぶ 。俺がやってきたのは、全て自分の欲望のためだ……これについては、弁解するつもりはない」自分の言葉には何ら耻もないように、オオカミは険しい顔で夏涼を睨む。


 その灰青色の瞳は、まるで目の前の獲物を見据え、狩猟モードに入った雪狼のようだ。


「俺は俺が認めて、その価値がある人をしか斬らない」


「だけど……二回まで、俺の獲物が先に奪われた」オオカミは黒水晶をガリガリと握りしめた。「お嬢様が俺が認めた、自分の手で殺したかった相棒を殺した。そして……お前は、その『彼女』を殺した」


「オオカミ、君は一体……何を話しています?」


「ふん、とぼけるな、この黒水晶はこそ、お前が過去のお嬢様を殺した罪証だ」


「……」


「五年前のお嬢様は、今のような無様な様子じゃない」


「五年前の……月璃?」


 五年前、それはまだ記憶を失なっていなかった、『月からの悪魔ちゃん』の時期の月璃だ。


「あの頃と比べて、試合の時の惨めな、弱気な姿は、なんなんだ?」オオカミは怒りで吐きそうに話した。


「……」


「あの魂の輝きを放ち、俺が尊敬すべき、斬殺するべき人格が、今のようになったのは。全て、お前がやったんじゃないか?」オオカミは憎しみに満ちた低い声で質問した。


 この言葉を聞いて、夏涼の顔つきは急に凍結した。


「今の、あのいつも、お前しか頼らない姿……まるで、お前のために特注されたおもちゃみたいだ、そうじゃないか?」


「黙れ」夏涼は低い声で警告した。


 開戦から持ってきた余裕が、その簡単な言葉で破られ、揺らいでしまう。


 九死に一生を得る戦場より、破滅を象徴する紅雪種より、これらの言葉が夏涼にとっては、もっと黒くて、もっと狂わせ、もっとこの世に存在してはならない言葉だ。


 これ以上、夏涼は聞くことを拒否した。


「相手の記憶喪失に付け込んで、あの王国第一の美貌、あの華奢な体を手に入れ、相手の記憶喪失に付け込んで、あの王国第一の美貌、華奢な体を手に入れ、掌で踊る操り人形のようにして、思うまま握り潰せるほどに心を脆くさせた。さそがし、最高に気分がいいだろうなぁ」オオカミは凶悪な笑いを浮かべる。「プロポーズするつもりなんだろう?今のお嬢様なら、躊躇すらしないだろう。ふん、おめでとう、全てお前が望んだことだ!」


「オオカミ……」夏涼は相手の名前を呼んだ。それは聞くだけで、一般人には戦慄を感じさせるほどの低い声だ。「……私に対して不満があるなら、それは私たちのことです。だが、もし君が月璃殿下を辱め続けるつもりなら……」


 この言葉を聞いて、何故かわからないが、オオカミはまず呆然として、そして頭を上げて、狂ったように大笑いした。まるで何かに驚いて、信じられないように滑稽な話を聞いたように。


 笑った後、オオカミは夏涼を睨みつける。


「まだとぼけるつもりか?この忠犬の仮面で。」


「オオカミ、君は一体なにを……」


「五年前、お嬢様の記憶喪失事件は、実際には外部からの襲撃ではなかった」


「……」


「俺は知っている。五年前に、一体何が起こったのか、お嬢様は何をしたのか、そして……」




 ……お前が、()()()()()()





「……」夏涼は急に沈黙した。怒りは急激に彼の表情の中から消えてしまった、まるでもともと存在していなかったかのように。今、彼の顔は人形のように、何の感情も持たない。


「っ、ようやく仮面が剥がれたのか?」


「何を言ってるのか分かりません」夏涼は無表情で返事した。


「なら、もっとはっきり話す」オオカミは唇の端を上げる。「あの記憶喪失の事件、実際に、お前とボスの取り引きだろう」


「取り引き?」


「お嬢様を完全に手に入れるための取り引きだ」


「……」


 オオカミは黒水晶をポケットに入れて、懐中から重ねた紙を取って、夏涼の前に捨てる。


「あの襲撃以来、俺は調査を繰り返した。その結果、俺はついにこれを見つけた」


 夏涼は風によって空中に舞い上げられた紙の中から一枚を取って見た。それは極めて詳しい公爵親衛隊の名簿だ。


 上には2種類の筆跡がある。一つはぞんざいな筆跡で、親衛隊のそれぞれの称号、使える五色、得意な武器、交替勤務の順番を詳細に記録したものだ。そしてもう一つは、夏涼がもう数年見たことがない筆跡……『月からの悪魔ちゃん』の注記。


「これは一件の親衛隊リスト、正しく言えば、偽造された親衛隊リストだ。本物はこんな詳しい内容は記録されていない。何しろ、もしこのものが敵に奪われたら、親衛隊を狩るための最高の武器になるからな。そしてこのリストは、誰が、何らかの方法でお嬢様の手に渡した」


「……」


「けどこのリストは、一つの明らかな欠陥がある。リストには、親衛隊半分の人しか記録されていない。親衛隊の一つの分隊は4人がいる。例えば邸が襲われたあの夜、表向きの護衛は、俺と『ヤマネコ』しかいなかったが、裏の死角には、実際には『トビ』と『フクロウ』が待命していた。だがこんなに詳しくかかれているリストでも、このことは記録されてない。まるで……お嬢様を早く決断させるために、わざわざお嬢様に攻略の難易度を隠すようだ」


「君が言いたいのは、このリストは、私が月璃殿下を誘導するために書いたものだということですか?」夏涼は首を振って、紙を放して、風にとばさせた。「こんな汚い筆跡、私のではありませんよ」


「ここ数年、俺はずっと邸の中でこの筆跡の持ち主を探してきた。確かにこれはお前の筆跡じゃない……お前の普段の筆跡じゃない」


「……」


「調査している時、俺は一つのことに気づいた。お嬢様に殺された『ヤマネコ』以外、暗がりの中で死んだ『トビ』と『フクロウ』の致命傷を観察すると、彼らを殺したのは左利きだと確認できる。がだ、このリストの筆跡は右利きのものだ。それともこう言うべきか、それは左利きがわざと右手で書いたものだ」


「死体検査、筆跡分析、君はどこからの探偵ですか?」夏涼は無表情で話す。


「そうだ」意外に、オオカミは躊躇なしで頷いた。


「……」夏涼は少し呆れた。「君は、一体殺人犯ですか?それども探偵ですか?」


「両方だ。わからないか?狼の特性を」オオカミは凶悪な笑いを浮かべる。「共食い、それが俺がボスに『オオカミ』の称号を与えられた要因だ。過去俺が狩った、斬殺の対象は、全ては各大都市で捕まえられなかった連続殺人犯だった……そう、お前のように」


「……」


「猫の鼠狩りのように、まずは知巧の競合いで自分がバケモノと思った奴らをギリギリまで追いつめて、そして最後、単純な武力で絶望を与える」オオカミは左手の指の第一関節を曲げる。「それより楽しいゲームはないさ」


「この嗜み、あまり感心しませんな」夏涼は首を振った。


「ふん、本題に戻っそう。なぜあの左利きの人間はわざと右手で書いたのか?俺はこう仮定する。理由は、もしその人間が元の筆跡を使えば、簡単にお嬢様にばれるから、だから彼は利き手じゃない方の手で書くしかなかった。これで、条件が揃った。その人間は必ずお嬢様から非常に親しい関係で、そして痕跡を残さないようにリストをお嬢様に渡せる地位にいた。同時に、彼は左利き、簡単に『トビ』と『フクロウ』を暗殺できる腕を持つ左利きの人間。


「そうなると、邸で疑われる対象は、私しかないみたいですね」夏涼は淡々と言った。


「ふん、何か言いたいことがあるか?」


「いええ、君が言ったのは、全て正しい、ただ……」


「ただ?」


「ただ……正しすぎる。その正しさは、私も、月璃にとっても、存在してはいけないものです」夏涼はここでちょっと口を閉じて、おもむろに続ける。「オオカミ……さっき蜘蛛の最後の一撃を気づかせてくれたこと、本当に感謝します」


「いまさらなにを言う」


「今言わないなら……」夏涼は微笑みをした。仮面に刻まれたかのように寒さの口元の弧で。「……後で、私が君を口止めしたら、機会がなくなります」


 オオカミは同じ歪んだ笑みを浮かべて、折れた剣を夏涼に向ける。


「ようやく本性を現したな。ちょうど、お前も退屈なお試しの行動に飽きたんだろう。ゲームの最終幕だ!俺を失望させるな、近年人を最も怖がらせた連続殺人犯ーー『アイスジョーカー』よ!」



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