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-傾月-〈貳拾〉膝枕の幻夢 6

 

 ……




 目の前の蜘蛛の一本の足が断ち切られたので、中央の核心部分の高度が下がった。


 夏涼は手を後ろに置き、両手でそれぞれの一本の水袋を持つ。


 手で空で二本の淡緑色の残光線を描きながら、水袋の中の水は水霧になって高圧噴射して、夏涼は蜘蛛の核心へ飛びかかる。


 蜘蛛はすぐに飛びかかってくる夏涼に気づいた。3本の攻撃用の脚を動かし、1本は横に曲げる。二本は垂直にしならせる。


 夏涼は空っぽの水袋を捨てて、迅速に背中の槍を抜いて、一般の納刀の姿で腰元に置いた。槍の切っ先を彼の後ろに、二本のクラッカー筒の口火と一緒に置いた。


 目を見開いたまま超高速で横振りに来た数十メートルの蜘蛛の脚を見据え、前のますます近づく超巨大な刃を見つめ、瞬きもしない。




 引き縄を引き、腰の二本のクラッカー筒は一気に鳴り響いた。




 光焔が噴出し、強い反動力が夏涼を空中で転向させ、横切りにきた蜘蛛の脚をかわした、同時に、彼は移動経路に淡い赤色の残光を残して、クラッカー筒から噴出された爆発の熱量を残らず口火と一緒に置いた槍の切っ先に吸い込ませる。


 目の前に、2本の細長い蜘蛛の脚を曲げて、彼のことを待ちくだびれたかのように交差斬撃を叩きつける。


 二回連続で縄を引いて速度を出すと、そのスピートが視界を曖昧にさせた。夏涼は極限の角度で斬撃をかわし、寒くて白い煙が立つ巨大な刃をかすめ、短期間で全身が巨大な氷の表面に密着するかのように感じられていた。


 空中では再び2個の残光球が残った。4回のクラッカー筒によって爆発させられた熱エネルギーを吸い込んだ槍の切っ先は眩しい光を放つ。夏涼は左手で槍を半回転して、切っ先を前の蜘蛛の核心に向ける。


 右手で二本のクラッカー筒の引き縄を引いて、最大加速度で突進する。




 発光の槍の切っ先は眩しい流星のように、空でまっすぐな軌跡を描いた。




 夏涼は蜘蛛の核心である鉄色の球体に踏みつけて、槍をその中に差し入れる。


 淡い赤色の残光が浮かぶ。夏涼は最後の五色を放って、体重を極限までの6分の1に減らし、槍に込めた熱量を全て球体に伝える。


 槍を抜いた後、夏涼はクラッカー筒をもう一度鳴らさせ、球体から飛び退き、距離を取ると同時に、腰にずっとかけていた4つの水袋を取って……


 ……高熱で溶け始めた球体の一部に投げつける。




 パーン!




 水の満ちた水袋は超高温の金属に当たり、当たり前のように空中で爆発した。


 蒸気が接触点から一瞬拡散し、白い霧になって夏涼の視線を遮った。


 夏涼は高速で後ずさりしながら、息を吐き出す。


 彼の推測は正しかった。蜘蛛も他の種類と同じのように耐熱性が低い。高温の蒸気はその核心を溶かすには十分なはずだ。


「おい、気をつけろ!」下からオオカミの声が聞こえた。


 視界がぼやけている状況で、長い蜘蛛の脚は突然に白い蒸気から浮き出す。




 ドン!




 夏涼は危機一髪に槍を身の前に構えて、正面から蜘蛛の脚を受けた。衝撃が腕から全身まで染み渡る。両手の虎口が激しく痛くなり、真ん中から氷結し始めた槍を手から離した。


 彼は急速に霧の中から飛び出す。


 クラッカー筒の砲声が空中で連続に鳴り続ける。しかしいくら夏涼は残りの弾数を撃ち尽くしても、飛び出された力の勢いを止め切れない。


 彼は地面に激しく叩きつけられて、何度もバウンドする。最初の数回の衝撃は全身に激痛を走らせて、そして後の数回は痛みすら感じられなくなる。


 意識は途中で何度も中断した。途切れ途切れ、ぼんやりしている。だがなぜがわからず、このように薄れている意識の中で、ある瞬間、彼は首の黒水晶ネックレスが破断して飛んでいったことをはっきり認知していた。


 止まった後、世界は依然として彼の目の前でとめどなく回る。


 夏涼はもがいて、立ち上がろうとしたが、左足から焼かれたような痛みを感じた。3度目に失敗した後、彼はようやく膝で立った。


 とろりとした血が口角から流れる。彼は血に半分染められた視野で黒水晶を探す。


 頭が痛い。痛みは騒音のように頭に詰め込まれている。思考できず、最も簡単な言葉と考えさえ紡ぐことができない。


 ただ一つ、本能的に、魂の奥に刻まれたように、彼の体を無理矢理に前へ動かせる。


 真正面に、巨大な化け物は霧の中で再び浮かび出す。銀色の核心が溶けたので、中の黒い精密機械を露出している。無数の赤と青の微小な光る点が中で瞬いている。


 彼は夏涼を向いて、まるで最後の執念を燃やし尽くしたように、ゆらゆら倒れて轟然と砂塵を上げた。


 少し離れた場所の砕けた岩の下で、黒水晶は砂の中でかすかに光っている。


 夏涼は歩き始める。歪んだ視界が深紅に大半を占められ、残った淡い赤色の荒景が目の前で揺れている。


「ハッ……ハッ……ハッ……ハッ……」


 無知覚の右足を左足の前に引きずって、そして無知覚の左足を右足の前に引きずって、繰り返す。


 うるさい時計のように、血が規律正しく耳元にぽたぽたと滴り落ちてくる。


 夏涼は身の後ろに一本の血の跡を引きずって、黒水晶のところに辿り着いた。


 そして、彼の目の前で、黒水晶を拾われた。


 同じように全身ぼろぼろになった男に。


「……オオカミ」


「ふん、お前の認定基準によると、さっき俺の叫び声も、一度お前の命を救っていたと言ってもいいだろうかな?」


「オオカミ……黒水晶を返してください 」


 オオカミは返事せず、焦げた手で黒水晶の銀鎖を掴んで、目の前で釣り上げてしげしげと眺める。


「これは……お嬢様なものだろう?首につけていたことを見たことがある」


「これは……月璃殿下が私に授け与えてくださったものです」


 オオカミはしばらく黙り込んで、黒水晶を抛り上げた。


 黒水晶は宙で高い弧を描いて、きっちりと夏涼の手のひらに飛んでいく。しかし夏涼が黒水晶を掴もうとした瞬間、背筋に冷たいものが走って、筋肉が本能的に重傷の体を後ろに引き、強引に後ずさらせる。


 剣閃がやり過ごす。夏涼の首があっていた位置を。


 そして銀鎖は剣に回して、黒水晶は剣身にに巻きついた。


 それは帝国制の一本の剣、戦場でどこでもある折れた剣だ。


 しかしそれを持っている人は、戦場でどこでもある発狂した帝国軍ではない。


「オオカミ、どういうつもりですか?」少し沈黙した後、夏涼は訊ねた。


 夏涼の質問を無視し、オオカミは折れた剣で黒水晶をもう一度放り上げて、掴んで拳の中に握りしめる。


 この冒涜の動作のため、夏涼の先まで肩を並べて一緒に戦ってきた戦友を見る目に、一瞬、制御することができない殺意が走る。


 夏涼の表情を見て、狼は冷笑した。


「なるほど、やはりこれが……お前の罪証だ」




 さあ、審判を、始めよう。






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