-傾月-〈貳〉英雄 1
目が覚めた後、月璃は周りをみた。ここは薄い水色の部屋だ。
牢ではない、鍵のかかった倉庫ではない、拷問室でもなく、彼女の部屋だ。
酔いが覚めたが、頭は少し痛い。月璃は起きて、おでこをつまんで、振り返った。日琉は他の床で寝ている。月璃と同じ、日琉もきれいなパジャマに着替えさせられていた。白くて小さい顔に赤い涙の跡がある。彼女は床で体を丸めている。毛布はいつも通り床に蹴られしまった。
月璃は毛布を拾って、日琉に被せて、部屋に離れた。
身なりを少し整えて、食堂に行き、朝食はすでに用意されていた。一人の男がお茶を飲んでいる。
月璃は座って、前の皿を全て押し退けて、一杯のコーヒーを残した。そして、彼女は目の前の青年をにらんだ。
「頭はまだ痛いか?初めての酒にしては、君は本当に飲みすぎました」青年は優しく穏やかな声で言った。
青年の灰みのかかった黄緑色の髪の一部を細く短い三つ編みにして左側の横顔に垂らし、翡翠色の瞳、そして目の下にほくろがある。イケメンはそういうやつだ。
夏涼、月璃のたった一人の護衛。
「あいつはどうした?」月璃は冷たい態度で言った。
「あいつ?」
「あの……」月璃は突然に自分はあのくそ商人の名前がわからないことに気づいた。
夏涼は茶碗を置いて、牛乳、砂糖、マドラーを皿に置いて、水と一緒に渡した。
「君を殴るつもりだった商人ですか?私が弁償しました。君たちの身分はバレていません」夏涼は簡単に報告した。
「それだけ?弁償して、それで終わり?」月璃は些か愕然とした。
「彼は君を殴りませんでした。君が気を失った後、私がすぐ彼を止めました」
「もう少しで殴ろうとしたわ」月璃は強調した。
「もし彼が本当にやったら、自然にそんな簡単に彼を放すわけがない。私は絶対に彼を捕まえて、褒めてあげて、国民栄誉賞を与えて、そして君の成人式の時、彼に成人式あいさつを任せます」夏涼は微笑した。
「おもしろいか?」月璃は白目を剥って、コーヒーと牛乳や砂糖が置いた皿を一緒に夏涼の前に押し戻した。
「月璃、わがままを言わないでください。君は彼のドレスを燃やしました、理由もなくで」
月璃は沈黙した。短い会話によって、彼女は夏涼が現場に到着した時間がわかった。
夏涼がきた時は、ちょうど商人を月璃を殴ろうとした時わけがない。彼女が商人と話した時、だぶん夏涼はとっくに現場に到着していた。しかし、この時間は日琉が殴られた前だ。夏涼は日琉が殴られたことに気付かない。だから簡単にあの商人を放した。
しかし、月璃は弁解するつもりはない。そう言ったら、彼女はまるで愚かな妹を庇おうとする優しい姉さんになったじゃない?何それ気高すぎで、ヘドが出るそう。
彼女はそういう人だ。見せ掛けた『尊敬』と『好意』のような紛い物に首を絞められつつある優しい姫さまより、みんなに軽蔑されたクソビッチにする方がいいと彼女が思う、せめて、あれらの怒りと嫌いは本物だ。
「どうせ後であたしに送っても、燃やすつもり。なら早めに焼いただけ何が悪いよ?」月璃は口を歪めた。
夏涼は嘆き、コーヒーにミルクと砂糖を入れて、月璃に押し戻した。
「月璃、どうしてそんなことをします?また足りないのですか?君の悪い評価」
この数年間、月璃の称号はずっと変わっている、初めては【月からの姫ちゃん】だ。そして【月からの悪魔ちゃん】、そして『ちゃん』がなくなった、【月からの悪魔】になった。最後、『月から』もなくなったらしい。【悪魔】だけ。
月璃は返事をしない。コーヒーをかき混ぜることを始めた。
「また一人の教師がやめてしまった。君の勇名はもうこの寒霜城に馳せてしまったおかけで、私たちはますます教師を探さすことができなくなったんです。どうしてそのようなフリをしますの?君はそんな女の子ではないはずです」
「フン、あんた……」
「『あんたは何がわかる?』、そう言いたいのでしょう」、月璃の話が終わらない中、夏涼は口を挟んだ。
「……」
「月璃、君は知っているはずだ。私はいま会話したいのは『月璃・アルフォンス』ではなく、『月璃』です。あなたは偽りが一番嫌いじゃないんですか?」
「あんたはますます卑怯になったわ」月璃はマドラーをぎゅっと掴み、コーヒーを強く力でかき混ぜている。
「まあ、私は一応君の護衛ですからな」夏涼は微笑した。
「フン」月璃は俯いて、コーヒーの回転中心を見つめた。
「月璃、君は誕生日パーティーに参加しなければいけません」
「もうドレスがない」月璃は肩をすくめた。
「新しいドレス、私は既に用意しました」
月璃は突然に頭を上げて、表情が少し変になった。
「あんたが用意した?」
「そう、私が選んだんです。似合うかどうかまだわかりませんけど、君はまだ発育しているんですから」
「あんたが自分の手で測してみたら?」月璃はあざとい笑顔をして、マドラーをかき混ぜているスピードがますます速くなる。
「必要ない、昨日君の服を着替えさせたのは私です」夏涼はそう言って、ゆっくりお茶を飲んだ。
マドラーは止まった。月璃は鋭く怒りを含んで夏涼を睨み、彼を噛み砕いたい顔をしている。
「頬が赤いね。酔いがまた覚めないのです?コーヒーを飲んて下さい」夏涼は茶碗を置いて、静かに言った。
「……」
「冗談です」
「……」
「コーヒーを下ろしてください、本当に私が着替させたのではありません」夏涼は両手を挙げた。
「フン、臆病者、美少女の発育中の体を覗く機会を見逃し、男色の噂は本当でしょう」月璃は挙げているコーヒーを皿に戻して、そしてつまらないようにかき混ぜ続けている。
「いや、私はただ淑やかな女の子が好きなだけ」夏涼は微笑した。
「あの逃した若い女教師ならどう?ストレス耐性が弱い以外、個性が悪くないよ」月璃は上の空でコーヒーを混ぜ続けている。
「月璃、冗談はよしてくれ。早くコーヒーを飲んて下さい。大事なことを話します」
冗談ではなく、本気で二人を取り持つつもりよ。これを冗談と言ったら、女教師は高齢処女と言うより酷いじゃない?月璃はそう言いたいが、夏涼の真面目な顔を見た後、月璃はコーヒーを一気に飲んて、頬杖をついて、マドラーを銜えて、夏涼の話を待っている。
「君はもうすぐとても大事な人と出会います」
月璃は目を少しみはった。数秒後、すぐけだるい姿に戻た。
「だから、次の妹の名前は何?星何々でしょう?」月璃はつぶやいた。口でマドラーをくわえているのせいで、言葉を濁した。
「君は何を話しているのですか?」夏涼は眉を顰めた。
「それとも弟?私は弟が嫌い。荷造りをして、前線のだらしない英雄に返品してちょだい」
夏涼は嘆いた。深く嘆いた。そしてゆっくりと次の言葉を話した。
「月璃、君のお父さんが戻ってきました」