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-傾月-〈拾柒〉簒奪 1

 

 王国軍が出征しから約1週間後。


『デカル高原』の南部、プールバッハ帝国軍の駐留地、将校用の天幕の中で。


 将校たちは机を隔てて対座し 、ロングテーブルの両側に声を立てずに粛然としていた。


 カルロス・メル将軍は首座の前に立ち、将校たちに背を向けている。彼はレターナイフを懐中から出して、金張り、真ん中に朱色の王属の封蝋がある封筒を開けた。



 

『巨大な力が、来る』



 

 中の手紙にはただこの言葉をしか書かなかった。彼は、右下にの皇帝の直筆サインと御印を確認した後、思わず眉をひそめた。


 その短い文句をもう一度眺めて、彼は目を閉じてこの文句に何か隠れた意味があるかとゆっくり考え、目を開けて、思わず深刻な顔した。



 

 何も考えつかなかったから。




 

 何も分からないが、彼は一貫して深刻な表情を維持する。成熟の知恵っていうものは、そういうことだ。将軍の地位まで昇りつめた彼にとって、深刻な表情で自分の無知を偽装するのは、彼の巧みな取り繕う技術の中で、3大特技の一つだ。


 わからなければわからないほど、深刻になる。


 万物の起源、宇宙哲理を思考しているような深刻な表情をしている彼は、視界の隅で後ろを眺めると、将校たちは依然粛然した視線が彼に集まっていて、沈黙しながら彼が常例の軍事会議を始めることを待ち、血に飢えるような雰囲気が漂い、皇帝が彼に何か重要な密命を与えたかのように勘違いしているようだ。


 カルロスは脳の中で悲鳴を上げた。彼は就任したばかりで、すぐ彼に嫉妬した外部のクズどもに殘忍で、自己陶酔的で、無能な政治家という風評被害を受けた。もしこんな時期に、彼が皇帝の伝言を全く理解できないことがバレたら、新米将軍としての威信が間違いなく失墜するだろう。


 もう一度封筒の王属の封蝋の種類を見て、それは守秘義務がない種類だと確認した後、彼は深刻な表情を保ち、二本の指で手紙を挟んで後ろに投いだ。手紙が将校たちの目を寄せて見り、彼の背の後ろに反転し続け、まるで白鳩のようにロングテーブルにふわりと降下してゆく。


 そしてカルロスは手紙に背を向けたまま、何気なくレターナイフを後ろに投げ捨てた。ここで、ある重点を強調しなければならない。細かいところだけど、ナイフを投げた時、同時に『背を向けたまま』が大事なことだ。揺るぎない後ろ姿は彼の自信と気高さを象徴し、人に頼もしくて洒脱不羈の印象を与えることができる。


 細部にこそ神は宿る。このような取り繕い、細かいことを重ね続けることこそが、彼が大勢の中から競争して勝ち抜き、彼を謗るクズどもを超えて将軍になった理由だ。



 

 ドンッ。



 

 レターナイフは放物線を描いてロングテーブルに落ち、空中で反転している金張りの手紙をきっちりとテーブルに釘付けした。


 カルロスは両手を背中で握り、自分のこの動作が一体どんなにかっこいいたろうかをしみじみと理解した。背を向けながらナイフを後ろに投げても、きちんと空中で反転して目標をテーブルに釘付けることができるなんて。


 細部にこそ神は宿る。こんなに瀟洒な瞬間、当然、振り返るって美感を破壊ような行為を彼はしない。


 沈黙、将校たちは手紙を見据えて、数秒間、そのまま誰も口を開かなかった。


「フン、わからないか?」


 彼にとって部下たちの沈黙は予想したものだった。何より、彼のように英知にあふれる人すら、皇帝がこの文句より何を伝えたいのかわからないから。


 沈黙、依然沈黙。


 カルロスは冷笑を浮かべ、そろそろ時間だと思いながら、振り返って当惑している部下たちを何とかごまかそうとする、が、隣に立っている副官が急に彼に歩み寄って、彼の耳元でそっと囁く。


「将軍閣下、テーブルに釘付けにされた手紙は逆です。私たちは上の文字を見えることができません」少し気まずい顔で、副官は言った。


「……」


「私が手紙を裏返しましょうか?」


「早くしろ!」カルロスは小さい声で怒鳴った。



 

 手紙が正面になった後、カルロスはおもむろに身を翻して、タカのような鋭い視線で将校たちの緊張の顔をさっと見渡した。


「フン、まだわからないか?」


 と、繰り返した。


 将校たちは互いに顔を見合わせて、黙っている。『巨大な力量』は一体何を指すかわからないようだ。


 一名の中将は咳をして、襟を正す。


「将軍閣下はもう見当をおつけになられたんでしょうか」


 カルロスは返事せず、ただ、唇の端を上げ、意味深な笑顔をした。


「愚か者めが!」カルロスと仲良いもう一名の中将は痛罵した。「将軍閣下がとっくに理解したのは当然だろう。またわからないか?まず自分で考えようと閣下は話している!」


「まさか……」ある准将はあごを拳に乗せ、沈思するように眉を顰めた。「……巨大な力が指すのは……まさか……まさか……」


「そうだ……が、そうでもない」カルロスは厳しい顔で准将の話を止めて、顎下のヒゲを弄った。


 呆れ顔で彼を見る准将に対して、カルロスは理解したような笑みを口元に浮かべた。准将は何が言いたかったのか、実際に彼はさっぱりわからないけど。


 わからなければわからないほど、わかるフリをする。


 当然彼は准将が何を指すのかがわからず、その答えは一体正しいのかどうかもわからず。『そうだが、そうでもない』、この答えは3分前に彼がすでに用意した。相手が誰だろうとも、どんな答えであろうとも、このように返事することができる。


 表向きに、彼がすでに准将の答えを予想し、それを基にして評価したように見られるが、実際に彼の返事は返事をしなかったのと同じだ。『そうだが、そうでもない』。ごく短い言葉で、彼は全ての状況の退路を準備した。准将の答えが正しいのか正しくないのかにも関わらず、彼は対応することができる。


 兵とは、詭道なり。


 それをわからないやつはいつもカルロスを表面を取り繕う技術だけの奴だと中傷する。あれらの評論について、カルロスは心の底から軽蔑するしかない。あいつらは全く理解できないようだ。これこそ、戦略家の本質であるものだ!


 今、准将はしばらくぼけっとした顔をして、カルロスと顔を見合わせて笑った。カルロスが彼の言葉を止めた原因は、とっくに彼が言いたいことがわかったように理解したらしい。



 

 その反応も、カルロスの計画通りだった。



 

 そうやって、事実はどうであれ、このやり取りは他人の目から見れば、准将と将軍二人の間には暗黙の了解が成立したのだと思われるだろう。


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