-傾月-〈壹〉ビッチプリンセス 4
「おい」月璃は声を低くして、商人の肩をたたいた。
「お前、誰だ?」商人は振り返って、月璃の服を見た後、軽蔑の目で月璃を眺めた。
「手を離してください。例え彼女に何かしても、ドレスは戻らないでしょ」月璃は微笑んだ。
「お前には関係あるか?こいつは賠償ができないなら、お前はできるか?」
「いいえ、ぼくもそんな大きな金がありません。まして、ぼくには関係ないでしょ?」
「どけ!」
「だけど、ぼくはちょうどこのドレスのしみを完全に消す方法を知ってます」月璃は淡々と話した。
この言葉を聞いて、商人は日琉を放し、目の前のとても若い男の子を横目で見ていた。
「駄法螺を吹くな、お前に何がわかる?この素材を完全に復元する方法はない。お前の身なりを見てわかるさ。お前は多分、銀線を触ったことすらもないだろう」
月璃は彼の挑発を無視して、ドレスをもっている使用人の側に行って、目を凝らして見た。
「このドレス……確かに悪くありませんよね。シンプルなデザインだけど、一体感がある以上、多くて白く残っている部分は赤い鳳凰を引立てます」
「フン、当然だろう。素材もデザインも織り技術も、全てがトップクラスだ。本来ならこれは公爵の娘、月璃殿下に送ろうとする誕生日プレゼントだ。もともとは死に損ない物乞いめに気安く触れるもんじゃないよ」
月璃は眉を少し動かして、すぐ何でもないふりをした。
「ご、ごめなさい」日琉は裾を掴んで言った。
「今さら謝罪しても無駄だ。もう後一週間だけだ。どんな至急製作も間に合わないだろう」自然に、商人は日琉の謝る言葉は月璃に言ったことがわからない。彼はただまた怒らせた。
「先ずはコンダンを使って、型板を立て、次はシフォン・ベルベットを使って、透明感を出しました。特にコンダンの部分、1本の縦糸が3本の横糸を交差させて織りました。そうすると、ドレスの型板は太くなくなったんです。ウエストラインは普通より低い、背中の部分はカットワークしました。これによって、若い女性をもっとセクシー的にさせる同時に、成熟すぎるような状況をちゃんと避けました。最後、スパングルを一度も使わず、鳳凰を重点に置く方法は、とてもシンプルで力強いデザインと言えます!」月璃はちょっと止まって、感慨深いふりをして、頷いた。「なるほど、あなたの言う通り。確かにこのドレス、素材も、デザインも、織り技術も、全てがトップクラスですね」
商人は月璃の分析を聞いて、きょとんとして、月璃をもう一度改めて見る。
「がき、お前は一体何者?」
「南門のクロウの門下。昨年、月璃殿下に送った【彩華】の加工、ぼくも少し手伝いました」
「なぁ、あのクロウの門下だと?」商人は見張った。
『天織のクロウ』、織りに関する人なら、みんな知っている名前だ。織物のエリア以外で特許されて開店することができる唯一人。織りの大家だ。
「この細銀のしみを消すことは難しくはないんですが、蜂蜜、二つのレモン、一斤の最も強いラム酒が必要です」月璃は鳳凰のしみをじっと見ていた。
「確かにレモンと酒はしみ抜き効果があるが、なぜ蜂蜜が必要なんだよ?」商人は眉を顰めた。
「ぼくの言う通りにやればいいです」
商人は一時の気の迷いとして、目の前の男の子は使用人の服を着ているだ、言葉の中に、なんとなく、否定できない威厳がある。だから商人は使用人を使って、素材を買いにやらせた。
彼らは市場にいたので、ものの数分間で素材は全て揃った。
月璃は蜂蜜を嗅いで、使用人に戻した。
「この蜂蜜の品質は悪い、替えなさい」
「ふざけるな!何が品質が悪い?蜂蜜の品質としみ抜きはどこか関係がある?」商人はまた怒鳴った。
「カイ家の【萬年の蜜】が必要です」
「【萬年の蜜】?【萬年の蜜】の値段、お前は本当に知っているのか?!」商人は吼えた。
「師匠の模範を見た時、師匠は【萬年の蜜】を使ってました。買わなくてもいいですが、効果を保証できませんよ」月璃は肩をすくめた。
商人は歯ぎしりをして、【浴火鳳凰】と【萬年の蜜】の値段を比べ合った。 そして、使用人を使って【萬年の蜜】を買った。
【萬年の蜜】をもらった後、月璃は何も言わなかった。彼女はレモンを搾って、蜂蜜とラム酒に入れて、ゆっくりと混ぜ合わせた。全て準備完了後、彼女は酒がめを持って、ハンガーにかけたドレスに向って歩いていった。
そして、上を向いて酒を飲んでいく。
遠巻きにやじうまをしている通行人たちは一気飲みをしているこの男の子を見て驚いた。
1秒、2秒、3秒……月璃は十数秒も酒がめを下ろさないのを見て、人たちは応援を始めて、熱狂して歓呼拍手した。けれど、この中にも嘆いた人がいたようだ。
このラム酒は寒霜城に最も強い酒の一つだ。これを好む人たちにとって、このお酒は『ノス海國』の特産品、白ワインと併称している。そして強すぎるせいで、たとえお酒に強い人たちでも、このお酒を一気に飲むことは難しい、しかし、今、通行人たちの目の前の男の子は気にせず一気飲みをしている。
「お前、何してる!」商人は悔し紛れに月璃を止めて、酒がめを奪った。
顔がすぐ赤くなって、月璃は湿り気のある瞳で商人を見つめていた。
「お酒を飲むだろう」
商人はきょとんとした。目の前の男の子が堂々と答えた返事は、まるで彼はもともと飲むためにきたみたいだ。
男の子の頬は赤くなった後、突然、異常な妖艶さを示した。
「お前はあのしみを消すつもりじゃないのかよ?」
「心配するな。半分残ります。これだけあれば十分です」月璃は酒がめを奪り戻して、中の液体を揺らせた。
「おい、じゃ、何で俺にそんなに多くの量を買わせたのか?」商人はまた怒鳴った。
「愚問ですなぁ、この部分は当然ぼく自身が飲みたい分です」月璃は微笑んだ。
「お前……」
「そう焦るな、邪魔です、側で私がどうしみを消すかを見ていればいい」月璃は冷たい態度で言った。
商人は疑いを抱き、側に行った。
月璃は上を向いて、口いっぱいに酒を含んで、ドレスのしみに均一に吹き掛けて、そして、彼女は酒がめを放して、最も速い速度でポケットからマッチ箱を出して、マッチを擦って、しみに投げた。
どん!
小さな炎がアルコールで湿らした布に当たって、一瞬に燃え上がった。
「僕が燃やした沢山のドレスの中で、これは最も美しい。さすが【浴火鳳凰】ね」月璃はにやりと笑った
商人は数秒で呆然として、吼えて月璃の襟を掴んで、持ち上げた。側の日琉は商人の手を引いて、地上に振り払われた。黒い子猫は日琉の前で商人に短い声で鳴っている。
「お前!何しやがる?」
「何している?しみを消すんだろ」
彼女は嘘をついていない、鳳凰を全て焼いきた。自然に、しみがなくなった。
そう、さっき言ったクロウの【彩華】の加工に彼女も少し手伝ったことは、それも本当だ。ただ同じの加工方法だけだ。
「お前……わかるか?これは公爵の娘のプレゼントだよ!」月璃の襟を掴んでいる手は怒りに打ち震えている。
「月璃殿下はそんなに細かいことを気にしないと思いますけど」月璃は肩をすくめた。
「月璃殿下は気にしない?知るもんか?これは英雄に対して俺たちの感謝の気持ちだ。もしミサ公爵が最前線で帝國の侵略を阻止しないと、お前みたいな親がない雑種は生きていけるものか?」商人は吼えた。
月璃は笑った、皮肉に笑った。
彼女はとっくに知っていた,これこそがこの優しい地獄に隠された真実だ。
誰もがあなたを愛していることは、誰もがあなたを本当に愛していないと同じ。
誰もがあなたのパパとママだ、あなたには実際にパパとママがいないと同じ。
誰もがあなたにプレゼントを送る、だけど本当にあなたの誕生日を気にしている人はどこにもない。
人たちに必要のは神棚だけ。前線で敵と対抗している偉大な英雄を祀る神壇。彼女はこの神壇だ。だから彼女はドレスを全て燃やした。どうせ彼女の誕生日パーティーに、彼女はいなくてもいいからだ。
「今お前に痛みを与えないと、俺は王國の英雄に顔向けができない」商人は月璃の笑顔をみて、ますます怒った、月璃をもっと高く持ち上げた。
「そう、彼が英雄だ」月璃は笑顔を満開にした。
多分、彼女は少し酔っぱらっていた。商人の顔は捻じ曲がっていて、目の前の全てがゆらゆらしていた。
日琉はまた立って、泣いて商人を揺らしている。泣いて泣いて泣いて……どう泣いても無駄だ。たとえどんなに頼りがない、どんなにかわいそうな様子でも英雄はあなたを助けてくれない。実際に月璃は分かっている。どうして時々、日琉をみると、自分は何となくムカつくのだろうか。
彼女たちは全然似てないと同時に、似すぎてもいる。
「あたしの父は英雄だよ。王國の英雄だ、人民の英雄だ、みんなの英雄だ……」
月璃の声はどんどん小さくなって、最後、つぶやきになった。
「けどね、あたしの英雄じゃない……」
彼女は気を失った。