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-傾月-〈拾貳〉人生はとめどなく穴を掘ることだ 2

 月璃は困惑したような目で彼を見て、小声で口を開く。「けど、お父さまは……すでに帰りました……」


「公爵さまの演習ではありません」夏涼は首を振った。「『私』の演習です」


「……」月璃はぼんやり彼を見上げた。


「断ってもいい」夏涼は言う。


 月璃は俯き、答えも動きもしない。


「月璃、まだ覚えていますか?君が練武を始めた頃、私たちは稽古について、一つの約束をしました」


 あの頃、月璃は【雪蝶】を受け取ったばかりの時、彼女はやる気が全くなかった。稽古で同じのミスを繰り返し、彼女に教えてくれる夏涼に謝り続ける。夏涼の教え方に間違いはなく、ただ自分が武術の才能のない人間なだけだ。彼女はいつもそう話した。彼女を励ますために、夏涼は一つの約束をした。もし月璃は試合で彼から一本取ることができるなら、どんなに困難でも、彼は月璃の一つの要求を飲んでくれると。


 当然、実際に月璃はもともと彼を命令できるが、彼女は一度もそうしなかった。


「うん、覚えています。だけどわたくしは……一度も夏涼に勝ったことがありません」


「だからその約束はまだ存在します。もし君は私が出征に行くことを望まないなら、実力で私を説得しなさい」


「……」


「それでも、【雪蝶】を持ち上げたくないのですか?」


 月璃は肩が小刻みに少し震えていたが、依然として【雪蝶】を手に取らなかった。


「なら私たちは帰りましょう、このままなら、君は風邪を引くかもしれません」


 月璃は未だに沈黙している。


 ひとしきり沈黙した後、彼女はふらふらと立ち上がって、【雪蝶】を拾って体の前で構え、数歩後ずさりした。


 月璃にようやく少しはやる気があることを確認した後、夏涼は側の練習用武器の棚に歩み寄って、一本の横に置いた紫色のクラッカー筒を取った。


「では、弾薬制限は3発」


 夏涼は装弾数が五発の炮筒を挙げて、2回引き、火砲の爆発音ががらんとした林で連続に鳴った。


 月璃は頷いて、さっき氷湖に夏涼から貰って腰に携えたクラッカー筒を抜いて、同じに上に指して引いた。


 そして夏涼は再び棚から2本のクラッカー筒放置専用、金属の丸い穴(クラッカー筒の撃つ角度が調整できるようにデザインされた)がある腰帯を持ち上げて、一本を月璃に投げてかけさせる。


 全ての準備を整ったことを確認した後、夏涼は鉄棒を前に伸ばし、試験的に月璃の左腕に刺す。月璃は【雪蝶】を振り、鉄棒を横に払う。


 鉄棒は跳ね上げて、下に叩き落として、縦に掃撃する。


 月璃は回避しなく、普段どおり二人が練習した型で対応した。


 夏涼は攻撃を続け、深雪の地面に前に一歩踏み出すたび、鉄棒の速度が一段と速くなる。一歩一歩、夏涼は攻撃を強化し続ける。


 風が颯々と響きを立ち、鉄棒と【雪蝶】の間で火花を散らし始める。同じ6分の1の体重しか残ってない二人の武器は交差し続けて、互いに武器がぶつかり合う反動で何度も後方に大幅に弾く。


 火花は薄暗い湖畔の枯れ林であちこちに散らして消えり、舞い降りる雪を瞬く。


 そして二人はもう後方に弾かなく、両足を雪に深く踏み入れて、摩擦力を利用し重力の不足を代替する。武器がぶつかり合う速度はどんどん速くなり、お互いに極めて熟練した演武を練習しているようだった。


 それも当然なことだ。鉄棒が月璃に振りかかる攻撃の動作の流れ、【雪蝶】が夏涼に斬りかかる攻撃の構え、この全ては、過去二人が一緒に数百、数千回に練習していた。今彼らは思考せず、体が自然に相手をどうやって攻撃し、どうやって防御するかということを知っている。


 それは過去から今まで、二人がコツコツ重ねたものだ。


 鉄棒と【雪蝶】は互いに熟知した角度と力でぶつかり合い続け、過去の練習試合で月璃が発展させた『最善の対応方法』は今依然として効果がある。


 しかしお互いに熟知しすぎているから、二人の練習試合には『予想外』の結果がない。変数のない数学公式のように、計算ミスをしなければ、永遠に同じの結果が出る。


 彼は月璃の習慣をよく知っている。【雪蝶】はいつも急所を離れた四肢と相手の武器にしか攻めない。その明確すぎる攻撃目標が、月璃の攻撃の変化を乏しくさせる。


 月璃が消極的な攻撃方法を使え続ける限り、最後の結果も、過去の毎回の練習試合と同じに鳴る。



 

 カン!




 溜めた力を解放し、鉄棒は斜めに撥ねて【雪蝶】を打つ。夏涼はもう手加減しない。


 月璃は滑らかな放物線で後ろ上に弾き、驚愕の目をした。


 月璃が空中で体勢を整える時間を与えず、夏涼は腰に携えたクラッカー筒の角度を素早く調整して、しゃがんでクラッカー筒の引き縄を引く。


 ドーン!


 砲火の赤い光と爆音と共に、地に積もった雪が砕雪になり四方八方に吹き飛ばされて、夏涼は斜め45度に飛び出す。


 それは2名の体重が枯渇したカラリストが対決した時の標準戦術だ。空中へ打ち飛ばして、相手が軽い体重で空中で姿勢崩壊しているその機に乗じて追撃をする。


 二人の距離は一瞬で近づいた。鉄棒は再び月璃の腰へ振りかかる。


 ドーン!


 夏涼は下に落ちて、左手で直撃してきたクラッカー筒の爆炎と衝撃波から顔を守り、右手の鉄棒を体の後ろ下方に直立して、雪に挿入して後ろから体を支える。


 一方、月璃はクラッカー筒によって、再び上向きに数メートルに飛んだ。二段式に上方を向いた結果で高度が高すぎたので、着地する時、月璃はもう一度しかクラッカー筒を使えない。


 息継ぎの時間を与えず、夏涼は前へ踏み出して、鉄棒で連続突きし、【雪蝶】との連続的なぶつかり合う音は一つの長音になって、そして彼は足を深く踏んで、身をひるがえし、左手で鉄棒を持ち右から左まで大幅に橫に振る。


 ドン!枯葉が二人の上から降り注ぎ、夏涼が左手を使ったこの一撃は月璃の後ろの木に叩いた。


 月璃はこの鉄棒が短く静止した隙を見逃さず、左手で【雪蝶】をまっすぐ伸ばし、夏涼の彼女に向いて転向ている肩に刺す。もしこの一撃が成功に夏涼の肩に触るなら、練習試合が終わる。

 カッ。


【雪蝶】が夏涼の右手で持つクラッカー筒の砲口に嵌めて入れ込む。寸前の距離で、夏涼は月璃の訝るように上げる眉毛をはっきり見える。彼にとって、月璃はやはり甘かった。身をひるがえした時、彼はすでにクラッカー筒を手に持ち上げた。【雪蝶】がそんなにちょうどクラッカー筒の砲口に嵌めて入れ込んだのは、月璃が練習試合を早く終わらせる意図、その意図に沿っての攻撃方法、角度、力の強さまで……全て彼に簡単に予測されていた。


 白輝鉄で作られた【雪蝶】の刃は極めて鋭い。もし月璃は全力を尽くし斬りかかったら、砲口からクラッカー筒を簡単に両断することができる。しかし月璃が夏涼の肩に重傷を負わせたくはなかったため力を軽減した結果、【雪蝶】が砲口にはまったのだ。


 夏涼は無表情で躊躇わずにクラッカー筒の引き縄を引っ張った。

 



 ドーン!




 月璃が左手で握った【雪蝶】はその瞬間に撃ち飛ばしされ、回転し放物線を描いて後方の雪原に差し入れた。彼女は自分の左手を押さえがなら後ろへ跳び、6分の1の体重という要素を利用し素早く距離を取った。


 夏涼はすぐ追撃せず、ただ沈黙した。


 月璃も口を開かなく、立ち止まった後、彼女はぼんやりと自分の左手を見る。


 手を引くのが遅れたので、元々たまねぎのように白く透き通った左手の人差し指と中指が今黒く腫れたいた。指の第一関節が黒紫色の墨に染められたように、鲜やかな血が爪から滲み出し、指先に沿って滑り落ちる。


 自分の手から流れた血がゆっくりと雪に滴り落ちて、点々と花が散るような様子を月璃は見て、呆然として、何が起こったのか理解できないようだった。


 夏涼はその表情を知っている。それは信じられなく……自分が裏切られたことを知った時の表情だ。



 

 それ以前、月璃は夏涼が本当に彼女を傷つけるなんて信じていなかった。



 

 今、大雪の中で佇んでいる少女は俯いて自分の指を見て、唇を軽く噛んだ。一人ぼっちで、大雨に濡れた子猫のように。


 夏涼は自分に対しての殺意を抑えながら、できるだけ無表情を維持し、唇を閉め沈黙して、顔に仮面をつける。


 彼は棒を提げ月璃に歩み寄る。


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