-傾月-〈拾壹〉氷湖に踊る二人舞 3
月璃は武器を下ろして、驚きを隠せない。わずか5秒の時間、彼女に猛烈に攻めていた3人に1人は膝を折って、2人は遠くに打ち飛ばされた。
夏涼は輝かしい戦果に満足する暇はない。攻撃が効いたのは奇襲のおかけだった。親衛隊はそれだけで倒せる相手ではない。
現時点で、二人に最も近づいたオオカミは刀で体を支えて立ち上がり、他の二人の親衛隊も起き上がている。
「月璃、【雪蝶】を私にください」
夏涼は鉄棒を彼女に投げる。月璃は少し呆然として、【雪蝶】を夏涼に投げて、鉄棒を受け取った。
【雪蝶】を受け取った後、夏涼は両手でそれを反転させて、氷の湖面に迅速に挿入した。【散能】を使って【雪蝶】を中心として、『プレシジョンタイプ』 の大きさがある淡い赤色の半球状の残光を放った。
同時に、月璃は鉄棒を回して壁になり、険しい表情で斬り掛かってきたオオカミの攻撃を受け止め続ける。
軍刀は鉄棒を連続に斬り、トントンという音を立ち、しかし一度も月璃の鉄壁の守りを破ることができない。
夏涼にとって意外なことではない。実力差がとても大きい場合に限り、1対1で月璃の間合いに攻め入るのはそんなに簡単なことではない。
彼は当然暇でいるのではなく、月璃がオオカミを止めている時、彼は素早く2本の【雪蝶】を再び反転させて、【雪蝶】のもう一方の一端(另一端)を湖面に挿入して、もう一度五色を使った。湖面に貼っている残光の玉の色は少し深くなり、彼は体重が体から離れていて、重力の束縛から解放した微妙な体感を感じた。
二回を合わせ、総計6分の1の体重だ。数秒後、彼が【雪蝶】を抜いた時、刃はすでに加工済みだ。湖面の氷を利用し、夏涼は【雪蝶】の熱量を放散して、氷点下まで冷やした。【雪蝶】の両端の刃の表面に霜が付着し、冷気が立っている。
夏涼は両手で【雪蝶】を握りオオカミに連続して斬りかかる。月璃のように軽快な動きではないが、【雪蝶】はもともと守備力ではなく殺傷力に特化しているので、全然攻撃しない月璃より、彼が持ったほうが殺傷力がある。
赤い軍刀と冷気が立っている【雪蝶】が激しくぶつかり合い続けて、(嘶嘶作響、暑いものと寒いものとぶつかり合いの音)。夏涼はオオカミを数歩後ずさりさせて、回し蹴りで蹴飛ばして距離を取った。
「月璃」
オオカミが構えに戻る合間を狙って、夏涼は【雪蝶】を月璃に投げて戻した。月璃は頷いて、彼の意図を理解したような目つきで鉄棒を彼に戻した。
同時に、オオカミは両手で軍刀を握り締めて少々止まって、一つの深呼吸をした後、一歩前へ踏み出して夏涼を斬りかかる。
2人の親衛隊も同時に戦場に戻した。横に軍刀を構えて、後方から月璃と交戦し始めた。
夏涼は振り返えず、ただ鉄棒を水平に胸元の前に置いていた。やるべきことはすでに決まった。今彼がやるべきのことはオオカミを止めて、他の2人の親衛隊と合流させない。
そう思ったが……
オオカミのその無表情で、醜い傷跡がある顔を見て、夏涼はすぐさっき3人がどうやって月璃を包囲攻撃したかを思い出した。
彼は唇を結び、再び鉄棒を回し始め、口笛のような大きな風の音と共にオオカミにぶつける。
直斬り、横斬り、横斬り、直斬り。眉目秀麗な顔に似合わなく、彼の攻撃は単調でありながら猛威を振るう。鉄棒は刃先が刻々と曲がっていく軍刀に突き当たりつつ、まるで鉄槌に釘を打ち続けるようだった。
後方の月璃は守勢を貫き、【雪蝶】は飄々としたリボンのように宙で二人の攻撃を受け止め続ける。しばらくした後、2本の青い残光の線は軍刀の軌跡に浮かび上がって、これらの軍刀は再び自動的に【雪蝶】に弾かれて、お互いに引き合う。
オオカミは少し驚いた。彼の視点に月璃の【磁極反轉】が再発動したことがはっきり見える。彼は夏涼の攻撃を受け止めながら舌打ちして、ようやく夏涼はどうして【雪蝶】を冷やし、月璃に1対2をさせて夏涼自身で彼を止めたことを理解した。
しかし理解が遅かった。低温の【雪蝶】が二人の武器とぶつかり合い続けたので二人の武器の温度は迅速に下がった。その二人は五色が使えないので、もしオオカミが二人に近づけなければ、当然彼らは自らで『聚能』を使って武器の熱エネルギーを維持することができない。
月璃の【磁極反轉】が発動する限り、その二人は絶対に彼女を傷つけることができない。
夏涼は息を吐いて、再び五色を使った。鉄棒とオオカミの軍刀は一瞬で赤色の球状残光で包まれ、熱量が再分配した。
彼は大きな幅に鉄棒を振り、オオカミの武器から部分の熱量を吸い込んだので赤くなる鉄棒を押し下げて横に掃き、オオカミの足に攻撃続け、そして無節制に鉄棒を使って連続に氷湖の上に6本の残光を描き、半分の体重を放った。
オオカミは跳び下半身への攻撃を避けていたが、地に戻った時に滑ってバランスが崩れてしまった。同時に夏涼の鉄棒は彼の上から降りかかる。
オオカミは片手で逆立ちして、後ろに弾いて距離を取った。
湖面が溶けたので現した足元の水溜りを見て、オオカミは周りの幾つもの扇型の残光に視線を走らせて口を開けた。「こんな退屈な仕掛けのために、俺の刀の熱量を吸って半分以上の体重を消耗したのか?」
鉄棒の熱気と五色を使って、夏涼は半径約5メートルの湖面の一部を溶かし、氷の上に薄い水が溜まっていた。
夏涼は一度使用できる最低出力が12分の1の体重の『プレシジョンタイプ』だ。【雪蝶】を加工するために2回を使って、軍刀の熱を吸うために1回を使って、湖面を溶かすために6回を使ったので、彼の体重は残り4分の1しかない。
「つまらないかどうか、試してみた後で是非感想を聞かせてください」夏涼は淡々と言った。
そう言って、彼は月璃と背中合わせになり、動きがなくなった。
3人の親衛隊も地面の状況を意識して、軽はずみに動くことができない。薄い水を涂る滑らかな湖面で下手に動いたらはどうなるのか、この場の全ての人は知っている。
誰が先に転んだら、誰が先に綻びが出る。
「馬鹿馬鹿しい、こうなったら其方たちも動かなくなる」刺青の男は冷笑した。
「そうですか?」夏涼は依然として微笑んだが、目に笑みがちっともなかった。
彼は鉄棒を脇の下に挟ませて、水平方向に刺青の男に向ける。
「月璃」余計な説明はいらなく、彼はただ少女の名前を呼んだ。
「はい」月璃はうなずいた。
彼女は折り敷き、右手で【雪蝶】を湖面に差し込み固定し、左手で【雪蝶】を鉄棒の尻に当てる。
【磁極反轉】、発動。
水しぶきを飛ばし、4分の1の体重しか残らない夏涼は鉄棒を持って前に弾き出した。鉄棒の尻は淡い青色の長い長い残光を描き出す。
刺青の男は愕然として、鉄棒の先端は彼が反応する前に彼の胸をぶつかって、彼を後ろに打ち飛ばす。同時に夏涼は反力に連れて逆方向に月璃に滑る。
「月璃、向きを変えなさい」夏涼は叫んだ。
月璃は湖面から右手の【雪蝶】を抜いて、右手で吸い付きの磁力で鉄棒の方向を導きながら左手で反発する磁力でそれを押し、夏涼の滑る方向を直角に変化してあご髭の男に突進する。
仲間が打ち飛ばされた過程を見たので、今回髭の男は事前に準備した。
彼は刃を胸元に置いて鉄棒を受け止めるつもりだったが、ぶつかり合った部分が胸から軍刀に変わった以外、結局結果は同じだった。無傷だけど、彼も鉄棒の勢いに連れて後ろへ滑り続ける。
しかし毎回の力と距離はそんなにちょうどになったのではなく、今回夏涼は月璃の居場所に滑り戻らなかった。
同時点、二人が分離した時を掴んで、オオカミは慎み深い足取りで水溜りを踏んで月璃に迫っていき、ゆっくりと刀をあげている。
「夏涼」
月璃は2本の【雪蝶】を磁力で垂直に連結して、右手の指で【雪蝶】の一端の刃を挟み、夏涼に振らせ、武器がたどり着ける最長距離を作る。
夏涼はすぐ鉄棒の一端を握り、腕を伸ばして鉄棒を月璃に伸ぼす。
鉄棒は一側の【雪蝶】を吸い寄せて、2本の【雪蝶】と1本鉄棒は一文字になり、二人は同時にそれを引く。
月璃に切りかかってくる軍刀は猛烈に空振りして、チャンと音で湖面にぶつかい、水飛沫をあげる。
二人はお互いの位置に滑って、夏涼は月璃が伸ばした手を掴んで、滑り続けないようにさせる。
誰が始めたのかわからなく、月璃は夏涼を見つめ、夏涼も月璃を見つめ、どっちの顔にも戦いの場面と合わない柔らかな微笑みを浮かべている。
そして月璃ぷっと笑い、夏凉もにっこり笑った。
しばらく後、夏涼は振り向いて、再び彼らに向かってくる3人を見渡した。
話しかけなかったが、夏涼の目つきはまるで三人にまだやるかと静かに問うようだ。
誰も返事をしない。親衛隊の強さは戦闘の熱狂と公爵の命令に絶対に従うことに成り立つものだ。どちらも止まることを許さない。
3人は月璃と夏涼に向かいながら視線で合図して、滑る可能性を無視し、水溜りを踏んで猛然と彼らに突っ走れる。
それは3人の決意だ。たとえ共倒れになっても一本を取るつもりだ。
親衛隊の尊厳を踏みにじられてはいけない。
「月璃、クラッカー筒を持っていますか?」夏涼は急に尋ねた。
「いいえ」月璃は首を振る。
夏涼は頷いて、腰から赤黒色の細長い円筒を抜いて月璃に渡した。それは花火で改造され、カラリストたちに最も常用の装備の一つだ。
月璃がクラッカー筒を受け取った後、夏涼は鉄棒を垂直に湖面に強い力で挿入して、月璃に向いて折り敷きし、両手の掌を膝の上に重ねた。
説明はいらず、月璃はすぐに悟った。
「だけどあなたは……」月璃は躊躇する。
「私は大丈夫です」夏涼は不敵な笑みを浮かべる。
月璃は頷いて、クラッカー筒を腰に携えて、片足で夏涼の掌を踏みつける。
夏涼は両手で彼女を持ち上げ、全力を尽くして彼女をトスする。
少女は飛燕のように飛び起き、しなやかな姿は夕日の逆光でシルエットを形成する。
立ち上った夏涼は、湖面に垂直に立っている鉄棒を両手で握って、息を深く吸い込んで、目を閉じて平然とたたずむ。
3人の親衛隊は一斉に怒鳴し、足元の水しぶきが空中へ飛び彼らの顔を浴びっても、すでに沸かせた戦意の半点を消すことができない。
敵を目前に、夏涼は依然として目を閉じて、燕羽が空を横切る音を耳を澄ませて聞き入って……
燕が落ち、月璃は空中で宙返りして、右手で【雪蝶】を腹に構えて、全力で鉄棒の上端を叩く。
夏涼は息を吐き、鉄棒を握りしめている両手の筋肉が一瞬で盛り上がり、両足、腹、胸が同時に溜めた力を放出し、最小動作で全身の筋肉をゼロから百まで下方に力を注ぐ。
【磁極反轉】,發動。
王国流【流水体術】、発勁。
ドン!
氷霧が広がって、一瞬だけで吹き払われる。
天変地異のように、湖面が強く揺れ動き、親衛隊たちを一斉に倒させた。
巨大の青色の残光球は空中で現した。月璃の体重はこの瞬間に30キロから7.5キロまでになり、一気に五色の殘量を全て使った。
全力で同じの磁力を与えられた鉄棒と【雪蝶】の間で極めて強い斥力を生み出した。月璃はその斥力で空へ高速で飛ばされ、30メートル以上の高度まで弾かれた地上の残りの人たちが彼女の目には点のいうに写り、それでも彼女は歯を噛み必死に目を開け、目に快速に流れる下の氷湖の表面を見据えながら、【雪蝶】を背中に納めて腰に携えた長いクラッカー筒を抜いて、地面に落ちるその瞬間、下に向けて放つ。
ドーン!クラッカー筒の反力で6分の1しか残らない体重を推進し、月璃は少々上へ弾いて、うまく着地した。
パ……パキッ……
一方、鉄棒を中心として、表面が溶けていたので薄くなる氷湖に亀裂を生じて、蜘蛛の白い糸のように周囲へ急速に広がって、3人の親衛隊の居場所まで飲み込んだ。
3人は狼狽して膝をつき、目つきにはようやく恐怖があった。
「では、心から望んでいます……」
夏涼は顔で涼やかな微笑みを浮かべ、優しい誠意あふれた声で次の言葉を言う。
「……皆さんが私と同じように水泳に長けていることを」
ドカン!




