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-傾月-〈拾〉アイビス日記 1

 

 次の日。


 出征まで、あと2日。


 薄明、顔に冷めたい空気が当たる。寒霜城の冬はいつも通り寒い。



 

 廊下を通る時、側で床を箒で掃いているメイド長は突然夏涼を呼び止めて、戒めるような目つきで彼を見ながら早口で話し始める。「あららお兄さんよ、あんたがいないこの一週間で、月璃殿下が受け取った恋文の数はすでに薪として燃やすことができるほどですよ。もしこれからも、送ってくる恋文の量が減らなければ、邸で永遠に薪の金を節約することができるかもしれない」


 その大げさなのは、言い方なのか事実なのかわからない言葉を聞いて、夏涼は返事をせず、ただ顔にいつものように穏やかな笑顔を浮かべながらメイド長の肩を叩いて、大股で歩いて立ち去り、疑問符が顔に付いたメイド長を残した。


 月璃以外の人に対して、彼はいつもこの微笑みをする。


 あの男の墓の前で銀色の仮面を拾い上げたあの夜から、彼の顔に常にこの『穏やかな笑顔』をつけていた。彼は全ての人はこのような仮面をかけていると思う。自分が長年かけて、老夫婦の前でいい息子を演じたあの顔のように。


 それは、顔に嵌められた、永遠に脱ぐことができない道化者の仮面だ。


 その仮面は彼の寒霜城での地位を急激に上げさせた。他の人はいつも彼は余裕のある人だと思っている。夏涼ならば、どんな危機を前にしても、穏やかな微笑みを保ちながら流暢に片付けられるだろう。みんなはそう言った。


 実は彼は自分で知っている。それは何かの余裕があるわけではない。ただある時期から、彼の意識は自分自身の上に突然現れた観客席に座るみたいに、自分の体が機械のように自主的に動くことを見る。


 物語の本を読む人、どんなに入り込みすぎても、物語のプロットに本当にうろたえるわけがない。


 遠すぎるから。




 朝の最初の仕事、彼は台所に行く。手に持った『禿げと脚気の治療』を料理長に渡した後、彼は戸惑い顔の料理長にこう話した。「原因は聞かないで、これを受け取ってください。もし月璃殿下にそれを聞かれたら、私はすでにこの本をあなたに渡したと言ってください」


 当然、実際に料理長はこのような病気はない。この本はただ昨日、書斎にいた時、月璃が真面目すぎたと思ったので、月璃をリラックスさせるために引き出した本だった。しかしたとえ最も単純な冗談でも、隙がないようにしなければならない。


 料理長にそう言い含めた後、料理長は何も聞かず、ただ「また恋人同士の小さい秘密だろう」と言って、ニヤニヤと笑った。


 夏涼は台所から出る。裏庭から吹いてきた風は寒さと爽やかさの中程だ。


 もしずっと前なら、邸にいる人々は彼と月璃はこんな関係になったとは思わなかっただろう。


 無理もないが、月璃が記憶喪失になったことは、誰も予想できなかった。もし月璃は過去の夏涼とのやりとりの記憶と方法を失ってないと、他人からどう見られようと、過去の彼らは絶対に今の関係性が成り立つわけがない。


 5年前、11歳の誕生日を過ぎたばかりの3日後、数名の刺客が一人の使用人に賄賂を使って晩御飯の中に眠薬を混ぜて、邸の全ての人を昏睡させようとした。彼らは真夜中に邸に入り込んで、公爵と二人の姫を攫うつもりだった。その後、裏切り者の使用人と入り込んだ刺客たちは、素早く公爵と親衛隊斬殺された。その事件で、邸の人で裏切り者を除いて、死者3人、負傷者2人が出った。死者は全て親衛隊の人だった。負傷者の1人は親衛隊のオオカミ、そしてもう1人は頭部外傷のせいで意識不明になった月璃だった。


 目覚めた後、月璃は一切の記憶を失った。いつも通りとは違う、彼女は何でも怖がるようになった。彼女はこの全然知らない世界を恐れ、自分の部屋のインテリアを恐れ、公爵の邸を恐れ、メイドと使用人たちを恐れ、日琉さえ恐れた。


 この世界で彼女が唯一恐れない人は夏涼だ。彼女は夏涼に対して曖昧な印象を残したらしい。夏涼は信頼できる人だと彼女はすぐ理解した。


 それから、夏涼は月璃に対しての放任主義を変えて、できるだけ月璃の側にいたくて似たようなことを起こさないようにした。そして月璃自身も一時も夏涼から離れたくなかった。彼女にとって、全て分からなくなったこの世界で、夏涼は彼女の唯一識別できる旗であり、彼女の小さい領土を象徴した。彼女はそれにしがみつくしかなかった。


 一つは夏涼の馴染みがない月璃、一つは月璃の馴染みがない夏涼、互いに馴染みがないが形影相伴う二人は、この数年間、過去と違った付き合う方法を立てた。


 詳しい時間は不明だが、邸で一般的にそう公認した。おおよそ月璃が記憶喪失した後の第4年目の秋、彼らは恋人同士になった。


 しかしその中に小さい誤解があった。それは、彼らは実はお互いに告白したことが一度もなかった。これは最初から使用人たちの噂だ。彼らはただ一度もそれを否定しなかった。


 実際、二人は主従の身分を超えなかった。


 昨日月璃の膝枕は、今まで最も一線を越えた行為だったと言ってもいい。


 ここまで思いつくと、夏涼は自分の心臓の鼓動がいつもより少し速かったことに気づいた。彼は廊下で深呼吸をし気持ちを整理して、月璃の書斎に入った。


 笑顔過ぎないように注意した後、彼はテーブルの前に背筋を伸ばし座っていた月璃に手を挙げた。


「おはようございます、月璃。」


 月璃は素早く振り返り、彼を見ている目に驚愕を表す。口を何度も開閉して、彼女の顔は熱く盛り上がるように赤くなった。


 彼女は立ち上って、書斎から飛び出す。


 ……


 ……


 ……


 夏涼は黙々と空中に挙げた手を下ろした。


 彼はなにかの猛獣か?月璃は何を驚愕した?


 しかし夏涼はすぐにわかった。猛獣であろうか、月璃の目に、彼はまるで恐怖を象徴する紅雪種みたいだ。その後彼女は夏涼からまた2回逃げられた。2回目は廊下、3回目はまた書斎。そうやって、彼は邸の全ての人におかしな目で見られることになった。まるで彼が月璃に何か極悪非道なことをしたように。


 途中、料理長だけが喜んで彼の背中を叩いて、親指を立てて、「さすが若いね」と賞賛した。


 夏涼は人々に後指をさされて、自分はどんな表情をするべきかわからず、立ち止まって、月璃を追いかけ続けるかどうかとを思考している時、月璃は突然自主的に彼の前に歩いてきた。


 どうしてかわからないが、野次馬の人々はわけがわからなくて歓呼した。


 月璃は彼の服の裾を掴み、頭を下げて顔がトマトのように赤くなり、歓呼の中で彼を書斎の中へ引っ張った。

 その動作は夏涼をわからなくさせた。月璃は一体大胆なのか、それとも照れ屋なのか?


 事後、月璃は俯いて、小声で説明した。「ごめんなさい。夏涼の顔を見ると、すぐに昨日のことを思い出しました……」


「なるほど、実際に私もです」夏涼はうなずいて、素直に言った。


 そして月璃はまた逃げてしまった……


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