表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/76

-傾月-〈壹〉ビッチプリンセス 2

 7年くらいが過ぎた……


 ミサ公爵の邸に、斜めに降りてゆく赤い葉が、暖かな陽射しを切り分けた。黒い子猫が木陰に座っている。この子には白い耳がある、まるで白い耳あてをしているみたい。今邸から聞こえてくるのは、この子の主人たちの家庭教師の授業の声だ。


 寒霜城の秋はいつも通り気持ちがいい。秋と冬にしかない辺境の要塞は、一年の中で秋の三か月間が最も快適な季節だ。秋の最後の晩が終わると、温度は三日で一気に下がる。霧は厚い城壁で霜となり、木の梢の柔らかくて赤い葉は硬い氷柱に取って代わる。


 一週間後は冬だ。さわやかな秋はもう残り少なくなった。そんな貴重な時間に勉強をするなんて、実に愚かな行為だ。


 ロングテーブルの前に座った月璃はそう思いながら、軽くため息をついた。とっくに読み飽きた本、『【創世紀】に関して千の秘密』を片手でもって、彼女は指で自分の瑠璃紺の髪をいじる。顔には彼女の年齢と似合わない哀しみが漂っている。


「約200年前に、とある武芸にすぐれた騎士カミカサは意外なことに毒矢を受けました。同時に疫病にかかった彼は、ただ木の下に座って、目を閉じて死を待つしかなかったのです。だけど運命は彼を見捨てなかった。絶命の間際に、彼は奇妙な少女アイビスと出会いました。この少女は、未来の【陽の女王】だったのです」若い女教師はここでちょっと口を閉じて、自分の向かいに座っている10歳の少女、月璃をこっそりと見た。


 誰でも自然に見つめてしまうほど、彼女はそういう美少女だ。綺麗なまつ毛は雪のように柔らかだ、まるで精巧な象牙細工みたいな鼻先、薄い唇をそっとつぼめている。顔は幼いけれど、透明な美しさがある。


【月からの姫ちゃん】と言われた彼女は、物憂げな真っ黒い目を半分閉じた。滑らかな足指はまつ毛みたいに女教師の前で瞬いている。


 そう、今、憂鬱な美少女は自分の髪を触りながら、ロングテーブルの上にはだしの足を組み、いらいらしている。


「落ちた月の殘骸で『月の財宝』を発見された最初の人として、アイビスは『月の財宝』を使って瀕死のカミカサを救いました。そしてお互いを支え合って、荒れ狂う疫病を止めて、暴政の帝国を破って、ようやく偉大なアルフォンス王国を創りました」女教師が本を置き、微笑みながら二人の少女の反応を待った。どんな少女でもそういうボーイ・ミーツ・ガールの童話に憧れるだろう、まして自分に密接な関係があるならば……


 ザザザ……


 女教師の前の席の右側には、プラチナブロンドの髪色を持つ少女がいるが、なんの反応もなく、ただクレヨンを掴み、落書き帳に落書きをしていた。女教師は些か呆気にとられて、目を月璃に向けた。


 月璃は持っている本を勝手に机に投げ出して、冷たい視線で女教師を見返した。視線の向かう先が人間になると、【月からの姫ちゃん】特有の、憂鬱な目つきが急に消えてしまって、中には木枯らしの寒さがある。


 目の前の、まだ三十路手前の女の物乞いのような姿は、彼女を少し不愉快にさせた。その姿は、まるで彼女は悪人みたいじゃないか?いいだろう、ちょっと反応を与えるなんて、別にいけないことじゃない。


 だから、彼女は足を組み替えていた。


「……」


「……」


「何かお考えはありますか?」女教師は作り笑いで尋ねた。


月璃にとって、もうとっくに飽きた表情だ。


「ない」


「彼らのラブストーリーをとてもロマンチックに感じませんか?」


「ロマンチック?ロマンチック?ああ、なるほと、どこの馬の骨かもわからない女が道端の野良犬を拾って、交尾相手とした三流官能小説みたいな物語、あたしたち貴族によると、確かにすごくロマンチックよね」


女教師は女教師はあっけにとられてぽかんとした。少女の完全な名前は『月璃・アルフォンス』である。ミサ公爵の娘にして、王族の末裔にして、今少女は先祖の建国物語を三流官能小説と形容した。


「この人……お姉さんみたい……」


 どう返事をするか?女教師は未だわからない。琥珀色の瞳の少女ー日琉はクレヨンを放して、本の【陽の女王】の肖像画を指して話した。


 女教師は頭を下げて、本の肖像画をみて、月璃と比べ見て、そして女教師も驚いた。


「本当、そっくり、まるで母娘や姉妹みたい……不思議です、歴史上【陽の女王】は開国初期に行方不明となっていたので、今の皇族と血縁関係がないはず……」女教師はつぶやいた。


「あたしは確かにも立派なビッチを志すけど、少なくとも今はまだダメ男を拾う予定がない」と月璃は冷やかに返事をした。「あたしにこういうのはまだ早いわよ、せめて11歳になってから」


「ビッ……ゴホゴホ、先生が言いたいのは、あなたと【陽の王女】は同じように綺麗なのですよ」


「同じ綺麗じゃないよ!」突然に日琉がいった。プラチナブロンドの短髪が大きく揺れった。


「あ……あの……あなたのお姉さんは、綺麗じゃないのか」


 空気が気まずくなった。


「同じ綺麗じゃない、あたしのお姉さんは世界一綺麗な人だ」日琉は真剣に言った。


「はぁ〜」けれど、妹の称賛に対して、月璃は再びため息をつき、退屈な顔をした。


 意図的に他人の機嫌を取ることが他人に気付かれたなんて、他人に嫌気を起こす以外、人間関係に何の役にも立たない。もう6歳なのに。こんなことも分からないなんて。この愚かな小さい女の子に対して、月璃は本当に残念だと思っていた。


 まあ、あれらの媚びるような作り笑いと比べなら、まだましだ。


 あの教師たちとあの執事たちとあの侍女たちとあの侍衛たちとあのコックたちとあの御用商人たちとあの御用床屋たちとあの……彼女の周り全て人の笑顔と比べなら。


「ほら、私たちは君のご機嫌をとっているよ!」のような顔が、月璃は本当に本当に大嫌い。


「日琉ちゃん、昨日あなたに宿題を出しました、覚えてますか?」日琉の注意が女教師を向いた時、女教師は機を逃さず素早く言った。


「覚えている」日琉はうなずいた。


「なら授業が終わる前に、『創世紀』に予言した11個の月が落ちる順番を言ってください」


「出来ない」日琉は首を振った。


「出来ない?」女教師はますます頭がおかしくなった。


「あの……お姉さんが言った。勉強しすぎたら、バカになる。わたしはバカになりたくない」日琉は頭を下げて、両手の人差し指の指先を突き合わせた。


「大丈夫、もっと頑張れ、あたしはバカの下限に少し興味がある」月璃は目が半開き、背伸びをした。


「な……なら、前の五つだけでいい、半分ならバカになりませんよ」女教師の笑顔はひきつっていた。


「ん……財富の月、生命の月、智慧の月、科技の月、そして、うぅ……力量の月」日琉はうなずいて、指折り数えた。


「わぁ……日琉は本当に賢い」女教師は拍手した。全力で自尊を放棄しているみたい。「同じあの英雄の娘として、あなたも早くお姉さんのような優秀な人になりましょう。」


 先生が『あの英雄』といった瞬間、月璃の目が急に寒くなった。まるで寒霜城の秋と冬の区別が1秒に濃縮されて、秋の風は瞬間に霜になったようだった。


 愚かな冒険者は氷龍の逆鱗に触れ、氷龍の瞳孔が急に収縮した。


 けど、この変化は女教師に気付かれる前のただ2秒間続いただけで、月璃はけだるい姿に戻った。


「質問がありませんでしたら、今日の授業はこれで終わります」


「先生、質問があるよ」満面の笑顔で、月璃は急に手をあげた。


「はい!はい!どうぞ!」


「さっき、先生が言った。すべての月が落ちた後、残骸の中に、相応の『月の財宝』を探すことができるでしょ」


「はい、例えば30年前に、フラマリオン島に落ちた智慧の月の残骸の中には、ばらばらになった色々なブラックボックスがありました。そしてその中に、既存の知識を超えた大量の本がありました。私たちはそんな不思議な知識を記録した本を『智の月財』を呼びます。この全ては、ちょうど【創世紀】に神が私たちにお話した、『智慧の月が落ちる時、あなた達は再び真の知恵をもらう』という言葉と対応していました。」女教師は端坐して、少し感動しているようだった。


 授業が終わる。まさにその時、授業がようやく始まった。


 月璃は静かに女教師の解説を聞き、微笑みを保った。


「なら、淫欲の月が落ちた後、どんな『月の財宝』が出るの?」月璃は細長いまつ毛を瞬きをさせた。


「それは……」女教師は突然に言葉に詰まった。


「『淫欲の月が落ちる時、あなた達は淫欲を求める必要がない』と、『創世紀』にはそう書いて。どんな『月の財宝』は人たちに淫欲を求めることを必要なくさせるの?」月璃は女教師に問い続ける。


「あ、あの、淑女は、あまりそういう質問を出さない方がいいと思います……」女教師の顔が徐々に赤くなった。


「あら、ごめなさい、答えられない質問をしてしまいました」月璃は驚いたふりをして言った。


「うん……この質問……ちょっとね……」女教師は顔が真っ赤になった。


 月璃は彼女に甘い笑顔を見せる。


「高齢処女だからねえ」


 サササ……


 隣の席で、日琉はまた絵を描き始めた。その瞬間、書斎にはクレヨンと紙の摩擦の音が残るだけだ。


 女教師の顔がさっきの赤からどんどん真っ青になった。月璃はある『智の月財』に見たことがある。『交通信号』 という機器もそういう様子らしいと思った。この女教師の教育能力がそんなに低いなら、次の職業は、むしろ王都へ行って、道路の交差点に『交通信号』になればいい。


 顔を赤くしたり青くしたりしながら、女教師は机の上の本を掲げて、しかし、月璃の目を見た後、彼女はまたゆっくりと本を机に戻して、深呼吸をして、歯を噛んだ。


「あなたは天才です。だから何?時には教養と礼儀は才能より大事なのです」女教師は声を低くした。


 月璃は女教師の言葉を聞かないふりをした。彼女は机の上の足を振り上げて、滑らかな足先を伸ばした。


「なぁ、私の足の爪が……きれいなの?」


 女教師は答えず、責務を果たして『交通信号』を演じていた。


「あたしにとって、教養と礼儀というものは、ただ、淑女がわざわざ手入れしている足の爪ようなものだわ。他人に観賞される以外、何も役にたたない。あんたはそう思わない?」月璃は優しくて、ゆっくりと言った。


 そして、女教師が返事する前に、彼女はもう一度女教師を金縛りにさせる行為をした。


 彼女は両手で自分の右足をつかまって、ゆっくりと足の指を自分の口に近づけた。生白い太ももの完璧な曲線は、彫刻の大家が生涯をかけて、最高の大理石に彫った傑作のようだが、その仕草自身は粗暴で、まるで悪魔みたいだ。女教師は口をポカンと開けて呆れたような表情になった。例え最も卑しい生まれの農民の少女でも、このような野蛮な行為を見たことがない。


 カりッ。


 月璃は真っ白の足の爪を噛んで、口に象牙色の三日月をくわえて、高貴な顔で気楽に、銀製のナイフでケーキを食べているみたいに。


「ペッ!」


 彼女は『教養と礼儀』というものを、女教師の顔に吐き出した。


 三日月が唾液と共に、女教師のうつろな表情にゆっくりと落ちていく。 『創世紀』の予言によれば、11個の月は、いずれ次々落ちる。しかし今、『創世紀』に予言されない月がゆっくりと落ちているらしい。もしこの足の爪を名つけるなら、高齢処女の……『純潔の月』が良い選択かもしれない。月璃はそう思った。


「私はもう……辞めます……」


 月璃と話すより、女教師は独り言をいって。本を持ち、体がふらふらして書斎を出ていった。


「7番目だね……」


 月璃は呟いて、座り直した。


「無様だ、最近の若者はストレス耐性が弱すぎるだろう」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ