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-傾月-〈柒〉仮面 3

「彼をつれて行きなさい。囚人たちが全て死んでしまった後、彼を放しなさい」灼蘭は命令した。


「……」【銀仮面】は沈黙し、反抗せず灼蘭の侍従に引っ張られて歩く。


「最後だ。彼の仮面を外さぬかい?」瑞雪子爵は尋ねた。


「いいえ、言ったでしょう、わたくしは悪夢をすごく期待していますわ」灼蘭は扇子を開いて顔の下半分を隠し、下唇を舐めた。「仮面の後ろを見なかった上に、今夜の悪夢で彼がわたくしに復讐してきた時、顔はわたくしの好みによって想像できるではありませんか?」


【銀仮面】は歩く最中、突然に立ち止まって振り返った。


「最後に、一つの質問があります」


瑞雪子爵は手を挙げ、【銀仮面】を引っ張っていこうとする侍従を止めた。


「何か聞きたい?今更情けを乞うつもりなら、少々遅すぎるぞ」


「いいえ、それがしはただ少し興味があるのは、お二人様がこの『ゲーム』に賭けたものは何ですの?」


「それは君には関係ないでしょう」


「確かに関係ないが、ただ知りたいだけです。人生の最後の賭けゲームに、一体何を賭けていますか?」


「ヒヒ、これはお主の博徒としての仕事熱心か好奇心か知らぬが、いいよ、見せてあげよう」瑞雪子爵は顔を振り向けて、隣の兵士に指令を与えた。「石版を持って来てくれ」


1分足らずの間に、兵士は真っ黒けな、四角ばった石版を瑞雪子爵の手に渡した。


瑞雪子爵は黒い石版をテーブルに置いて、滑らかな面に指でタッチした。


石版はビーと音をして、ひとむらのごく細い紫色の光を放って、空中に文字で構成したブロックを映し出した。


「これは……ある技の月財ですか?」


「いい答えじゃ、だが残念。科技の月は3年前に落ちたものだ。しかしこの石版はこんな近代のものではなく、200年前から存在しておる」


「200年前……200年前……200年前にどうやってこんな技術を持たのか……」【銀仮面】は呟いて、眉を少し上げた。「……まさかこれは……」


「そのまさかじゃ。これは陽の女王が失踪後に残した遺物、それとも発明というものの中の一つじゃ。歴史を知っておるなら、お主もわかるはずじゃ。陽の女王はすごく掴みようがない性格じゃ。だからこれも他の遺物のように、何の機能がおるかもわからぬ発明じゃ」やっと一緒に彼の趣味を討論できる、十分な知識のある人を探し出したので、瑞雪子爵の元来蒼白な顔に急に血の気が増し、得意満面な笑みを浮かべる。


「なるほど。」【銀仮面】は頷いた。


「でも、へへへ……古い言い伝えによると、この石版はあれらの遺物の中でも特に貴重なものじゃ」瑞雪子爵はわざと神秘的なフリして、人差し指を揺らす。


「特に貴重なものですか?」


「そう、理由はわからぬが、これは陽の女王の身の回り品だったらしい。彼女はわざわざこの石版にとある機能を追加した」


瑞雪子爵はもう一度石版に触れた。空中で浮かんでいる文字はしばらく点滅して、赤色になった。


「いくらこの石版をいじっても、この文字だけは現れる。どういう意味がわからんので、儂は大金をかけて、たくさんの言語学の専門家を雇い、そしてようやくこれがあるエラーメッセージだということに気づいたのじゃ。この意味は、『指の紋様認証錯誤』じゃ」


「『指の紋様認証錯誤』、これはどういう意味ですか?」【銀仮面】は話を続ける。


「分からぬ」瑞雪子爵は残念な表情をした。「今推測できるのは、これはある機能、陽の女王本人だけが石版を使える機能ということじゃ……」


「おじじ、学問話はひとまず置いてください」灼蘭はふと言葉を差し挟んだ。瑞雪子爵が石版の説明を始めてから、彼女はずっとイライラして扇子で風を送っていた。「わたくしがかけるものは金箔で作られた月札です」


「金箔で……作られた月札ですか?」【銀仮面】は目を少し見開いた。


「プロの博徒として、興味があるのは当然ですが、あいにくわたくしは君に示すつもりはありません」灼蘭は豊満な胸の下で手を組み合わせた。「さよなら、蛇の餌食になりなさい」


「……」【銀仮面】は沈黙し、侍従が彼を引っ張ろうとした時、彼は再び瑞雪子爵に話しかけた。「そういえば、それがしは思いついました、下の演劇よりインパクトがある方法を」


「ヒヒ、まだ時間を稼ぐつもりかい?」瑞雪子爵は言った。


「確かにそのつもりがないとはいえないが、それがしにこんな面白いものを見せて頂いたお礼を返すために、それがしも少々パフォーマンスを披露させて頂けませんか?」


「パフォーマンス?」


「ローラお嬢さん、あの仮面を描いているカード、必要がないようでしたら、こちらに投げてください」【銀仮面】はローラお嬢さんに顔を振り向けて話した。


「あら、何をするつもりですか?手品?」


「大体そうです」【銀仮面】は肩をすくめた。


この地下闘技場に来た後、彼は何度も肩をすくめる動きを二人への返事としていたが、それは人の両手が後ろに縛られた時、できる動作がもともと少ないからであった。


灼蘭はややためらって、『銀色の仮面』を人さし指と中指で挟んで、【銀仮面】に軽く射出した。


カードふわりと宙で低速回転する。


回転して、回転して、くるくると回転して、やがてカードは空気を切り割く力を失って、カードの正面と背面が空中で連続し反転している。まるで人生のように、従来の軌道を離脱した後、不規則に失速し反転し始める。


そして【銀仮面】の位置に到着した瞬間、【銀仮面】は動き始め、縛られている両手に力を入れて急に後ろに引っ張った。


ロープの他端にいる侍従はその動きに伴い、身体の重心を失って前に倒れた。


【銀仮面】は上を向き、口で空中で反転している『銀色の仮面』を咥え、一歩踏み出して、猛然と侍従の懐に突っ込み、肩で倒れようとしている侍従を支えた。


紫色の髪がなびく。左下から右上まで、【銀仮面】は口でカードを咥えて、小振りに首を捻る。


【銀仮面】の肩を支えとして、侍従はギリギリで重心を維持できた。立ち直ってから、さっき起こったことを理解して、侍従は自分をつまづかせたことについて【銀仮面】を罵る方がいいのか、それとも肩を借して支えてくれたおかけで自分が二人の高貴な人の前で恥をかかないで済んだことについて【銀仮面】に感謝する方がいいのかわからなかった。


侍従の目の前には、いつも穏やかな笑みを含んだ翡翠色の瞳と、口に咥えた、赤色の背面のカードだ。




あれ?赤色の背面?




どうでもいいことのはずだが、侍従はふと頭にこの問題を浮かべた。カードの背面は……もともと赤色だったのか?こんなに鮮やかな色に、なぜ、さっきまで彼は気づかなかったのか?


そして彼は見た。あの翡翠色の瞳に映った自分に、急に少し変化が生じていたことを。


おもむろに、自分の喉仏の左側から右側まで、徐々にごく細くて赤い縦線が生えてくる。


血、飛び散り出した。




もしさっきの刀鱗蛇が囚人を飲み込む画面が血で作られた滝と言えるなら、今、侍従の首から湧き出す血の柱は血の噴泉と言える。


【銀仮面】の仮面に点々と血が付いていた。彼は血色の噴泉の隣に立ち、いつものままの微笑みを保った。彼の前で、侍従が手で自分の首を狂ったように引っ掻いて、口で『ガガガ』の音を出している。


「なぁ、下の演劇を上に移しただけで、もっとインパクトになるのではありませんか?」【銀仮面】はさっき侍従の首を切り裂いて赤く染められたカードを吐き出して、淡々と言った。彼の言葉に伴って、侍従はゆっくりと膝をついて、彼の足元に倒れ、ひくひくと痙攣して、動かなくなった。


無声、全ての人の動作は一緒に止まった。


もし自分の目で見ていなかったら、目の前で起こった、この荒唐無稽な出来事を信じる人はいない。


縛られた両手、一枚のカード、わずか5秒。


【銀仮面】はこうやってさりげなく侍従を殺した。


もし殺人を1種の芸術として、効率や美的感覚などで評価するなら、目の前の男はすでに……最高峰の極みに達している。


全ての人が思わず冷や汗を流す。


高所で人々がゴミのようにお互いを踏みにじることを眺めるのと違って、すぐ目の前で存在する殺人事件と鼻を突く血生臭い匂いは人に目眩を起こさせた。


両手が後ろに縛られた男を円の中心としてから、時間は何らかの圧力に縛られて、静止した。


瑞雪子爵、灼蘭、7〜8名の侍従と兵士は期せずして、心臓の鼓動が同じ拍子で強く打っていた。


ドック、ドック。


ドック、ドック、ドック、ドック。


ドックドックドックドックドックドックドックドックドックドックドック。


鼓動が合奏から離れて、独自に加速を狂い始める最初の人は、灼蘭だ。


「彼を殺せ!」


普段の粘りつくような感じと酷薄さがなく、彼女の声は少し掠れていた。


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