-傾月-〈陸〉博徒と賭け事 3
上品なスタンドは部屋の四隅に立って、柔らかな黄色の光が赤いカーペットを照らしている。
テーブルをクリアした後、白銀色のポーカーチップがきちんと4等分に分けられていた。3セットの新しいトランプに2枚の「紅雪種」を捨てて、2等分に分けて二人のディーラーで切り混ぜた後、再び298枚のひとそろいに組み合された。
賭けたものは以前と違ったが、今までのゲームと比べて、今回も大きく変わらない。
少なくとも、表面的にはそう見える。
老貴族は依然としてにやけた顔で指の間でポーカーチップを転がしている。【銀仮面】も依然として穏やかな微笑みを浮かべている。そして灼蘭お嬢さんも相変わらず何の策略もなく、一度リセットしたポーカーチップがすぐに前の数と同じまで減っていた。
富豪はトランプがなくなった上に、自分の八文字のひげをいじり、曇った顔で手札を見つめ、他の人に話しかけない。
一体、運とは何か?
全ての博徒は一生で、多かれ少なかれ自分にこの問題を問うたことがある。
しかし富豪は違う。彼はこのように自分を問うことが、一度もなかった。
成功をするばするほど、自分に絶対の自信がつく。富豪はこういう人間だ。
ほかにはなく、運は彼、彼は運だ。
もし彼は運がなかったら、ここまでたどり着けたわけがない。今、彼はここに座って、貴重な赤いワインを飲みながらハイクラス美人を撫でて成功を味わっている。これこそ彼の運そのものの証だ。
だから彼は今とても不愉快な気分だ。
彼は再び灼蘭の胸をちらっと見て、運が彼を導いてくれてその感触にたどり着くことを信じている。そう、彼は運、運は彼だ。だから彼は自分で自分の手を導いてその理想郷にたどり着く。
欲しいものがあるなら、奪い尽くせ、これは彼の信条だ。
ローラ家の黄金薔薇?手のひらで握り潰したら絶対に楽しいだろう。ましてこの黄金薔薇の顔に、すごく握り潰されたいとをはっきり書いている。
この侯爵家のビッチ、本来なら彼が手を出せる目標ではない。だから彼はさっきまであの奇跡の曲線を見ながら、妄想しながら隣のホステスを撫でているしかできなかったのだ。
しかし今、せっかく機会をもらったが、わけがわがらない状況の中で手の中から滑り落ちようとしている。
さっきから今まで、彼は連続して良い手札を手にしていた。これは彼にとって大したものではなく、彼は運、運は彼だ。彼にとって都合のよい牌は自然に彼の手にくる。当然なことだ。
しかし間も無くラストラウンドが来るが、彼のポーカーチップの数はほとんど変化ない。
目の前で、お嬢様は再びビリから1位になった。1位はあのずっと芝居のように笑っていて、一挙手一投足の陰険な老貴族だ。そして2位は富豪だ。【銀仮面】は何の良い牌も持ったこともなかったが、影のように微かな差で富豪の後ろに付いてくる。
富豪はよくわかっている。彼が持つポーカーチップの数は老貴族との差が大きすぎる。それは一回のラウンドで簡単に取り戻せる差ではない。すなわち、1位と4位は老貴族と侯爵家のビッチってことをほぼ確認した。
だから彼は今とても不愉快な気分だ。
この局面になるのは、富豪が良い手札を持った時、【銀仮面】はいつも巧みに避けたが、逆に老貴族が良い手札を持った時、【銀仮面】は全く気にせず彼に負けたからだ。
これまで富豪は無数な人を見た。人は果たして運に恵まれているかどうか、見れば一目でわかる。
【銀仮面】は運に恵まれていない。富豪は肯定的にそれが言える。
しかし運に恵まれおらず、論ずるに値しないやつのはずだけど、今のこの状況は、まるで……【銀仮面】が意図的に巧みにそれを維持しているみたいだ。
この男は、わざとこの行き詰まっ ている状態でこのゲームの終末を迎えるらしい。
もしこのまま終わると、老貴族はお嬢様の命令権を手に入れる。そして富豪は【銀仮面】の命令権を手に入れる。
そう考えただけでムカつく。彼の目標はあのビッチお嬢様だけだ。一人の男の命令権を手に入れるのは何の用がある?
「【銀仮面】、これは最終のラウンドだ。」再び赤いワインを飲み干した後、富豪はゆっくりと指を握り、指節で小さい音を立て、凄まじい力で拳を賭けるテーブルを叩いて、仮面をつけた男を睨む。
「うん?」
「てめえは貴族じゃないだろう」
【銀仮面】は肩をすくめた。「さあ、な」
「もし俺がてめえの命令権をもらったら、まず、仮面をとれ。」
「いいです」
「……そして今、この場所で自分の眼を抉り出せ。」富豪は冷笑した。
部屋は騒然である。この言葉は一つの太刀のように、現場の空気を鋭く切り裂いた。
老貴族は口笛を吹く。灼蘭の目は輝き始めた。いつも無表情のディーラーすらは彼らの方向に振り向いた。
それだけではなく、さっきから今まで何の声を出さなかった、富豪、灼蘭、老貴族の後ろに立っている随従たちの様子も変わった。ある人は耳打ちをする。ある人は武器を握り締めて、臨戦態勢に入った。
その中に、当事者だけが、一人で賭場にきた【銀仮面】の表情だけは何の変化もない。
依然として、涼しげな微笑みだ。
まるで季節を間違い、空気も読めず、勝手に吹き抜ける夏の涼風だ。
「それもいいですよ」
「あら」灼蘭は手札で口元を隠しながらクスクス笑った。「【銀仮面】、ここには証言できる多くの人がいます。後は謝罪だけではすみませんわ」
「……」【銀仮面】は首を傾げて、満面の笑みを浮かべている灼蘭を見て、ふと首を横に振って感嘆した。「これは貴女の今までに最も甘美な笑顔です」
「君が自分の眼を抉り出した後、わたくしはもっと甘美な笑顔を差し上げます。まぁ、その時……君はもう見えなくなりますけどね」
「それは残念」【銀仮面】は悠々と話した。口調にはちっとも残念な感じもない。
「おい、カードを配れ。」富豪は邪険な顔で首をひねると、関節の音が鳴った。
月札のルールといえば、大陸で普遍に流通した通貨制度に言及せざるを得ない。
大陸の通貨制度の中で、無尽月幣は最高な価値を持つ。通常、国や超大型隊商の取引単位とされている。一般人では一生かかっても見る機会はない。だから多くの人はこの純粋な白金で作られた通貨は実際に存在しないと主張する。
無尽月幣を除いて、まだ金・銀・銅3種類の金属でそれぞれ異なる比率で作られた5種類の月幣がある。価値の高さで順番に話したら、生命、情愛、智慧、力量、勇気だ。
この5種類の月幣は天上の罰の月として、人の5種類の美徳を象徴する。
その中、『生命』は全ての基底だ。当然一番高価な価値がある。
『情愛』は人が最終的に追求する目標だ。『生命』の後ろに並ぶ。
『智慧』と『力量』は人が目標を追求する時の2種類の手段だ。そしてその中で『智慧』の価値は『力量』より高い。
最後に、何も持っていない時、すべてを覆す奇跡を作れるのは『勇気』だけだ。
このロジックに沿って、誰でもそれらの月幣の相対的な大きさを簡単に覚える。
複雑な物事を任意に想像した関連性で直列連結し、この記憶術は商人の間で鎖の記憶術と呼ばれ、流行っている記憶術である。多くの人は自分の記憶力が悪いと感じているが、実際に頭が悪いのではなく、ただ効率的な記憶方法を知らないだけだ。
月札の基礎ルールは、だいたい今の大陸の貨幣制度と同じた。だから同じの方法で覚えればいい。
最大のは無尽の月だ。そして順番では5種類の罰の月ー生命、情愛、智慧、力量、勇気。
殘りの5種類ー人間の欲望を象徴する罪の月、そのあだ名は雑魚カードだ。大きさは区別しない。
または、『盗賊』、『智者』、『光の道』など9種類のカードの背面があり、機能カードとして使う時、それぞれの機能がある。
最強の機能カードはひとそろいで一枚だけの『紅雪種』だ。そして第2番目に強い機能カードには色々な見方があり、一般的に公認されているのは『国王』だ。
ルールで、第1枚目のカードは裏向きに配られる。プレイヤー達は自分だけの手札を見ることができる。そしてコールとフォールドによって、表向きにカードが一枚ずつ配られて、最後の1枚のカードは機能カードとすることができる。
すなわち、持ち札の最後の一枚まで配られたら、そのゲームに二回の『開け』が必要だ。1回は機能カードの開け、もう1回は裏向きのホールカードの開けだ。
このお金より楽しみを重視し、風雅よりむしろ風狂に近い部屋の中で、当然誰も最後のラウンドでフォールドのような面白くないことをするわけがない。今、全ての人は最高枚数の5枚の手札を持っている。
表向きのカードを見れば。富豪のツーペアは最強の手札だ。次は【銀仮面】の情愛のペアだ。残り二人は全てノーペアだ。とくに灼蘭のノーペアの中に3枚の罪の月の雑魚カードがあり、チャンスがほとんどないと言える。
「このラウンドのディーラーは俺だ。賭け金を1倍に上げ、機能カードを発効する。」富豪は無表情のままに、再び前の3重ねのポーカーチップを押し出す。
ポーカーチップを押し出した後、富豪は機能カードとしている生命の月を【銀仮面】の目の前に挙げて、刺すような目つきで 涼しい顔をしている男を睨みつける。
「伝説の博徒?」富豪は凶悪な笑いを浮かべた。「よく見ろ、てめえの一生で見られるカードはもう少ないぞ。」
「……」
裏返し、テーブルにぶつける。
『国王』
「あ……」富豪の隣のホステスははっと息を飲んだ。
現場は再び騷然となる。執事、護衛、ディーラーまでこの一瞬、息を止めた。
ホールカードを除いて、4枚のカードだけでツーペアを組み合わせたのはすでに凄まじい好運だ。
このような好運に加えて、一枚のカードを複製することができる『国王』がある。
強運、とんでもない強運だ。