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-傾月-〈陸〉博徒と賭け事 1

「今まで、賭けるテーブルの上で最も印象に残った経験を話してみますか?ううん……それは多分……人の人生を賭けたことでしょう。」


「いいえ、冗談ではありません、それがしは確かに一度このような賭け事をしました。」


「では、一つのありふれた物語を話しましょう。」




 それは……ある悲しい男の物語だ。




 あの男は典型的な考える頭を持ってない兵士だ。若い頃、彼は国への忠誠を持ち、本の海戦の時に意気揚々と王国軍への志願兵として、あの海で智の月財を奪い合う競争に参加した。戦争中に、彼は片方の足が折れてしまい、何の功績も残すことができなかった。


 しかし強いて言えば、彼は一応外で冒険みたいことをしたという功績は残した。故郷に帰った後、幼馴染は彼の体の欠損を嫌わなかった。名門の血筋ではない二人は誰の反対もない状況で無事に結婚した。数年後、妻は妊娠した。


 もし物語がここで終わったら、円満とは言えないけどまあまあなハッピーエンドと言えるが、妻は生まれつき体が弱く、妊娠のせいで体がもっと弱くなって、辺境の寒さで重病を患った。あれは不治の病ではなかった。正しく言えば、王国の中で不治の病は存在しない。何しろ二百年前に生命の月の落ちる場所はこの王国だ。王国ではどんな病気でも、生の月財を買えれば簡単に治せる。


 しかし生の月財の機能が強ければ強いほど、値段もどんどん上がる。妻の病気を治せる程の生の月財の値段は、国からの傷痍軍人への退職慰労金だけでは全然足りなかった。


 二人は頼れる親戚がなく、妻は重病で、そして男は体の欠損があり、何の技能も持っていない。突き詰めて考えた後、男は覚悟を決めて、王国の『穴掘り令』に賭けた。


『穴掘り令』は『知恵の革命』がもたらす色々なことの中の一つの副産物だ。そして『知恵の革命』であるものは帝国から始まり、それぞれの国は智の月財の知識によって改革を進めている過程だった。


 あの時、本の海戦は終わったばかりだった。、しかし智の月財がもたらす世の中の動揺の余韻がまだ残っていた。各国は学者たちを招集して、月語の研究を行わせて、智の月財に記載された知識を翻訳してようと試みた。単純でわかりやすいことだ。どこかの国が思いがけず科学技術と武器の知識を他の国に先駆けて成功的に翻訳したら、この世界の覇主になれる。


 しかしどう翻訳しても、武器の知識は探せなかったが、ある日、王國の学者が偶然に一種の物質の知識を奇跡的に翻訳した。武器に劣らない重要性を持つ物質ー『骸の油』。


 智の月財によると、『骸の油』は深い地底の奥にしか存在せず、黒くて光を反射する貴重な油だ。もしこの黒い油の精製に成功したら、文明を革新できる。


 どうしてこの油を探すことで文明を革新できるかは翻訳の学者本人も説明できなかったが、このことには確かに魅力がある。さらに事態を悪化させるのは、もともと王国はこの危険な知識を隠すつもりだったのだが、うっかり反逆者から流された。


 そして各国はほぼ同時に『穴掘り令』を発した。穴掘りが国民運動になる時代が来た。


 誰かが地底で『骸の油』を探したら、その人がいくつかの人生も使えきれない財宝と誇りを手に入れ、歴史に名を残すこともできる。


 名前が歴史文書に残るることに男は興味がなかったが、彼は金、しかも大金が必要だ。だから彼はスコップを持ち地を掘り始めた。毎日、朝から晩まで、掘って掘って掘って……


 そうやって9ヶ月が過ぎたが、彼は『骸の油』を掘り出すことはできなかった。彼の運が悪いのではなく、世界を見回しても成功的に『骸の油』を掘り出した人はいなかった。


 こうして、まだ『骸の油』を掘り出せないまま、妻は息子を産んで亡くなった。


 妻が死んだ後、頭が悪い男は穴の側に立ち尽くして、俯いて自分が数か月かかって掘った穴を見つめ、しばらく考えて、そして理解した。


 あぁ、なるほど。


 人生は穴を掘り続ける過程だ。大きくて深い穴を掘り、墓として自分を埋める。


 納得した後に、彼はもう動くことがない妻を抱き上げて、底の見えない穴へびっこをひきながら入って、天上の星を仰ぎ見て死を待った。


 しかし上から聞こえる泣き声がうるさすぎて、数時間後、たまらなくなった男は上に登り、赤ちゃんを穴に投げてそして自分は中に飛び込むつもりだった。


 コロン〜赤ちゃんを持ち上げた瞬間、数ヵ月間掘り続けた穴は突然に彼の目の前で理由もなく崩れた。


 全てが埋葬された。数ヵ月の努力、彼の妻と断固たる死への志。


 物語をここまで続け、理屈から言えば、これは息子の世話をしてほしいという妻の魂が言い含めたメッセージを男が悟って、そして彼は奮闘して、一人で息子を育てるはずだった。


 しかしそうではなかった。男は決心せず、それが妻からのメッセージだとも思わなかった。彼はただ自分が死にたいと思いつつも死ぬ勇気すらなく、みっともない極みだと思い、呑兵衛になり、毎日、王国の退職慰労金で一番安いお酒を買って自分を酔い潰していた。


 しかし彼は一応息子を育てた。どんなに酔っ払っても息子にミルクを飲ませることを忘れず、気分が良い時に息子に話すことを教えもした。


 頭が悪い男は生涯で何の良い選択もしなかったが、それらの気まぐれは彼にとっての最も賢いことになった。


 あれはとても引き合う商売だ。彼は息子を5歳まで育てた後、逆に頭がいい息子は彼を育て始めた。息子は言葉すらうまくできない頃から自発的に外で物乞いして、もっと大きくなった後、あちこちで簡単な仕事を始めた。例えば野菜を売るとか。


 男が人生で最も嫌いなものは彼の一生を乱す智慧の月だ。しかし息子の唯一の娯楽は市場の仕事が終わった後、こっそりと智慧の月の教会堂に行って、老司祭が信徒たちに新しい知識を教える授業を聞くことだった。信徒たちの中のある老夫婦はいつも彼に優しくしてくれて、賢い彼をとても気に入ったようだった。常に小さなおもちゃをあげるか、それとも僅かなお金を彼の手にこっそりと握らせた。


 息子がすごく前向きになることに、男は何の感心もしなかった。彼にとって、息子がおやじを育てるのは当然のことだ。だから毎日息子の稼いだお金を使ってお酒を買い、この国は彼に済まないことをしたと怒鳴り、余計なお金があると賭博すら始めた。


 ある日、息子が10歳の頃、息子はまだトラブルを起こさなかったが、逆に男はトラブルを起こした。


 ある賭け事で、彼は銀色の仮面をつけ、【銀仮面】と呼ばれた伝説の博徒と賭けをした。ずっと負け続けた状況で、最後のラウンドで、男は本回の賭け金の上限を解除することができる『紅雪種』を引いた……


 しかし賭け事後、彼は大きな借金を抱えてしまった。それは息子がどんなに努力しても稼げない金額だ。


 強引に返済を迫る取り立て屋に遭い、男はどんどん恐怖と怒りを溜めっていき、数日後、彼はとうとうストレスに耐えられなくなり、息子に当り散らした。


 あれは息子が男に殴られた最初だった。男は良い父親ではないけど、彼は一度も息子を殴るとか叱るとかしなかった。突然の暴力が息子を家出させた。


 男の子は大雪が降りしきる夜に途方に暮れたように真っ白な街を見て、どこに行くべきかわからなかった。彼は智慧の月の教会堂の扉前にしゃがんで、顔に憤懣と悲しさを浮かべていた。


 殴られることを恐れたのではなく、だが彼は本当に悔しかった。自分がすごく努力してきたにもかかわらず、そのような扱いを受けるべきではなかったと思ったのだ。同時に自分が情けないと感じて、そんなにふがいない人生なら、いっそここで凍死して終わりにしようと思った。


 もし彼が本当にその雪降る夜に凍死したら物語はここで終わった。しかし物語がここまできて、そろそろ分岐点だっていうことを誰も知っている。彼は腹がすいて寒くて間もなく寝ってしまった時、老夫婦がちょうど教会堂から出て来た。ボロボロになって地面に倒れていた彼を見て、彼らは何を話すこともなく、ただ彼を彼らの家に連れていき、風呂に入れて清潔な服に着替えさせた。


 一杯の暖かいミルクの前に、赤ちゃんの時期を過ごして以来一度も流さなかった涙がようやく出た。彼はめそめそ泣きながら老夫婦に一切を吐露した。


 老紳士は彼の肩を叩いて、辛い思いをしたなと話した。彼は老夫人に抱き締められて、泣き続けて、最後に老夫人の懐で寝てしまった。


 老夫婦はすごくお金持ちらしい。次の朝、彼の手に少しのお金を握らせて、使用人たちに護衛させて家に送った。家に戻った時、彼は男に一言もいわず、ただそのお金をテーブルに置いた。


 日々はそのまま続き、息子は依然として毎日市場で仕事をして、そして家に戻って静かにお金をテーブルに置く。


 いくつかの日が過ぎた。ある日、男は突然彼を呼び、そう話した。「明日からここはお前の家じゃなくなるんだ。ある人は俺の債務を負うつもりだ。条件はお前を彼らの養子とすること。」


「俺は価値がない人間、そしてお前は価値のある人間。価値がない人は価値のある人を利用する。それも仕方ないことだ。」息子は呆然として返事をしなかったが、男は勝手に呟きを続けた。「だから、お前は……価値のある人間として生き続けなければならない。」


 翌日、彼は連れて行かれた。そして彼の目の前に現れたのは、満面の笑顔の老夫婦だ。彼らは彼の頭を軽く叩いて、話した。『今日から君は私たちの息子だ。何も心配しなくていい、私たちは絶対に君を実の息子として育てる。』


 あれから、彼は急に小さい物乞いから貴族の子弟になり、毎日フォアグラを食べたりダウンジャケットを着たりして、一流の教育を受けた。あの老夫婦は実際に巨額の資産を持っている下級貴族だ。彼らは長年子供がなく、ずっと一人の息子が欲しかったのだ。


 しばらく経って、あの男が死んだ、酒がめを掴んで道の側で無様に死んだ。死因は急性アルコール中毒らしい。老夫婦は好意的に自費で彼の葬儀を行った。しかし葬儀中に、彼の唯一の家族、それとも過去の唯一の家族というべきの男の子は欠席した。


 たとえ老夫婦が珍しく厳しい口調で男の子を説得しても、彼は頑固に出席を拒否した。


 こうして、葬儀が終わった同日、真夜中、男の子は一人でこっそり豪邸を抜け出して、男のお墓にたどり着いた。そこに、彼以外にもう一人の来訪者がいった。


 銀色の仮面をつけた男はお墓に敬虔に花を供える。


 長い間、二人は沈黙しながら目が合って、膝をついている男は、ちょうど男の子の視線と同じ高さになっていた。


「……」


「……」


「それがしに復讐したいですか?」【銀仮面】は尋ねた。


「あなたがやったの?」男の子は聞き返した。


「いや、この部分の担当の方はそれがしではありません、それがしの担当は賭博だけです。この問題以外、まだ何が知りたいですか?」


「真実」


「真実?」


「あの賭け事の真実」


「……それがしが君について理解していることによれば、君はすでに気付いたはずです」


「私はそんなに賢い人ではない」男の子は首を横に振った。


「君はそれがしにとって見知らぬ人ではありません、あの賭け事の前に、それがしはすでに君の詳しい資料を受け取りました。君の父上の家柄と母上の死因から、君たち親子の関係と話し合いの方法、君の性格と興味まで、もしかすると……それがしは君の父上より君を理解できるかもしれません」


「どうして?」


「君は君の父上と違うらしい。彼はわざと自分の眼を遮り、目の前の対局の中に耽溺します……そして君は、わざと目前のすでに明瞭な対局に、目を逸らします」


「……」


「君の推測通りです。あの賭け事は確かに仕掛けられたものだった。社会の底辺で目標を探し、事前に雇い主を智慧の月の教会堂に行かせて検品して、賭け事を仕掛けて、そして最後のアフターサービス……商品の心残りを徹底的に消す。強いて言えば、それがしたちは少し特別な一貫サービスです」


「……」


「まあ、それがしたちの雇い主は誰ですか?君はとっくに知ってますはずだ」


「あぁ……」長い間の沈黙を破り、最後に、男の子は頷いた。


 ……


 ……


 ……



「……私の……新しい父と母だ」


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