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-傾月-〈伍〉傾月姫 4

 

 ……

 



 夏涼が離れた数分後、月璃は依然として舞踏会の真ん中で踊っている。


 3人目の老紳士から一体どんな長い時間すぎたのか?月璃は疲れすぎたので時間を正しく推計することができない。


 彼女は人ごみの中で微笑みを続け、お辞儀をして7人目の踊りを終わった。


 その後、彼女は休憩場所に行って、会場をさっと見渡す。夏涼はもう彼女の視界にいない。


 人波は彼女と一緒に移動していた。男性たちは互いに視線を合わせて、機会を待っている。


「月璃殿下、この曲、私と踊っていただけますか?」太った男が胸を張って、彼女に手を伸ばした。


「すみません、私は先に予約しました」金髪の男が微笑みながら言った。


「いやいや、俺と殿下と一緒に踊ることは、俺が生まれた時に觀月預言者にそう予言されたぜ」


 どこかの声が笑い声を起こさせた。


「ごめんなさい……」月璃は小さい声で言って、頭を下げた。「……少し休ませてくださ……」


「あなたたちはいい加減にしなさい!嫌と言っている顔を見ていなかったのですか?」緋色のドレスを着て、金髪ロングウェーブの少女は彼女の隣から前に出て、寄りかかる男たちを叱った。


 話の腰を折られて、月璃は呆然として強気な少女を見る。それはローラ侯爵の娘ー灼蘭・ローラだ。


 灼蘭はそう言って、隣の翠に目配せした。翠はこっそりゆっくり食べ物を置いていたテーブルを移した。


「あなたは顔色が少し悪いですよ、一緒に隣で休憩しませんか?」灼蘭は振り返って月璃を尋ねた。


「ありがとう、でも……」月璃は唇を噛み、再び頭を下げた。


「行きましょう。男性たちとの社交以外、わたくしたち女性間の交流も必要ですよ」


 彼女は微笑みながら月璃の手を掴んで、人波の外へ引っ張る。


「ローラさん、ちょっと待ってく……」月璃は強引に腕を引っ張られ、小さい声で話する。


 しかし話はまだ終わらず、彼女は急にバランスを失った。


 キーツ……テーブルの脚に踏んづけられた漆黒のドレスから耳障りの割れた音がした。


 月璃の体は前に傾き、赤いカーペットに倒れた。


 側の紺色のドレスを着ている女性を驚ろかせるように、赤ワインは彼女が持つグラスから溢れしまった。月璃は両手を地面につけ、茫然として上からぶっかけられる赤ワインを見る。



 

 バシャ……



 

 赤ワインが彼女の頭に盛んに降りかかって、全身がびしょ濡れになった。


 灼蘭は彼女の茫然自失の姿を見て、素早く彼女を引っ張り上げる。


「あなた、大丈夫かしら?」灼蘭は一歩引いて距離を取って、心配するような顔で尋ねた。


 月璃は一人ぼっちで人波が譲ってくれた小さい圏の空間に立ち止まり、震えている両手で裂いたドレスを遮る。


 濡れた瑠璃紺の髪は横顔に乱れてつけて、彼女は顔色が青白くなり、恐ろしいように目を見開いた。そして傍観者たちの視線によって、彼女はやっと気づいた。自分の黒いドレスがびしょ濡れになって、体に張り付いて、 少し透き通って見える。


 人々の声はほとんどに沈黙していた。男性たちは欲望に満ちた目つきで彼女を見守り、手伝いに行くかどうかに躊躇っている。女性たちはお互いの耳元でささやいている。


 月璃の唇が震えて、自分の身体を抱き締めている手の指先は力を入れすぎたせいで白くなった。


 賓客たちの視線の中で、彼女は緩やかにしゃがんだ。

 



「どけ!」一人の男が人波をかき分けて、早足で駆けつけた。


 素早く現状を分析した後、彼は沈黙して灼蘭をちらりと睨んだ。


 灼蘭の表情が強張って、一瞬棒立ちになる。あのいつも穏やかな笑いを込めた翡翠色の目には今、氷のような冷たさがある。


 夏涼は思わなかった。まさか彼が数分間離れただけで、このようなことは起こったな。


 灼蘭は宴会で自分より目立つ少女を徹底的に痛め付ける悪名を持つこと、夏涼も聴いたことがあるが、しかし夏涼すらも予想できなかった。灼蘭は国王の孫娘までをそうした。


 これは彼のミスだった。これらの女の子たちがそんなに愚かだということを彼はまったく思えなかった。 事に処するに、よく前後を顧慮することができない。灼蘭は多分まだわからないでしょう。どうして夏涼は彼女を好きになれないのか。過去の月璃と同じくらいのわがままさを持ち、しかし相応の知恵を持たないのは、ただ不快をもたらすだけだ。


 夏涼は口を閉じて、隣のテーブルに歩いて、左手の指で二つの満杯の赤ワインのグラスを挟み、灼蘭に向かって歩いて行く。


「わたくしじゃない……」彼の動きを見て、灼蘭は思わず一歩下がって、口を開いて弁解した。


 夏涼は彼女を徹底的に無視し、彼女の側を通って月璃の前に着いた。そして全ての人が信じられない動作をする。



 

 彼は再び2杯の赤いワインを月璃の頭からぶっかける。



 

 しかし今回の赤ワインは月璃にぶっかけない。


【緑・活水】、夏涼は6分の1の体重を消耗し、手が薄い緑の光に包まれる。彼は空へ手を伸ばして掴むと、赤ワインが手のひらの上に漂い、深紅の液体の球になった。


 彼は球を掴んで、二人の周りで時計回りで一回りの緑の残光を塗る。液体の球は変形して、彼の動きに沿ってうす桃色の水幕になって、二人を囲んだ。


 そして双色のカラリストである夏涼は、躊躇わずに6分の1の体重を再び消耗した。


 周りの人たちが「おぉー!」と声を上げて、わずか数秒で赤ワインの水幕は淡紅色の薄い氷になり、群衆の視界を遮った。


【赤・散能】、第二種の五色の作用の上で、薄い赤色の殘光と薄い緑の殘光が重なって、薄い黄色の環状の光になり二人を囲んだ。


「タオル!」


 彼はその中で怒鳴って、月璃を立てた。


「涼君……」


「月璃、もう大丈夫です」彼は少女の背中を軽く叩いた。


「ごめん……」月璃は唇を軽く噛む。


「君は何も悪くありません。どうして謝るの?」夏涼は優しい口調でいった。


 彼女は頭を下げて、夏涼の顔を直面する勇気がない。


「せめて……今日……この成年式の日だけで、あなたを頼りにしたくない……わたくしはそう思っていました」


「君はもう十分努力しました」


 夏涼は彼女を見つめて、指で月璃の絡まった髪をゆっくりと梳る。そしてもっと少ない分、12分の1の体重を消耗して、月璃の髪に残る赤ワインが彼の指先に凝集し、回転し変形して、淡紅色の氷で作られた花簪になった。彼はこれを月璃の髪につける。


「似合いますよ」


 月璃はみるみる赤面した。彼女は俯いて、濡れた黒いドレスが今自分の体にはりつけていることを急に思い出した。

「ごめんなさい、盗み見るつもりはありません」夏涼は少しやましい気持ちになって、月璃がまだ何も言わない前に自首した。


 月璃は唇を噛み、早めに手で体を遮る。そして彼女は突然に何かを思いついたみたいだ。


「あの、涼君」


「はい?」


 月璃は慎重に片手で胸元を隠して、片手で首から黒水晶のネックレスを持ち上げる。


 夏涼は知っている。この菱形の立方体の黒水晶は月璃のお守りだ。


 月璃は黒水晶のネックレスを差し出した。


「受け取ってください」


「月璃?」夏涼は訝るような表情になった。


「わたくしは……いつもいつもあなたにお世話になりますから、ずっと思っていました。成人式の時、これまでの感謝の気持ちを込めまして、あなたにプレゼントをあげたいです」月璃はうつむいて、ゆっくりと言った。


 夏涼はややためらって、動きがなかった。


 それは月璃にとって大事のお守りだということは、彼は知っている。どこから手に入れたのかわからないが、ある時点から、彼女はずっとそれをつけている。


「涼君……」


 月璃は顔を上げて彼を見つめる。あの目には少し湿り気がある。輝く瞳は夜空みたいにキラキラしている。


「……受け取ってください」


 夏涼はちょっと動きを止めて、うなずいて黒水晶を受け取った。


 彼が受け取った後、月璃の顔が再び赤くなった。彼女は首につける透明な宝石の指輪を軽く掴む。


「これはペアですね」月璃は軽い声で言った。


 この言葉を聞き、夏涼はにっこり笑った。


「月璃……」



 

 何かを返事しようとした最中に、夏涼はふっと上から投げられたタオルに被せられた。


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