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-傾月-〈伍〉傾月姫 3


……




「ねえ、聞いて……そしてあの犬はあのばばの頭の上に跳ね上がりました。面白いでしょう?」灼蘭は軽く跳んで、両手を打ち合わせる。


「うん」夏涼は微笑んで、うなずいた。


彼は同じ柱に寄りかかって、グラスを持ち、三人の若くて美しい少女に囲まれているが、彼の視線は知らず知らずに舞踏会の中心に誘われる。


音楽が流れて、ロビーの真ん中で多くの男性が一人の女性に囲まれて、まるで飼料を追っている魚群みたいだ。


月璃は今魚群の渦の中心にいる。彼女は手を伸ばして、打診するように一人の老紳士の伸ばした手に触って、少し怯んだ後やっとその手を掴んだ。


夏涼は遠い場所で少し苦笑して、もう3人目の誘いだが、彼女はまだ慣れない。


「ねえねえ、この物語はどうですかしら?」灼蘭は両手を後ろに置いて、体を前に曲げる。


さっきの軽い跳びから今の仕草まで、この少女はあるようでないようで自分のスタイルの良さ、女性としての魅力を強調していた。


「うん、悪くないです」しかし夏涼の視線は依然として遠くの場所にいる月璃に向いて、控えめな言葉を言った。


視線が向いたところに、月璃は老紳士とこわばったステップで踊り始めた。


二人のステップとともに、人ごみは一つの空間を開けていた。二人は回り続けて、一瞬、月璃は夏涼の視線に気づいた。


「ところで、この月財たちはまるで空中に浮かんでいる黒い泡みたいです。 あなたはそう思っていませんの?」話し合いの合間に乗じて、静は会話の主導権を握った。


「そのような考え方はありませんでした。言われてみれば、確かにな」夏涼は適当にごまかして、右手で腰に三本の指を立てる。


月璃は彼の『まだいける?』という手振りに気づいた。彼女は唇を噛み、老紳士の腕に乗せている左手の人差し指を立て、曲げる。その手振りの意味は『辛いけどまだ大丈夫』だ。


「世俗の価値観を捨てておく時こそ、月財の芸術価値を本当に理解できますように……」


静は話を続けて、度数ゼロで琥珀で作られ、単に知性の美しさを象徴するためのメガネを手で捺し上げて、腰を上げて、美感と月財の長たらしい論述を始めていた。


夏涼は無言で頷き続けて共感を示し、同時に月璃に向けた手振りを変え始めていた。親指を早い速度で十数回押した。


月璃はくすりと笑った。彼らの秘密の手振りは全て彼らの普段の話し合いを象徴する。夏涼はいつもこの手振りを使って彼女をからかう。この親指を1回で押さえる意味は『また一人を一目惚れさせた』。


彼女は軽く地団駄を踏んで、そしてすぐ自分の失態に気づいて、顔を少し赤らめ、老紳士に謝った。


転向したステップによって、月璃の視線は再び彼の視線とずれた。


夏涼はグラスを上げて、ゆっくりと飲む。


長い長い時間が過ぎ、夏涼は一気に満杯の赤ワインを飲み干すくらいの長い時間が過ぎた後、月璃はやっと彼の方向に再び向いた。


正しく言えば、7秒過ぎた。


「夏涼閣下はお酒に強いですわね!」翠は言った。


「そうですか」夏涼は最低限度の返事を続け、グラスを下ろす動きを利用し、胸の前に拳を握り締める。


彼の手振りをぼんやり見て、月璃は急に足を止めて、手を戻した。


夏涼は少し眉をひそめる。踊りの最中に、彼女は何をしている?


月璃は優しい笑顔を示して、老紳士の方向に、同時に夏涼の方向に、ゆっくりとドレスの裾を持ち上げた。


両足を交差させて、彼女は優雅にうなずいてお辞儀をした。


「月財にはどんな機能があって、どんな価値があるのを気にせず、それこそが、月財の美しさをちゃんと認識できる唯一の道です」静はまだ論述している。


月璃の動きを見て、夏涼は笑った。心から笑った。


この動作は彼らが約束した暗号ではないが、これは社交ダンスのお辞儀くらい当然に夏涼も知っている。


彼は少し自慢し、そして少し寂しさを感じている。今この時、彼はようやく月璃が成年になったことを実感した。


月璃の記憶喪失をきっかけに、この5年間で彼らは恋人同士になっていた。これから、彼らは依然として恋人同士かもしれないが、色々なことが変わろうとしている。


しかし同時に、色々なことは永遠に変わらないんだろう。例え記憶を失っても、例え性格が変わっても、どんなに違っても、いずれは、少女は彼に頼る必要がなくなる。


長くて長くて、それはすごく長い舞だ。しかし今、終わりが近づいた。


踊り終わった後、少女は彼女をリードした男性に感謝を捧げる。


それは、最も真摯な感謝だ。


月璃のお辞儀を受けて、老紳士は敬礼を返して去った。次の男性はすぐ近づいてくる。踊りを再び始めた。


夏涼は依然あっちにたち止まっている。

舞台が終わって観衆が去り、ただ彷徨う魂だけがまだ次の曲を待っている。


彼にとって、この世界が突然に遠く離れてしまう。隣の少女の美学の理論と周りの全ての音は彼と隔絶してゆく、彼は一人で彼の姫さまを見つめている。


「なにそれ未亡人みたいな鬱陶しい顔」もしあのもう存在しない月璃は今の彼を見たら、おそらく彼の肩をたたいてそういうかも。


実際に彼自分もわからず、自分はどうして鬱陶しい気持ちを持っているのか。もともと知っているはずだ。踊りがどんなに楽しくても、呼吸がどんなに合っても、舞曲はいつかは終わる。最終、少女は彼女をリードした手を離して、次のパートナーの手を握って舞い始める。


彼女はいつも彼一人の姫さまだった。しかし今後はそうではない。


夏涼は月璃はすぐに彼を離れることはないことを知っている。例え月璃が成年しても、彼は変わりなく彼女の護衛、彼女は変わりなく彼の姫さまだ。もし別れると言われなかったら、二人は依然として恋人だ。


しかし夏涼は予感がある。いつか、少女は再び彼の前にドレスの裾を持ち上げて、凛凛しい微笑みしながら彼に踊りが終わった後のお辞儀をして、身を翻して、自分の道を歩いていく。


あの日は、もう遠くないんだろう。


「自分を忘れ、月財を忘れ、無我の境地にたどり付いた上……」


「黙りなさい!静、彼はあなたの話を全く聞いてないってことすら気づかなかったかしら?」


もう一人の少女の怒号が、夏凉を思いから連れ戻した。


気がつくと、しばらく沈黙していた灼蘭は満身の怒りを持ち、顔には『もううんざりだ!』の文字がある。


「灼蘭さん……」3人組の中で最も臆病の翠は灼蘭の袖を引っ張る。


「夏涼閣下、静と翠だけではありません、あなたはさっきからわたくしの言葉を聞いていませんでしょう」灼蘭は扇子で彼女を引っ張っている翠の手を叩いて払って、怒りの目つきで夏涼を睨んでいる。


夏涼は3秒で止まって、首を振って後始末を始める。


「そうではありません、静さんの言葉が私の気持ちとあまりにも一致していますので、さっき私は世俗的な観点を外して浮かんでいる技の月財を観賞してみました。静さんがおっしゃった通り、功利性と実用的な観点を外してこそ、月財の本当の美しさを理解できます」


「まさか閣下は私のさっきの理論で技の月財を鑑賞しましたの?」静は彼を嬉しそうに見て、強く頷いた。


「いかにも、私はあの美しさに感動して、うっとりしました。誠に失礼致しました」夏涼は優しい口調でいった。


「夏涼閣下……」相手は自分が言った言葉に感動していることを思わず、静も少し感動した。


「フン、美しさに感心したのは本当ですが、おそらく技の月財のためではありませんでしょう」灼蘭は口を歪めて、怒りを収めない。


「灼蘭さん、もういいですよ……」翠は再び彼女の袖を引っ張り、小さい声でいった。


「手を離しなさい!このわたくしが何を話すつもり、いつからあなたの許可が必要になったかしら?成人式はすでに終わりました。今は社交舞踏会の時間です。舞踏会は誰のものでもありません。しかし誰も彼も目があの子に追いかけてます。夏涼閣下、あなたもよ。あなたは彼女の護衛ではありませんか?毎日毎日ずっと見てきたはずなのに、まだ飽き足らないかしら?」灼蘭は扇子で遠く離れた場所で人混みに囲まれた月璃を指しながら、とても速い口調で怒鳴った。


「……」夏涼は沈黙していた。


「そんなに見たいなら、まず瑞雪子爵を探すのはどう?なんでも彼はいつも遠く場所がしっかり見える、『望遠鏡』という技の月財を持ち、誰にも見せびらかすそうです。借りに行ったらどうですか?」灼蘭は皮肉を言った。


「……」


夏涼は正面であの怒りに満ちた目つきを受け止め、沈黙して、そしてはっと悟ったような顔をした。


「ありがたい情報、今すぐ子爵を探しにいきます」


失礼しますという言葉を残し、彼は身を翻して、呆けたような少女たちから離れていく。


バツー扇子を床に叩きつけ、重なる声が夏涼の後ろからした。


「ふざけるな!何が舞踏会だ!」少女は怒鳴った。


夏涼は足を止めず、彼は何も聞こえなかった。




……


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