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-傾月-〈肆〉鞘を払う 3


 月璃はヤマネコの死体を見て、まだ息が荒れている。




 ドン、ドン、ドン、ドン、ドン……




 心臓の鼓動が太鼓の音になって鼓膜を叩き続け、あまりにも速く、痛くて、だから彼女は目を閉じて、深呼吸をした。




 ドン、ドン、ドン、ドン、ドン……




 目を開けても、心臓の鼓動はまだ減速する傾向がみられない。相変わらず胸は張り裂けそうなくらい苦しい。


 やむなく月璃は再び目を閉じて、全ての流れを思い返す。


 例外なし、全ては彼女の計画通りだ。


 あの親衛隊のリストの字は汚いけど、上にはっきり書いてある。ヤマネコ、この称号の由来は彼が常人より優れている視力と得意な五色は赤の「折光」だ。


 このもし麻痺が成功しない場合、相手を殺す予備計画にいくつかの前提がある。


 一、ヤマネコは彼女、上司の娘を殺すわけはない。


 二、ヤマネコは彼女に武装解除されて、唯一の武器を失っている。


 三、声を奪われたヤマネコは助けを呼ぶことができない、そして自負を持つ、だから逃げもしない。


 四、ヤマネコは【折光】を使う。


 上記の条件をまとめるならば、ヤマネコは彼女を殺すわけはなく、唯一の武器を失って、助けを呼ぶことも、逃げることもしない。なら、彼女が鞘に収める刀を持ち、突き進む時、ヤマネコは必ず彼女の武器奪いの選択をする。


 正常な状況になれば、ヤマネコが【折光】を使う限り、月璃がまな板の鯉になるしかない。だからヤマネコは必ず【折光】を使う。


【折光】を使った上に、ヤマネコは武器がなく、彼女に重い傷を負わせることもできない状況で、狙った目標は必ず彼女が持っていて殺傷力がなくて反射しやすい金の鞘に収める刀だ。


 そしてもし彼女はこんな条件を作らないと、ヤマネコが自発的に現して彼女の武器を引っ掴むことをさせないと、【折光】の中で彼女は何もできない。


 この誘導の芝居に、全てのものは緊密に関連し合っていた。必要な流れ、そして必然な結末だ。


 彼女がヤマネコに勝てたことは奇跡ではない。


「奇跡じゃない、ただの計画、ただの計画だ……」


 月璃は目を開けて、下を向いてヤマネコの死体をみて、そっと囁いた。


「計画二、もしは麻痺が成功しなかったら、相手の武装解除をして、殺す……」


 刀を握りしめる右手はコントロールを失って、震えが止まらない。


「あたしはできる、あたしはできる、あたしはできる……」月璃は囁き続けて、左手で震えている右手を握りしめて、自分を納得させるように、そしてコントロールできない体を説得するようにする。


 月璃はがたがたと小刻みに震えている歯を噛んで、口元を強引に引き歪めて上へ曲がる。過去彼女が悪ふざけをした時、それとも悪魔と叱られた時、あんな余裕がある態度をしたい。


 今の表情がすごく歪んでいることを自分も知っている。しかし彼女は心理学に関しての『智の月財』を見ていた。自己暗示は感情の起伏が激しい時にすごく強い効果がある。


「たかが人を殺すだけ……」声の震えを止めたいけど、うまくいかない。「大したことじゃない……」


 カン、月璃はついにあの刀の重さに耐えられなくなって、地面に落とした。


 そして彼女は横の草むらに走って、しゃがんだ。


「オェ……」


 彼女は胃の中にあるものを全て吐き出した。


 焼き鴨、白身魚の揚げ、1杯の牛乳……晩ご飯の時に緊張していて食欲がなかったけど、体力をつけるために無理矢理に目の前の食べ物を全て口に突っ込んだ。


 食べすぎたかも……彼女今そう思った。


 食べ物を無駄遣いの疑いがあるかもと考えたら、一つの瓶を探して、吐き出したものを集めて、みんなが一緒にご飯を食べる時に持ち出してスープにかき混ぜるべきだ。


 吐いた後、彼女は疲れた体を支えて立って、口を拭く。口の中に胃酸と血液の味がして、少し辛くなる。


 振り返ってみると、ヤマネコの死体の周りの半径3メートル、先にヤマネコが【折光】を使った空間は淡赤色の半球体に覆われていた。半球の中の全てのものは薄い赤に染められていた。もともと赤色の血を除いて、ヤマネコの死体、服を含めて、全ては鮮やかさを失っていた。まるで世界の一部は強引に赤色で調整されていた。


『残光』ー五色を使った後、空間に丸一日で残された色彩だ。


 あの半透明のいくつかの色は空中で凝り固まり、動けなくなって物理的に干渉されない。肉眼では見えるが実際に存在せず、灯火が消える時に人の眼に残した光の影みたいなものだ。カラリストの体重が戻りつつあると同時に、あの色たちは徐々に薄くなり、再び重力になってカラリストの体内に戻る。


 月璃は再び半球の中に入って、ヤマネコの死体の隣にあった、『殘光』のせいで赤さび染めみたいになった小刀を拾った。地に横たわるヤマネコは彼女をまっすぐに睨みつけ、死んだ後も笑っている。人を殺すことだけでそんなふうに嘔吐した。日常の影に隠されて、殘酷、そして専門的な世界に踏み入りたいと妄想するなって、彼はまるでそう笑っている。


 君の決意はこんなものにすぎないのか?彼女はヤマネコにそうせせら笑われているような気がする。


「何がおかしい?ダイエット中だ」月璃は睨み返して冷笑した。


 たとえ死人に対しても弱みを見せたくない。捨てゼリフを残して、彼女は倒したオオカミに向かって進んだ。まだ息があることを確認した後、彼女はやっとホッとした。ずっと協力してくれなかった心臓がやっと緩めていく。


 そして彼女はオオカミの隣の草むらに行って、事前に放置した小さな狩猟用弩弓を持ち上げた。


 弩弓は極細の線と結び付ける。あれは木の上にある赤い花に繋げるからくりだった。誰かが紅い花を抜いたら、矢を自動的に射る。


 月璃は小刀で線を切って弩弓を持ち去って、最初から横に置いた赤ちゃん翼竜のぬいぐるみの場所に行って、隣に弩弓を下ろして、今度はぬいぐるみを持ち上げて、小刀の切っ先をぬいぐるみに向ける。


 しかしさっきからのなめらかな動きと違う、切っ先は空で微かに震えている。


 このぬいぐるみは月璃が誕生日の次の日に倉庫で見つけたものだ。


 月璃はこんなぬいぐるみを受け取るイメージがない。しかし彼女の好みを理解する上で、彼女がぬいぐるみを抱いて寝る習慣があることを知っている人は、夏涼だけだ。夏涼は多分ワンじゃんのことで、月璃にはトラウマがあることを恐れて、事前に準備したぬいぐるみを送ることができなかった。


 あの時月璃はふと気付いた。夏涼は表向きに賢いものの、裏の一部は日琉と同じように拙いかもしれない。もしかすると、自分は彼に厳しすぎる。


 しかし、それでも月璃はまだ夏涼に感謝と謝りをしていない。彼女は夏涼とまだ冷戦状態が続いている。


「ごめんなさい……」月璃はそっと囁いた。夏涼に言おうか?それともぬいぐるみに言おうか?彼女自身もわからない。


 刀を刺して、赤ちゃん翼竜のぬいぐるみの腹を切り開いて中の棉を曝した。


 月璃は小刀を袖の裏ポケートに収めて、ぬいぐるみの腹から事前に縫い入れてあったものたちを取り出した。




 前端は切れ刃、後端は握りで、外見を見ても用法が話からない、稲妻形の木器。


 一本の矢、上に薄い緑の光が霞んで見える。


 巻き尺。




 弩弓と一緒に、月璃はこれらのものを持ち連れて、足音を忍ばせて公爵の寝室の前にきてしまった。


 道具を下ろし、彼女はまず巻き尺を使って、木製ドアの左下から測り始める。


「43……17……」小刀で目標点にばつをつけた。


 そして彼女は稲妻形の木器の前端の切れ刃をばつをつけた個所に差し入れて、ゆっくりと後端の握りを回し、動作を停止した後、彼女は慎重に円形に切れた部分を取ると、弱い光が小さな穴から漏れた。


 目を細めて中を見る。中は非常に暗く、弱い灯火が微かに揺れていた。人がベッドに横たわっていて、布団は彼の呼吸に伴ってゆるやかに起伏している。この角度から見ると、布団からはみ出した金髪をしか見えない。


 月璃は弩弓を構えて、毒矢をセットし、ドアの穴に矢の先を差し込んだ。


 深呼吸して、引き金に震える指をかけて、躊躇っている。




 歯を噛み、引く。


 ピュー。


 毒矢は布団に吸い込まれるように中に入り、血がゆっくりと中から滲み出してきた。


 命中を確認した後、彼女は弩弓を下ろして、息を吐いて、全身の力が抜けたようにくたくたになった。




 パチ、パチ、パチ、パチ……




 拍手の音がふっと彼女の後ろから響く。


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