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鏡理世界・裏  作者: 白絹 纏
プロローグ - 青色の姉妹
4/6

青色の姉妹  三

月夜「月夜ちゃんにおまかせー!」

地竜「」っブレス

月夜「あっちょっ、それはダメ、マジでちょっと待っ、ひゃんっ。だ、ダメだってば。やぁんっ、んぅっ…! おいこらやめろってひゃあぅん! ら、らめぇ……。私もうらめなのぉ……」

輝夜「しばくよ月夜姉さん」

月夜「」


……月夜ちゃんが地竜のブレスでダメにされました。

「―――――と言う夢を見たんだ。とてもリアルで、まるで本当に自分が地竜と相対しているような臨場感だったのをよく覚えているんだけど」


「さっきまで戦ってたからね、当たり前だね」


「そんな! 嘘だ! だって私は地竜のブレスに焼かれて跡形もなく消えたはずだよ!? なのになんで今生きていて、こんなに元気なんd」


「うるさい」



 輝夜は月夜の鳩尾に回し蹴りの要領で踵を叩き込んだ。

 そのあまりの威力に、月夜は軽く数十メートルは吹き飛んで、肋骨は砕け、内臓はかき乱され、正に心身共に満身創痍の状態となってしまったのだが、その不屈の精神で―――――」


「姉さん。真面目にやろうか。いつから姉さんは地の文に干渉できるようになったのかな?」


「はい。すいませんでした。実はこの小説の地の文のほとんどは作者ではなく私が手掛けているのでタイトルや前書きや後書き以外は全て私の領域となっているわけd」


「ネタに走らないで真面目にやって」


「すいませんでした。さっきの地の文は私が実際に口頭で喋っていただけです、はい。実はそこまでダメージは無く、ゲホッ痛いなー程度だったという」


「よろしい。では地竜に突撃してくるのです」


「それ酷くない!? 姉をもっと大事にしようよ! 姉っていうのはね、世界全土を探しても一人しかいない希少な存在だから―――――」



 そんな馬鹿な会話を平然と続ける月夜と輝夜。

 それを見ている地竜は、信じられないものを見るような目を向けていた。


 確かに先程のブレスで消し去った筈なのに、と。

 そのはずなのに、何事もなかったかのように―――いや、実際に何もなかったのだろう―――妹の輝夜と会話を続けているのだ。


 その事実に、地竜は警戒するのではなく、まず初めに恐怖した。

 訳が分からない。

 その一言に尽きるだろう。


 得意のブレスが通じないのだ。


 否、ブレスが通じない相手ならば今までに何度か相対したことがあった。

 その時は牙や爪などで潜り抜けたのだが、今回は違う。


 自らが持つ攻撃手段のうち最速を誇るブレス。

 それを余裕で搔い潜ってくるどころか、直撃しても何故か無傷。

 おまけに他の攻撃では当てることさえ困難なのだ。


 勝てる気がしないとはこういうことを言うのだろうか。


 今すぐこの場から離れたい衝動に駆られるが、軽口を交わし合っているように見えて、その実は一時も目を離していないのだ。


 今振り向いたら確実に殺される。

 かといってこのままでいても、向こうはいつでも攻撃が出来てしまうから結局は殺される。


 ならばどうすれば良い?


 無謀だが、立ち向かうことしかないのではないか。


 そこまで思考した地竜は、一声吠えると更に濃くなった黒色のオーラを纏う。

 瞬間、二人から今までのものが児戯に見えてしまうほどの殺気が放たれる。



「第二ラウンド」


「開始と行きましょーか」



 ―――二回戦目だ。



 今度は二人が先手を打った。

 輝夜がまず先に飛び出す。


 自分の背中に衝撃波を叩き込み、ものすごい速度で接近してくる。

 それを地竜は地面から土やら石やら岩やらを一緒くたにしたような槍を生み出すことによって妨害する。

 剣山のように生み出される大地の槍。

 一本一本が輝夜の胴体ほどもあるそれを、輝夜は独特の体捌きで回避していく。



「…ふふ、私と(殺し合)ってくれるの? 嬉しいな、嬉しいね」



 まるでダンスを踊っているかのように。

 くるくる、くるくると。

 ここは戦場で、見ている人がいれば質の悪いコーヒーカップのように高速で回転を続けているだけにしか見えない。

 しかし波のように迫ってくる槍の群れが、輝夜を避けているとしか思えない光景は、どこかパーティー会場でダンスを踊っている少女のように映って見えた。



「私の趣味はダンスでね? こういう飽和攻撃を避けるのは得意なんだよ?」



 何も知らない人間がそれを見るならば、単純に美しいとしか言い表せない光景。

 だが、そのダンスが地面から際限なく生えてくる槍を回避するためであるならば、相対する相手には質の悪い冗談にしか思えなかった。


 相対している相手である地竜は必死に槍を生み出していくが、輝夜は止まらない。

 瞬間移動にしか見えない速度で槍を回避していく。

 しかも、そんな速度で回避しながら、実はしっかりとステップを踏んでいるのだから笑えない。



「ふふふ、女性からのダンス(殺し合い)の申し出は断っちゃいけないって教わらなかった? 逃げるの(戦略的撤退)はマナー違反、だよ?」



 輝夜はそんなことを地竜に向かって話す。

 ルビがおかしいダンスの申し出だが、地竜はその意味を理解できているのだろうか。


 未だ無傷のまま、自らが生み出し続けている槍を避け続けている輝夜に対して、地竜は全力のブレスを放つ。

 槍を生み出し始めてから、周囲のエネルギーをかき集めて圧縮し続けた、黒色の波動。

 先程まではレーザーのような形状だったのが、全力では竜巻を横に倒した形状となり、発射地点から徐々に範囲が広くなっていく。

 横に倒した円錐状の竜巻と言った方が正しいだろうか。


 地竜の前方九十度の範囲を消し飛ばすブレスが輝夜を飲み込む。

 輝夜は回避できないことで諦めてしまったのか、ブレスが放たれた時からその場に立ち尽くしていた。


 死の竜巻が輝夜に迫り、接触して消滅する。



「―――――とか思ってた?」



 左側からの衝撃を感じたと思った次の瞬間、そんな言葉とともに地竜の身体は大きく吹き飛ばされていた。

 慌てて周囲を見回すと、一瞬前まで自分がいた場所に、左脚を振り抜いた体勢の輝夜が立っていた。

 回避されることを前提に放ったブレスだったが、案の定回避されたようだ。


 いや、回避されていた(・・・・・・・)ようだ。


 ブレスが通り抜けた跡地。

 そこから同じく無傷の(・・・・・・)輝夜がもう一人(・・・・・・・)現れたのだ。



「「私」に対する戦闘「方法として」は間違ってな「かったけど、」相手が悪「すぎた。君」は私が蹴り落「とした時」に逃げ「出すべ」き「だった」んだよ。「状」況「判断」は「的」確に、「ね?」」



 二人になった輝夜が地竜を睥睨しながら口を開く。

 耳と目がおかしくなってしまったのだろうか。

 輝夜と言う人間は一人しかいないはずなのに、声がステレオで響いてくる。


 後から来た二人目の姿。

 それに時折ノイズが走る。

 ノイズが走るたびに二人目の声が聞こえなくなり、二人目の輝夜から色が失われる。


 そして、輝夜が話し終わるときには白黒になり、ひときわ激しいノイズを纏うと、「ブツッ」という音が聞こえそうなほど唐突に、呆気なく消失した。



「さっきの私がどういうものか、気になる?」



 呆気にとられる地竜にそんなことを尋ねる輝夜。

 地竜に限らず、竜と言う種族には人の言語を聞き取ることが出来るが、発音することは出来ず、意味の理解が出来る単語はそう多くないということを知った上で話しかけているのだろうか。



「ふふ、残念でした。女性のお誘いを断ったあなたは、自分は女性からの誘いを断ってしまえるほどにマナーを知らないクズだということを思い知ってから出直して来て下さいクズ」



 ただ普通に罵っていただけだった。


 無論、先に説明した通り、地竜にはそのほとんどが理解できない単語ばかりだ。

 その結果、クズという単語をピンポイントで拾い、自分が馬鹿にされていると知って激高する。


 そして、少し前まで恐怖していたことを忘れてしまったかのように、地竜はブレスやら爪やらを叩き込んでいく。

 だが激高した状態でまともに攻撃を当てられるはずもなく、そのほとんどは輝夜周辺の地面を削り取るだけとなってしまう。


 ただ、流石地竜と言ったところだろうか。

 レーザー型のブレスが輝夜を貫き(・・)、鋭い爪や牙、それに尾が切り裂き(・・・・)、地面が変形した槍が串刺しに(・・・・)していた。

 そんな攻撃の雨の中、顔は笑っているが目は笑っていない笑みを貼り付けながら、輝夜は地竜に歩み寄っていく。


 地竜は気が付いているのか、いないのか。

 無我夢中で、まるで何かに取り憑かれたように攻撃を繰り返す。

 輝夜はそれを冷たい目で見据え、



「そろそろ交代する?」



 虚空に向かって呼びかける。

 その言葉に反応した地竜が首を巡らせる。

 しかし視界内に人影が一切見(・・・・・・)えなかった(・・・・・)ため、不思議に思いながら輝夜に向かって右前脚を振り下ろす。


 技術も何もないただの振り下ろし。

 だがそれは人間にとって致命となる一撃だ。

 空気を切り裂き輝夜に迫り、その姿を地響きと共に押し潰す。


 アスファルトに似た性質の素材で作られている道路の破片が飛び散った。

 地面には放射状にヒビが走り、抉られた道路は地竜の前脚の形に凹んだ。


 更に、念には念を入れて、地竜はブレスと似たような性質を持つ黒色の波動を前脚の下に叩き込んだ。

 何故か少し前から、攻撃を叩き込んで(・・・・・・・・)も効果がなか(・・・・・・)ったからだ(・・・・・)


 地竜の前脚の下からくぐもった爆発音が響く。


 地竜は前脚をゆっくりと持ち上げる。

 その下に輝夜の姿は無かった。


 流石に大質量の攻撃とブレスを組み合わせたものには耐えられなかったようだ。


 強敵を倒したことで一息をつく地竜。



「交代したいねぇ。という訳で、はいドーン!!」



 その右頬にどこからともなく現れた月夜の左拳が突き刺さった。

 ビシビシッ、バキバキバキバキ!と、生物が出してはいけない音を出しながら、鱗が飛び散り、顔面の肉が抉れ、頭蓋骨や牙が砕けていく。


 今回は衝撃が全て地竜に与えられたせいで、巨体が吹き飛ばない。

 その代わり、頭蓋骨の右側と牙が犠牲になった。

 地竜の半開きの口から、砕けてしまった牙の残骸が零れ落ちる。


 また、思った以上に衝撃が大きかったようで。



「―――――」



 地竜はあっさりと気絶してしまった。

 それを見て、月夜はあからさまにがっかりした表情を見せる。



「……ええー、何それー……。もっと、こう、ね? あるじゃん。頑張ろうよ」



 どうやら地竜の耐久力がお気に召さなかったようだ。

 月夜としてはもっと耐えて欲しかったらしい。



「……姉さん。バトルジャンキー極まれりなその思考。どうかと思うな」



 そこへノイズ交じりの一つの声が降ってくる。



「輝夜ちゃん」



 輝夜だ。

 地竜の猛攻をどうやって回避したのかは分からないが、無事だったようだ。



「敵を散々おちょくっておいてその言い草。流石私の妹! 素晴らしい姉使いだね!」


「言っている意味が分からないよ。何をもって流石なのか。姉使いとは一体」



 月夜が声の聞こえてきた方向へと顔を上げる。


 地竜の首筋。

 そこに人一人分くらいの大きさをしたノイズが走る。


 ノイズは徐々に人のような形をとっていき、薄れていく。

 その中から白黒の輝夜の姿が、ジジッという音とノイズを纏って現れる。

 それから数秒ほど経つと輝夜に色が戻っていき、元の色が戻るとともにノイズが無くなった。


 地竜の首に横座りした輝夜に対し、月夜は非難げな視線を向ける。



「というか、バトルジャンキーは輝夜ちゃんもでしょうに」


「……なにをいっているのかわからない」


「や、笑ってたじゃん。『踊ろうよ』とかなんとか言ってたじゃない」



 月夜からの戦闘狂疑惑に対してあからさまに目を逸らす輝夜。

 そこに月夜の追撃。



「む……。でも姉さんみたいに、出会ったものを片っ端から殴っていく性格じゃないから。安全な戦闘狂になるのかな?」



 輝夜は開き直ってしまった。

 ただこのやり取りも、彼女たちは何十回もやっているので今更感が酷い。

 姉妹での会話を楽しむためのスパイスと言ったところだろうか。



「安全な戦闘狂ってなんですか……? 安全でも戦闘狂じゃん。結果同じだよ」


「む、それは心外。いきなり殴ってくる危険生物と、お話で解決できる準危険生物の違いが分からない?」


「それは暗に私のことを暴力女だと言いたいのかねこの愛想無し」


「……今姉さんは言ってはいけないことを言った。みんなからはそれなりの人気がある私に勝てない当てつけだと判断する。判決、有罪(ギルティ)


「痛い痛い! 頭ぐりぐりしないでー! ひにゃあああああ!」



 無表情で月夜の頭をぐりぐりし始める輝夜。

 思わず月夜の目から汗が流れ出してきた。

 余裕そうな月夜を見て、輝夜の拳の威力が上昇する。



 閑散とした【キルクール央都】に月夜の情けない悲鳴が響き渡った。




―――――




「ふむ? おかしいな」


「どうしたの?」


「【道標】に反応が出たままになっている」


「……へぇ。面白いじゃん。見させておくれよ」


「分かった。……ほれ、これだ」


「……ほーん。これは確かにおかしいね」


「そうだろう? とすると、だ」


「まだ倒されていない、てことになるねえ」


「今までこのようなことは無かったのだがな。原因としては『妹たちがしくじった』『相手は群体型である』『【道標】を欺いている』ぐらいだろうか」


「うわーお。一はともかく、二と三は考えたくもないね。特に三。致命的じゃん」


「だが一も相当だからな? あの二人相手で仕留めきれんとなると……」


「そう考えるとかなりやばいね。こと戦闘に関してはあの二人を超える人はー……」


「……意外と多いぞ?」


「……あれ?」


「……と、そんなことを話している場合ではない。一と二の対応として、道久と光太郎の二人を派遣する。妹たちはその場で待機させて、合流次第周辺の探索を行わせる。私は三の対応として、超広域走査を行おう。そのついでに、久し振りに下に降りようと思う。貴様は衛星を使い潰すつもりで現地周辺の観測をしろ。以上だ」


「おうおう、君が下に降りるなんて、思わぬ巡り会わせもあったもんだねー。まあそれはそれとして、りょーかいしましたー、っと。三日で仕上げるよ。しばらく籠もるつもりだから、部屋に誰も来ないようにしておいておくれ。あ、あとご飯は自分で何とかするから」


「了解だ。……終わったら付いて来る気だな?」


「当たり前じゃないか。そんな面白そうなこと見逃すわけにはいかないからね」


「ははは、流石だな研究者。褒美に雑用を任せよう」


「あはは、そんな面倒なことするわけないじゃないか」




―――――




From:――――


「……ここは、どこだ? ……俺は一体……。……あ、あれ? おかしいな。俺の名前は――――で、日本在住の高校生。いつものように家を出て、高校への道を歩いていて―――道を歩いていて、どうしたんだ? 途中にこんな草原なんてあるわけないじゃないか……。……あれ? ……何高校に通っていたんだ、俺は。俺の家の住所は……。そ、そうだ! 隣に幼馴染が住んでいたじゃないか! よかった……。……あれ? あいつの名前、何だっけ。おかしいな。思い出せない……。……あれ? 俺、俺の名前……。……何で、自分の名前を思い出せないんだ? …………は、はは。ははは。ははははは。………おかしい、おかしいじゃないか。どういうことだよ。……俺は、俺は一体、誰なんだ(・・・・)?」

道久 「光太郎よォ、まーたあの二人が何かやってるみてぇだからよ。ちょいと一肌脱いでくれや」

光太郎「い、嫌ッスよそんなの。道久さんの方が長い付き合いなんだから自分でどうにかして欲しいッス」

道久 「……なーんかコバエが俺の周りを飛んでるみてぇだなァ。どうれ消し飛ばすかァ」

光太郎「ヒィ! どうにかするんで消し飛ばすのだけは勘弁して欲しいッスよ!!」


光太郎くん、ふぁいとー。

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