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異世界で嫁に行き遅れました  作者: 白川れもん
本編
12/21

数年ぶりの街へ

 結局、これに落ち着いたわね。

 リンが街へ行く服を、捻りに捻って思い出したが、たぶん、こんな感じだった。

 リンは真っ赤な服だった気がするが、私にそんな勇気は無い。なので、紺色とか、落ち着いた感じのワンピースドレスを。


 姿鏡など、何年ぶりかしら。

 自分がいる。ワンピースドレスを着ている、自分が。


 ま、まあ、こんな感じよね、たぶん。イサックに聞くにしても、どれでもお似合いです! とか言いそうな気しかしない。私の外見もわかってないみたいだし……私が言うのもあれだけど、少しズレているもの。



 くるり、と回っている。が、大丈夫な、気がしてきた。よくいる。よくいるよ、こういう人。

 それに、私を注目する人なんて、いるわけないし。私の存在など、この国から消えたに等しい。

 本当は顔も覆いたいが……大きめの麦わら帽子で隠すことにする。うん、いるよ、こういう人。

 外は気温も高いし、良いわ。




 朝もイサックは姿を現さないが、忙しいのにデートなどしている時間あるのかしら?

 お陰で、私は時計を見ることが、習慣になりつつある。



「あら、お姉様、その服、どうしたのかしら? いつものお部屋スタイルは、どこへ?」


「その、今日は、出掛けるの……ま、街へ」


 き、緊張してきた。街に行く、ただそれだけなのに。


 私の言葉に、リンやお母様、お父様までもが、眼を見開く。


「お姉様、街へ行くの? あの、お姉様が? ど、どういう、風の吹き回しかしら!」


「本当に、どうして、こうなったのかしらね。雨でも、降らないかしら」



 遠くを見つめる。

 せめて、せめて傘があれば、少しでも顔や服が隠れるのに……街が怖い。人が怖い。泣きたい。


「デートなのね! それなら、もっと自信持った方が良いわ。それに、イサックの隣を歩くのに、ジメジメしていたらみっともないもの」


「そ、そうよね」


 気を付けないと。そして、リンはどこか楽しそうで、私も勇気が出てくる。


 朝食終わり。少しドキドキしながら、部屋でイサックを待っている。

 楽しみ、楽しみだけど、人が。

 そんな期待と不安を胸に、街へ繰り出すことになった。



「あら? あのお方、誰かしら?」

「イサック様と一緒にいるわ」

「馬鹿、あれは、シャンリ様だろう!」

「シャンリ様? あれが?」

「始めて見たぞ! おい、見てみろ!」



 うっ、視線が痛い。苦しい。


 街に出た瞬間、この感じ。意外と顔の広いイサックを見るなり、噂になる街の人たち。

「ついてきてください」なんて言われて、ただ歩いているだけだ。

 どこへ行く気なのだろうか?


「あの、シャンリ様。デートというのは、男がリードすると、聞きました。なので、場所は俺に任せてください」


「そ、そうなの?」


「はい、俺、デートなどしたことありませんが、色々調べたので、安心して下さい!」


 胸を張っているが、本当に大丈夫だろうか? でも、したことないとは! 驚いた。イサックは絶対に、リア充だと、思っていた。

 そんなことを考えていると、視線を感じ、イサックを見る。

 じっ、とこちらを、見ている。どうして見られているのか、分からない。視線を外す気はないらしく、落ち着かない。

 ただでさえ、街の人に奇妙な眼を向けられているのだ。イサックにまで見られると、全員が敵に見えてしまう。


「な、何かしら? どこか、おかしい?」


「いえ、雰囲気が、いつもと違って見えます。どんな服でも、とてもお似合いです」


「う、あ、ありがとう」


 面と向かって、それも笑顔で言われてしまった。

 裏が無いのが分かるから、余計に照れる。恥ずかしい! それも、こんな街中で!


 街を意識したからか、声がひそひそと聞こえる。


「おい、シャンリ様の左手を見ろ」

「あら! 遂に結婚するのかしら?」

「婚約されたらしいわよ! イサック様と!」

「え! イサック様? 良いわねー、イサック様みたいな素敵な方を、側に置けるのねえ」

「王族って良いよなー、好き放題に出来るんだから」

「たとえシャンリ様みたいに、破談を何度も告げられたって、従者がいるもんな」



 うっ、聞こえているぞ、皆! 私の耳まで届いているわ! やめて……心に刺さる。辛い、痛い、帰りたい。

 そうか、そうだよね、私が無理矢理イサックに婚約を誓わせたと、思われるよね。そうだよね、私だもんね。どうして予想しなかったのかしら。


 権力はある、私だもんね。苦しい。

 帰りたいな、街なんて、来なきゃ良かった。部屋に籠っていれば、こんな思いしなくて済んだのに。


 一緒に歩いていて、イサックは大丈夫なのだろうか?

 私のせいで、イサックまで変な眼で見られてしまう。そう思ってイサックを横目で見る。

 街のヒソヒソ話が耳に入っていないのか、そんなこと気にしないのか、真っ直ぐ前だけ見て、堂々と歩いている。


 頼もしいっちゃ、頼もしいわね。



「おい、イサック様もお揃いの指輪をつけてるぞ」

「そういえば私、イサック様が宝石店で悩んでいる姿を、眼にしたことがあるわ!」

「あの指輪、特注らしいぞ!」

「ええっ! じゃあ、二人は愛し合っているのかしら?」


 あ、あれ、何だかおかしな方向に……?


 というか、この指輪特注なの? それに、イサックも指輪を? こっそりと見れば、イサックの左手にも、私と同じ指輪が輝いている。

 全く気づかなかった! は、恥ずかしい! これじゃあ、結婚前の思い出に、街を見に来ました感、丸出し! 馬鹿じゃない! ただのバカップルじゃない!


「そう言われれば、今日のイサック様は、機嫌が良いな」

「いつも仕事でしか街へ来ないものね。よっぽど好きなんだわ!」

「見て、イサック様の服! いつもより気合い入れているわ」

「仲が良いなあ」

「素敵ぃ! 憧れるわ!」


 あ、あれ、本当に、どうなっているの?

 そしてイサックは、いつもより服変えていたのかしら、全く気づかない私。いつも会っているのに。そういう気づき? 足りないわよね、私。

 駄目駄目ね、私。イサックは本当に良いのかしら? こんな、私で。



 イサックも「いつもと違うとか」「私にぞっこん」とか? あること無いこと言われているけど……。


「イサック、その、大丈夫かしら? 私は、あの、気にしていないけれど」


 嘘だ。だが、そういう風に言わないと、イサックだって気にする。

 街の人たちの話しとはいえ、言いたい放題だと。しかも、聞こえるのよね……そこが駄目。耳に入るくらいの声量で話しちゃ駄目よ。気にするし気になるわ。



「? はい。もうすぐ着きます」


「あ、いや、そうじゃなくて──」


「楽しみにしていて下さい!」


 胸を張る。イサックって、あれよね、たまに話聞かないわね。話も噛み合ってないみたい。

 こういうところ、あるわ。何を聞いて歩いているのかしら。いや、聞いていないのね。



「ここです! さあ、どうぞどうぞ!」


 目的地に着いたらしいイサックが、眼を輝かせて私に、入れ入れと言わんばかりに、扉を開けた。

 鈴が頭上でチリン、と軽快な音を出す。


「わぁ!」


 喜びで、思わず声に出してしまった。

 小さいお店ながら、室内はとても上品で、アンティーク調の、家具から小さくて可愛い雑貨まで。

 なんて可愛いお店なの? 素敵!


「シャンリ様は、こういった店がお好きでしょう? これから別邸で生活する訳ですから、家具なども、購入した方が良いかと。あ……これは、もしかして、デートと違いますか?」


 ドヤ顔をしていたのに、一転。不安そうな表情で、こちらを伺っている。


「さあ? 私もデートなんてしたこと無いから、分からないわ。でも、ここは素敵ね! 気に入ったわ!」


 街にこんな店があったなんて! この世界には、宅配やネット通販なんて無いもの。部屋に引きこもっている私には、買い物なんて従者任せ。

 カタログがあるくらいで、こうやって見たことなどなかった。



「ほ、本当ですか! 良かった。さあ、何を見ます? シャンリ様は、どんな食器等が良いですか?」


「そうねー、あ、これ、可愛いわ!」


 いつの間にか、楽しく買い物をしていた。

 猫の可愛いマグカップや、お洒落な食器。時計や小物入れ。たくさん可愛い物があって、迷いに迷っていた。


 最後はイサックが決めていたが、大丈夫だろうか。そして、お金も「俺が出します!」とか意気込んでいるけれど、本当に大丈夫だろうか?

 まあ、私は働いて無いから、何も言えないのだけれど。

 そうじゃん、私、実質ニートじゃん! 情けない。


 私達のデートは、まだ続いた。


 なんでも、凄く美味しいと噂の、グラタンパンとフルーツケーキのお店があるらしい。

 何それ凄く美味しそう! 両方大好き! さすがイサック! と喜んでいた。もちろん、内心で。

 わくわく気分で歩いていたのだが。


「随分、歩くのね?」


「申し訳ありません。 もうすぐ、ですから。その、少し丘にありまして……」


 前で私の手を引きながら、歩くイサック。二人で歩くのがやっと、くらいの細い坂道。

 日々の運動不足が、原因ね。明日は筋肉痛かしら。そんな私と真逆な、涼しい顔をしているイサック。


「丘にあるのね。見晴らしは良いのかしら?」


「はい、最高だと、噂です。海が見えるのですよ! 海、シャンリ様は、見たことありませんよね?」


「え、ああ、ええ、無いわね」


 前世では、あるんだよなー。ど、どうしましょ。初めて海を見るリアクション、とれるかしら?

 イサックは凄く楽しみにしているみたいだし、期待には答えてあげたいけれど。

 うーん、うーん、と悩んでいた。


「……あの、もし宜しければ、俺が抱えて歩きましょうか?」


「ぶっ、え、いえ、結構よ。大丈夫! 少し、そう、考え事をしていたの」


 抱えるって、何! 恥ずかし過ぎる上に、今後初デートを思い出す度に「あの時のシャンリ様は、体力なくて、俺が抱えて、小さな丘まで、行きましたよね!」と、笑い話になってしまう。


「そう、ですか」


 少し残念そうな眼をしているイサックに、気づかないふりをして、歩く。

 すると、頂上が見えてきた。

 う、海が来るのね? 反応、出来るかしら。まあ、でも、久し振りの海だから、それなりの反応は出ると思うけど。


「やっと、頂上ね。海? 海が見えるかしら?」


「まだですよ、慌てないで下さい。ふふ、もう少し進んだら、見えてきますよ!」


 丘の奥の方に、黄色い煉瓦の小さな家が立っている。まさか、あれがグラタンパンとフルーツケーキのお店、だろうか?

 丘からは、街が一望、とまではいかないが、それなりに見晴らしがいい。城も見える。


「あ、見て、イサック! あそこ、私の部屋じゃない?」


「いえ、シャンリ様のお部屋は、もう少し右にありますので……あの、一部屋だけ、カーテンが閉まっている所でしょう」


「……そうね、正解だわ」


 何故、カーテンが閉まっていない部屋を、自室と言った! 私の部屋は、ラン様が溢れているだろうが。

 そうか、こんな距離でも目立つのか、我自室よ。

 我ながら恥ずかしい。


 グラタンパンとフルーツケーキのお店「ガトー」に入った私達。

 イサックは予約をしていたのか、二階の個室を案内された。


「ほら、見てください、海ですよ! ここから、見えるのです」


 促されて、窓まで近寄ると、遠くの方に、海が見えた。水平線の様に、キラキラと輝き、海面がうねっている。


「あ、海よ! 見て、久しぶ──じゃなくて、あれが、海なのね! 初めて見たわ、凄く、青くて、広いのねー、驚いたわ」


「そう、海は青くて広いのです。シャンリ様、気に入りましたか?」


「ええ、海、好きだわ。今度行ってみたいわ!」


 これは本心。海は好きだし、久しぶりなものだから、もう、てんしょんが上がる。

 あんなに広かったかしら。


「良かった! 別邸からは、もっと近くに見えるのです。海は波の音が心地良いですよ」


 椅子を引き、私を促しながら、イサックが話す。


「たくさんの生き物もいるのです。シャンリ様はご存じないかと、思いますが、その生き物で、食事が出来ているのです」


 いつの間にかテーブルには、熱々のグラタンパンと紅茶が用意されていた。

 そうね、このグラタンパンの中に海老が、入っているらしいから、確かに海の物よね。知っていたわ。前世の私はな!


 今世の私は、知らない。ただのお嬢様だからね! 出された料理を食べていた私に、この食べ物は何だったの? なんてシェフに聞くことなどなかった。

 これも、知らないふりするのか。出来るかしら?


「これが、海の生き物、から? なっているのかしら」


 イサックの引いてくれた椅子に、座りながら、グラタンパンを指す。

 知らない振りって大変なのね。

 でもイサックは嬉しそうに笑うものだから、知らないフリも良いものね。


「この中に入っている海老、ホタテが、海の生き物なんです」


「そうなの! ……ところで、一つ聞いてもいいかしら?」


 私は、ある違和感に気づいた。イサックを怪訝な眼で見つめる。


「はい、何でしょう?」


「あのね、このグラタンパンなのだけど、どうしてたった一つだけ、なのかしら? もう無いの?」


「それは、シャンリ様のですから、お気にならさらず、召し上がって下さい」


「いえ、そうではなくて。イサック、貴方は、何を食べるのかしら?」


 なかなか座わろうとしない、イサックに、頬を引きつらせる。まさか、この従者。


「俺は食べませんが、何か不都合でも?」


「不都合しかないわね、それは! すみません、誰かいらっしゃる?」


「え、あの、シャンリ様、何を? 俺は、その辺にいますから、ちょっと!」


 イサックの制止を聞かず、店員にもう一つ同じものを、持ってくるように告げ、席に戻る。

 イサックは珍しく、どうしたらいいのか分からずに、視線を泳がせていた。


「イサック、座って」


 私の言葉に、大人しく従うが。


 ため息をつく。そこは床だろう。誰が床に正座しろと言ったの? どうしたの、この従者は。

 いつもスマートになんでもやるくせに、本気でわかっていないのね。


「イサック、私の向かいにある、椅子に座れ、と、言っているのよ」


「え、いや、しかし、俺は従者ですから」


「いいの! 座って、お願い」


 少し力を入れて告げれば、再び視線を泳がせ、大人しく席に腰を落とした。

 何か失敗をした事は、理解しているらしい。


「あの、シャンリ様、俺は何か、してしまったのでしょうか?」


「そうね…………あのね、イサック。私、デートとか、良く分からないし、恋愛経験とか皆無だから、知らない事の方が多いのだけれど、でも、これだけは知っているわ」


「な、何でしょう?」


「デート、というのは、決して主従の関係では無いわ。対等なの。私は、ただのシャンリ。姫では無いわ。貴方も、従者ではなく、ただのイサックなのよ」


「シャンリ様は、姫ではない?」


「そうよ。いつか言おうと思っていたけれど、私と結婚するのだから『様』なんて、つけるべきでは、ないの。食事だって、一緒にとるべきよ」


「そ、そんな、滅相もありません」


「ほら、敬語も取るべきよ。最初は難しいかもしれないけれど、慣れるべきよ」


「……そうで、しょうか? 俺は、今のままでも、気にしませんが」


「私が気にするのよ! 敬語や『様』は、別にゆっくりで良いけど。食事は一緒よ。毎回一人で食事なんて、寂しいわ」


 お父様やお母様、リンと食事をしてきた私には、今さら一人なんて無理な事だった。

  

「分かりました。食事は、二人のときは、今後、一緒に取らせてもらいます」


「ええ、ありがとう」


 紅茶を、口につけた。

 イサックとの食事は、なんだかんだ始めてて、変な気分だった。新しい発見はあるもので、イサックは食べるのが苦手らしい。

「あまり見ないでください」と顔を赤らめていたが、必死に食べている姿は可愛かった。

 手先が器用だと思っていたが、案外そうでもないらしい。


 デザートのフルーツケーキも、不器用に食べていた。口の端にクリームを付けながら。


「デートって楽しいのね」


 思わず声に出た。今日は楽しかった。いい思い出になった。

 そういう意味だったのだが、途端にイサックが眼を輝かせた。


「明日もデートしましょう!」


「明日も? イサック、仕事は平気なの?」


「大丈夫です! 実は、他にも候補がありまして、一日では足りないな、と思っていました」


 お金とか大丈夫かしら? どれくらい使っているのか分からないけど。

 それに、仕事しなくても良いって、本当かしら?

 でも、イサックが良いと言うなら、大丈夫なのだろう。え、本当に? イサックの仕事とか、何もわからないけれど。


「そ、そうなの。でも、無理はしないでね。それに、クリームついているわよ」


 そっとクリームを取ってあげると、少し俯きながら、お礼を言ってきた。

 仕事以外のイサックも、良いかもしれない。そう思ったのは、私も彼が好きだからだろう。



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