4thシーン『男の華々しい芸能界デビュー!』
俺はその足で小さい芸能プロダクションに乗り込み、面接を受けた。
社長は随分驚いていた。
当日にいきなり来て、予定もないのに面接を受けさせろ、必ずスターになってこの会社にも俺自身にも有り余るほどの金と幸福を与えてやると言ったのが、効いたらしい。
本当にそう思ったのだが。
君みたいな自信過剰な人間は今日日見ないよ。
もしかしてどこか病気なのか?
などと聞かれたが、ドクターのことは話さなかった。
あのドクターが非合法の医療で逮捕でもされたら、大変なことだから。
とにかく、そうして俺は芸能界にデビューした。
最初の頃は、思っていたほどリッチな生活とはいかなかった。
そもそも、軽い自己愛性人格障害じゃあ、群雄割拠の芸能界では大した個性にはならない。
いくら珍しいとはいっても、見た目にわかりやすい、腕がないとか、足がないとか、そういう奴らにはどうしたって劣る。
私生活じゃあまったく不自由にならない義肢をつけていても、メディアではあからさまに型式遅れのものをつけてくるから、余計にたちが悪い。
この世界に入る前の素人時代よりは、補助もあって税金も安いから良い暮らしができてはいるが、だからと言って左団扇で暮らすというほどのものではなかった。
俺はドクターの病院に行き新たな疾患を獲得するためにあまり豪勢な暮らしはせず、貯金を続けた。
「いやぁ、見違えましたねえ」
ドクターはそう言いながら俺にスッとカタログを渡した。
「やっぱり高いですねえ、売れてる芸能人が持ってるタイプの疾患は」
「見た目にわかりやすい疾患はメンテナンスにも持続性にも難がありますしね。
死には至らず悲壮感を演出できる疾患って、意外と難しいんですよ」
「うーん…、じゃあとりあえず、今回はもう少し今の疾患のレベルを上げてもらえますか?
そのうち必ずもっといいの、買いますから」
「おやおや、別に私に気を遣ってお金を使う必要はないんですよ。
あくまでもあなたのために、あなたの幸福のために使ってください」
ドクターは優しくそう言うと再び、
今度は一週間、病の処方をしてくれた。
そこからはもう、まさに加速度的だった。
疾患をより深刻なものにしたり、種類を増やしたりすることが、人気に直結した。
一度ドクターの元へ通うごとに、出演のオファーが増え、収入が増え、周囲に人間が増えていった。
ドクターに支払う金が、まるではした金のように思えるようになった。
高い金であることに変わりはないんだろうが、投資した分健康な貧乏人の金で回収できるんだから大した問題じゃない。
義手や義足を必要とするような、欠損を伴う疾患はドクターはあまり好きじゃないらしく、また、テレビでも段々飽きられるようになっていたからやらなかったが、それ以外の疾患はどんどん追加していった。
時には疾患同士の相互作用で具合が悪くなることもあったが、俺は絶対にドクター以外の病院にはいかなかった。
バカなAIドクターに診察されれば、まず間違いなく俺が身につけた素晴らしい疾患、いや、個性の数々を奪われてしまうからだ。
冗談じゃあない。
もう、俺はあの不幸な健康人間には戻れない。
もっともっと稼いで、もっともっと疾患を手に入れるんだ。
具合が悪くなってAIドクターにかかれなくても、俺の周囲には俺の面倒を見たがる女が腐るほどいた。
カラフルな義眼を左眼にはめたティーンエイジのアイドル、Sも今や俺の虜だ。
一度映画で共演してから、奴は俺に毎日連絡してくるようになり、いつの間にやら我が家を足しげく訪れ俺の体をいたわるようになった。
義眼という限定的なキャラ付けじゃあ生きていけないから、せめて華やかな人間の隣にいようとでも思ったんだろう。
まぁ、イヤな気はしないが。
俺がアクセルを踏み込んだスポーツカーのようにぐんぐんと力をつけていくのを見て、周りの人間は訝った。
彗星のように芸能界に現れた俺に人気を奪われるのが気に食わない人間共が周囲を嗅ぎ回り、少しでも転んだり、ケガをしようものなら救急車を呼んで病院送りにしようとすることもあった。
中には俺の人気の秘訣を教えてくれ、などと言ってくる奴もいたが、それでも頑なに、俺は誰にもドクターのことを話さなかった。
Sにさえ、そのことは秘密で通した。
俺にとってあそこはもはや聖域であり、俺とドクター以外のバカなAIや人間共に足を踏み入れられて良い場所ではなくなっていたのだ。
そんな俺のメッカは、意外なモノに打ち砕かれた。
そう、ドクター自身に、打ち砕かれたのだ。




