笑顔
「クレシア様、本日も麗しいお姿を拝見でき、光栄にございます」
初めて出会った時のように、恭しく頭を垂れ挨拶をしてくる。形式に則った挨拶。心のこもって居ない挨拶。
私は笑顔が引いてしまいそうになるのを懸命に押しとどめ、柔らかく微笑む。
ここは城門へと続く廊下。《勇者》が来たというので私は気づかれないように息を吐き出して迎えに来たところだった。
彼の服装は初めて会った頃と変わらず、そのまま大きくなったんじゃないかと錯覚さえ覚える。そんな彼に合わせるように、私も薄い青色のドレスを用意されていた。それを来て、彼を出迎えるのが日課になっていた。
……いや、よく見ると上着の細部が違うから……これがアーウェル家の正装、というところなんだろう。
そんなどうでも良い部分に気づきながら、私は笑顔を繕ったまま庭の方へ身体を向ける。
「ミンティス、よく来てくれました。さぁ、こちらへ……」
「はい、クレシア様」
私の視界の端に映った彼は、姿勢を正して私の後をついてくる。
周囲の使用人たちは深く頭を下げたまま私達を見送ってきていた。
彼……《勇者》ミンティスと私、王女クレシアは庭の木の傍で過ごすのが好き。それは周知の事実となっていた。この三年間、そう思われるように努力してきたのだから当たり前だ。
だから邪魔をしないように、私達が中庭にいる間、使用人達は自然と近づかなくなっていった。
こうして不審に思われない人避けを完成してしまっていた。発案者は──私の隣で伸びてきた髪を払っている彼だった。
一本生えた大きな木の下……彼はその定位置までくるとその場に腰を下ろした。
「ふー、ようやく一息つける」
取り繕った彼ではなく、これが本当の彼の姿。もう見慣れたけれど。
私も小さく溜め息をついて少し離れた所に腰を下ろす。傍らには光を反射して水面をキラキラと光らせる池がある。そこへ指先を浸しつつ彼を盗み見た。
「そこまで疲れるなら、わざわざ城へ来なければいいのに……」
「それができれば苦労してねぇよ」
ごもっともです。
矛盾している現状は二人共理解していた。何故なら……。
「あと二年、か……」
木にもたれ掛かり、両腕を頭の後ろに置き空を仰ぎながら呟かれた彼の一言。
そう、あと二年。私の十五の誕生日までの偽りの《勇者》。
池に浸していた指先をゆるく動かして水面に波紋を送る。
長いようで短かった三年間だった。十歳の時出会った彼。後で知ったけれど、彼は私より一つ上なんだそうだ。もう少し上なのかと思っていた。最初に挨拶した彼があまりにも大人びていたから。
《勇者》となった一年目は怒りの方が強くて、ミンティスが挨拶に来ても私はなかなか笑顔が作れなくて困った。怪しまれるだろって注意されるし……。
そのうち慣れてきて、作り笑顔がうまくなってしまった。彼ほどじゃないけど……。
でもずっと畏まっているのは疲れるからって現在の中庭に至る。他の人が居る所では姫とそれに仕える《勇者》でいなくてはいけないから。
王族や貴族が嫌なら、頻繁にお城に来なくていいとさっきみたいに言ったこともある。
でも王女の《勇者》が何日も会いに行かないのは周囲に怪しまれる、ということで数日置きには会いにきてくれている。と言っても特に何もすることはなくて、中庭で普通に過ごして普通に帰って行くだけ。
だから私はいつも本を持ってきていた。ミンティスはここですぐ寝てしまうから、時間を潰す為だ。
今日はこの国の成り立ちについて、物語調で書かれた物を持ってきていた。池に浸していた指を上げ、濡れてしまった指先を軽く振りることで雫を落とした。そのまま膝に置いていた本の表紙に手を掛ける。
「いつも何読んでんだ?」
珍しくミンティスからの質問が飛んできて顔を上げる。
そこに居た彼は視線はまだ空を見ていたけど、寝てはいなかった。
……珍しい事もあるのね。
私はすぐに視線を手元に戻し表紙をめくる。すると鮮やかな色合いの絵が出てきた。
「あなたには関係ないわ。いつも寝ているじゃないの」
意識したわけじゃないけど、少し冷たい言い方になってしまって罪悪感が生まれる。
「ふーん? つれねぇの。最初はあんなに可愛いかったのになぁ」
返された言葉を聞いて、さっきの罪悪感がしぼんでいくのが自分でも分かった。
本当に失礼な人。なんで私はこの人とこんな関係を続けているのかしら。
少し口を尖らせるようにして、彼が視界に入らないように背を向ける。
「そっちこそ、偽物《勇者》さんでしょう?」
呟くように返して絵の描かれたページをめくり、目線で文字の羅列を追う。
読みやすくてすんなりと頭に入ってくる。書いてある情景描写が綺麗で頭の中で想像するのが容易かった。
「……約束、忘れてないよな?」
ピタリ。
私は文字を追うのを止めた。何故か今日はよく話しかけられるわね。
頭の中で描きかけていた物語を一時中断し、本から上げた視線を池の水面へと移した。
「覚えているわ。十五歳の誕生の祝いの日、あなたは《勇者》辞退をお父様に申し出るのよね」
「ああ。で、あんたはそれを了承してくれればそれでいい」
《勇者》が悩んで居る事を知って、心優しい王女クレシアはその決断を承諾する。それがミンティスの考えたシナリオだった。
そして新しい《勇者》には──……。
「その日には兄上も戻ると仰ってるから、機会としてはかなり良いだろうしな」
そう。ミンティスのお兄様が私の新しい《勇者》となる。
……いいえ、違うわね。元々お兄様が私の《勇者》だったのだと、ミンティスが話してくれた。
ただお兄様には少し事情があって、しばらくこの国を離れなければならなくなった。代々続く《勇者》を途切れさせる訳にはいかない、と空いた穴を埋めるようにミンティスを《勇者》に、と話が持ち上がったんだそうだ。
ミンティスは勿論拒否をした。貴族や王族を嫌っている彼、王家の者に仕える事に嫌悪しても当たり前だわ。
アーウェル家に生まれた事すら嫌で、その呪縛から解かれたいと考えるほどだと言っていた。
だからこの偽物《勇者》は彼にとって好都合なのだ。
「お兄様が戻られるまで無事《勇者》代行ができれば、家を出られる、だったかしら」
「そうだ。兄上が掛け合ってくれるそうだから、確約されたも同然だ」
ミンティスのお兄様はアーウェル家でも一目置かれていて、彼のお父様よりも発言権があるらしい。
彼から聞く家族のお話はあまり良い印象は受けない。お父様も、お母様も、その他の親戚の方も……。
けれど、お兄様の話だけは尊敬の気持ちが見て取れる。敬語を使っているのがその証拠だと思う。
心の休まる場所がないから、家を出たいのかしら……? いえ、それではお兄様の存在は……?
考えるけれどよく分からない。私自身が家を出たいとか、王家を捨てたいとか考えた事がないせいだと思う。
お父様に対してもお母様に対しても、尊敬こそすれ嫌いな感情は一切ない。
ミンティスは生まれてから何があったんだろうか……?
彼に対しての興味が生まれた。少し振り返ってみると彼と視線が合って、驚いてまた前を向く。
まだ空を見上げていると思ったのに……。
「なんだよ、感じ悪いな」
あなたがそれを言う?
背後から飛んできた声に心のなかですかさず返した。
でもそれを口に出すのはいらない口論が増えるだけ。私は小さく息を吐いてそれを流し、前を向いたまま改めて問いかける。
「どうしてそこまでして家を出たいの?」
彼にとっては例え代行と言えども《勇者》なんて肩書き、嫌で仕方がないはず。それをしてまでも家から離れたい理由。それがずっと気になっていた。
案の定、背後に位置する彼からは何も返ってこない。
……やっぱりね。いつもこういう質問には答えない。もう慣れてしまった。
彼は私の事も好いていない。そんな人には話せないんでしょう。
だから私もすぐに諦め、開きっぱなしだった膝の上の本へ目線を落とした。その時声が届く。
「自由が欲しい」
初めて答えらしい答えが聞けて驚く。落とした視線の前には気になっていた本の続き。でも、視線は滑るだけで内容が頭に入ってくる気配は一向にない。
私は本を閉じて改めて振り返った。今度は視線が合っても顔を背けず真っ直ぐと返す。
その視線を受け、ミンティスは一度瞼を落としてから再び空を見上げた。彼の瞳と同じ、青く澄んだ空を。
「……貴族は窮屈だ。生まれた時から方向を定められ、俺は何一つ自分では決めてこなかった」
いつもの彼より少し弱い口調で紡がれる内容。私は重ねるように幼い頃を思い出す。
小さな時から勉学があった。礼儀作法を覚えさせられ、振る舞い方まで。……確かにそれは窮屈と言うのかもしれない。
でもこれは私の場合であって、ミンティスの生まれた時は知らないし、どう育ったのかは分からない。ここまで彼を追い詰める何かがあったのだと思う。
それはどんな事なんだろう……。そこまで知るのは今は無理なのだろうけど、それでも少し話してくれた事が嬉しかった。
「ねぇ、お兄様は? ミンティス、お兄様の事はそこまで嫌いではないわよね?」
だからそう続けてしまっていた。彼との会話を続けたかった、んだろうか……。
思わず出てしまっていた質問に慌てて口を抑える。またはぐらかされるかしら?
様子を伺ってると、力なく笑って彼は再び瞳を閉じた。
「兄上には……敵わないから、な」
「ミンティス……」
普段の彼とは違う、弱々しい姿に目を見開いたまま止まるしかできなかった。
《勇者》だと紹介され、喜びに胸を膨らませていた私。それを一気に覆されてしまって、最低だと心の中で思ったこともあった。
けれど今目の前に居る彼を見ると……何故か胸が締め付けられた。
「……だい、じょうぶ……大丈夫よ」
自分の口から零れた。開いた唇は勝手に言葉を紡ぎ出す。
「やろうと思えばできない事はないわ。現にあなたは“自由”を手に入れようと頑張っている。それはすごい事よね」
彼の青い瞳が私を映す。少し驚いた表情でこちらを見ていた。
私も私が信じられない。何を言っているのかしら。こんな……ミンティスを励ますような言葉。
それでも、言葉は止まらなくて、伝えたかった。
「あなたは十分に自分の考えで動いていると思う。だから、きっと大丈夫」
自然と笑えた。いつもの作った笑顔ではなくて、彼の前では久しく忘れていた──自然な笑顔。
やはり心に偽りがないというのは素敵な事だと思う。それだけでこんなに気持ちがいい。
偽の《勇者》の事を考えると心が痛くなるけれど、彼の想いを聞いた私はできる範囲で協力したいと素直に思えた。
悪い人じゃ……ないのかもしれない。
「……城に籠もりっぱなしのお姫様にそう言われてもなー……」
ふっと顔を背けて呆れた口調で返された。むっと顔を歪める。
やっぱり悪い人なのかも。人の善意を素直に受け取れないだなんて……!
「確かにお城から出たことはないけれど、私だって自分で考えて、したいことはしてきたのよ!」
悔しくて言い返した。
確かに昔からしなければならないことは山積みだった。でも、その中でも私は私らしく過ごしてきた。それを否定されるのは許せない。
「どうだかねぇ……」
相変わらず気の抜けた返事。こちらを見ようともしない。
私は膝上の本を青々と生える草の上に音を立てて置いた。その音に反応してこちらを向くミンティス。
改めてその視線を受けながらその場に立ち上がった。
「じゃあ見てて! そして私をちゃんと認めて!」
きっぱりと言い放ち、ミンティスの近くまで歩く。目当ては彼が背にしている木だった。
この木は──いいえ、この場所は私のお気に入りの場所。そこに彼が加わったのが今の状態。
できないことや嫌な事があるとよくここへ来ていた。沢山この木に話しかけた。私だけの場所だった。
伸びた枝に手をかけて力を入れ、反動で自分の身体を持ち上げる。
「な──!?」
下からミンティスの驚きの声がする。
もう止めても遅いんだから。これくらいお手の物よ。
あんぐりと口を開けている彼を勝ち誇ったように見下ろして、次の枝に手をかけた。
ドレスの裾を踏まないように気を付けながら、私は次々と上に登る。ちらりと視線を下に向ければ呆然とした顔のままのミンティス。
なんだかちょっと気分が良くて笑ってしまう。
池の方へ突き出た太めの枝へ軽々と腰をかける。落ちないように両手で枝を掴んだまま微笑んで見下ろした。
「ほら、昔から木登りしてきたの。上手でしょう?」
私の声をきっかけに、今日一番の深い溜め息をついてからミンティスは立ち上がった。
そして私を見上げたまま近づいてくる。
「おてんば過ぎだろう。使用人はよく止めなかったな」
「隠れて登ってたからよ。見つかったら叱られてしまうじゃない」
あっさりと返した私の返答にもう一度溜め息を吐いて──呆れたように笑った。
──っ!
ぱっと顔を背ける。
久々に見た。笑ってくれた。
ま、まって、だからなんだっていうの。
けど、胸がちょっと苦しい。初めて彼を見た時みたいに、苦しい。
心音が速くなるのを感じて枝に置いていた片手を自分の胸に添えた。
「あんたの言いたい事はわかったから、とりあえず降りてこいよ。危ないから」
尚も下からかけられる声に背けていた顔を戻す。すると、ミンティスは両手を私の方へ差し出していた。
理由が読み取れずそっと首を傾げると、彼は少し意地の悪い笑顔を浮かべた。
「さぁ、姫。私の元へ降りて来てください。優しく受け止めて差し上げます」
「っ!?」
顔が一気に赤くなるのが分かった。
からかわれてるだけだって分かる。分かってるのに……さっきと同じように胸の鼓動が速くなる。
私は勢いよく顔を背け、ミンティスから逃れるように更に枝の先へと身体を移動させた。
「あ、おい。本当に危ないぞ」
「だ、大丈夫よ! 言ったでしょ、慣れてるんだから!」
「だからって……」
やだ、赤い顔見られたくないし、彼の手を借りるなんて絶対に嫌。降りるのだって自分でできるもの。
でもとりあえず顔の赤みと胸の苦しさを抑えてからじゃないと……あら?
「おーい、王女さまー」
下から続く投げやりな呼びかけは無視して、枝の先の木の葉の陰を私は食い入るように見つめる。
葉に隠れるようにして、羽の傷ついた小鳥が枝に倒れていた。
もう、死んでしまっているのだろうか……? そう思って枝をぐっと掴むと微かな声で鳴き声がした。
良かった、弱ってるけど生きてるみたい。でも、ここから降ろしてあげないと、落ちてしまう。ぐっと手を伸ばすけれど、もう少しの所で届かない。
でもこれから先は枝もかなり細いし……危ないかもしれない。
自分の居る場所と小鳥の居る場所を見比べて、一つ頷き自分に大丈夫、と言い聞かせて枝先へ身体を動かした。
「おいっ!」
少し怒ったようなミンティスの声も聞こえる。
分かってる、危ないのは承知の上。でも後ちょっと……後ちょっとで……。
身体を乗り出していっぱいに手を伸ばす。その掌が小鳥を包んで持ち上げることに成功した。
ほっと息を吐き出すと同時に、自分の身体を支えていたもう片方の手がずるりと滑る。
あ、まずい……。
そう思った時には浮遊感を覚えた。
さっき包んだ小鳥を庇うよう咄嗟に胸元に引き寄せた。ぎゅっと目を瞑る。
「──クレシア!!」
ミンティスの焦りに満ちた声を聞きながら、激しい水音と共に身体を冷たさが襲う。
でも、そこまで痛くなくて……どうしてだろう?
そっと閉じていた瞼を持ち上げると、ミンティスの顔が至近距離にあった。
え? どういうこと……?
池は浅い。座るような格好になっているミンティスの上に私が倒れ込んだように見える。現状だけを見たとしたら、だけど……。
私と彼の髪が水面に浮かんで揺れている。こんな時でも彼の髪はきらきらと水面に浮かび光を反射させていた。
それに少し見とれかけてハッと彼の方へ視線を戻す。
「ミ、ミンティス! 大丈夫?」
表情の歪んでいる彼に咄嗟に声をかけると、睨まれた。
あ、あれ?
「……の、バカ! 何やってんだ! だから危ないって言っただろ!」
近くで大きな声で怒鳴られて私は肩を竦めた。
もっともだ。ミンティスの注意を聞かずに、無視して落ちてしまっては返す言葉もない。
私は胸元の手はそのままで肩を落として俯く。
今回は私が完全に悪い。ミンティスに迷惑までかけてしまった。
「ご……ごめんなさい……」
その言葉しか出てこなかった。彼からも、言葉はなかった。
ゆらゆらと水面が揺れる。ぽたりと私の前髪から水が滴り落ち、波紋を作った。
衝撃で舞い上がった水飛沫で私たちは頭から濡れてしまっていた。こんな状態を作ってしまったのも私で……ミンティスに合わす顔がなかった。
すると、頭を軽く叩かれる。いや、叩かれたんじゃなくて……視線を戻せばミンティスの手が乗っていた。
まだ叱られるのだろうかと不安げに彼を見上げる。
そこで私は驚いた。彼はまた笑っていたから。どうして、今日はそんなに笑うの……?
「こういう時はごめんなさい、じゃないと思うけど?」
その表情で紡がれる言葉は優しくて、私の胸にすっと浸透していく。
……ああ、そうだったわね。
私もつられて笑顔を浮かべた。
「──ありがとう、ミンティス」
「どういたしまして」
どこか胸を張るような物言いに、彼らしさを感じてまた笑ってしまった。
と、それに呼応するように両の掌に包まれた中で微かに小鳥が鳴く。
「なんだ? 今の……?」
ミンティスは首をかしげて私の頭上から手を退けると辺りを見回した。
ああ、そうか……彼は知らないんだった。
「ミンティス」
私は名前だけ呼んで彼の注意を引くと、掌に包んでいた小鳥を見せた。
彼は目を見開いた。
「さっき見つけて……」
「ひょっとして、こいつ助けようとして──!?」
私が言う前に声を荒げるミンティス。チラリと私が落ちてきた所を視線で示し信じられないという表情で見返す彼。
ちょっと気恥ずかしくなって笑う事で肯定を示すと、ミンティスは自分の口元に手を当て声を殺すようにして笑い始めた。
え、な、なんで笑われるのかしら……。
「ははっ……なんて姫さまだ……くくっ」
「ちょ、ちょっと! そこまで笑わなくたって……!」
今度は別の意味で顔が赤くなってきてしまって、懸命に抗議する。
でも彼は笑ってて私の声なんて聞こえてないみたいだった。
ひとしきり笑ってから、ミンティスの手を借りて池から脱出。音を聞いて駆けつけた使用人に事情を話し、布を取りに数人が忙しく動く。その時に小鳥の事も伝えて手当をしてくれるというので預けることもできた。
とりあえず、あの子は助かりそうだから良かった。
私は満足げな笑みを浮かべながら使用人から布を受け取った。濡れてしまった身体を拭く為だ。二人の使用人が手伝ってくれて、髪もいっぱい拭かれた。
その見にくい視界でミンティスの方を見てみると、彼も私と同じように頭をいっぱい拭かれてて……目があった。
いつも逸らしてたけど、なんとなく笑ってみたら、向こうも笑って返してくれて。
すごく嬉しかった。胸が温かくて幸せな気持ちになった。
……やっぱりミンティスは悪い人じゃない。優しい人。
私はこの日、その事を確信した。




