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68話目 似た者同士

 早めの夕食を食べ、自室にて今回の王国攻めに手を貸すべきかどうかを考える。ともかく俺が何をしたいのか、何をしたくないのか、何をすべきで、何をすべきでないのか。これらをはっきりさせないことには、今回のことに限らず様々なことで変に考え込むことになるだろう。


 そもそもの話、ほとんど忘れていたが俺が修行した一応の目標は元の世界のあの幼女を一発ブン殴るというものだ。元の世界に戻る手段の見当が一切つかないためダラダラと修行していたわけだが、この際明確な目標を別に何か設定すべきかもしれない。


 今俺がしたいことは王国を滅ぼすということだが……、それはあくまでも王国の豚王がシャルに色々しやがったからであり、別に『世界中にある人間の国を片っ端から滅ぼしてやるぜー!』とかいう考えからではない。


 それ以外に何かしたいことがあるかと言えば……、まあシャルとドラ助と一緒に色々やってみたい、ということぐらいか。なんてこった、仮にシャルが居なかったら俺自身がやりたいことがほとんど何もないじゃないか。あ、だからシャルが居なくなってから何もしなくなったのか。


 ……シャルに関係なく純粋に俺自身がやりたいことはさておき、とりあえず今は恋人としてシャルを幸せにしたいという気持ちを重視することにしよう。そしてそうするならばそれをもうちょっと具体的な目標にした方がいいはずだ。


 例えば人の目を憚ることなく世界中を一緒に旅出来るようにするとか、今度こそエルフやドワーフの地位向上を一緒に成功させるとか。……うん、シャルが喜びそうなことだったら何でもやりたいな。逆にやりたくないことは……、まあシャルを悲しませるようなことということでいいだろう。


 よし、一応方針は決まったな。シャルが喜ぶようなことは何でもして、シャルが悲しむようなことは避ける。結局特に何も変わらないように見えるが、こうしてきちんと言葉にしてみると大分(だいぶ)頭がスッキリとしたように思える。


「よし、その考えを軸にした上で王国は滅ぼすかどうかなんだが……。あっ」


 そこまで考えて、シャルのことをメインに考えているのに全然シャルと話し合ってないことに気付く。碌に相談もせずに勝手に突っ走るのは駄目だというのは、まあ、今回のことでわかったからね。報告・連絡・相談は大事だというのは異世界でも同じだったということだな。


 シャルに何があったのかを聞いた時は復讐に積極的では無かったが、時間を置いたことで心変わりしているかもしれない。まずは彼女ときちんと話し合うのがいいはずだ。そう考えた俺は早速とばかりにシャルの部屋に向かう。思えば俺の方から彼女の部屋に行くのは初めてなので、微妙に緊張しながら扉をノックした。


「シャル、今大丈夫か?」

「師匠? 入って大丈夫だよ」


 幸いなことにまだ彼女は眠っていなかったようでありすぐに返事がされた。扉を開けて部屋に入り、部屋には椅子が一脚しかないためもう一脚を魔法で取り出す。ベッドに座るのもありではあったが、真面目な話をするのにはちょっと向かないだろう。


「なあ、シャル。王国を攻めるって話、どう考えてる?」

「んー、あんまり興味ないかな。師匠と一緒に居られればそれで良いから」


 俺に倣って椅子に座り言葉を待つ彼女に向けてそう問いかけるが、彼女は特に悩む様子を見せることなくそう答える。彼女は本当に興味が無さそうであり、それまでと言えばそれまでなのだが、その様子に俺は違和感を覚える。


 普通に考えて、あんな仕打ちを受けてほとんど日が経っていないにも関わらず『興味が無い』とか言えるだろうか? 俺が千年前に冒険者達に裏切られた時などは、しばらくの間奴らに対する恨み節がいつも頭に浮かんでいたものだ。


 そうだ、どうにもおかしいのだ。彼女が戻ってきた嬉しさであまり考えていなかったが、いつも通りなんておかしいのだ。王国への文句の一つや二つ言って当然なのに、彼女はそれすらしていない。


「帝国のやつらがいるから、俺としても後のことを考えずに暴れるだけでいいんだが、それでも興味無いか?」

「その……、別に……」


 最初に俺が王国を滅ぼすと言い出した時、俺が戦後処理に悩むからということでシャルは俺を引き取めた。帝国が王国に攻めるのに便乗するだけならばその憂いが無いため、それをシャルに伝えてみるが、どうにも歯切れが悪い。だが少しだけ、本当に少しだけだがシャルの目が泳ぎ、そこには怯えの色が見えた。


 怯え……? 一体何に……?


「私、ほんとに師匠と一緒にいられればそれでいいから……。外のことはもういいかな、って……」


 シャルが取り繕う様に言葉を口にするが、怯えの色は逆に強まっていく。


 ああ、そうか。


 その怯えが非常に馴染のある物であったため、鈍い俺でも気付くことが出来た。彼女は『外』が怖いのだ。王国でも、人間でも、エルフでも無く『外』の全てが怖くなってしまったのだ。だから俺だけがいればいいと、外と関わりを持ちたくないと考えているのか。


 シャルが何を怖がっているか理解できた故に強い危機感を覚える。この恐怖は放っておいたら駄目な奴だ。いつの日かそのトラウマに押しつぶされて動きたくても動けなくなってしまう。身に覚えがあるだけに確信をもってそう言えてしまう。


 内心で愕然としている俺に対してシャルは言葉を続けて今回の件に乗り気でない事を示すが、それは言い訳に過ぎないのだ。本当は怖いだけなのに、それにもっともらしい理屈を後付けしているだけなのだ。


 これから先、『外』と関わらなければならない事態になった時、彼女は俺と同じように立ち止まってしまうだろう。それは駄目だ。


「だからね、師匠が気にすることじゃ……」

「シャル」


 自分を棚に上げるようで申し訳ないが……。


「王国は攻める。止めはシャルに刺してもらう」


 シャルの言葉を遮って、俺はそう告げた。

思っていた以上にシャルとリョウが似た者同士になってしまった件について

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※話の大筋は変えませんが、最初から150話くらいまでの改稿予定(2019/12/7)  改稿、ってか見やすさも考慮して複数話を一つに纏める作業にした方がいい感じかな?  ただし予定は未定です。「過去編」「シャル編」「名無し編」は今は触りません。触ったら大火傷間違いなしなので。
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