142話目 oh,miss spell.
『矮小なる虫が愚かにもやってきたぞ』
『大人しく隠れていれば死なずに済んだろうに』
翻訳魔法を自分に掛けてからやってきたわけだが、相手方の第一声がこれである。それも、俺に話しかけているというよりも、俺を囲むように陣取って仲間内でやいのやいの言っている感じだ。話題の中心であるはずの俺の事はガン無視である。
『まあ良い、目障りな虫はさっさと潰すに限る』
そう言って、俺の近くにいたドラゴンがこちらへと近づいて前足を大きく振りかぶり、今にもこちらを叩き潰そうとする。このままでは問答無用で戦闘に入ってしまいそうだ。
「そう言ってないでさ、ちょっと話を聞いてくれないか」
すっと右手を挙げ、皆にハッキリ聞こえるよう喋る。すると、それまでガヤガヤと喋っていたドラゴンたちがピタリと黙ってしまった。目の前で振りかぶっていたヤツも目を大きく見開き、こちらを凝視している。一先ず、いきなりの戦闘は避けられそうだ。
『虫が、何故我らの言葉を解す』
振り上げた前足をそのままに、体を震わせながらドラゴンがそう呟く。やはり、ドラゴンの言葉を話す人間は今まで居たことがないようだ。出来ればこのまま会話の主導権を握りたいので、やや口早に要件を告げよう。
「そういう魔法を使っているからね。あー、それで、実は聞きたいことがあって――」
『黙れ、虫が。貴様に聞いてなどおらぬ』
決して荒げてはいないが、しかしハッキリとした怒りを滲ませた声でドラゴンが俺の言葉を遮る。ん? いやお前、何でって聞いてきたよね? それで『黙れ』っておかしくね?
『虫如きが我らの言葉を真似するなぞ、不愉快の極み。ああ、不愉快だ。潰す』
下等な人間が自分達の言葉を真似したことが相当気に入らなかったのだろう、言い終わらない内に爪を振り下ろしてきた。無論、そんな攻撃が当たるはずもなく俺は瞬時に側面に回り込むことで難無く避けるが、避けた事が余計に気に障ったのか、意味も無いただの咆哮を放ちながら狂ったように次々と爪を振り下ろし、噛み殺そうと突っ込んできた。
ヤベエ、野生のドラゴンったらプライド高すぎる上に気が短すぎるでしょ。少しはドラ助を見習えや。
「待て! 待てってば! 俺は聞きたいことがあるだけなんだってば!」
――――GUUUUUAAAAAA!!!!!!!!!
Fack you.
言葉は通じても話は通じないパターンだったよ。




