友人が「夕焼け」して登校してきたときの話
これは、僕が中学生だった頃の話だ。
その日僕は、僕よりも遅く登校してきたタナカの異変にすぐに気がついた。
その日のタナカはオレンジ色だった。
「いつもより少しオレンジ色に見える」というレベルではなく、「もうどうしようもないほどにオレンジ色」だった。
『お前、まさか夕焼けしたの?』
『まぁ、そうなんじゃないかな?』
『そうなんじゃないかな?ってお前、完全に夕陽に染まってるぞ』
『昨日は少し、夕陽を浴びすぎたかなという自覚はある』
『お前、「夕焼け止め」は塗っておかなかったのか? だいたいさ…』
僕の言葉が少し説教染みてくると、彼はそれを遮るように、ひとつ大きな咳払いをした。
そして、僕の頭のてっぺんからつま先までじっくりと見回した後、少し笑みを浮かべ
『今のお前にだけは言われたくない』
とだけ言った。
僕は少しの間、その言葉の意図を掴めずにいたが、自分の体に目が行くとすぐに納得した。
そういえば、そうだった。
僕も昨日の夜から、夕闇に染まったままだったんだ。
「追記」
タナカはその日、夕焼け同様のうっかりで髪が新緑に染まってしまい、
それからしばらくの間、「柿」というあだ名で呼ばれていた。