幕間2
神の話をしよう。
それは人を愛する。
それは祈りを受ける。
それは天に座して微笑む。
唯一絶対である者。
だがそれは、まやかしにすぎない。
人は己が意味も無く生き、意味も無く死ぬことに耐えられない。また、死して後は何もないという絶望にも目を背ける。
今を生きるのには意味があり、いずれ死ぬのには先がある。
自分たち人間の命には、それだけの特別な価値がある。
神とはそんな願望から産まれた、都合のいい妄想に他ならない。
姿も見せぬ絶対上位の創造主。そんなものお笑いぐさだ。
そうあれかしと唱えて思考を停止。または居もしないそれの意を汲まんと迷走し、どこかの果てを覗き見て祈りを捧ぐ。さらには犯した罪科の洗浄を神に問う。
不安なだけだ。
道しるべもなく歩くのが不安だから、そんな妄想に頼って己の合否を判断するのだ。
ならば、もはやそこには真なる神すら必要無い。
必要なのは己の価値を認め、死後の先を約束し、己の行いを定め肯定してくれる都合のいい存在。
ホンモノは要らない。
むしろニセモノの方が出来がいい。
どうとでもとれる訓戒はねじ曲げて解釈し、矛盾だらけの聖典は適当にごまかして利用し、言葉巧みな話術で己の欲望を神の望みに変換する。
神はニセモノの方がいい。
ホンモノなど邪魔だ。
それはどうせ、人間にとって都合がいいだけのものではないだろうし。
「――神か」
夜。月の明かりに映えるシルバーブロンドの髪に、血のような紅の瞳を持つ女は、通りがかった教会を前に足を止める。
夜は深く、風は冷たく、周囲には誰もいない。季節にそぐわない、背中の肌を大きく晒したドレスの女性は、惹き寄せられるように建物へと近づく。
「貴様が本当に、どこかにいてくれれば良いのにな」
あるいは、それは祈りなのかもしれなかった。
あるいは、それは願いなのかもしれなかった。
迷い子のような幼い表情で、彼女は聖印を見上げつぶやく。
きっと――そんなものが本当にいるならば、それを殺すことにこそ、己の存在価値を見出せるだろう。