幕間
「とらえろっ、逃がすな!」
凛とした声が響き渡る。複数の靴のかかとが石畳を叩く音。鎧金具の擦れる音。夜も更け、静まりかえった裏路地がにわかに騒がしくなる。
男が四人。女が一人。
珍しいことに、命令しているのは女であるらしい。
短い金の髪の若い女だ。年齢は三十に届いていないだろう。ところどころ傷の入った金属鎧に身を包み、勇ましい姿をしているが、見る者に決して野蛮な印象を与えない。どこか気品さえ漂わせるその出で立ちは、神話に語られる戦乙女のようだ。
彼らに追われているのは、一人。銀髪の、白いドレスの女。足はそこまで速くない。鎧姿の五人よりも、遅い。
「リッツ、セロ、メルバスは回り込め。グランセンはわたしと来い!」
逃亡者の背が路地の奥へと消えたのを見て、金髪の女が他の四人に指示する。
ここは彼らの庭だった。この区画ならすべての路を把握している。計画性もなく建てられた建物は複雑な迷路を造りだしているが、彼らはその地理を活かす術を持っていた。
間違いなく挟み撃ちが可能。
脳内の地図と指示の内容を照合し、全員がそれを理解して頷く。二手に分かれた。
鎧姿で走るのは全員が慣れていた。傭兵時代、訓練でも実戦でも嫌というほど繰り返した動きだ。あの速度でしか走れない相手を取り逃がすことはあり得ない。
だが。
二手に分かれた五人が再び揃った時、つまりは一本道の両側から互いを視認したとき、
追っていた女の姿は、どこにもなかった。