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研究

作者: 伊坂倉葉

Loading…

 Cは、研究者だ。

 何の研究をやっているかは敢えて言うまい。別に言う必要もないし、知れば後悔は必至だ。

 彼に、一通の手紙が届いた。それは要約すると、こんなものだった。

 『貴方に頼みたいことが有るのです。7月12日12時迄に、××まで来てくれませんか?報酬は、貴方が望むだけ出します。如何でしょうか?』

 本当は便箋十枚に渡る大作だったが、大体はお世辞と挨拶で埋め尽くされていて、言いたいことは最後にちょこんと書いてあるだけだった。

 Cは憤慨した。

 下らない言葉で埋められた手紙は嫌いだが、こういう手紙はもっと嫌いだった。

 しかも、己が誰かすら名乗らない。本当に苛々する。

 だがしかし、この依頼には興味がある。なんたって、この報酬額だ。望むだけ?そんなに報酬を用意して、何をさせようというのか。

 胸には疑念と興味が渦巻く。怪しいぞ。いやいや、只の大富豪の好事家なのかもしれない。

 欲とは恐ろしい。怪しいぞ、怪しいぞと思いながらも、行きたいという気持ちを押さえられない。

 研究には金が必要だ。勿論スポンサーを集めるのも手だが、

 「そんなに幾らでも貰えるならスポンサーすら必要ない…」

 これからわざわざスポンサーを集めなくても金が有り余るほどある。

 その状況を想像した彼には、どう動くかなど既に決まっていた。

 7月12日。つまりは、明日だ。明日は特別予定が入っている訳でもなく、断る理由もない。

 Cは手帳を取り出すと、7月12日に予定を書き込んだ。


………………


 7月12日。午前11時50分。

 Cは、とあるビルの、地下2階に来た。

 研究所は今日は休みだ。助手達は皆、休みを取らせた。

 コツン、コツンと踵と床がぶつかり合い、小気味良い音がフロアーに響く。

 空気はひんやりと冷たく、夏の暑さは何処にもなかった。最も、まだそんなに外も暑くはないが。

 このビル、廃ビルのようだ。

 壁には亀裂が走り、天井の蛍光灯もチカチカと瞬いている。

 所々コンクリートが露出している床にはうっすらと埃が積もっていて、喘息持ちの彼にはなかなかきつかった。

 「…カビ臭いな」

 すん、と鼻を鳴らしながらCが告げる。

 そして、廊下突き当たりのドアを開ける。


 「Happy Birthday!」


 開けた瞬間、パン、パンと湿気った音を響かせながら、色とりどり紙テープが一斉に飛び交う。


 「……」


 当然、突然のことで驚いて固まったCにその紙テープは全てかかる。

 最初驚いた顔をしていた彼だが、紙テープを飛ばした犯人達を視界に捉えて、その頬を緩ませた。


 「お前ら…」


 そこには、ニコニコしながらクラッカーを構える助手達の姿があった。


………………


 「しかし、感心しないな。嘘を付いて誘き出すとは」

 「仕方無かったんですよ、ああしないと研究熱心な先生反応しないし」

 隣に座っていた20代であろう女性助手が返答した。

 「あの長文も君達か?」

 「ええ。ああして、私達だと思わないようにしたんです。先生が途中で飽きて捨てないかと心配しましたが、杞憂でした」

 「そうか…しかし、ありがとうな」

 「いえいえ」

 にこにこと助手は笑ったまま、首を横に少し傾けて手を横に振った。

 「本当に嬉しいよ、こんなサプライズパーティー……これで元気を貰えて……生物兵器の準備も進むというものだ」

 「それは何よりです」


To be continued……


四作目です。

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