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プロローグ
元ネタはゲーテの『ファウスト』です。(二次創作ではありません)
はっと気付いたら、僕は教室の真ん中で座っていた。――
僕は周りの皆と同じ黒の学生服を着て、周りの皆と同じように授業を聞いていた。
……これは一体どういうことだ? 何で僕はこんな所にいて、こんな所に座っている? わけが分からない。ここはどこだ? いや、そもそも、――僕は誰だ?
「……渡瀬、どうした? 分からないのか?」
「いえ……」
角刈りの英語教師が、僕を指名していた。渡瀬?……そうだ、僕の名前は渡瀬だ。渡瀬幸次だ。
僕は先生の指示通り、それが当然のように前の黒板へと進み、すらすらとチョークで英文を書いた。書き終わると、心臓がちくりと痛んだ。
『To that moment I might say – Stay a while, you are so beautiful!』