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短編

wish

作者: 夜風 牙声

何がいけなかったのかな。



短編というより詩に近い。

冷たい牢に閉じ込められてからどのくらい経っただろう。この暗闇の中では僅かな光すら届かない。


いつからだった?


もう何も分からない。



私の代わりに消えた彼は『生きろ』と言った。この暗闇の中、たった独りでどうしろと言うの? 僅かな希望すら失って、貴方も私を置いて逝って、一体何を信じろと言うの?


幸せだった筈の日常はいとも簡単に壊されて、希望も光も失った。






もう誰も居ない。


居ない。


居ない。






『大きくなったら何になりたい?』

問われたのは未来の話。


『他に何も要らないから、幸せになりたい』

答えたのはいつかの私。



そう、『特別』は要らないから、私は幸せになりたかったの。それは望んじゃいけないことだった?

描いた未来は幻想に終わった。




なんで、と問うた私に、向けられたのは歪んだ憎悪の眼と銃口。


『君の罪は生きる事です。』


そう言ったのは誰だっけ?




此処に在るのは冷たい鎖と何処までも続く暗闇だけ。独りじゃ立ち上がることすら出来なくて。


前も後ろも右も左も上も下も、全部全部真っ暗で何も視えない。手を差し伸べてくれる人も、傍に居てくれる人も、もう居ない。救いを求めて伸ばした手に触れたのは冷たい刃だった。




何がいけなかったの?




私を闇に堕とした人は『お前が生まれたせいでこの世界は狂い始めた』と言った。平穏だった世界が、私が生きる事で狂ったのだと。



『生きろ』と言った彼も、私も、それを知らないから幸せだった。ずっと知らないままなら、今も幸せでいられたの?




誰か助けてと、死にたくないと、何度叫んだだろうか。


結局誰も聴いてはくれなかったけれど。何度謝っても赦してはくれなかったけれど。

返ってきたのは痛みだけ。


どんなに泣き叫び赦しを請うても何ひとつ変わらなかったのだ。




重い鎖に繋がれた命はにくいくらいに未だ此処にあって。


こんな世界も、私も、みんなみんな大嫌いだ。






暗闇の中、断頭台から飛び降りる夢をみた。
















あぁ、そっか。















誰も助けてはくれないのなら。赦してはもらえないのなら。


選ぶ道はただ一つ。


悪魔がにやりとほくそ笑んだ。




『さぁ断罪の時刻だ。今こそこの世界を狂わせる者を処刑して見せようぞ。ほら早く、その首差し出してみせろ』


観衆は刃を振り翳し罵声を浴びせる。処刑人は大槍で私の体を断頭台へと押し出した。



『今すぐ楽にしてやるよ』

口を歪めた処刑人が言う。



何を今更楽になれと?


可笑しくて嗤っちゃうわ。どうせ楽になんてなれないもの。








それなら、最期まで抗ってみようか。







幸せになれないなら、赦されないなら、もういっそそれで良いよ。


生きる事が罪ならば、この世界を変えた事が罪ならば、その罪全て背負おうか。




私を断頭台に縛り付けようとしていた処刑人を力一杯突き飛ばす。


鎖はついたままで良い。地に落ちた槍を片手に断頭台から飛び降りた。




走り出した身体に容赦無く突き刺さる痛みは私が生きている証。それで良い。どんな痛みも罪も背負って、最期まで戦い続けてみせよう。



目指すは最奥、観衆の向こうへ。振るわれる剣で傷付けられようと、涙で視界が歪もうと、もう立ち止まる事は出来ない。立ち止まるなんてするものか。




手当たり次第に槍を振り回す。


どうせ死ぬのなら、二度と君と生きられないのなら。




また生まれ変わった君が、大好きだった人達が、笑っていられる世界を作ろう。狂った世界を正して、皆が幸せになれる世界を作ろう。


何も出来なかった私に、ただ一つ出来る事。




だから逃げないよ。どんなに痛くて辛くて苦しくても、最期まで戦うよ。


全ては、愛する君の為に。

君に笑っていて欲しいから。



突き刺さる刃を気にも留めず、鎖で繋がれた腕を勢いよく揺り上げた。




ほら、掛かってきなさいよ。こんな歪んだ世界なんて八つ裂きにしてやるわ。





そうして少女は今日も戦い続ける。


大嫌いな世界で、大好きな彼の為に。



いつか夢見た幸せ、遠い未来で君が笑っていてくれる事を願って。

この小説は終焉り消失き物語-オワリナキモノガタリ-の主人公、ミウが流を失った後にどのようにして立ち上がったのか、彼女の心情面での解釈として書いたものです。


つまり、彼=流ということです。


一緒に読んで頂けると解りやすいかと。

(尤も、連載ではまだ事件の話は出ていませんが。HPの『過去の記憶』をご覧下さると事件の内容が解ります。)



勿論、短編としてもお読み頂けます。

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