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第05話 タラチナは熟練医師に不審を抱く

 8月からの入学が決まりヨシトは準備に追われ、何となくせわしない日々が過ぎていく。

ちなみに、惑星ルミネシアでの1年は12カ月で360日、一月は30日で一日は24時間である。

8月と言っても今は春の時期であり比較的過ごしやすい。これは恒星ピアの活動により気候が変化するため公転周期と関係なく季節は移り変わるためである。ここ何十年かは、およそ二年に一度夏が来ており安定期と言ってよい。


 そのようなわけで、ウキウキ気分のヨシトの所へ男が訪ねて来たのは7月25日、つまり大人たちがミーティングをした四日後の事だった。


 その男は、身分証明書を提示し、アレク=バーストと名乗った後、自分は医師でヨシトにもっと詳しい検査を受けさせたい旨を申し出た。

その日はナタリーメイ院長が不在であり、たまたま居合わせたシスタールシアが男嫌いのタラチナとともに応対に出たが、孤児院の応接室で会ってみたその医師に対するルシアの第一印象はかなり良かった。いわゆる、ナイスミドルという感じで、人生の経験に裏打ちされた重みを感じたからだ。


彼は、ルシアに話しかける。

「私は、脳生理学専門の医師であり、主に重度の記憶障害の治療をしております。また、肉体、魔力体の再生医療にも通じております。いきなりで驚かれたでしょうが、今回のヨシト君を診た者の中にたまたま知り合いが居りまして、相談を受けた事でこちらに伺ったわけです」

「それはわざわざありがとうございます。ですが、これ以上ヨシト君を診察する意味が解かりません。保護者である者からは、彼は健康体だと聞いておりますが」


「一見そう見えるかもしれません。もちろん、詳しい事は検査してみないと解らないが、ヨシト君を診察した医師によると、彼は魔力改造を受けているとのことです。この意味がわかりますか」

「いえ、何か問題でもあるのですか」

「このまま放置すれば命にかかわります」

「えっ」

「私はその分野の専門医であり、治療できる可能性があります」


「そんな……。とても信じられません。いえ、信じたくないです」

「お気持ちは察しますが、一刻も早く検査、治療に取り掛かるべきです」


 ルシアは驚いたが同時に納得もした。

以前から感じていた事だが、ヨシトの教育方針や里親をどうするか等の展望を話し合う時のナタリーメイは非常に慎重であり、また、その感情に暗い影のような物が見えたからだ。

ルシアは自らが持つギフト『浄化』の影響か人の負の感情に極めて敏感である。

更に学生時代アレク=バーストという名前を聞いた事があり、確か記憶再生のスペシャリストだった覚えがある上、本人の説明とも一致する。話を聞いていても、善意で申し出ている事は明らかであり、ルシアとしては断る理由が無かった。


「……わかりました、保護者が戻り次第、相談してそちらに伺います」

「出来れば今日中に連れ帰りたいのです。もちろん唐突なのは承知しています。ですが、彼が魔術行使されてから相当の日にちがたっていると考えられます。頭脳調査官による『探索』の魔術の影響もあるかもしれません。思考紋が消えてからでは遅いのです」

さすがに急すぎる展開にルシアは悩む。このまま自分が同行して、検査を受けさせた方が良いのだろうか。


そんな時、タラチナが自分を呼んでいるのに気がついた。

アレク医師に断りをいれて、タラチナに連れられて別室までおもむく。

どうやら聞かれたくない話でもあるようだ。


 事務室の横にある給湯室に付くとタラチナがおもむろに話し出した。

「彼には帰ってもらった方がいい」

「えっ、何で」

「院長先生が不在なのに決めてはダメ」

それはルシアも考えたが、一刻を争うかも知れないし、論理的に考えても検査を受けさせない選択肢は無いだろう。

「あいつは、うさんくさい」

「タラチナ、彼は後ろ暗い感情は持ってないわ。何より彼には何の得もない話でしょ」

「あいつは嘘をついている」

「そ、それはっ!いつ、どんな話をしてる時に感じたの」


タラチナのギフトは『魔力視』であり、その派生能力の一つに相手の嘘を見抜く力がある。

これはもう、オリジナルギフトと言っていいだろう。


「ヨシト君の命が危険だと言った時」


これはさすがに問題だ。彼女の人格もギフトも信頼できる。

だが、念のため確かめてみる。

「タラチナ、それはあなたの個人的な好き嫌いの影響は無いのね」

「あたりまえ」

「……解ったわ、彼には帰ってもらいましょう」


 タラチナ=イシュタリア、彼女はその美しさと相手の嘘などを見抜くことにより一時は[真実の銀鏡]とまで言われたことがあり、過去に何があったかは知らないが、男嫌いで嘘はつくのもつかれるのも極端に嫌う。でも、無愛想に見える半面、非常に子供好きで優しい性格を持っている彼女がヨシトの不利になる事を言い出すはずがない。

アレク医師にいくら好印象を持っていたとしても人生の先輩で、付き合いの長い同僚の意見を無視するほど彼女は愚かではなかった。


「お待たせして申し訳ありません」

「いえいえ、気になさらずに。それで話し合いの結果はどうなりました」

「申し訳ありませんが、保護者であるナタリーメイ=ウッドヤット院長が不在の時に決断出来る話ではありません。あさって27日には帰っているはずなので、お気持ちが変わらなければ再度ご来訪いだだき院長先生とご相談いただけますか」

「なるほど、確かに急な話ですから、とまどわれるのも解かります。しかし早ければ早い方が都合がいいのも確かです。御迷惑でなければ、院長先生がご帰宅される正確な時間はわかりますか」

「明日の20時ごろの飛空便で帰ってくる予定です」

「ほぼ最終便ですね。了解しました。私が今いる宿屋の連絡先を残して置きますので、もしよろしければ、都合がつき次第、連絡いただけますか」

ルシアとタラチナに異論はなかった。


「それでは、今日の所は失礼しますが、最後にヨシト君に会えますか。もちろん診察をする訳でなく、ただ単にどんな様子か見ておきたいのです」

さすがにこの申し出は断れない、というか面会ぐらい不審人物以外なら誰でも出来る。

それでも、タラチナは良い顔をしなかったが、さんざん失礼を働いている意識のあるルシアはヨシトを呼んでくることにした。



 タラチナとアレク医師、二人が残された孤児院の応接室では沈黙が支配していた。

それを破ったのはアレク医師からだった。

「ずいぶんと警戒されてしまったようだ『銀の鏡』」

「その呼ばれ方は不快」

「ではタラチナ女史とでも呼ぼうかね」

タラチナがうなづくと彼はさらに言葉を重ねた。

「あなたのギフトの事はもちろん知っているよ、有名だからね。私の話の何に嘘を感じたのかは解らないが一つだけ確かな事がある。ヨシト君が受けた心身への改造は、確実に彼の身体を危険にさらす、おそらく命まで失うだろう。どうかね、私の言った事に嘘があるかね」


「……いいえ」

「それさえ解ってもらえれば良しとしよう」

それ以降、二人が会話を交わす事は無かった。



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