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第03話 調査官は目の前の奇跡についてに悩む


 ヨシトがこの世界、惑星ルミネシアに着いて、およそ10日が過ぎた頃。

ルシアとナタリーメイは顔を突き合わせて彼の今後の教育方針について話し合っていた。


「学校に通わすのは当然として、果たしてどの学年に編入させるかですね」

「シスタールシア、彼の場合は当然ではありませんよ。相当の期間、家庭教師を付けることもありえます。場合によっては精神科の医師か学童カウンセラーに見てもらう事も想定しておきましょう」


ルシアはナタリーメイの意見に十分納得しつつも、疑問に思っている事を述べた。

「確かにその通りです。でも、ヨシトくんの精神状態は安定してしているように見えます。ここ最近は院長先生の畑仕事を手伝って大活躍してるそうじゃないですか。今は社交性を養い、友達を作るためにも可能な限り早く学生生活を送らせては」

ナタリーメイ院長は紺色の髪に灰色の瞳を持つ、思慮深い顔に悲しげな表情を浮かべつつ語った。


「確かに素人目にはそう見えます。でもね、つい先日気付いたのだけど、あの子はふとした瞬間にひどく大人びた表情を見せるの。まるで、哀愁漂う仕事帰りの公務員の様にね」

ルシアは唾をごくっと飲みこむと、かすれるような声で尋ねた。

「それは無意識のうちに、ひどく精神が傷ついてたり、親に捨てられたことによるトラウマをを抱えていたりするのでしょうか」

「こればかりは解りません。普段の彼はケント君や先生方と仲良く過ごしており、何の問題も無いように見えます。ただ、一つだけ間違い無いことは、彼の体が同年代の子と比べて、極めて未成熟であることです。異常な食欲も続いていますし中等部に通わすのは慎重にならざるを得ません」


 神聖リリアンヌ教国の学習制度は、3~4歳が幼年学校、5~7歳が初等部、8~10歳が中等部で10歳の時にギフトを知る神託を受けて一般高等部か専門職の学校を決める。ここまでが義務教育とされ、15歳で成人を迎え就職か大学等への進学かを決める。ちなみに、15歳までなら人間族は教育費は一切掛からない。また、大人用の学校も多く、仕事を続けながら学校に通ってる人もいる事を付け加えておく。

閑話休題。


「それならヨシト君の現状を精神、学力、体力、魔力に分けて、調べてみましょう。あの子にとってマイナスにはならないでしょうから。ただし、精神的に不安定になるなら中止する方向で」

はきはきと答えるシスタールシアは、どうも学校に通わすことに積極的な様だ。ナタリーメイは、心に不安を抱えつつも彼女の若さからくる積極的な意思を好ましく思った。

「知り合いの教育長に相談してみましょう。本来、8歳なら既に自分の進路を決めている子も多いのですから」


 これによって、話し合いから三日後、日本で言う教育委員会のお墨付きで、専門家を使ったヨシト君だけの為の四日間に渡る実力試験の日々が始まったのである。


日程は以下のとおりである。

一日目、身体検査と対面調査および体力テスト。

二日目、三日目、中等部編入用程度の全教科の学力テスト

四日目、魔術適正テストおよびカウンセリング


 一日目、午前中は身体検査と専門家による対面調査である。

彼のことを孤児院側より相談を受けた学校教育行政官は、すぐさま頭脳調査官による対面調査を決めた。

人間族は、脳に深刻なダメージを受けた場合でも、死なない場合が多くある。

しかしながら、治癒魔術や再生魔術で怪我自体が完治しても、記憶や人格に障害が残る場合があり、それは一時的なものから一生治らないものまである。

そのため、過去には理性が戻らず魔獣のようにまでなった者までいて、記憶や人格の状態を判断して、今後の生活方針を決める者が必要とされた。それの専門家が、頭脳調査官である。


 調査官の男は、目の前にいる子供を優しい目で見つめ、事前に計った身体測定表並びに孤児院院長の報告書の記載を思い出しながら考えていた。

(身長130.3cm、体重35.5kg、三歳児の平均とほぼ一緒か。非常に稀有なケースだな)


「ヨシト君、今から先生が診察するからね。怖い事は無いからね」

ヨシトの額に両手を当て、自らのギフトである『探索』を使って念入りに確認すると、頭の中にイメージが浮かび上がる。


名前 ヨシト

性別 男

年齢 8歳

種族 人間

状態 空腹 少し緊張気味 子供(神託前)

体力 99%

魔力 100%

状態異常 脳にダメージ記憶や記憶の欠損なし。人格障害なし。


(良かった、例え親が記憶を弄っていたとしても現在は正常の様だ)


 調査官は、脳の専門家であり優秀な医者でもある。そうでなければ、いくらギフトとはいえこれほど的確な情報は普通はイメージされない。ギフトでは手を当てる必要は無いのだが、こうすると自分も患者も精神的に落ち着くのだ。新人の頃からの癖だと言っていい。


 ここで、ギフト(先天的スキル)について、説明しておく。これは人なら生まれつき一つは持っている、女神からの贈り物と呼ばれる奇跡の一つである。魔術や技のようなもので、意識さえすれば、何の努力もなしに一定の力を使える。最大の利点は自分の魔力を使わないこと。大気中や地中に存在している天然魔素を使用するため、神々の力の一種と考えられている。欠点は、天然魔素を魔術に変換する効率(威力)や天然魔素の一日当たりの使用量(仕事量)の上限値がほとんどの場合、死ぬまで変化しないため、本人の努力でアレンジは出来ても、強化することは出来ないとされ、無限に使えるわけではない。

これに対し魔術や技を究めると意識するだけで使えるようになり、消費魔力が半分から10分の1程度で使用できるようになる。これを、後天的スキル又は単にスキルと呼んで区別される。


ちなみに魔術にある探索術は熟練度の低い場合、相手に接触して発動する必要があり対象者が他人に知られたくないと思っている事はわからない。わかる項目も名前、性別、年齢、種族程度で相手の名前をど忘れした時くらいしか使えないが、熟練度が上がるにつれ項目が増え、制限が緩和されていく。そしてギフト『探索』は、生物相手なら相手の意思によらず見ただけで概要その他が解る優れ物だ。ちなみに魔素を多く使う魔術とされ、制御が少し難しい上、ギフトで持っている人は少ないためレア扱いとされる。一方、魔術や技には存在しないとされているギフトやスキルも存在し、これをオリジナルギフト、オリジナルスキルと言う。

閑話休題


 彼は念のため体全体を調べるため、隅々まで手を当てていく。

そして違和感を覚えてその原因に気付いてに酷く驚いた。


(アンバランス過ぎる)


 ヨシトの体の成長と魔力の成長が合ってないのだ。

人間族の体には二つの要素があるとされ、それは魔力体としての体と肉体としての体である。確かに成長期にはこれらがアンバランスになる事があるがここまでの例は過去ない。例えて言えば、ここ最近に8歳の魔力体を3歳の身体を無理やりくっ付け押し込めたようである。これが異常な空腹の原因だと考えられる。お互いの体がバランスを取ろうとして、体肉体を魔力体に合うように一刻も早く成長させようとしていると推測される。幸いなことに、これは時間をかければ解決するだろう。

しかし、ヨシト君の両親はいったいこの子に何をしたのだろうか、体を新たに作り直して、魔蔵と脳を移植したのか。いや、そんなことは不可能だ。再生の魔術は、魔蔵と脳が無い肉体には効かない。そもそも、いくら人間族でも肉体と精神が耐えられられないだろう。

まるで、奇跡の様であり、聖職者風に言えば神の御業ミワザという物だろう。

そんな事を考えていた男は、己の考えに恐怖した。


(いくら優れた技を持っていたとしても、鬼畜にも劣る人間を神に例えるなんて)


彼は、心の中で女神に許しを請うた。そして、目の前のあどけない子供に質問し始めた。


「ヨシト君はいつからお腹が減っているんだい」

「孤児院に来てからです」

「お父さんお母さんと一緒の時はお腹が減っていたのかい」

「いいえ、お腹は減っていませんでした」


その後いくつか質問したが、全く要領を得なかった。

そして、頭脳調査官は、詮索する事を止めた。


(どうしてこんなことになったのか、その理由は気になるが、この子を捨てた両親の事より、今はこの子の将来について考えよう。)


その後質問を繰り返した彼は、調査を終えた後、詳細な報告書をまとめ翌日には教育長に報告した。


 彼が知る由もないことだが、再構成時ヨシトの「地球での8歳児」という固定概念が、肉体と精神には大きな影響を与えてしまったが、魔力体には何も影響を与えなかったため起きた事故だった。



午後は体力テストである。

あくまでも、ヨシト自身の状態を知るために、念入りに事細かく実施されたそれは、運動トレーナーでもある教師がマンツーマンに付いて行い、始めは楽しかったヨシトだがすべて終わるころにはへとへとになったしまった。



「持久走がつらかった」

「そう」

一日目を終えた後、孤児院に帰ってきたヨシトは職員のタラチナ=イシュタリアと、話していた。彼女は事務兼任の保育士で院長以外では唯一の人間族の職員だ。

あと3人、獣人の女性がいるが、彼女たちは非常勤扱いだ。


今日はナタリーメイ院長が不在の為、彼女がヨシトの様子に異常が無いかを見ているのだ。

ヨシトは無愛想だが、ものすごい美人なお姉さんであるタラチナが大好きだったので、とても疲れていたけど、ずっと話していたかった。


「でも、とっても楽しかったです」

にっこり笑うヨシトにタラチナは事務的な口調で、

「そう、よかった」

と答えた。それからほとんど無表情のまま食堂の方を透き通るような白い手で指さして、

「少し早いけど夕食。いっぱい食べなさい」

と言った。

「タラチナお姉さん、一緒に食べましょう」

「私は後」

「えぇー、一緒に食べましょう」

「わがままはダメ。早く行く」


仕方なく渋々ではあるが、食堂に向かった。お腹がペコペコだったからだ。

あいかわらず、獣人の孤児たちとは隔離されておりケント君も出かけていたため食堂で一人っきりで食べる食事は味気なかった。

「明日はテストだし早く寝よう」

少しでもいい成績を出して院長先生に喜んでもらうためヨシトは気合を入れた。

もちろん、日々の日課である朝の手伝いは続けていくつもりである。


 二日目、三日目は学力テスト。

これは、一見、問題無く終わり

四日目、魔術適正テストおよびカウンセリング

この年齢で魔術行使は行わないため魔素との親和性を見る簡単なテストである。

これらが、後々の大事件につながるのだがもちろんヨシトには知る由もなかった。



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