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第31話 ヨシトと約束


「ヨシト君、起きなさい」

体を揺さぶられ、目を覚ますヨシト。

ネイルさんが、約束通り起こしてくれたのだ。


「今何時ですか?」

「夜中の二時過ぎよ」

あたりを見回すとレミルがいない。

「レミルは、もう起きてますか」

「ええ、外に出てるわ。港の方向が明るくなったの。多分照明弾か何かだろうって」

「解りました、俺も行ってみます。ところで、小さな部屋でもいいですから借りられませんでしょうか」

ヨシトの要請を不思議に思ったネイルは訳を聞く。


「実は、港の近くに撮影魔道具を取りつけました。うまくいけば様子を見られるかもしれません。ただ此処にいる人は、幼い人達も多いので出来れば個室を使いたいんです」

ネイルは少し驚いたが、すぐさま責任者に交渉に行ってくれた。


 ヨシトは、避難所の外に出るとレミルを捜す。

直ぐに見つけて話しかける。

撮影魔道具を取りつけた事を言うと、レミルは彼をいさめる。


「無茶だよ、今から町に向かうなんて」

「さっき言ったろ、その気はないよ」

「まさか、スイッチを入れっぱなしにしてるの。そんなに魔石が持たないと思うけど」

その言葉にヨシトは笑いながら否定と肯定をする。


「半分正解だ、撮影具自体は俺が改良したもので、12時間は稼働出来る。ただ問題は中継器だ。市販品で三時間程しか魔石が持たないから、本当は町の入口まで行ってスイッチを入れようと思ってたんだが」

その意見に納得するレミル。

「僕が行って入れてこようか。君の保護者に止められたんだろ」

相変わらず妙なところで鋭い。


「場所が解らないだろ。それに、小さくて町も暗いから見付けられないだろうし、なにより危険だ」

「じゃあ、諦めるのかい」

「いや、此処から操作してみる」

あまりの事にあわてるレミル。


「此処から3キロ以上もあるよ。いくらなんでも無茶だよ。操作魔術は熟練者でも1km程で、見えてないと無理だ。まして中継器のスイッチなんて」

もっともな意見だ、誤魔化す様にヨシトは言う。


「いや、実は移送スキルを応用できないかと思ってな」

深刻な顔でレミルは答える。

「僕が知っているくらいだから、当然ヨシト君も知っているだろう。移送魔術の距離は、思考波を使って座標を特定するだけだから出来るんだ。例えマーキングしてたって、周りに何があるか何が起こってるのかさえ理解できないんだから操作なんて出来ないよ。応用だって、思考波の特性に反することは物理的に無理だ。思念波を使う魔術はそんなに遠くの物を操作できないし、此処から北口まで3km以上ある。いくらなんでも出来ないよ」


解っている。

でもこのままじゃ、此処に戻ってきた意味が無い。


「やってみるだけさ。熟練者なら1km程。たった三倍だ。意志力さえ届けば、スイッチを動かす事なら出来る。今日起った奇跡に比べれば簡単だろうさ」

そういって操作探査系魔術を発動する。

遥か遠くの町の方向へ。


 ヨシトは、術式が破綻しないぎりぎりまで強く魔力を込め、魔術を発動する。

糸を伸ばす様な術式を組み、距離を稼ぐ。

だが、1kmも伸ばすと何も感じられなくなる。


「1kmが限界の様だ」

「すごい、良くて4、5百mなのに」

だが、これでは意味がない。

強化魔術、力場展開や増幅器、自由魔素などを使って、考えられるだけの術式を重ね掛けする。

だが一生懸命必死でやっても1、5kmが限界だった。


「すごいよヨシト君。町の1、5kmまで近付いてやればできるかも」

「駄目だ」

「何で?」

驚くレミル。

そしてヨシトは、人間族らしからぬ非論理的な事を言う。


「俺はナタリーメイ院長に誓った。決して戦わず、前線には近付かないと。この場所を離れて町に近付くと、その誓いを破る事になる」

あまりの言葉にレミルは息をのむ。

「……頑固だね」

「俺は、諦めない! それ以外なら、どんな事でもやってやる」

ヨシトの心は燃え上がる。

そう、絶対に成し遂げると心に誓う。


刹那、再びヨシトにあの感覚が宿った。

やけっぱちな気分で叫ぶ。


「またか―! せっかく盛り上がった気分が台無しだ―!!」

「うぉ、…って、びっくりさせないでよ。何なの君は!」

レミルの突っ込みを無視して、ヨシトは己の記憶を確認する。


(遠隔操作だと。何だ、このスキルは。自分中心に半径十キロ以内で10m四方の空間内にある物体を把握でき、意志付けし、操作する。身体魔素をもつ生命体は無理ってことか)


そう、オリジナルスキルが手に入ったのである。


「なんて都合のいい。でも、ありえないだろ!」

ただならぬヨシトの様子に、レミルはおっかなびっくり聞いてみる。


「一体どうしたのさ。さっきから変だよ」

「レミル、大丈夫だ。…少し時間をくれ」

ヨシトは、たった今、手に入れたスキルに付いて考える。


(つまりあれだ、遠くの物を動かしたり引き寄せたり出来るスキルって訳だな。とりあえずやってみるか)

発動すると、まるで四角いサーチライトのように遠くの空間にある物を把握できる。

色は解らないが、立体的に物体の内部の形状まで解り、距離も自由自在だ。


 ヨシトは考えるのを止め、中継器を捜す事に集中する。

そしてあっさり見つかり、わずか数ミリのスイッチに意志付けし、動かす。

簡単にスイッチが入り、中継器が作動する。

おそらく港近くまで伸ばせるので、撮影魔道具のスイッチさえ動かせるだろう。


(つまり、操作と立体把握と意志付けを行えるオリジナルスキル。しかも、俺に見えない位置や建物の中まで解るってことは、探査系魔術の要素も入っているって事だろう。恐らく思考念波を使って空間の魔素の情報を読み取っているんのだろう。思考念波系魔術を使える人なんて、この国でさえ5人もいないはず。俺自身と相性がいいのは解っていたけど、普通、スキルにするには、200年に近くかかるぞ。何より距離がすごすぎる。半径10kmってことは首都全体を把握可能ってことだぞ。出来る事は地味だが悪用し放題じゃないか)

さすがにこれは秘密にしようとヨシトは思った。


「それよりレミル。さっきから撮影魔道具の信号が感じられる」

「えっ、ちょっと待って。……本当だ。何でだろう」

「とりあえず、もう中継器のスイッチにこだわる必要が無い事だけは事実だ」

「本当にそうだね、僕、気付かなかったよ。さっきからのヨシトくんの変な反応はこの為だったんだね」

すまなそうに謝るレミルに、ヨシトの気持ちは後ろめたく思う。

「……とりあえず、避難所へ戻ろう」

二人はネイルさんの元へ向かい、歩いて行った。


 ネイルさんの横には人間族の男がいた。

その男は、此処の責任者であると名乗るとヨシトに確認してきた。


「君、ネイルさんに聞いたんだが、町の様子が見れるかもしれないと言うのは本当かね」

「はい、信号を感じませんか」

ヨシトの言葉に、男は感知魔術を使って確かめる。

「本当だ、電磁波だな。しかしこの波長では減衰がひどくて5km程しか届かないだろう」

ヨシトは、男の意外な博識に驚く。

「はい、その代わりにたくさんの情報を送れます」

「なるほど、とりあえず見たいんだ。お願い出来るか」

「はい、ただしスクリーン代わりになる白い壁か、それ相当の物が必要です」

「大丈夫だ、それと何人かが一緒に見ることを希望している。構わないか?」

「はい、中継器の魔石が長くても3時間程しか持ちません。急ぎましょう」


 急いて案内され入った部屋は、机の周りに椅子の並ぶ10畳ほどの会議室のようだった。

スクリーンがあるので、多目的な用途に使うんだろう。


 見学希望者が、それぞれ席に付き、責任者がスクリーンを下ろす。

ヨシトは、撮影魔道具からの電磁波を受け取った受像機が、信号を映像に変換しているのを確認すると、光画魔術を使って平面映像をスクリーンに投写する。

立体映像じゃなく、受像機の受け取った映像をそのまま映してるだけなので、ヨシトにとっては一日中でも行使出来る。

 本来の受像機は写真を撮るためのものだが、ヨシトは撮影魔道具と組み合わせ、それを改良する事で遠くの物が見えるようにしたのだ。

ちょうど地球で言うなら、移動式ワイヤレスカメラのセットである。

市販されている魔術機械や魔道具の、ちょっとした応用であるが、ヨシトの発明品であり、今後、市販される予定となっている。

最も、遠隔操作スキルを手に入れた今では、彼自身にとってはそれほど役に立たない物だろうが。


 ヨシトの魔術でスクリーン上に町の様子が映し出されると、聴衆から「おお!」と言う声が上がる。

町は、照明機や照明弾により明るく照らし出され、海の方まで良く見える。

(良かった、無事作動している)と、ヨシトは胸をなでおろす。


 空には軍用飛空艇が配置し、海に対する擁壁ようへきのこちら側には恐らく軍人であろうか、多くの人達が動き回っている。

(やっぱり、一秒10コマでは動きが不自然だな)


 そんな事を思うヨシトだが、映像を魔導電磁波に変換して受像機に映す[テレビ]は、まだ普及していない。

これは、ある程度確立された技術であるが、何せ受信範囲が狭く、大量生産技術が結果的に制限されている、ここ惑星ルミネシアでは、高価で調整が難しく一般的ではないからだ。


「まだ魔物の姿は見えないな」

「どうせなら来なければいいのに」

「全く、いまいましい。化け物どもめ」

次々に聴衆から声が上がる。

だが、規模や時間はともかく、託宣が外れた事は過去一度もないのだ。


(もし中継器の魔石が切れたら、此処の上空から遠視魔術で見よう)

ヨシトはそう心に決め、港近くの映像を見つめる。

時間は深夜3時を過ぎ、会議室に集まった人達は時を忘れたように、ただじっと映像を見つめている。

あたりまえだが、町の音は聞こえない。

これは決して、映画などでは無いのだ。


その時、町の様子に変化があった。

海の上に、次々と照明弾が撃ち込まれていく。

「……来た」

暗い部屋の中で、誰かがつぶやく


そしてそれは、現れた。




設定追加

[思考波、思念波、思考念波]

いずれも、思考力を伝える物。

人が操れるのは、この3種。

それぞれ、意志力を伝える力、距離、性質が違う。


意志力  思念波>思考念波>思考波

距離   思考波>思考念波≧思念波


性質

思考波

こちらの意志を一方的に伝える。

魔素の意志付けも難しく、操作など当然出来ない。

固体も通過できない。


思念波

一般的に、魔術に使われる。

双方向の情報伝達が可能である。

制御すれば、固体さえ通過できる。


思考念波

使い手は、世界で100人ほど。

自由魔素のみを媒介にしており、魔力消費は10分の1程度。

双方向の情報伝達が可能である。

物質をほぼ減衰なく、透過出来る



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