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第02話 ヨシトくんお腹が減る

設定、説明話です。

 ヨシトがこの世界、惑星ルミネシアに着いて、はや三日が過ぎた。

初めは慣れない場所で、いろいろと子供なりに気を使ったが、元々図太いのかあっという間に馴染んでしまった。

 聖マリアネア教会に併設されている孤児院で、今日も元気に暮らしている。


 ちなみに、この世界での1年は12カ月で360日。

1日=約24時間。

一週間は、8日8曜(日、星、魔、水、木、土、闇、風)である。


 今ヨシトが住んでいるのは、赤道から北にひろがるガレア地方にある人間族の国で、名を神聖(しんせい)リリアンヌ教国(きょうこく)と言う。

比較的温暖で、はっきりとした四季など無く、南を中海(なかうみ)に面した地球で言うインド程度の面積のある強国であり、戦争などここ100年ほどは関与さえしていない。高度に進んだ文明を持ち大量生産大量消費文化はないが、世界に満ちた魔素により、魔術技術を用いた高い生産性を有している。そのため人間は、高い教養を持ち、政治も選挙で選ばれた代議士が行い、治安もよい。


 聖マリアネア教会のある首都ネオジャンヌは、周囲を赤茶けた高い擁壁に囲まれた直径20キロ程の計画都市である。人口約80万人のうち人間族が9割、残り1割が獣人族で、ほとんどが出稼ぎ労働者である。町並みは、低層の建物が目立つもののレンガや木造の建物は少なく、魔術を使った色とりどりの石造りの建物がほとんどであり、道幅もかなり広めだ。中心部は官公街で白に統一され、その近くに商業地域や高級住宅地があり、都市全般に、簡易的な上下水道が完備されている。地球の都市との一番大きな違いは植物が非常に少ない事で、これは擁壁に魔獣や植物、害虫よけ等の強力な魔術結界を使っているためである。

擁壁は戦争時代のなごりであり、今現在も残っているのは魔物の襲撃に備えてである。


 魔物とは人の敵で、この世のことわりを外れた物。

地面から湧き出すとされ、その種類別に固有の魔術を使う。

種類が非常に多様で、亜種と呼ばれる突然変異も多い。

雌雄同体が基本で、単独で卵を産んで増える。

本能のまま惑星の魔素を限界以上に取り込んで出世魚のように、だんだんと強くなる。

強力な個体ほど長く生き、強力な卵を産むが繁殖力は弱くなる。

定期的に討伐を行ってはいるが、魔素災害と共に大量発生する場合があり、人間族にとっての最も脅威の対象である。


 首都ネオジャンヌの事に話を戻すと、道路は石畳で舗装され、公園が多くスラムもない。

都市外には隣接した飛空場があり、人間族の国とその衛星国との間には街道も整備されてはいるが、魔術により重力を簡単に操れるこの世界では、空飛ぶ乗り物での移動が一般的である。

文化技術水準は、ラジオ放送があり、図書館、美術館、大劇場、魔術による立体映画館やスポーツ施設やクラブチームもあり、最近は紙芝居の様なテレビ放送も始まっており、地球の20世紀前半程度のレベルは十分にある。


 もっとも、そんな治安の良い街であっても、子供を身一つで孤児院の前に置き去りにするのは論外であるが。


 マリアネア第二孤児院というのが、ここの正式名称だ。

豪華な意匠の教会に隣接する質素な薄茶けた石造り2階建て中に、ほとんど満杯の大体80人くらい子供たちが暮らしているが、人間族の子供はヨシトを含めて五人だけだ。

そのうち三人は15歳で、親が都合で引っ越してしまい、学校を卒業するまでの間、一時的にあずかっているので孤児ではない。

この国では人間族の成人年齢は15歳なので、彼らは実は子供ですらないが。


 ちなみに獣人族の成人年齢は10歳だ。

孤児院が、このような学生を預かるのは珍しいが、これも院長であるナタリーメイ=ウッドヤッットの人徳にひかれてのことであり、実質は下宿人として親がお金を払っており、対外的にはゲスト扱いだ。


 孤児院の部屋数は多くなく、特に幼い内は大部屋での共同生活が基本である。だだ例外的に、幼い獣人族の子供は病気に弱く、感染を防ぐため同世代の人間族の子供とは別々の部屋で過ごしている。

そんなわけで、4人部屋に2人で暮らすという贅沢なのかどうか微妙な状態のヨシトのルームメイトは、ケント君という名の3歳児だ。


 とはいえ、この世界での子供の成長を舐めてはいけない。

地球で言うところの10歳児位の心身をもっているのだ。

そもそも、妊娠期間からして違う。

人間族は約半年、獣人族に至っては三カ月ほどで生まれてしまい、なんと第二次成長まで終わるのが3歳くらいだ。

5歳になる頃には、多少の種族差はあるが、見た目は大人とほとんど変わらない。人間族はそこまで早くないが、8歳ころまでには、第二次成長は終わる。

ただし魔力の育成には、遅い子で15歳くらいまでかかる。


 これがシスタールシアが、ヨシトのなんちゃって両親の虐待を疑った最大の理由だ。


 つまり彼は、見た目が3歳児と変わらない8歳児なのであり、精神も年齢より少々幼い。

こんなことは、幼児期に食料をほとんど与えられないで生き延びた子供にしか、普通起こり得ない。


 なんで、こんなことが起こったかと言えば、送還時、体が再構成される際、ヨシトの「8歳ってこんなもんだろう」という地球での常識が邪魔して女神様の術式が歪められてしまったために起きた不幸な事故である。


 このようなミスは管理者たちとのミーティングの際、人間族の8歳が地球人の中高生くらいの心身を持っていると聞いておけば起こらなかったのだが、ヨシト自身が、その結果責任を負うのだから責められない。

もちろん、決して女神様の責任ではないのである。

そもそも管理者たちに、人間の細かい心の機微(きび)など解るはずがないのだから。



 夜になってヨシトは自分たちの部屋に戻り、就寝時間が来て女神様にお祈りをする。

これは、お母さんに教えてもらった寝る前に必ずする習慣だ。

しばらくたつと、向かいの二段ベットの上の段から、ケント君の寝息が聞こえてくる。


 考え事をしていて目がさえてしまい、ベットの端に腰掛けて、現在2つある頭を占める悩みについて思いを巡らした。


 ひとつめは、これから見る前世の夢についてである。

はじめて見た時、自分の赤ちゃんのときの記憶を思い出したかと思ったが、どうやら違うらしいと、すぐ気付いた。

これが、お父さんの言っていた前世の記録らしい。

なぜなら、出てくる人々の言葉が全くここの言葉と違ったからだ。


 夢の中の自分は、猿人に似た人達に育てられているようで、どうやら前世の両親や親戚らしい人も、たくさん出てくる。

ヨシトが不思議に思うことは、風景がぼやけてはっきりと見えないことだ。


 これは、かなり未熟な状態で生まれてくる地球人の赤ちゃんの事を、ヨシトが忘れてしまっているためで、女神様が与えてくれた一般常識では、人間族は生まれてすぐに目が見えるため、全く予測がつかないからである。


 では一体、何を悩んでいるかと言えば、その記憶があまりに退屈だからだ。

これが続くと思うと、すごく憂鬱だ。

考えてみてほしい。

赤ちゃんの時の記憶など、特に興味深いことはない。

唯一救いなのは、この三日で向こうの日数に直すと三カ月ほどが経過したことである。


 なるほど、お父さんの説明通りである。

(前世の記憶を思い出す際、心が負担を感じない場合、思考は加速される)


 でも、なんで前世の記憶が必要なのかが解らない。

おかあさんに教えてもらった、この世界の常識と違うのはわかるのだけれど。


「人間族の赤ちゃんは、三カ月で歩くのに」

それを考えていると、自分が8歳にしては小さすぎると気付く。


「僕が変だからお父さんとお母さんは捨てたのかな」

昼間、同室のケント君とけんかした時に

「やーい、捨てられっ子。そんな人間はじめて聞いた」

と、泣かされたことを思い出して、すごく悲しくなった。


 ケント君は両親がいない。

でも、新しいお父さんとお母さんが、今年中に迎えにくるそうだ。

里親というらしい。

 今は7月だから、あと半年もない。

 ケント君のことは、あんまり好きじゃないけど、部屋に一人っきりになるのは寂しかった。


「僕は、一人ボッチじゃないや。お父さんとお母さんは、生きてるんだ」

少しだけ気持ちが楽になる。

そしてケント君のことを偉いと思った。


「僕がケント君だったら、お父さんお母さんが死んでしまったのが悲しくて、ずっと泣いてるだろうな」

明日、仲直りしようと思った。


 ふたつめの悩みは、もっと切実だ。食べても食べてもお腹がすくのである。

この世界の常識では8歳にもなれば、人間族の子供は一日一食、多くても二食だ。

でも獣人の子供と一緒で、一日三食にしてもらっているのに全然足りないのだ。


 院長先生が言うには、

「あなたは、今まであまり食べてなかったみたいだから当然です」

そして、お皿に山盛りいっぱいのパンと果物をのせながら、にっこりと笑ってこう言った。

「気にせず好きなだけ食べなさい。おかわりもあるからね」


院長先生に申し訳なくて、おかわりは出来なかった。


(ナタリーメイ院長先生、僕はマリアネア第二孤児院に、あまりお金がないことを知っているんです。)


 その理由は、獣人族の孤児たちには国から一切のお金が出ないからだ

ナタリーメイ=ウッドヤットは、政府のその政策に反対していて、抗議の意味も込めて国からの運営資金さえも一切受け取っていない。

 更に、教会からは、孤児院設立時に約束していた年間の運営資金しか貰っていない。

 聖マリアネア教会は寄付も多く資金も潤沢だが、そのお金は孤児院あてに貰ったものじゃないからだ。


 そのため、彼女は孤児院への寄付を日々お願いしている。

しかし、この街にいる獣人族の多くは、出稼ぎに来ている労働者で、お金に余裕がなく、余裕がある人も人間族に渡すくらいなら、故郷にいるもっとつらい境遇の孤児へと考えている。

この街の豊かさがネックになっているのだ。


 では、この街の人間族はと言うと、孤児の両親に対する嫌悪感が強いため、財布の紐が固い。

「何故、子供を捨てるのか、そもそも、育てられないのに何故作るのか。下手に援助したら、そういうろくでもない親を引き寄せるのではないか。」


 また孤児たちも生きるためとはいえ、ストリートギャングやスリ、置き引きなどの犯罪に手を染める子も多く、寄付が集まらない理由にもなっている。


 彼女は繰り返し訴える

「人間も獣人もない、同じ神の子ではないですか。彼らに教育と人の愛を与えてやってください」

 だからナタリーメイは、一人でも多くの孤児を救うために自ら街の外に畑を作って、毎日荷車いっぱいの野菜や果物を運ぶ。

夜が明けぬうちから往復10キロの道程を。


 ヨシトは頬を叩いて気合を入れると、決意を述べる。

「僕はまだ子供でお金がないから、せめて明日から先生を手伝おう」


 しかしながら次の早朝、子供のくせにさんざん夜更かししたため寝過してしまったヨシトは飛び起きて叫んでしまい、びっくりして起きたケント君と朝からけんかをしてしまった。


 それでも、あきらめず院長先生の後を追いかけたヨシトは、結局道に迷ってしまい、更に院長先生の仕事を増やしたのだった。


結局ヨシトにとっての一番の悩みは、自分自身がどうしようもなく子供だという事だった。



ガリア地方の地図

挿絵(By みてみん)

http://8750.mitemin.net/i75343/



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