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第13話 ヨシトは自分の本性を知る

前話の続きからです。

「はあ、なんかどうでもよくなったというか、割り切れないというか」

「ルシアはそれでいい」

孤児院の談話室での四人の話し合いは続く。

議題はギフトの内容についてに変わって行く。


「でも3つ目のギフト『防御』って、本当に先天的スキルなんでしょうか。魔術陣上に名前も現れなかったし、名称自体も普通にある物だから、実は、後天的スキルとか」

「普通はありえないけど、ありえますね。前例が無いのが同じなら、ルシアの意見の方が納得できます」

ナタリーメイの意見に、4人とも頷く。


 後天的スキルは神託を受けた後、何の脈略もなく身に付く場合もある。通常は魔術や技を究めると意識するだけで使えるようになった物で、最大のメリットは消費魔力が半分から十分の一程度で使用できることである。ただ、魔力ベースは自分のもつ身体魔素を使ったものであり、天然魔素のみを使うギフトとは別物だ。



「確かめてみましょう」

ナタリーメイが提案する。

「どうやってです。俺自身、まだよくわかっていませんよ」


「私がいる」

そうだ、タラチナならほぼ完ぺきに魔力の流れを追う事が出来る。


「その前にヨシト君は、三つのギフトについて説明をしなさい。『錬金』と『複製』の二つについては申請用紙には概要を書き込む必要があります」

ナタリーメイの言葉にうなづくとヨシトは頭に浮かぶイメージを語り始めた。


「『錬金』は元素を創る能力です。常温で固体の物質しか創れません。化合物とかも無理みたいです」

「普通のレアギフトですね。さすがに魔黄白金とかは無理か」


 ルシアが自分で言った言葉「普通のレアギフト」は変な表現だなとか考えているとナタリーメイが解説する。

「ちょっと待ちなさい。『錬金』ギフトは術者によって元素に対しての相性があり、多くても5種類ほどの金属に限定されていたはずです。製造量も多くても一日数百グラム程度です」

「鉄とか銅とかだったら悲惨」

タラチナが茶々を入れる。


「そうでもありません。副次的な効果として、その金属の分解ができます。使い方によっては有用なギフトです」

「えっと……、はい確かに。金属魔素結合に干渉して、粉のように出来ますね。製造量はちょっとわかりません。相性は……、常温で固体の元素としか思い浮かびません、金属だけじゃないみたいですね。あっ、条件がありました。前もってその元素に触って構造を記憶する必要あり。最大記憶数は10個程度で入れ替え自由と」


「元素の構造を記憶出来るのですか!!」

この世界では、元素構造は詳しく知られていない。

ナタリーメイが驚くのも無理ないだろう。


「はい、でも、俺自身が解析出来ないと思いますよ。何か理解せずに創れるというか、俺の意志とは関係ないというか」

「なるほど、それは他のギフトと同じですね。やはり本質的な部分は神の力なのでしょう」

ナタリーメイはメモをとりながら概要をまとめる。


「次は『複製』ですね。これは簡単です、同じ物を造るギフトです。生物は無理です。でも死体なら可能って、そんなの造りませんよ。つまり、意思を持つ物に対しては制限がかかっているみたいですね」

「そんなギフト聞いた事ありませんよ。『複写』とは違うのかな」

ルシアの叫びを聞き、ナタリーメイは解説する。

「やはりオリジナルギフトですね。『複写』は平面の情報を読み取り、記憶し写す技術です。立体の複写と言っていいかもしれませんね」


 ヨシトは、更に思い浮かぶイメージを語る。

「制限はきついですね。重さとかでなく、体積の制限あり。一日10立方メートルまで、魔力結界を作り、その中に入る物の情報を読み取り複製する。結界の形は自由に変えられるが、固体は完全に包み込む必要あり」

「私が『浄化』を使う時の魔力結界と同じだ」

「ルシアのは、一日100立方メートル。ルシアの勝ち」


「何より材料の元素が必要です。複製元と比べて同量以上の元素材料を別の結界で囲う必要あり。その魔力結界の中で複製品が造られます。その材料は化合物も可能。あっ、副次的な能力として双方の魔力結界に含まれている、元素の種類と質量が解ります」


「新品の剣と鉄屑があれば、同じ物が作り放題。ヨシト君は商売人になるべき」

「タラチナの言うとおりかもしれませんね。両方とも生産系のギフトです」

「いや、いきなり俺の職業を決定しないでください、お二人とも」

「実際、そんな事をしなくても、偽札を作り放題」

「それ、全部同じ番号になりますから。それに魔術刻印は複製できません」

「でも、10000ギル硬貨なら可能」

「……」

「ちなみに、貨幣偽造は重罪」

「しませんから」


ナタリーメイが話を戻す。

「ふたりとも、冗談はそれぐらいにしておきなさい。それにしても、恐ろしいくらい有用なギフトです。このまま報告するのはどうかと思うくらいに」

ナタリーメイはため息をついた。


 気を取り直して、ヨシトは話し出す。

「最後に『防御』ですが。それよりルシアさんどうしました、さっきからほとんどしゃべってないような」

 ルシアは元気なく答える。

「今日、急に院長先生から儀式に立ち会うように言われた時、なんとなくこうなる感じはしてたんですよ。でもね、その斜め上を行ってると言うかなんというか」

「同感」

「なんかすいません」

ヨシトが何となく謝ると、ルシアがあわてて慰める。

「わたしこそすいません。ヨシト君のせいじゃないのに。それより、ギフトじゃないかどうかを確かめるんでしょ。ヨシト君、説明をお願い」


「はい、『防御』ですが、攻撃を防ぐ結界を張ります」

「普通ですね」

「きっと何かある。ここまで来たら間違いない」

「タラチナさんは変な期待をしないでください。続けますよ、自分に対する悪意ある攻撃や致死性の攻撃を自動的に防ぐ。普通ですね」


 その言葉に対する二人の反応は意外な物だった。

「いやいや自動的にって何です、そもそも、悪意ある攻撃っていうのも誰が判断するの」

「やっぱり期待を裏切らない。それはもう、オリジナルギフト」

言われてみて気が付いた。ギフトは意識さえすれば使える、逆に無意識には使えないはず。


「もしかして、ヨシト君が寝ている時とかにも発動するの」

「……多分そうだと思います」

「魔術とか剣とかの攻撃の種類は関係ないの」

「はい、悪意や致死性があれば、おそらく」

ルシアの質問に答えるヨシトも困惑を隠せない。


 この場合の問題は、確かめるにしても、此処にいる3人ではヨシトに悪意ある攻撃をするのは不可能だ。つまり、ギフトの確認のためには、致死性の攻撃を不意打ちで行わなければならない。


「問題ですね、確かめようがありません」

「わたし、いやだよ」

「同感」

「この件は保留にしましょう」

女性陣3人は頷いた。


――――――――――――――――


 ヨシトが自室に帰った後、女性陣3人は一言も無く、深刻な雰囲気に包まれていた。

まず、しゃべり始めたのはナタリーメイ。

「タラチナが場を和ませてくれて助かりました。彼にはつらい時間だったでしょうから」

「私、なんかいっぱいいっぱいで、気のきいた言葉一つ話せませんでした。ありがとうタラチナ」

「……」

再び沈黙。


 次に、しゃべり始めたのはルシア。

「わたし、帰って教会の皆にギフトの事を聞かれたらなんて言えばいいか」

「無視する、ごめん、冗談」

「ヒコメル準司祭には、私から話しましょう。それ以外の者達には、必要最低限の事だけにしてあげなさい。具体的にいえばギフトの名称と概略のみ」

そう言ってナタリーメイは、メモ用紙に書かれたギフトの概略を見せる。


『錬金』――― 元素を造る能力。現時点で、どの元素を作れるかは不明。製造量も不明。常温で固体に限るという制限あり。


『複製』――― 目の前にあるものと同程度の物を造る能力。別途材料が必要であり、厳しい制限がある。生物や魔力刻印等は造れない。


「ずいぶん控え目な表現」

「でも、仕方ありませんよねこれ。ヨシト君に、私たち見たいな苦労はさせたくありませんし」


 そうである、彼女らはギフトに人生を振り回された人達だった。

ある意味ギフトの被害者であると言っていい。

それにまつわる嫌な事は、数限りなく経験していた。


 想像してみてほしい。

『予感』で不幸な事が解るという事。だがそれは、あやふやで自分の事だけしか解らない。


『浄化』で若くしてシスターになった事。しかし、相手の、悪感情を否応なしに感じてしまう。


『魔力視』は一般的な魔術だが、何の因果か相手の嘘が解ってしまいオリジナルギフトになってしまった。

しかも、それらは登録されており、調べれば簡単に解ってしまう。

彼女たちには、これから予想されるヨシトを襲う不幸を容易に想像できた。


「『複製』が特に問題。その気になれば悪用し放題」

「『錬金』もほとんど万能ですよね。オリジナルに近いレアギフトですし。とりあえず一生生活には困らないですけど」


 その二人の意見を聞いてナタリーメイは話し出す。

「他人から見れば過ぎた悩みでしょう。しかし一番の問題は、彼が自分自身を許せるかどうかです。彼が優秀で善良でなければ、悩まないかもしれませんが、おそらく今この瞬間も傷ついた心を抱えているでしょう」

その言葉を最後に、三人はそれぞれの仕事に戻って行った。これからも変わらず、ヨシトを支えていこうと心に秘めながら。


――――――――――――――――


 ヨシトは自室でひどく落ち込んでいた。

まさしく、ナタリーメイの指摘は的確だったのだ。


 ヨシトはつらかった、ギフトが三つあるという事で、自分がその生い立ちも含めて特別だという事を嫌でも認識させられたからだ。

そういえば、母親が、ギフトが一つ多くあるような事を言っていたような気がする。


 これは、女神様が送還時に特異点を分離した際、その空いたスペースの一部を利用して魂に奇跡を組み込んだからなのだが、もちろんヨシトは知らない。


 そして一番彼を苦しめた事が、ギフトの内容が極めて即物的で利己的であるからだ。

なにせ、お金とコピーと自分だけ守る壁だ。

人を思いやる心のかけらもない。

ヨシトは、母親(女神)から聞いた『ギフトは自分の本能(魂の欲するもの)が世界(システム)に認められものである』という話を信じていた。そして、本当はシステマチックにほとんどランダムで決まっていることを知らなかった。


「そう言えば、黒部義人は独立するのにお金に苦労してるもんな。それに俺がまず孤児院で考えた事は、お金儲けだった。俺は最低の守銭奴だ」

彼の周りにいる人たち、特に教会関係者や孤児院の二人を尊敬し憧れていた事が余計に彼を苦しめた。


 そして、この時から真の意味で、自分の生き方や将来について悩み始めた神託の日は、人間族ヨシトとしての人生のスタートであった。



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