第09話 閑話 ある管理者の考察
自らの管理する世界にある惑星ルミネシアの中にある人間族の国の神聖リリアンヌ教国、さらにその首都ネオジャンヌのやや外れにある聖マリアネア教会に住む8歳児を観察していた、とある女性人格を持つ管理者は珍しく反省していた。
そして、これまでの、一連の出来事に付いて考察を始めた。
観察対象であるヨシトは、とてもユニークな経緯を持った8歳の男の子だ。
彼は他所の管理世界から特別な事情で、生きたまま受け入れた初めての例だ。
地球での名前を黒部義人と言い、黒部デザイン一級建築士事務所の社長であった。(ただし社長を含めても社員は3人の個人事務所)
何の因果か修正ツールである特異点と彼の魂が融合してしまったのがすべての始まりである。
彼が住んでいた地球がある三次元世界は、管理者によって管理されている宇宙であった。
そもそも管理者たちは、超越者と呼ばれる思考、時間、空間を完全に思い道理に操れるエネルギー生命体の一派であり高次元生命体である。
ある時、超越者達の間に震撼が走った。
今のままでは種族絶滅の事象が確定する予測が出た為である。
それは彼等の誕生の母体となった世界が緩やかな破滅に向かっている事が主たる原因であった。
ほとんどの者がその世界から生まれた存在だったため、新しく生まれる者が、消滅する物を下回ったのだ。
そもそも、超越者には子供は生まれない。あり続けようとする限り死なないからだ。
その誕生のプロセスは魂を持つ高等生物の中でその質量の高い、理知的な物が突然変化して生まれるのである。
それを知った超越者達の反応は真っ二つに割れた。
緩やかに絶滅に向かうのならそれも運命だと考える者と、なんとかして繁栄を継続させようとするもの。
後者が管理者と呼ばれる者達である。
彼らが考えたのは単純な方法で、母体となった世界に似たものを作って魂を育成し、生まれる数を増やそうとした。
ただ、管理者たちにとっても世界を創ることは難しく、数も多くは創れないため、始めはほとんど失敗した。
結果的に生命が生まれなかったり、不安定ですぐ崩壊したりする中で、地球がある宇宙は最初期型では唯一の成功例だ。
ただし、極めて効率が悪かった。
知的生命体が生まれた宇宙には専属の管理者が付き、世界の運命の事象をシステムや奇跡を使って一定範囲に治め、魂の育成に努める。
とはいっても、管理者たち本体が直接干渉すると世界が持たないので、能力を制限された分体が置かれる訳だが、最大の欠点は三次元に干渉するために作られた分体は一連の事象に関わる際には時間の制約から逃れられない。
つまり予測は出来ても結果を知ることが出来ないのである。
なかなか結果が得られない事に、業を煮やした地球世界の前任の管理者は、生物の進化速度を高めたり、魂の質量を高めるため、人々の欲望を高めたり、あえて苦難を与えたり等、元々のシステムにはない実験的な干渉をおこなった。
挙句の果てに奇跡や魔術などこの世界とは相容れない物まで作ったため、世界そのものが崩壊し始めた。
育成の結果を見ても、地球世界からの超越者は数が極めて少ない上に質が悪く、その中に超越者達の居る高次元空間そのものを破壊しようと試みるものまで現れ、多くの同胞の犠牲を伴い、もろともに消滅した。
その際、前任者も責任を感じたためか、率先して立ち向かい一緒に消滅してしまった。あらゆる面で失敗事例であり、今後の管理上の良い教訓になった事件と言える。
大本を失った管理者の分体も消滅したため、その後、新たな管理者が選ばれる。
彼は唯一現存する、地球出身の管理者であり、世界の現状を何とかするため、他の管理者たちの力を借りて宇宙を修正し始めた。
その一つが特異点と呼ばれる存在である。
これは、理論的には決して人の魂に対して影響を及ぼすものではない。
結局、現状では、その原因が解らないため、黒部義人を特異点のない世界へ移さざるを得なかった。
その際に彼が生存していたため、可能な限り問題が起こらず、彼の価値を損なわないように生きたまま人間族の子供に創り換えたが結果的にまずかったようだ。
彼の特異性に目を付けた大人たちによって好奇の目にさらされかけた。
それに伴い、死にかけの医師により解剖されかけたのだ。
彼が狂っていたため思考誘導が難しく、仕方なくナタリーメイのギフトや思考を導いて対処させたが、最後はヨシトの思考まで操作して時間を稼いだ。
しかしながら、それでも間に合わなければ奇跡の行使さえためらわなかっただろう。
今後、事象分岐による未来の予測によると成人するまでは、このような命の危険を伴う事態は起らないであろうと確定出来る。
つまり、長々と考察してきたが短くまとめると、
1、管理者側のミスで事故が起こった。
2、原因が解らないのでヨシト君には避難してもらった。
3、良かれと思ってした事が裏目に出て、さらに避難先で危険な目に遭わせた。
4、初めてのことなので、今後似たような事があればサンプルとして有用だろう。
と言う事だ。
最も女性人格の管理者には違う想いもあった。
こちらの不手際により彼の人生そのものを奪ってしまったのだ、恨まれて当然だろう。
万能でも全知でもないから仕方ないが、彼の別れ際に見せた感情が忘れられない。
悔恨の情というにはあまりにも美しい心。
黒部義人は知らないだろうが彼と会ったあの空間では、彼の思考はダイレクトに伝わる。
地球人の感情は初めて経験したが非常に心地よく、彼に対して好意を持った。
その結果、今回の出来事に対して彼女は二つ心に決めた事がある。
一つはヨシトが15歳の成人を迎えるまでその身の安全を保証し、深刻な事態には例え奇跡を行使してでも守る事。
もう一つ、彼が10歳の神託を済ませた後、心から望む後天的スキルを三つ優先的に与える事。
管理者は、知的生命体に対して原則平等でなければならない。
随分とひいきが過ぎると思う管理者もいるだろうが、彼女はそうは思わない。
彼の心から望むことを実現出来ていないのだ。
「家族」
せめて与えられないなら彼自身の力で作れるようにサポートしよう。
そのため、人の知るあらゆる有用な事、特に魔術知識は最高の物を詰め込んだ。
これは、地球での生業としていた知識が役に立たなくなる保障の意味もある。
天才と言われた頭脳も、人間族はどうしても地球人と比べると想像力に劣る面があるため、その代わりに人一倍、記憶力や直観力を高めた。
彼の魂の容量に合わせたため、魔力も体力も規格外になってしまったが、彼自身の資質であり人の域に収まっているため特別扱いとは言えない。
この場所で奇跡を使ってまで、ギフトを一つ多く与えた事は、特別と言われるとそうかもしれないが、彼の魂の希望に無いおせっかいなギフトで、魂の格からいっても問題ない。何より自分が味わった感情の対価としては、少ないとも感じる。
魔素に対する親和性が高いのは、管理者自ら心身を創造したため当然だ。
つまり、彼女の意識としては、始めの2つの特別な事を含めても、足りないぐらいである。
その証拠に黒部義人なら言うだろう。
『本当は、地球に帰りたいんです』
それは、あの空間で、説明を受ける間も心の中で彼が叫び続けていた事だから。
「あと7年」
成人するまで、それこそおこがましいが母親代わりになって見守ろう。
その後も、寂しくは思わない。
お祈りをするときは、いつでも会えるのだから。
この後、簡易設定を投稿します。
興味がある方は見てください。




