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111Affronta  作者: 白米
epilogo
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072 久遠の死











 四年という月日は思ったよりも早く経過する。

 優人、結城、弔、十。四人の勇者がこの世界を去り、元居た世界へ帰ってから最早数年の時が立ち、流れる歳月の中で俺は世界を巡り旅をした。

 魔法を教わるのは勿論の事、レベルを超越するように腕を磨き、強くなるのには十分過ぎる歳月であり、この世界にある地図にあった国や地域の全てを見て回った俺は、一日の長さから察せられる星の大きさと世界の広さが合わないことに気が付いた。

 エレアノールエミリーが本当に旅の道連れとして着いて来てくれるとは思わなんだが、そんな旅の友も途中で国へと帰り、俺は自由気ままな一人旅を満喫し、満喫している内に気が付けば世界のすべてを見尽くしていたという余りある今後の人生を俺はどう過ごせばいいのかという疑問に本気でぶち当たっていたのはつい数日までの話だった。


 俺はこの世界でも沢山の関係を気付き、沢山の事を学んだ。

 ベルンハルドとアニェッラの結婚式では祝辞をやったし、エウフラージアの新たな恋の応援もしたし、優人に更生させられたアンジェリーヌキャロンが隣国の王族と結婚するという話になり『ほら俺の言った通りだっただろう』と笑いに行ったら何故か結婚式をぶち壊してくれと依頼され実行してしまったり、アルベルトが国王になって妃を見付けるに辺り俺が重大過ぎる決定権を委ねられたり、洞窟を探索してお宝を見付けたり、ドラゴンと友達になったり……いや、まだまだ沢山あるのだが正直キリが無いレベルでイベントが盛り沢山。一日たりとも心休まる時などなかった。


 正直言って、前の世界ではゴールを見付けた辺りから何処となく詰まらなく感じていた。

 世界の全てを見て、生物としての頂点を勝ち取ったは良いが、俺は強くなりたくはあったが別に最強になりたかった訳では無いのだ。

 最強とは競う相手がいない者のことだ。

 ……武道家としてこれ程面白くなくなる人生は無いだろう……というか無かった。武術と名のつくモノ全てを学んだせいで相手の一つの動きから何をしようとしているのか完全に理解出来て、その後どんな行動に出るかまで予測できる。しかもその正解率は100%というのだから真剣勝負が出来レースと化してしまっていた。

 笑えなくも、初戦では相手も俺に勝算を持って挑んでくる。

 だが二戦目となると渋る者が殆どだった。




 そして、最近悩んでいた事は一つでは無い。

 本来の人生ではずっと先に覚えた気功を早い内に覚えてしまったせいで、俺の容姿はもうすぐ二十歳を迎える今も15歳の頃と何の変化もなく、元来童顔とされた日本人の俺が15歳のままという現実は俺の半分も生きていない奴らに舐められることに繋がるので、早々に成長して欲しいのにその様子は無く軽く鬱だ。

 しかも気功を魔力と合成してしまったせいか、老化現象が老化減少に改名されたが如く前以上に老いる事無く、もしかすると俺は50歳過ぎても成長期、またはそこで漸く成長が止まる、なんてことになり得てしまうのかもしれないのだ。


 ……一度気を解放してしまえば体を通う気の流れは止められない。

 一時的になら可能ではあるが、一般的気の流れを一時間保つのは気功波を撃つ以上に疲れる。

 わざわざ老いる為に息を切らす? やってられない。


 ちなみに、道連れとしてエレアノールエミリーも気を解放した。

 まあ望まれたしな。しっかり未来予知で気を解放した場合にどうなるか予知した上でエレアノールエミリーが選択したことであるのだから友である俺は後押ししてやるしかないというものだ。

 これは何時の事だったか……確かまだ優人達が帰っていなかった頃だっただろうか。

 次元魔法を習得し始めていたあの頃は交換条件として提示して来た少量の血液交換が魅力的だったしな。



 と、まあ語りに入るには四年という歳月があまりに長すぎて語り切れない訳で、そんなことよりも若者らしくこれからの事を語ろうと思う。

 この世界には終わりが……世界の果てがある。

 そこは様々な種族が暮らし、そして大きな門が有る。

 それはこの世界では無い別の世界へ通ずる扉であり、その先では別の分化や人が暮らす社会があってこの世界の住人はその存在を知り得てはいるが、誰一人として行こうとは思わないらしい。

 その理由の一つとして、大きな正扉の規ルートへと繋がる道と罪人を追放する為に使われる通称『ゴミ捨て場』というルートがあり、出る場所は違えども双方共に同じ世界へと繋がっている。

 わざわざ罪人の行くべき世界へ自主的に行こうだなんて思う者はおらず、たまに変わり者がその道を通るらしいのだが、道を通る最低条件はLv10であるらしいのだ。

 その敷居の高さは言うまでもないが、通行料を必要とはしない。

 そして『ゴミ捨て場』ルートから行くのであればレベルは全く関係無いらしいことはこの町でやたらと優しくしてくれるシュシューホロから聞いたが、流石に俺でも罪人扱いはご免だ。一応元勇者だし、正規ルートからの入場を考えている。


 この世界を去ることは、友人全てに転移魔法で送った手紙に書いた。

 話を聞いた中での印象から察するにこの世界の住人はこのゲートを余り良いものと考えていない。引き止められる可能性が大いにある為に手紙という手段を取った。


 引き止められても行くが、引き止められたくは無い。



「……さて」


 俺は最早着慣れたこの世界の服と鎧に身を包み、その大きな扉に対峙する。

 扉と言っても、常時開きっぱなしの次元魔法に近い術式で構成されているよくわからない空間が奥に続く異質なものであり、これは悪い印象を持たれても仕方が無いのではないかと思う程だ。


 ただ、この世界はもう見尽くしてしまった。

 となれば新天地に足を踏み出そうとしてしまうのは俺が俺である為に仕方が無い。

 俺は一度振り返り、別れとなる世界を見渡した。


 通行人達が今扉へ入らんとしている俺に物珍しげな視線を向けている。

 珍獣でも見るような眼の中に、やっぱり行ってしまうのかという視線を向けてくる者も中にはあり、急ぎ入らねば誰かに止められてしまうやもしれないという状況になっていた。

 旅立ちの地で根を伸ばし過ぎたか……この町の約半分位の者は俺と知人かそれ以上。

 友人が危険な方へ進もうとしていればそりゃ止めに入るか。




 ……そして、友を前にして無言を返す、俺では無い。




「皆、いってきます、だ」



 その声に反応した者は少なく無かった。

 やはり行ってしまうのかという声が所々から聞こえ、数名が集まり何やら話し合いを始めた。

 よもや力づくで俺を止めるのではあるまいな、と、そんな考えを持っていた俺だが、そんな愚考は吹き飛ばされる。




「「「「「「せーのっ、いってらっしゃい! クオン!」」」」」」


 本当に友達甲斐のある者達である。

 見送りの居る度の始まり程良いモノは無いと俺は思う。

 一人誰にも声を掛ける事無くその地を去るのは寂しいよ。だからいってらっしゃいと返してくれた者達を俺は決して忘れない。

 そして、そんな言葉に釣られる様に周囲から激励の言葉が飛んでくる「帰って来いよ」だの「また一緒に飲もう」だの「でもやっぱり行かないでー」だのetc……この町の住人はとても友好的で、最後の最後まで明る者達だった。……一部者共から引き止めを受けてしまったが。


 さて置き、それでは出発するとしよう。


 忘れ物は無い。

 聖剣アロンダイトも魔剣ヴァナルガンドも持っているし、度に必要な物も、使えないらしいがついでにこの世界の通貨も。後は頭の中に納まった知識と経験か。


 この世界へ訪れた時、俺は全裸だったから前よりはいいスタートを切れることだろう。

 というか、別に全裸スタートでも構わないのだがもしスタート地点が人里であった場合にはスタート地点で俺が終了する気がする。……気が、というか多分するな、余程特殊な民族のところでもなきゃ。

 この世界にも独創的な服を身に纏う種族の者達が居たりしたが、かなりの少数民族で、森で暮らす俗世との関係を絶った者達だったしな。


 俺は一歩足を踏み出した。

 もう一歩進めば、次元の歪みの様な扉の中へ足を踏み入れることになる。

 新たな旅の始まりだ。そう考えると口端が吊り上り、どんなものが待ち受けているのかと今から心臓の高鳴りが抑えられない。




「久遠逃げて!」


 だからだろうか、そんな言葉を聞いて一瞬その意味を理解出来なかったのは。

 俺の胸に片刃の刀身が突き刺さるまで後に誰かが這いよっていたことも剣を突きたてられたことにも気付けなんだのは。



「ゲフッ……な、何……だと」


「……あぁ、失敗した」


 後ろから声が聞こえる。

 そして更に奥から裂けるような悲鳴も。


「まさか弱体化させても尚強くなることを止めないとは。その探究心、何処から来るんだ?」


「弱……体化……だと?」


 それは俺が訳も分からず森の中に居た事にこいつが関係しているということか。


「やはり記憶はなくすべきだった。……まああの時は無理だったのだから仕方が無いのだが。……だが今のお前なら、容易い」


「何を……言っている?」


 俺は刺されたままに顔を後へと向ける。

 声から察することが出来るのは相手の性別が男という位であり、後は何処かで聞き覚えがある気がしないでも無いということ位か。

 俺はこの世界でも前の世界でも、恨まれるようなことをされはしてもするようなことをした覚えは毛頭ない。もっとも理不尽な嫉妬や妬みに関しては知らないが、そんな感情を抱く者に俺が背中を取られるなぞ有り得ない。


「まあ、もっとも命を奪ってしまえば記憶も何も無いんだがな」


「っ!? ……お前は……何故……!?」


 俺の視界に写ったのは、俺を町へ入れる為に馬車の荷台に乗せてくれた老人。

 その表情は醜く歪み原型は殆どないと言えるが、それでも確かにその者は、あの親切にしてくれた老人だった。



「一つ真実を教えよう。もしあの時俺がお前を街へ入れなかったら、お前は国を滅ぼす側に回っていた」


「何……!?」


「お前が王と謁見した際に王を殺さなかったのは、町に入り、ベルンハルドという友人が出来た為だ。もし出会っておらず、ベルンハルドが捕まっていなかったら、お前は全くの無関係な民の為、心の底からその者達の平和を願いその命を賭けて王を殺していた。だから入れたのだ」


「そんな事は……!」


「無いと言えるのか? 本当に」


 ……分からない。

 確実にそんな事は無いと、断言することは出来ない。

 俺は服を血で濡らしながらに考える。


「まあ、今となってはどうでも良いことだ」


 老人は剣を引き抜き、俺を蹴とばした。

 抵抗する事も出来なんだ俺が蹴られて向かう先は俺が潜ろうとしていた物とは別のゲート。

 『ゴミ捨て場』である。

 俺は気功による治癒を優先させ、急ぎ傷を塞ぐことに必死。だが気功では失われた血が戻る事は無い。



「ふん、貴様は何度俺の手を煩わせるんだかな」




 そんな言葉を最後に俺は、ゲートに呑み込まれた。

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