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111Affronta  作者: 白米
epilogo
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071 戦後の一時

 勇者編エピローグ

 俺が気を失ってから、2日の間に色々なことがあったと俺は次に目覚めた時聞かされた。

 魔王メシアが死に絶えた後、魔物共は急に統括が執れなくなったかと思った矢先、まるで今迄の戦いが強要されていたものであったかのように戦場を離脱……つまりは逃げ出したそうで、人間側の兵は訳が分からないながらも逃げる魔物達を追撃する事も無く、城より顔を出した優人達による勝利宣言によって人間と魔族の戦争は驚異的速度で収束を向かえたのだった。

 もっとも、もっと前から小さな争いはあったらしいのだが、今迄で最も大規模であった戦いは今迄で最も短い時間で終わりを告げた訳だ。

 敵将を潰せば終わるのであれば、もっと早くにこうなっていてもおかしくなかったのではないかと思わなくも無い。


 そして戦争が終わった日、戦争に参加した者達は勇者を中心としたパレードで街道を行進したのだそうだ。

 その際、魔王を倒した勇者がそれに参加していないという不条理は許さないと弔が抗議したことにより、エゼリアの魔法でエレアノールエミリーが俺に化けてパレードに参加したらしいのだが一国の姫が戦勝を祝うパレードに参加していない方が問題では無いかと聞かされた時に思った。 


「はい久遠、アーン❤」


 二日間眠りっぱなしだった俺は現在ベットの上で療養中であり、別途の横にはエレアノールエミリーが居て、膝の上に置かれたおぼんの上には料理がありその手に握られているのはスプーン。


「……ど、どうしたエミリー。恐ろしく気持ち悪いぞ」


「安心して、練習の時自分でやって余りの気持ち悪さに二回程吐いたわ」


「あ……安心できる要素、何処にあるのだ?」


 エレアノールエミリーにとって、愛玩動物を気取った女児らしい甘ったるい声色の発言はリアルに吐き気を催すものであるらしく、最初ニッコリ笑って言った猫なで声は何処へやら、顔を青白く変色させながらも何時も通りの平坦な口調を保とうとするその様はかなり無理していることが見受けられた。


「吐かないわ」


「当たり前だ! 飯食おうとしてる奴の前で吐くとかビックリするわ!」


 そして最低条件である筈のリバース(嘔吐)がそれをしないだけであたかも完璧であるかのような口ぶりだ。


「新しいでしょ」


「そんなの新品でもいらぬわ! 即時クーリングオフッ!」


 というか、『リミット・リワインド』の後遺症は身体的ダメージは無かったものの気の欠落が著しく回復にはまだ時間が掛かりそうである。

 元々、気功とは使える使えないを抜きにすれば全生物に備わっているものであり、それは活動するのに必要なエネルギーのようなものであり、それが欠落している現在の俺は辛うじて口が動いて内臓が活動している全身の全く動かない状態となっている。


 気功の事を知らなんだ場合本気で焦るような状態で、一人では飯すらままならぬ。

 ……よもや老害であったころ一度たりとも受けなんだ介護を若返ってから受けることになろうとは夢にも思わなんだが、エレアノールエミリーのような美人の介護を受けるというのも悪い気はしない。


 ちなみにエゼリアと弔は出禁を喰らっていた。

 エゼリアは動けぬ俺に発情して手を出そうとしたからだが、何故弔が出禁を喰らったのかは教えて貰えなんだ。

 久方振りに再開した友であるというのに、動く事も出来ず退屈な時に会話する事も叶わんとはおかしな話である。



「久遠、退屈。眠い」


 エレアノールエミリーの手を借りての栄養摂取(何度か本当に危なかったがギリギリで乗り越えていた)を終えて、少しの談笑を交わしていて、話が途切れたところでエレアノールエミリーはそう言った。


「眠れば良かろう」


 どうにもエレアノールエミリーは姫という身でありながら俺が眠っている間看病してくれていたらしいし、そろそろ俺の事を気にせず自分の自由に動いても良いだろう。

 というか、エレアノールエミリーって看病とかするキャラだったのか。


「……くぁ…………部屋戻るのも面倒だからベットの一部借りる。何かあったら起こして」


「何だと? おい、年頃の女児が男の部屋で寝る等と……」


「ZZZ……」


「バカな! 早い!?」


 俺の居るベットに倒れこんでから眠るまでのタイムラグは恐らく0.1秒にも満たない。

 俺の膝を枕代わりとした睡眠を始めたエレアノールエミリーに対し、俺は動く事も出来ない為にどうすることも出来ない。


「勇者殿が目覚めたそう…………ですが何やら愚昧がご迷惑をおかけしているようで」


「動けぬ者の膝に頭を置いて寝る。外道の所業だ……!」


 部屋に入って来て一番に視界へと飛び込んできた現象を正確に理解したアルベルトは、つい先程までエレアノールエミリーが腰掛けていた椅子に腰を落とした。


「例え足が痺れてもどうしようもないですしね」


「悶えようにも動く事叶わず苦しむことになることは必須だな」


 いや、俺としては洒落にならんのだが。


「それはそれは、ご愁傷様です」


「いやそこは何とかすべきところだろう!」


 ナチュラルに見捨てんとしたアルベルトに俺はツッコミを入れる。

 指一本動かせない者に更なる追い打ちを掛けようとするとは兄妹揃って外道か。


「ですが、結構美味しいイベントでもありますよ? こんな可愛らしい子が膝の上で寝ているのですから」


「お前、俺が動けんのを良いことに俺が絶対に良しとせんことを推進しておらぬか?」


「いえいえ全然そんなことは無いですよ、えぇ無いですとも」


 ものっそい白々しいことこの上ないのだが、その張り付いた笑みからは何も読み取れない。

 兄妹揃ってポーカーフェイスが上手過ぎるのは遺伝的なものなのだろうか。

 まあもっとも、身に着けたペルソナに結構な差はあるけどな。


「では何とかせい」


「ハハ、嫌です」


「お前……」


「ですが母を殺した件は、これでチャラです」


「…………」


 エレアノールエミリーが口を滑らせたのか、いやエレアノールエミリーがそんなミスをするとは考え難いし、恐らくは意図的に洩らしたのか。

 エレアノールエミリーの母を殺したということは即ち、アンドレアの母を殺したということでもあり、正室の……この国の妃を殺したことに相違無いことに気付いたのは二人の母が正室だと聞かされた時だが、よもやエレアノールエミリーが王族殺しを王族に洩らすとはな。


「母がやっていたことはこの国の法に従えば死罪。ただ、それを知りなんだ僕からしてみれば何処にでもいる優しい母だったのですよ。不条理とは分かっていますがこのどうしようもない気持ちを勇者殿にぶつけるのをお許しください」


「許そう。存分にぶつけよ、殺される訳にはいかぬが、半殺しまでは許そうぞ」


 エレアノールエミリーとの契約は、アンドレアと無関係だ。

 アンドレアが母親を殺した人間を許せるような人間でないことは分かるが、それを踏まえた上で死罪を視野に入れられるのは物事を客観的に見れている証拠。

 ただ、それでもアンドレアという一個人としては許されるモノでは無い、とそういうことだろう。


「いえ、それは単なる理不尽です。それに暴力は好みませんから。足の痺れに悶え苦しんでください」


 アンドレアの顔には笑顔が張り付いたままだ。

 恐らくは心の整理を済ませているのだろう。……心の傷を抉る必要は無い、か。


「お前がそれで納得出来るのならば、良い」


「えぇ、精々エレアノールエミリーが早く目覚めることを祈っていて下さい。……下手すると丸一日起きませんが」


 サラッと地獄へのチケットを前売りしてくれやがったアルベルトは、会釈すると部屋を出て行った。

 何しに来たのか分からないところで去ったのを見ると本当は他にも言いたいこともあったのだろうが、エレアノールエミリーがこの場にいたことで言えなんだのだろう。


 ……さて、誰も会話する相手が居なくなったところで、俺も一眠りすることにしようか。

 身体を倒す事も叶わぬが、この姿勢でも眠りに着くことは出来よう。


 俺は目を閉じた。







「────……待つんだ十ちゃん! 久遠さんは今動けないんだよ!?」


「……それが何」


 俺が眠ってからどれ位の時間が経過したのだろう。

 俺は尋常じゃない足の痺れと話し声をアラームに最悪な目覚めを体験しつつも目を開き、状況を確認する。


「……私はオールドファッションを食べないと死んじゃうんだよ!?」


「それどんな末期症状!? ドーナツ中毒なの!?」


「カオスだな」


「結城は完全に他人事だねぇ!」


 そこに居たのは、優人、結城、十の三人。

 俺は目を擦ろうとして体が動かせずに断念せざるを得ず出鼻を挫かれた感じに目をさまし、何時からいるのかそこには3人の勇者が楽しそうに話している姿があった。


「お前達は何をしているのだ?」


「あぁ!? ほら十ちゃんが騒いだせいで久遠さんが起きちゃったじゃないか!」


 優人の絶叫に似た声が寝起きの耳に突き刺さる。

 こんな状況下で今も尚寝腐っているエレアノールエミリーの神経は図太すぎだと思う。

 眠る姿勢が悪くて涎を垂らしてるし……絶対民には見せられん姿だな。


「わ、私が悪いの!?」


「諸悪の根源は十だが、原因は優人だろ」


「じゃあ間を取って結城が全部ダメってことで!」


「い、異議なし……?」


「ナニコレ何もしてないのに超アウェー」


 むしろ何もしてなかったからではないか? いや状況を掴めん俺が言う事では無いか。


「ほら結城、ごめんなさいは?」


「超理不尽じゃねぇ!?」


「ゆ、結城君……謝ったら全て解決する、よ?」


「だから何で俺ぇ!?」


「【土下座なさい】」


「すぅぅぅぅぅぅぅぅぅませんっっっしったぁぁぁぁぁぁ!」


「……弔?」


 何やらカオスな空間が創り出されていることに遅れながらも理解し始めた矢先、結城がとても人間技とは思えない土下座を披露して見せ、それを見た俺は当然の様に唖然とするしかない。

 そして、何時の間にやら部屋に入って来ていた弔がそれに終止符を打つかと思いきや追い打ちが如く結城を攻め立てるという結城涙目な状況が出来上がっていた。


「久遠爺様、無事で良かった」


「ピクリとも動かんから死んだかと思うたわ」


「エゼリア」


 どうやら出禁を喰らった二人が力を合わせたらしいことがその組み合わせから察知られる。

 まあそもそもの出禁の条例を勧告したであろうエレアノールエミリが眠りに着いている以上はそんなのも無効だろうが。



「えっと、兎に角! 皆が久遠さんのお見舞いに来たんだよ!」


 優人が何とか事態を収拾させんとしているのがよく伝わってくる言葉である。


「なら俺に土下座させた意味分かんなくねぇ!?」


 ガバッと起き上がりながらに言う結城。


「何と無くよ」


 何でも無いように言う弔。


「えっと……ドーナツの為ではないでしょうか?」


 よく分らないことを真の理由であるかのように語る十。


「何じゃお腹が空いたのか?」


 あまり状況を理解出来ていないエゼリア。


「……ZZZ…………」


 未だ眠り続けるエレアノールエミリー。




 病人の前で騒がしくするのはこの物語の当事者達であり、恐らく街の方では決意に時間を掛けたベルンハルドがアニェッラに告白でもしている頃だろう。エウフラージアの告白は上手く行ったのだろうか。

 魔王を倒し世界が平和になりました、なんてのは物語内だけの世界かと思いきや、思いの外近くに有ったものだと思う。

 俺こと千壌土久遠はポッと出ながらもそれなりに世界平和へ貢献し、取り敢えず世界を救った。

 俺が勇者だなんて役目が完結した今も信じられないことではあるが、俺個人としては二人の友を失うバットエンドではあるものの、世界としてはハッピーエンドで終わったのだから上々といえるのかもしれない。


 ……アバドン、サン。


 

 ────コレが、一週間足らずの俺が勇者であった物語の結末だよ。

 次話第二部完結。

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