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111Affronta  作者: 白米
第二部 Mondiale del RPG Eroe
68/73

068 魔王律の旋律

 俺はエゼリアが言わずとも掛けてくれている治癒魔法のお蔭で天井へ衝突した際に負った傷はほぼ完治。

 便利だと思っていた次の瞬間には、そう考えている暇はないことを思い知らされる。


「魔王律第十九条:怠慢にも物の力に頼り切った戦いを行った者を圧殺の刑に処す」


 次の瞬間優人を、何かを押し潰す目的で造られていることはその造形を見れば容易に理解出来るそれは黒い石で作られた椅子に腰かけた悪魔ベルフェゴールの石像であり、突如優人の頭上に現れたそれは優人に振り下された。


 何の前触れも無くではない。

 前触れは確かに有ったというのに誰一人として動けず、優人は地面へ突っ伏し、呻き声を上げる。

 俺は少し遅れて動きだした、その根源となる石像を偽剣ではない鎧と一緒に持たされた剣で切り裂き、悪魔の足に当たる部分から上がゆっくりと滑り落ち、軽くなった土台を蹴り除ける。

 下敷きとなった優人を抱き起し、次の攻撃に備えその場から離れると同時に目でエゼリアに優人の治癒を頼み、エゼリアも焦った様子で治癒魔法を展開、石像が伸し掛かってきただけでは絶対に出来ない切り傷や刺し傷までもが体中に刻まれた酷い外傷を治癒に掛かるが、先程の俺の怪我とは訳が違う。

 優人は、一瞬にしてゲームオーバー寸前まで持ってかれたのだ。


「…………メシア……何だ、それは」


「怠慢だな、少しは考えろ。知ることに強欲であるのは悪じゃないが、怠慢なのは悪だ」


 メシアが返事を返してきたのは少し意外に感じたが、考えろと言われても魔法の知識を殆ど持たない俺が目の前で訳の分からない現象に対面した場合、思い付くのは一つしかないのだが。


「魔法。それ以外に思い浮かばん」


 この世界に来て出会った不思議な力。

 正直言ってスキルと魔法の違いすらもあまり理解出来ていない現状、俺にその問いの答えを求めるのは傲慢ではなかろうか。


「俺としての力では無く、魔王としての力。魔王の創り出した法律を強制的に順守させる魔法だ」


「…………」


 成程。いや、正確にいうのであれば順守しなければ法律に習った罰を受けさせる魔法といったところだろうか。

 俺は優人をエゼリアに任せ、親切に自分の手の内を教えてくれたメシアへ自分のスキルでも暴露しようかと考えながらに立ち上がった俺の腕を、下から誰かが掴む。

 掴んだのが、動く事すらままならぬ優人だった。


「……優人? どうした」


「これ……使って、下さい」


 そう言って優人が動かそうとした手に収まっていたのは、押し潰されても尚手放すことをしなかった聖剣アロンダイト。

 どんなになっても剣を手放さんとするその根性は称賛に値する。

 そして恐らく優人は俺に聖剣アロンダイトを使えと、そう言いたいのだろう。

 動けぬ優人。今の状況で聖剣を使えるのは俺だけ。

 成程、やるしか無い訳だ。


「分かった」


 俺は優人の横で片膝を付き、その手より聖剣アロンダイト受け取って立ち上がる。

 恐らくだが、聖剣アロンダイトの性能に頼った戦い方をすると今の優人と同じ状態へと持っていかれることになる。となれば俺はコレを単なる頑丈な剣として扱わなければいけないだろう。

 翼を使うことは聖剣の行使に繋がるだろうし、スピードは明らかに差が出てしまうがその位のハンデは剣が折れないのであれば問題無い。


「話は終わりか?」


「待っていてくれて感謝する」


「なに、ちょっとした怠慢だ。魔王たる者姑息な真似なぞせず力のみでねじ伏せる」


 魔王としての、誇りか。

 そういえば、俺の誇りって何だろう。ずっと前に砂漠で遭難しかけてサボテンから水分を摂取しようとして試行錯誤し、結構さんざんな目に会った辺りから誇りならぬ埃に成り果ててしまっている気がしないでも無いのだが、その後の旅でも泥水をすする事は結構有ったし、公園や路上で眠る事も結構あった。……一歩間違えればホームレスだったんだな、家はあるけど。


「取り敢えず、真面な武器を手に入れた今、俺はお前を殺せるよ」


「思い上がるなパルプンテ。確かにさっきはその武器の脆さに救われはしたが、今もそれが出来ると考えるのは傲慢だ」


 傲慢、な。

 取り敢えず俺がその剣を受け流す必要性が無くなった時点で俺は負けない。

 互いに剣術を使う以上、場所がどこであれどんな小細工を使われようとも俺は負けない。

 いや、負けたくない。


「……傲慢のぅ。ならその目で確かめるが良い。俺の力を!」


「言われずとも」


 この気持ちは憤怒か、とそうメシアは呟いた後、先程と違い地上でおっぱじめ、聖剣と魔剣がぶつかり合って散る火花のみが視界に写る奇妙な光景が繰り広げられ、しっかりと足が付いている以上は踏ん張りが効く故に俺の剣の重さは先程と段違いであるが、メシアのそれには変化が無い。

 恐らくは空中戦にメシアだけのメリットとして踏み込めずとも全く変わらない威力を保つことが出来るまでに鍛え上げられていたのだろうが……底が見えたな。

 レベル補正によってなんとか底上げされたモノであれど、今の俺でさえ地力はメシアより上か。

 気功を使っているとはいえ、

 そして地力で勝る俺に否応なく押され始めたメシアは恐らく空へ回避しようとするだろうが、それをさせる俺では無い。

 近距離戦での鳥相手って物凄く労力を使う。故に彼らのホームグラウンドである空へは飛ばせないことが前提、そうさせる攻撃のやり方はもう何十年も前に学んだ。



「…………魔王律第……」


「唱える余裕があるとでも? 怠慢だぞメシアァ!」


 安易な行動に出たメシアの声を、剣戟と共に叫び声で遮る。

 どうにも『魔王律』とやらは魔族の使う魔法でありながらその長い魔法名を唱えねば発動しないモノらしく、唱えさせなければ何の問題も無い。

 俺の独特な剣捌きに翻弄されている奴に喋る余裕なぞ与えるものか。


「…………!」


「っ!?」


 普通の魔法であるのなら魔族は詠唱なぞ必要なく使用することが出来るのが魔族。

 俺は襲い来る黒い何かから回避する様にバックステップで後退することを余儀なくされ、その蠢く何かがどのようなものであるのか理解出来ぬ以上迂闊に動く事も叶わない。

 魔法名が出て来たのなら、あれがどういうものか予想を立てられるが、それも無くあそこまで危険を感じさせられるものを出されてはどうしようもない。


「……魔王律」


「……クソ」


 魔法を使えんことがこんな所で仇になるとは。

 何が起こるか分からないモノに対してなにもせずにいるだなんて俺の中では有り得ないというのに、どうする事も出来ない。

 そんなもどかしさが俺を襲う


「魔王律第一条:魔王たるもの最強でなければならない」


 そしてそれと同時に、異様な気が俺に突き刺さる。

 その発現元は言わずもかなメシアだが、先程までとは比べ物にならない気を纏ったそいつは、本当にメシアなのかと疑いたくなる程に次元の違う気配を放っていた。


「……さよならだ」


 メシアは言う。


「何を、言っている?」


 当然、その言葉の意味を理解出来ない俺は突き刺さる殺気に気圧されることは無くも若干の焦りが汗となって頬をつたる。


「貴様は、怠慢の内に死ぬ」


 そう言った次の瞬間、メシアは俺との距離をゼロにし、剣ではなく拳を、俺の腹へ叩き込んだ。


「うぐぅ!?」


 俺は吹っ飛んだ。ギャグ漫画見たく空の彼方へ吹っ飛んだ訳では無い、その拳の平行線を全身でくの字を作りながらに吹っ飛び、何時の間にか閉まっていた扉に叩きつけられる。

 肋骨が折れたのは言わずもかな、拙い感じに骨折してしまった俺は口より血を洩らし、起き上がることもままならない。

 ……一撃、一撃だと。

 確かに、もしかすると最強かもしれないな?

 俺は脱臼した時と同様に筋肉を使い、どうにかして骨折した骨を元の位置へと戻し、気功による自然治癒能力の促進で少しずつではあるが体を治していく。

 しかしそれは治癒魔法よりも遅い。距離的には結構遠くに居るメシアだが、あの速さなら来ようと思えば一瞬でここまで来れることだろう。

 ……内臓も少し痛めちまったか、あれ程の衝撃だ。仕方が無いといえばそれまでだが、流石に拙い。

 二度目の死を迎えるのはそう遠く無いかもしれない。


 そんなことを考えていたら、エゼリアが駆けつけ俺の治癒を始めた。


「……優人はどうした」


「安心せい、あっちの治癒は終わった」


 メシアは、敵側の作戦会議は待つだろう。しかし、今の、この回復する時間は待たない。

 それを容認してしまったら何時まで経っても決着がつかない上に戦いとはなんなのか分からないものになってしまうからだ。



「……クハハ、近寄りもせんか」


 メシアの持つ魔剣ヴァナルガンドに、どす黒い闇の何かが集まり始めている。

 恐らくだが聖剣アロンダイトにも似たような機能が備わっていて、アロンダイトは光の光線に対しヴァナルガンドのアレは闇の光線か。

 しかし、よもや介錯すらせんとはな。

 まあ一撃でダウンするような者相手にそのような礼儀を尽くす必要は無い、か。



「『千目(サウザンド)』っ!」


 弔が、スキルを発動させた。

 やれやれ、俺がピンチになったから焦ったんだろうが、友達思いな奴だな全く。

 けど光線の軌道線上に立つなよ、弔も巻き込まれるだろ。



 周囲を、黒い何かが覆い、そこかしこから瞼が開かれ、そこからギョロリと黒目が覗く。

 弔のスキルは大量の目を生み出すこと、か。恐らくは魔眼持ちであるが故に会得したスキルなのであろうそれら全てには恐らく、弔の魔眼が備わっているのだろう。

 そしてそれらの目全てが、メシアの姿を映し、そして言う。



「【死になさい】」



「魔王律第四条:傲慢にも魔王へ指図し者をの磔の刑に処す」


 大理石の床を突き破り、現れ出たのは黒い翼を背負う堕天使ルシファーが取り付く大きな十字架。

 弔はその十字架に捕まった。

 どうやったのか、それは分からないが弔は一瞬の内に十字架に捕まり、磔に有ったのだ。



「……死者が増えるな。残され者は憤怒するだろうな」


 そう言い、メシアは放った。

 俺だけじゃない、俺に治癒魔法を掛けるエゼリアも、俺を花ぼ王として磔にされた弔も、全てを飲み込むであろうそういう次元の黒い光線。

 いや、光線というには靄があり、それが何なのか俺に知る術は無い訳だが、取り敢えず動け俺の体。


 俺はさて置き、エゼリアと弔は死なせない。


 ……何故俺の体は動かない?

 別にろっ骨が折れた位前にも結構あったではないか。

 内蔵に突き刺さったことだって。

 その時は動く度激痛が走るだけで動くのに問題は無かった筈だ。


 なのに、何故動かない?


 動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け!!


 何故動かぬ、すぐ横で今も尚治癒を続けるエゼリアを光線の外へ投げ飛ばし、あの過剰装飾された十字架をへし折り、やり投げの要領で同じく攻撃範囲外まで投げ飛ばす。

 それさえ済めば用済みだ、それなのに何故動かない!


 一撃だぞ、一撃喰らった程度でこのザマか!

 勇者が聞いて飽きれるぞ、俺ぇぇ!




 ────光線を遮る、大きな壁が出来た。

 それは人型だった。

 とても大きな、頼もしい、味方だった。


 いや、友達だった。




「……アバ、ドン?」




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