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111Affronta  作者: 白米
第二部 Mondiale del RPG Eroe
67/73

067 見知る魔王様

「む? メシアではないか。チョリーッス」


 姿を現したのは大男では無くメシアだった。

 街で会った時とは大きく違う黒い鎧を身に纏った姿だったが、その整った顔には何を合わせても似合いそうであり、その鎧も例外では無かった。


「パルプンテ……か」


「それ何時まで引っ張るのだ?」


 俺には千壌土久遠という名が……って、そう言えば名乗っていなかった気がしないでもないが、だがしかし俺がこの場に居る事へ何の疑問も抱いていないところを見ると、元より俺の事を知っているらしいのだろう? 普通に名前で呼べばよかろうに。

 そういえばだが、ふと俺は疑問が芽生えた。


「メシア、何故ここに? 厠でも借りに来たのか?」


「憤怒する。そんな訳無いだろ、ここは俺の城。それが答えだ」


「…………あぁ、なんだ。お前が魔王だったのか」


 メシアが魔王だった。


「驚かないのか」


「いや、別に」


「怠慢だな、少しは驚け」


 ただ単に知人が魔王だったというだけだ。

 まあ取り敢えずは友でなくて良かったよ。俺がどっちに味方することも出来なくなるところだった。

 しかし相手はメシアな訳で。


「久遠さん……その人と、知り合いなの?」


「む? あぁ。彼はメシア、魔王をやっているらしい」


「メシアだ人間。傲慢な人間であるお前が魔族たる俺の名を覚える必要などない。覚えぬままに死ぬ行け。怠慢にな」


「俺は?」


「傲慢な、貴様は自分が人間だと思っていたのか」


「いや人間────っ! 俺普通に人間だぞ!?」


 確かに少し変わった生まれ変わりを体験しはしたが、しかし魔王を倒すべき存在たる勇者という職業に着けるのは元来人間だけであって、もし俺が人外だったら一体何だというのだ。

 若干名メシアの言葉に共感したような顔をしていたが、その内の一人には後でキツイ制裁を銜えるにしても、これは心外だぞ。


「は? いや……人間……なのか? 人間の匂いはしないが……これは怠慢か?」


「意味が分からないが……」


「貴様は……何だ? 傲慢にも貴様は貴様という生物なのか?」


「さっきから何を言っているのだ?」


 俺が俺という生物? 何だそれは、俺が人間という枠から外されたということか?

 何だそれ笑えない。


「……よもや怠慢にも自身ですら理解出来ていないのか」


「……メシア、お前が何を言いたいのか俺には全く伝わってこない。お前風に言うのなら、怠慢だ。他人に伝わるように放す気が無いのなら言語は意味をなさないぞ」


「怠慢……」


 メシアが俺をどういう風に認識したのかよく分らないが、俺の怠慢という単語にだけ反応を見せる。

 俺を含む勇者パーティは困惑する。

 特に、元々の俺を知る弔はメシアの言葉が何を言っているのか理解出来ないようであり、それと同時にメシアの言葉から幾つかの可能性を頭の中で考えているようである。


「……まあ、良い。傲慢だがどうせ俺か貴様、どちらかはこの場で必ず死ぬのだから」


 メシアはそう言い、腰に差した黒い剣を鞘から抜く。


「魔剣ヴァナルガンド。聖剣アロンダイトと対する剣の威力を知れ」


 魔剣ヴァナルガンド、見た目は違えども聖剣アロンダイトより、偽剣アロンダイトに類似した雰囲気を持つその剣の刀身からは異質な気迫が放たれている。

 あの刀身、喰らうのは勿論受けるのも避けた方が良さそうである。

 魔剣ヴァナルガンドを手にしたメシアの背には、黒い翼が存在し、その瞳は狂気に染まっている。

 それが聖剣アロンダイトと対していることの証明になるかは、一度とはいえ手にした俺には何と無く分かったし、現在手にしている優人もそれは分かっただろう。

 優人は聖剣を、俺は偽剣をその手に構える。

 よく考えたらメシアが魔王と分かった時点で即時戦闘開始した方が良かったのやも知れない。

 話すことによって時間が経過すれば『リミット・リワインド』を使用可能にもなるだろうが、その代わりよくわからない言動によって戦いの外へ思考をやられてしまうと、生死が決まる一瞬の選択の際にその選択肢を見ることすら叶わくなる可能性だってあるのだ。

 ……サトゥルヌスなんて比じゃなく、メシアは強いというのに。


「エゼリア、空を駆ける魔法を頼む」


「任せるのじゃ」


 後から知ったことだが、魔法を使う際に呪文を詠唱して使用するのが一番初歩であり、その魔法を理解することによって詠唱破棄、つまりはその魔法名を唱えるだけで魔法を行使可能になるらしいのだが、エゼリアは更にその上、魔法名すらも唱える必要なく魔法行使を可能としているらしい。

 理解の先に有る超越がそれを可能としているらしいのだがそれを出来る様になるまでには何世代にも渡る血筋と何百年にも及ぶ訓練が必要になって来るらしい。

 ちなみに、それを生まれた頃より平然とこなせるのが上位種たる魔族であるらしいのだが、魔法を究め過ぎるとその魔法に蝕まれ別生物に生まれ変わるらしい。魔族も元は人間であった、なんて言う説があるとかないとか。

 さて置き、俺はエゼリアの魔法により、自身が空をも駆けられるようになったことは何と無くの感覚で分かる。


 戦闘、開始だ。


 最初に動いたのは優人だった。

 聖剣アロンダイトを手にメシアへ突撃し、空へ避けたメシアを追うようにして優人も空へ。

 双方共にかなりの速度を出しての飛行であり、その急激な速度変化は体には恐ろしいまでの負担を掛けた筈にも関わらず何ともない様子なのは、その剣の力なのだろうか。

 兎にも角にも始まった戦い。俺もそれを追うようにして空へ駆け出し、一歩で何メートルも進むその足運びはなんというか、年老いた老人がやるとすれば見苦しいものがある動きだった。

 今の俺の体は若い故に見栄えもそれなり……勇者を意識しすぎたせいか、自身の見え方を気にして戦うようになってしまっている。



 勇ましい姿を見せ民に安心を与えるのが勇者であるが、戦闘中にこの思考は愚か。

 見た目を気にして死ぬ気かと、自分に活を入れる。


 そして、勇者と魔王が剣の打ち合いを続ける天空へ突入した俺はその光速にも匹敵しそうな速度で戦う優人にも魔剣にも当たらずメシアにのみ当たる剣戟を繰り出した。

 偽剣アロンダイトの強度では、負けんヴァナルガンドの強度に負けて砕け散る可能性がある。

 優人との光速の打ち合いの中、剣が一ミクロンも歪まずに存在し続けているだなんて、普通なら有り得なかろうが、あの二振りは剣の常識を覆して存在しているようであるのに人間の生み出した産物の枠に収まったままのこの剣がそれに対応できるとは思えない。

 どうにも、柔軟性なんて微塵も無い強固なものでありながら、その刀身は衝撃にも強いというのだから笑えない。

 魔王が爪や牙という攻撃手段を失った人間の武器たる剣を使っての戦闘を行うとは以外であったが、あれならその爪や牙が有ったとしても砕いてしまうことだろう。


 そして俺の剣戟は意味をなさなかった。

 メシアはその剣を回避し、優人の相手をしながら更に俺へその剣を振り下してきたのだ。

 俺は紙一重でその剣を避け、偽剣アロンダイトを手放しその腕に取り付き腕をへし折らんとしたが、自身の体と相手の腕を固定する一秒にも満たぬほんの一瞬の間に俺は振り飛ばされ、その方向に居た優人と接触する。

 鎧同士であることと空中である事からダメージはほぼないが、次の瞬間にはメシアが俺達が二人重なった今が好機と言わんばかりに追撃、その剣を振り下してきたが、俺は優人を蹴り飛ばして回避させ、その刀身を真剣白刃取りで何とか止めるが、空中であったために踏ん張りが利かず、その剣圧に流されるまま下へ落ち、その衝撃に身を任せた俺は先程手放した偽剣アロンダイトを空中で手にする。

 そしてそのすぐ後ろ迫ったメシアの剣を偽剣で受け流す。

 完全に受けてしまうと偽剣は折れてしまう故に偽剣で魔剣を受けた瞬間にその剣圧で回転する様にその衝撃を受け流し、その回転のままにメシアの首を後から狙ったが、下へ避けられ少し髪を切り裂いただけで偽剣は空を斬る。


 剣を受けることの出来ない俺はどうしても受け流すことを優先してしまう。優人が、直ぐに駆けつけメシアへ剣を振り下すが、メシアは堪えた様子も無く口端を吊り上げながらに聖剣を受け、上から振り下された剣に対して下から難なく押し上げて、そのまま空へと舞い戻る。

 魔王の城、その広さは中に入って痛感したが、ここはその中でも群を抜いて広い。

 天井は見えぬし空を駆けていて剣を交える内一瞬ここが室内である事を忘れるのは常だ。

 優人の攻撃に、剣の他魔法が加わり始めたのはものの数秒前の事。


「『オートソード:光』!」


 優人の言葉と共に生まれた剣の形状を保った光は、10本出現した。

 そしてそれは優人が何をするでもなく動きだし、多方向からメシアを襲う。

 その中に優人も共に突撃し、メシアを翻弄しようとするもその光達は次の瞬間同じく剣の形状をした黒い何かに相殺され、優人の剣はメシアの魔剣に抑えられる。

 エゼリアと同じく詠唱を必要としていないが、その形状から察するにメシアが使ったのは優人と同じく『オートソード』という魔法であり、その属性は闇。対するもの同士がぶつかり相殺したといったところだろう。

 優人の剣は未だ型を抜け切れぬ試合の……スポーツやそれに類似した遊びの剣に相違無い。

 そんな剣で俺の剣を回避してみせるメシアに一撃食らわせられる筈は無い。……正直傲慢たり得る思考だが、しかし剣を交えてからまだ数日しか立っていない以上そう結論せざるを得ないのだ。



 俺は空を駆け、剣を交える二人の中へ再度入る。

 魔法を真面に使えぬ俺は剣でメシアを殺るしかない訳で、しかし優人に魔法を使われると其方の回避も頭に入れなければいけないという優人の団体戦の向かなさが仇になっていてこれ程酷いコンビネーションは無いだろうというのが今の現状では無かろうか。


 俺はメシアの剣を受け流しながらに剣を振り下しながら空いた足で蹴りを繰り出すも、その鎧に守られた体に蹴りでダメージを与えられるかといえば……与えられる。


 蹴りを繰り出すのが俺である以上その攻撃が辺りさえすれば相手にダメージを与えるのは必須。しかし空中であるということを忘れていたせいで蹴りを喰らわせた俺がその衝撃で下へ吹っ飛ぶという間抜けさを見せたが、その綺麗に装飾が施された飾り物の様な黒い鎧に致命的なヒビを入れたのだ。


 しかし吹っ飛んだ俺はメシアの剣圧以上に体の速度を殺せず、床へ叩きつけられると思いきや、思いの外優しく受け止められる。



「……久遠…………」


「アバドンか、助かった」


「空中戦…………俺、参加……出来ない」


「空は飛べなさそうだしな。戦っている場所もここからでは豆粒だ、仕方無い」


「けど……戦いたい……久遠の、為」


 アバドン……。

 しかし、例えメシアを床へ落としたとしてもまた空高くへ飛び立たれてしまうだろうから、下に居るアバドンでは戦え……ないことも無い、か。


「アバドン、俺をあっちに投げろ。力一杯」


「…………え……」


「早く」


「………分か、た」


 アバドンの表情から光が消える。

 そして、打ち上げ花火を打ち出す法大の様に、砲丸投げの球を投げる様に、その手にすっぽりと収まる俺の体を、空へと打ち出した。


 そしてそれは、二人の戦う速度を超えるのではいかと言わんばかりの速度で俺が飛び、打ち出された次の瞬間にはメシアが写り、その次の瞬間には偽剣を振るい終わった後だった。

 映像のコマを幾つか抜かしてしまったようなそれは、間違いなくメシアを切り裂き、俺は見え何だ天井へ衝突。ダメージを受けながらも天井を足場に足のバネで下へ急降下する。

 そして地上へ降りた時、墜落したらしいメシアの落下地点は、砂埃やらなんやらで視界が悪く、メシアの姿は見えない。

 空で唖然としていた優人も降りて来たところで、声が聞こえてきた。



「────…………だった」


 メシアは立っていた。

 あの剣戟を受けて立ち上がるのかと俺は驚いたが、次の瞬間にはその疑問がお門違いであることに気付く。


「傲慢だった「嫉妬する「憤怒した「怠惰だ「強欲である「暴食に「色欲がある」」」」」」」



 偽剣アロンダイトの刀身が、そこには無かったのだ。



「見せてやろう人間共。魔王律を」

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