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111Affronta  作者: 白米
第二部 Mondiale del RPG Eroe
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066 疑問残る傷痕

 サンは死んだ。

 友の死に立ち会うことは40150日の人生で多く体験してきたことだったが、幾度体験しようともこの喪失感は拭えない。俺は頭が悪いから、要領の良い心の整理とかそういのとは無縁過ぎる人生を送ってきているだけに立ち会った次の瞬間には虚無感と向き合わなければいけないのだ。

 ただ、理不尽な死を迎えた友が居る場合にはそんな現在を生きる奴の傷心なんか心底どうでも良いと吐き捨てる。すべきことがあるからな。


「久遠さん……」


 俺を気遣うような声色で優人が俺の名を呼んだ。

 何時もなら「どうした」とでも返してなんても無い風に振舞うところなんだが、正直今の俺はポーカーフェイスを作り上げる暇すらも惜しい。


「優人。サンから不死性を奪った者は誰だ」


「サトゥルヌスっていう魔族……」


「何だと? アイツは俺が……チッ。死んだフリとはやってくれる……奴は何処だ」


 まさか殺し損ねるとは……あの時は研究所を壊すことを優先して炎の沈静を後回しにしてしまった。それが逃がした要因か。

 殺した手応えがあったから油断が生まれていた。

 よもや自分が不死者と対決しているとは思わなんだ故だ。

 ……不死のカラクリがサンの持っていた炎だというのなら、殺りようはある。

 優人がサトゥルヌスの名を知っているということはサトゥルヌスと対峙した筈だ。


「……僕達が、倒した」


「倒した? 不死者をか?」


「俺のスキルで不死性を消した。そこに優人が攻撃を加えたんだ」


 スキル……そんな事が出来るモノまであるのか。

 いや待て。


「殺した跡に炎が鬼火の様に残らなかったか?」


「ううん。ついさっき決着がついたばかりだけど火なんて無かった」


「……サトゥルヌスが死んでない可能性があるな」


 不死の炎は失われない。

 例えその炎を纏う者が死したとしてもその炎は灯り続ける。

 その存在は神聖であり、聖剣アロンダイトを使った優人の攻撃で消えることはまず有り合えない。

 となれば、まだその炎を纏う者がこの世を去っていないというのが結論だろう。


「それは無いわ」


「弔か。何故だ?」


「回避は不可能よ。私が動きを止めたもの」


 俺を除いた者に絶対の命令を下せるというアレか。

 ……となれば結城のスキルで不死性ごと不死の炎が消えたとでも? 神の与えしスキルがあの炎を消すとは思えないのだが。


「……ならば何故炎が無い。理屈に合わぬ」


「それは……」


「いや単純に『現実主義(リアリスト)』で掻き消されたんじゃね?」


「俺はスキルの詳細を知らないが、それは神の奇跡にも効くのか? それも永続性がある物に」


「それは知らん。けど多分無理」


「なら口に出すなクズ」


「酷くね?」


 最後弔の罵倒で締めくくられたが、やはり不死の炎が現在この場に存在しないことは理屈に合わないということでファイナルアンサーのようだが、その後の答え合わせは俺達に不可能。

 神は何ともスッキリしない結末を残してくれたものだ。

 ……不死の炎さえあれば、フェニックスたるサンは死した後でも転生という形で蘇ることは可能である筈なのだ。

 無論、転生であるが故別個体と同様に俺の友であった事なぞ無い別の存在へと変わるのだが。

 それでも、魂は不死鳥のままで有り続けるのだ。


「……取り敢えず、俺はサンの復讐は出来ないということだな」


「……ごめん」


「何故優人が謝る?」


「僕がサトゥルヌスを安易に倒さなきゃこんなことには……」


「優人は知らなかったのだ。仕方が無い。それに問題となったのは結城のスキルだ」


「酷くね? 久遠、弔コンビは俺に恨みでもあんの?」


「「あるけど」」


「あんの!?」


 風呂の時とか、結局俺は何もしてい無いしな。

 弔の場合はあんなことをする奴なのだから過去にその他やられたこともあったりするだろう。


「まあ今はどうでも良いことだ。エミリーとエゼリアと合流し次第魔王を探そう」


「なら掘り下げんなよ!」


 やかましい。


「おーいエミリー」


「呼んで来るか! この城の大きさ舐めん……!」


「呼んだ?」


「…………」


 何処からともなく現れたエレアノールエミリーは、驚きの余りバックステップからの緊急回避をやってみせた結城に疑問符を浮かべて一瞬見た後、何でも無い足取りで近寄ってくる。


「おーいエゼリアー」


「呼んだかの?」


「アンタ等何なんだ!?」


 いや、実際の所は手分けする前にエレアノールエミリーの掛けた魔法の効果で、離れたところにいても呼びかければ次元を超えて声が届くようにしてあり、互いの現在地を捕捉することの出来るという魔法をエゼリアが掛けてあった為に呼べば二人は直ぐに転移魔法で馳せ参じたって訳なんだが。

 ……あ、なら脱臼した時無理に筋肉ではめ直さんでも二人を呼べば良かったのか。

 すっかり忘れていた……友達増えたから結果オーライであるが、このミスは結構大きな被害に繋がっていたかもしれない。

 俺が撲殺されるとか、そんな感じの。


「では、全員揃ったところで、『ドキドキッ! 突入! 魔王のお部屋』を始めるぞー」


「わー」

「パチパチ―」

「ヒューヒュー」


「じょ、女性陣乗り気だな……棒読みだけど」


「あはは」


 ……なんておちゃらけて、今は少しでも自身の精神状況を隠しておくか。

 やったのは魔王の手下だからといって、魔王に怒りをぶつけるなんて言う不条理な八つ当たりを俺がする訳は無い。

 つまりこれから始まる戦いは俺がやるべき復讐などではなく俺が始めるべきエンターティナーたる戦い。

 今の俺の精神状況を表に出したままで戦えば、それは魔王へ理不尽な復讐心を燃やす人間に成り果てるということだ。

 幸か不幸か長年生きて来ただけあってペルソナの仮面を被るのは得意だ。

 10代の若者共に察せられるようなことは絶対に有り得ないし、状況から無理をしていると思われても、その振る舞いからは何も感じることは出来ないだろう。


「優人、魔王の居る場所を知っているか?」


「え? ……多分この奥だと思う。サトゥルヌスはあの扉を守るように待ち構えてたし」


 そう言って、指差した方向に聳え立つのは、先程アバドンが殴り飛ばした扉の二倍以上の大きな扉。

 それは魔王の大きさがアバドン以上である可能性を匂わせ、その圧倒的な大きさからそこに居る人間の空気を緊迫させた。


「アバドン、あの扉を開けることは可能か?」


「…………大丈夫。……久遠の、為なら……星も、持ち上げる……」


「いや、それだと上下がハッキリしている関係のようだぞ。俺はあくまでお願いしているのだが」


「……フェニックスに……久遠を、任された…………」


「…………」


 …………どうやらアバドンは友人との接し方にまだ難が有るらしいことは言動から読み取れる。

 恐らくだが今までアバドンには友人らしい友人が一人もおらなんだのだろう。それ故友という関係を上手く理解出来ていない。

 先程言った魔王を裏切ったが俺を裏切らないというセリフからも、何と無くだが読み取れる。

 主従関係では決してない友人関係というものを、よく分っていないのだろう。

 だが、その関係自体には恋い焦がれた。

 友いう関係性に憧れたアバドンは俺の手を取ったが、その後如何様にして接すれば良いかまでは理解していないという事か。

 ……この戦いが終わったら絶対にアバドンと遊ぼう。

 友とはこういうものだと、楽しい時間を共に過ごしながら理解させよう。


 俺はアバドンの友人なのだから。


「取り合えずは分かった」


「……。…………何、が……?」


「いや、何でも無いよ。アバドン、あの扉を開けてくれ」


「了…………解」


 アバドンはそう言って、ノッシノッシと扉の前まで歩いて行くと、その扉に触れ、雄叫びと共にその扉を押し出した。


「オ゛オオ゛オオオオ゛オオ゛オオオオオオ゛オオオオオオオオオ゛オ!!」


 鍵は掛かっていないらしいが、とても重い扉であることがその行動から読み取れる。

 足が大理石の床にめり込むほど力を込めて扉を押すアバドンの姿はとても勇ましく、正面からその表情を拝むことが叶わない現状を惜しいとすら感じる。

 全盛期の俺ならあの扉を開けることも叶うだろうが、『リミット・リワインド』はまだ使えない。

 1時間が経過してから扉を開けるべきだったのかもしれないが、それで勝ってもフェアでない気がする。

 まあもし俺があの扉に対面したら開けるのではなく斬る方向で頭を働かせるだろうが。

 ……というか魔王相手にフェアな勝負を求めるのは間違っているか?

 まあどちらにせよ勇者(のみ)パーティが卑怯な手段で戦う訳にはいかないだろうし、俺一人で戦う訳でも無いのだから、スキルに頼る必要は無いのだがな。

 なんて考えていたら、結城が胸に何か突き刺さったような動きを見せていたが、アレは何なのだろう。


 そんなことを考えている合間にも、扉は少しずつ開き始めていた。

 アバドンの力ですらゆっくりとしか動かないその扉は、もしこの場に居る者だけで挑んでいたとしたら開く事すらなかっただろう。

 そう考えるとアバドンの筋力は偉大だが、あれでスピードもあるというのが凄いところだ。

 アバドンは神経を研ぎ澄ませ本気になれば不意打ちなんて喰らうことはまずないらしい。

 その巨体でありながら、ちっぽけな人間の小細工をも完膚なきまでに叩き潰すその様子は戦士と呼ぶにふさわしいだろう。


 そして、扉は開く。

 ゆっくりとだが、確実に。

 その隙間から覗き始めているのは、暗く奥の見えない中で光の刺し込んだ故に見える、床に敷かれた赤絨毯のみ。


 アバドンの長い腕なら、扉を完全に開くことも可能であり、俺達はゆっくり開いて行く扉の奥へ目を凝らしながら、身構える。

 そして完全に扉が開いた時、奥から声が聞こえた。




「怠慢だな。そこは大きな扉を前にどうやって開けるか思い悩むところだ」

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