065 友達と友達
俺は対峙しない。
目の前に居るでかい化け物を前にはしているが、俺からしてみればこいつはただ長生きしただけの木偶の棒にしか見えない。
自分の体がでかい的になり得て相手の攻撃が自分に対し決定打となる場合、怒りに任せた猛進は当然の様に不正解であるにも関わらず、こいつは何やら我を失った感じに俺へ殺意を向ける。
後ろに十が居る以上避ける訳にも行かずつい攻撃を受けたわけだが……。
────……両肩、脱臼しますた。エヘ!
いや、言ってる場合じゃない。何してんだ俺。
ついさっきまでの俺と同じ気分で行動起こしちまってその結果がこれだよ。
人一倍足が踏ん張りを見せちまったせいで十を守ることは叶っちまったが代わりに剣も握れねぇ大惨事だよ。
もしレベルによる身体強化がなされて居なかったらそもそも両腕千切れて無くなってたぞ。
俺に攻撃を止められたことがショックだったのか、化物……アバドンはアドレナリン大放出中にも関わらず冷静かもしれない判断で後ろへ後退し、此方の出方を見ている様だ。
いや、今俺両肩脱臼中。
ダラーンなってるから無理だってムリムリ。
現状、背後の十からしてみればおうじさまでも来たような感じだろうが……すまない、おじいさまだ。
片腕なら即時はめ直すところなんだが、両腕動かないので残念無念出来ません。
……どうすんだコレ!? 治癒魔法って脱臼にも有効なのか!? 身体的には無傷だけれども。
まさかカポエイラで戦えとでも? あの巨体相手に肉弾戦とかどんな縛りだ。
昔なら兎も角今の俺にそこまでの余力は無いぞ。
というか、エレアノールエミリーとエゼリアは手分けしたからこの場にいないから治癒魔法は試せないんだがな。
「…………オマ゛エ。ダレ」
喋った。
人型だしもしかしてとは思ったが、人間の言語を理解するのか。
……サトゥルヌスの時も思ったが、何故魔族が人間の使う言語を理解し使っているんだろう。
下等種と見下す位だし、同じ言語を使うだなんて嫌気が差したりしないのか?
「俺は千壌土久遠だ。俺と友達にならないか」
「……無理ダ」
ふむ、まあ予想通りの返答ではあるが……。
「無理? それは誰が決めた」
「…………ダレ、ガ?」
「俺はお前と友達になりたい! それは他の誰でも無い俺が思い、その為に実行に移したことだ! しかしお前のその無理は一体誰が決めたものだ?」
というか、よく考えたら何で俺アバドンと戦おうとしているんだろう。
こいつはただ単に倒すべき相手たる魔王の幹部であるだけで別に戦う必要性は皆無だろうに。
「エ…………エ……」
「種族差なんて小さな問題だ! もっと重大な問題があるとすれば……そう! 身長差だ!」
「ソレ……関係……アルノ?」
「あるともさ! 何故ならお前は俺を肩に乗せられるが、逆は無理だろう?」
「……ウン」
「ほら関係あったではないか!」
「エ…………? エ……?」
アバドンは困惑している様子だ。
後ろで、意気揚々と語っている故に体揺れ、ブランブランの腕が揺れるのを茫然と見つめる十が居たりもするが、その辺は気にしない。
十に目立った外傷は無いし、どちらかというとアチラさんの方が重傷な位だ。
これで十がアバドンに恨みを持っていたらそりゃ逆恨みだ。
というか何時の間にかだが、アバドンの瞳から赤みが消え、影も無くなり何処となく殺意も薄れて言っている様子。
「俺と一緒に遊ぼう。きっと楽しいぞ」
「デモ……攻撃シチャッタ……シ」
「許す!」
「ソッチノ人間モ……」
「許す! というかお前も怪我してる。御相子だ!」
十の事まで俺が許すのは横暴だろうな。
まあ話の流れでついということで納得して貰いたい。
それ以前に十が先程から無反応である故にどうすれば良いのか分からんのだが。
「デモ……デモ……」
「お前、名前なんていうんだ?」
「……アバドン」
俺はアバドンの名前を聞いた後一度、深呼吸して息を整えてすぐに沢山の息を吸い込む。
「アバドン! 俺と友達になろう!」
俺は筋肉を動かし無理に両腕の骨をはめ直し、自分でやっておいてこの手が有ったか! なんて思いつつアバドンに手を差し伸べる。
その時俺はとてもいい顔をしていたと思う。
「オレ゛……トモダチ……ヨクワカラナイ……」
「よく分かる必要なんて無い。一緒に遊んだり学んだり、互いに手を差し伸べあえる関係。それだけ覚えておけば良い」
ただ言葉にすると、とても薄っぺらい関係に感じてしまう。
だから感覚的に分かればいいのだと俺は思う。
俺はこいつと友達であると。
「オレ…………久遠、と………友達、なる」
アバドンの言葉がしっかりするのと、友達になるのはほぼ同時の事だった。
ゆっくりと近づいてきたアバドンが、その10分の1にも満たぬ俺の手を壊れ物でも触るように取り、俺は嬉しくなったせいかアバドンに抱き着く。
「ハハハ! よろしくな、アバドン」
「……よろ、しく」
その太い首へぶら下がるような形になった俺にどう接していいか分からず混乱した風のアバドンは面白いと思うのは、少しいじわるだろうか。
「…………久遠」
「む?」
「俺、は…………お前、を裏切らない……ことに、決めた」
「む? む? どうしたのだ?」
「だから……魔王……裏切った、事……なる、思う」
「む、むぅ、そういえばアバドンは魔王の手先だったか……」
いや、だがそれはこの宣言にどんな関連性を持っているのだ?
俺がアバドンの首にぶら下がるのを止め、目を合わせる為に上を見上げると、アバドンが頷くのが見えた。
「うん…………けど、久遠は……裏切らない……だから、ずっと、友達……居て欲しい」
「例えお前が裏切ろうとも俺とお前は友達だがそれがどうした?」
いや、敵将と友達になろうとしてんだからそれ位頭に入れてるわ。
ただこの戦争が終わった時笑い合えるような終末であることを俺は心の底より祈っているよ。
「……どうも、しない……かも」
心なしか声色が嬉しそうなのに返答がハッキリしないって何だ。
その後、背後で放心していた十を我に返すのに色々やってアバドンに窘められたりしつつ、どうにか正気を取り戻した十は目前にアバドンが居る事へ尋常ならざる恐怖を覚えたようであったが、ものの数分で順応してみせるという驚異的順応性を発揮してみせ、そんな様子の十にアバドンは何処となく安心した風である。
そして、一度他の奴らと合流しようという結論に至った俺と十は、一番の重傷である筈のアバドンの背へ掴まり城内を駆け巡ることとなった。
曰く、「俺……頑丈。人間…………脆い」だそうで、更にアバドン曰く十の攻撃によって受けた傷ももう既に塞がり始めているんだとか。再生能力にも長けているらしいな。
アバドンの乗り心地は余り良いものでは無かったが、友の好意を無には出来ないしその速度は結構なものだ。我に返ったとはいえ十はまだ腰が抜けているし、十を背負って走るよりは余程早いだろうな。
Gが凄くて全身を使って十の体を支えないと十が落っこちてしまうので結構体力を浪費するが。
支えられる側の十も、年頃の女児である為に俺と密着するこの状況はとても恥ずかしいようであり逸早くこの状況をどうにかしてあげたいところである。
そんなことを考えていた矢先、凄い音が聞こえた。
十が心配しているという理由から向かっていた弔の消えて行った通路を走っていたアバドンは俺に言われるまでも無く即時方向転換し、その音が聞こえた方へと走る。
急な方向転換で十の首が変な方向へ曲がらないようにするのは本気で大変でした。
デコぶつけた。
さて置き、騒音の元たる部屋への道は扉という壁が塞がっており、それを見た一瞬の時の、俺とアバドンの目が合い、アイコンタクト。
────ドウスル?
────ツキヤブレ。
次の瞬間に、俺はアバドンの凄まじさを痛感する。
アバドンは、ピッタリ扉の目前に足を置き、大振りのモーションにも関わらず雷鳴が如く速さで拳を振りかぶり、一秒の間が有るか無いかのタイムラグ後、俺が振り下されんばかりの勢いで繰り出される拳が、アバドンもゆうに通る事が可能であろうでかい扉をブッ飛ばした。
「いいぞ! アバドン!」
「オオオオ゛オオオオオ゛オオオ゛オオオオオオオオオオオ゛オオオオオ゛オオ!!」
俺の言葉に歓喜の叫びをあげるアバロンだが、その声は常人の鼓膜を破るのにそう苦労しないレベルの声量であり、俺は即座に十の耳を塞ぐ。
俺? 俺はまあ大丈夫。
友達の歓喜の声に耳塞ぐとか有り得ないし。
「なっ……新手!?」
「違う。ハングリーヒーローズだ」
「久遠さん!?」
ハングリーヒーローズはスルーか。
渾身のボケをナチュラルにスルーされた俺は若干ブルーになった訳だが、優人は聖剣の力を借りてアバドンの上に乗る俺と十の前まで来ると俺の手を掴み、何事か尋ねる前に俺をアバドンから引き剥がすと同時に練習では出来ていなかったような俊敏な空中移動で俺を床へ下す。
「……久遠さん」
「何だ、どうし………………サン?」
俺の目が腐っていないのなら、今この場で唯一弱り切ったこいつは、昔火の扱い……『発火能力』の師匠であったともいえる不死の鳥、フェニックスのサン。
俺の友達。
「……久しいな、久遠」
「あぁ全くだ。何十年振りだよって話だ」
横に居る優人が何か言おうとして、結城に止められる。
何だよ、その気を使った立ち振る舞い。まるで今がシリアスな場面のようじゃないか。
誰かが死ぬ場面のようじゃないか。
「サン何故にボロボロ? 不死鳥から九官鳥に転職でもした?」
「そんな訳無いだろう」
「だよな。何してんの? クマを前にして死んだマネ?」
「私がクマを前に萎縮しますか」
「……じゃ、なにやってんの?」
「見ての通り死にかけている」
ミテノトオリシニカケテイル? サンが言っている言葉の意味がイマイチ理解出来ない俺が居る。
「サンって不死鳥じゃなかった?」
「そうだ」
「死なぬから不死鳥なんだろ?」
「今は死ぬ」
「…………不死性を奪われたか」
分かってる。本当は理解出来ないんじゃなくて理解したくないんだと。
サンから聞いたことがあるのだ、サンの不死性は他者への譲渡が可能だと。それと同時に、奪われる可能性もあると。
「……だからあの時、久遠が受け取っておけば良かったものを」
「不死なぞいらん。100と少し生きただけで既に有り得ない程の別れを体験させられた。一生その苦しみを背負うには、人間の精神力じゃ無理だ」
「不死鳥にだって無理だ。だから私の友は一人だけ」
「……サン、死ぬな」
俺は横たわるサンを抱き上げる。
不死の炎を失った今もその体は炎に包まれるその体を抱き締めた俺の服には火が燃え移ったりするが、そんなのはどうでも良い。
……なんて低い温度の炎。
俺の『発火能力』があそこまでの炎であるのは俺がサンの炎を知っているが故だ。
あの触る事も叶わない程に熱を放つ炎の面影が微塵も無い。
「残念ながらそれは無理そうだ」
「………………フェニックス……」
「アバドンか、久遠を頼むぞ」
「……任せ、ろ…………」
クソ、一体全体どこのどいつだ。
俺の友達から略奪なんて真似しやがった糞野郎は……!
「久遠」
「…………」
「私たちは、友達か」
「何言ってんだよ、俺達の関係は確認なんて必要ないだろ。例えサンが否定しても友達だからな」
もし拒絶すんなら俺は名付け親だ、なんて俺は続ける。
「うん、わたしたちは、ともだちだ」
サンは……。




