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111Affronta  作者: 白米
第二部 Mondiale del RPG Eroe
60/73

060 戦場の発火能力

 空を飛ぶ城の圧倒的迫力から一時視界の外へ外れていたが、崖下30㎞先では人間と魔物の激しい攻防が繰り広げられ、荒野は砂煙に覆われている。

 昨日、酒場で聞いた組合の友軍の配置は反対方向だった筈だから、あの中にはベルンハルドやトラウゴットは居ない。知り合いが居るとすればスヴェトラーナ位か。

 ……あぁ、内戦じゃないから知り合い以外は全員敵、なんて状況ではないのだから一気に焼き払うのは流石に拙いか。


 ……まあそんなのはさて置いて。


「アルベルト、お前は俺以外の勇者をあの城へ送れ」


 勇者三人が魔方陣を通して此方側へ来ると、後を追うようにしてアルベルトもこの場へ来た。

 『リミット・リワインド』の効果は持続時間が短い。

 授業の際、座学と同時に自分のスキルを理解する為幾度か発動させ、実験を繰り返した為スキルについて粗方理解することは出来た。

 そんな状況でまず俺がすることは一つ。


「……分かりました」


「久遠さんは何処へ?」


「…………」


 正直、そんな問いに答えている余裕すらも、『リミットリワインド』には存在しない。

 黒剣では駄目だ。『発火能力(パイロキネシス)』が使える内に殺らなければならないことがあるのだ。

 俺は飛んだ。

 翼の無い俺だが、力さえ戻れば一飛びで10㎞は容易い。

 体さえ出来ているなら着地なんて気にして飛ぶ必要性は何処にも無い。

 俺は三度の跳躍からその戦場へと突っ込み、上空からの登場は周りにいた奴からしてみれば隕石に相違ないものだっただろう。

 着地の際下敷きになったのは恐らくオークだったと思う。

 俺の存在に気付く事も出来なんだブタは、着地の際必ず出来上がるクレーターの中心で水風船のようにその体を破裂させ、クレーターの中心を赤い鼻で彩った。

 そんなアートを作り出した俺への反応は、当然の様にない。

 戦場において一個体への反応があるとすればそれは対象の首のみだ。一兵に過ぎぬ俺がどんなに派手な登場をして見せても敵は怯んでくれない。

 敵が人間でないが故に、尚更だ。


 制空権は完全にあちら側のモノとなっているのは、跳躍した際に見たのは先程焼け散らした超巨大な鳥。

 マライか? 兎にも角にもあんな大きな鳥が沢山存在し、尚且つ制空権を取られているというのは人間側にとってかなり危機的状況だ。

 マライ、俺も実物を見たのは一回しかないが、鳥と言うよりは怪鳥の形をした悪霊で、死体を喰らう魔物。とある小さな村は奴の呪いによって壊滅した。

 直る筈の疫病が治らず、そのまま死に絶えて行く村人たちの姿を俺は一生忘れない。


 ……いや、違うな。見た目が似てはいるがしっかりとした実態が有る。

 ただ嫌な雰囲気を纏っているには変わらない。悪いが怪鳥共にはこの世からご退場頂こう。


「『ブリューナク』」


 再度放たれるのは矢ではなく槍。

 先程、一羽の怪鳥を貫射き天の星へなったそれは、一羽に当たった次の瞬間には5つの熱線となり、空を飛ぶ怪鳥達を殲滅する。

 これが『ブリューナク』の本領であり、コレが無いなら『ブリューナク』は『バリスタ』と大差ないただの炎の飛び道具になってしまう。

 別れた熱線は、威力の減退なぞ微塵も見せず、怪鳥達を塵も残さず焼き尽くし、勢いを殺し切れずに大地へ降り注ぐ。

 分散した際の角度でどうしても下へ降り注いでしまうこれは集団戦には全く向かない。

 もしその場に味方が居れば、味方も一緒に焼いてしまうからだ。

 しかし、残念ながら今の俺に味方を気遣っている時間は無い。

 一応は分散されていて、巨大な怪鳥を焼き尽くした後であり、回避するにせよ防御するにせよ、それなりにレベルが有れば防げない事も無い。……筈なのだ。

 幾ら視力が高くても、こうまで砂煙が酷いとどんな被害を齎したか確認することも叶わない。

 今そんなことをしている場合でも無いし、まだ残っている怪鳥を殲滅しなければならない。


 ……誰も、当たってくれるなよ。


「『ブリューナク』『ブリューナク』『ブリューナク』『ブリューナク』!!」


 怪鳥は、その巨体故この戦場の中ではという話であるもののそこまで個体数が多い訳では無い。

 ブリューナク×5+1で26羽の怪鳥を焼き尽くすと空は、太陽を遮るものが無くなって砂埃の中でも分かる程明るくなり、俺は次の行動に出る。

 抜刀するのは、鎧のオマケのように付けられた派手な装飾の両刃の剣。

 大剣とまではいかないまでも、偽剣アロンダイトよりは一回り位大きなそれを片手で持ち、誰の目にもとまらぬ早さで動き、その剣を振るう。

 狙うは大物。通り道に居る小者は片手間に切り裂き、死して横たわる兵士の剣を途中で拾って歪な二刀流を形成した俺は、基本人間より一回りは大きな魔物達の首を何の感情も無く撥ねて行く。

 勘を取り戻す意味も込めて、返り血を一滴も浴びずにその命を絶っていく。



 俺の攻撃は全方位型である。

 前方の、視界に入った異形な存在全てを切り裂き、視界に入らずも敵意を向けて来た相手全てをベールの様に身に纏った『発火能力(パイロキネシス)』によって作られた炎で焼き払う。

 自身が身に纏う故に『バリスタ』や『ブリューナク』といった攻撃のみを行う炎程の火力は無く、息絶えさせるまでに5秒のタイムラグを要するそれはずっと昔の俺の鎧だった。

 あの時はもう使わないと決めた筈なのに、戦場へ出るとどうしても頼ってしまうのは、俺が弱いからだろう。

 全く笑えない。


 魔物が血をふき出す頃にはもうそこに居ない。

 俺は敵にも味方にもその姿を識別することすらさせずに敵の命を刈り取って行く。

 ……本当なら乱戦になる前にまず『発火能力(パイロキネシス)』で敵の数を絞りたかったのだが、何と無くあの騎士共が俺の意見を取り入れるとは思えなかったし、提案している暇も無かった。

 『発火能力(パイロキネシス)』の本領は1VS大多数にある。ここまで乱戦状態に陥ってしまうとその力の2割も出せているか分からない。

 『バリスタ』はその熱から尋常じゃない程周囲の水分を奪う為に仲間がいる場では使えないし、『ブリューナク』はそもそも味方を巻き込む可能性が高い技だ、コレに関してはもう使ってしまったが。

 他にもある様々な技も、全て一人で戦う時に一番輝くモノばかりだ。


 ……元々が炎である以上、それも仕方ないのだろうがな。


 俺は敵を斬り、焼く。

 大規模な攻撃が出来ないのがもどかしく、一兵としての戦火しか上げることが出来ない現状がどうしようもなく嫌だ。

 しかし、味方殺しは何のために戦っているのかという目的を無くさせる行為だ。

 であればどうしようもないのだ。


 『リミット・リワインド』が解ける時の感覚は、午前零時の日と日が変わるような感覚に似ている。

 とはいっても完全にイメージで、実際にそれを感じ取れる訳では無い。

 人間だしな。


 兎も角、そんな感覚はかなり早くに訪れる。

 何故なら『リミット・リワインド』の使用可能時間は、3分だからだ。


 そのたった3分を使い切る前に『発火能力(パイロキネシス)』を解除しなかった場合、実在させたままだった高温の炎が爆散し、俺を含めた周囲の者に尋常じゃない被害を及ぼすのだ。

 今、具体的に時間を謀った訳では無い俺が『発火能力(パイロキネシス)』を解除したのは本当に野生の勘からで、まさか体内時計での計測すら忘れるとは夢にも思わなんだ俺を、一秒のタイムラグ後に日と日が変わる感覚が『リミット・リワインド』の終了を伝える。


 再度『リミットリワインド』を使う場合、60分のクールタイム後でなければならない。

 本来そうしなければ使えないのは言わずもかなだが、力づくにやれば出来ない事も無いのは何と無く分かってしまう。だがそれは余りに愚的な結果を生むためにするべきではない。

 『リミットリワインド』の尽きた俺は、一気に持つのが辛くなった両刃の剣を鞘へ納め、もう片手に持っていた剣も投げ捨てる。

 この戦場で俺の出来ることは終わった。

 制空権をどちらのモノでも無い状態へと戻し、少しとはいえども陸の勢力も削った。

 さっき『リミット・リワインド』を発動させてしまった俺は、敵との遭遇率が低そうな城内への侵入を後回しにし、沢山の命が掛かった此方側の戦況を少しでも良くしようと考えたからだ。

 その時間は『リミット・リワインド』が切れるまでのほんの数分。


 だが、俺の生み出した結果は絶対的に人間側の優位なものだった筈だ。

 そして向かう先は、空飛ぶ城。

 先程までの速度は出ないにせよ、Lv10になって出来上がったバネをフル活用し、最高速で城へと向かう。



 そして辿り着いた時、俺は唖然とさせられる。


「想像以上に、でかいな」


 城の斜め下まで来た俺はその巨大な城を見上げながらなに遠くからではわからなかったその巨大さに唖然とする。

 そして、今の跳躍では決して届かない遥か上空に聳えてしまっている城へどうやって侵入すれば良いのか、なんてのは考え無しに突っ走った俺が知る訳も無い。

 流石にこれは計算違いだった。優人達はアルベルトの転移であそこまで辿り着いただろうが、残念なことに俺は転移を使うことが出来ない。

 ……今使える可能性のある手は、1時間を無駄に過ごし『リミット・リワインド』を発動させて城へ乗り込むことだが、それでは遅すぎる。


「……どうするか」


 いっそ、一か八かこのままで飛んでみるか?


「どうしたの?」


「あぁ……あの城へどう侵入するか迷っていてな……? な……エミリー?」


「はいはーい。何時でも何処でも貴方のデリバリーフレンド、エミリーだよ。二重の意味でデリバリー」


「二重の?」


 それは一体どういう意味だ。

 なんて質問はすぐに飲み込むこととなった。


「久遠、ワシを置いてくでないよ」


「エゼリア? 忙しいのでは無かったのか?」


 そこにいたのは信徒達の道標の役割を担っていたであろうエゼリアであり、エレアノールエミリーは無表情の中にドヤ顔を潜ませている。



「幻術を使った。魔物共を町へやってイレギェラーを起こさねば問題無い」


「幻術……催眠のようなものか。……それで、ここに馳せ参じたと」


「うむ! 久遠、ワシは共に行く。友だからな」


「あぁ、頼む。……エミリーもな」


「任せて」


 そう言えば、前に教室や謁見の間で見た優人の周りを取り巻く女児共はどうしたのだろう。

 優人が戦争に出るというのに見送りにも来て居なかった気がする。

 ……まあ、特に興味がある連中ではないから別に良いが。



「……じゃ、エミリー。あの城へ転移を頼む」


「ん、了解」


「今度はワシを置いてくなよ! 絶対じゃからな!」



 俺達は、魔王城へ乗り込んだ。

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