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111Affronta  作者: 白米
第二部 Mondiale del RPG Eroe
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058 死神付きの蘇生

 城へ到着するのと、俺が攫われるのはほぼ同時の出来事だった。

 ドタバタと慌ただしい城内で俺を視界に収めた一人の家政婦がなにやら笛らしき物を吹いたなとそう思った次の瞬間、俺は沢山の家政婦に捕獲されそのまま何処かへ連れ去られるというある種珍しい、111年生きて来た始めての体験をした。

 連れ去られた先で俺は裸にひん剥かれ、家政婦の一人が何かしらの魔法を発動させた次の瞬間には俺の全身が洗い清められ、何事か理解出来ぬままに今度は着せ替え人形の気分を味合わされる羽目になる。

 下着からなにから、全てをあっと言う間に着替えさせられた俺は何時の間にか鏡の前に座らされている。

 何時も髪質のお蔭でボサボサとまでは行かないまでも、落ち着きの無かった黒髪は櫛で綺麗にとかされ、顔に軽い化粧まで施される。

 化粧と言っても、肌を綺麗に見せる程度のものであって、女性の好む化粧とは別ジャンルであることを声を大にして言って置こう。

 さて置き、全ての行程が終わったらしく家政婦たちが俺から離れた時、俺の姿はなんというか……勇者の貫録があった。

 中を黒で纏め、外を赤で閉める。銀の胸甲板に草摺、篭手といった、鎧の栄える紅い勇者へと、俺は姿を変えていた。


「……なんだ、コレ」


 結構着込んだ筈なのに暑く無く、むしろ今までの格好より涼しい位で、服や鎧の重みを全く感じずまるで羽の様。服として理想的な物を全て纏めてみました、なんて言われるようなそれは、言わずもかな俺に合わせた様にピッタリだった。


「おぉ、久遠カッコいい」


「エミリー、何時から」


「最初から」


「堂々の覗き発現、流石俺の友達」


「でしょ」


 何時の間にやらそこに居たエレアノールエミリーに驚くことはなかったが、どうやらエレアノールエミリーの調子は一日で元に戻ったらしく、弔の様なことにはならなかった。

 ……あれ、そういえばもう来てるのか?


「弔はもう来てるのか?」


「来てる。何で?」


「いや、居るなら良い。エゼリアは?」


「仕事。流石に忙しいみたい」


 あぁ、そういや役割的には聖剣と同じ……つまりは信仰の対象、だったか? 人の沢山死ぬ戦争を前に仕事に追われるのは当然か。

 ……しかし、宗教国の姫がそれを仕事と言ってしまうのはエゼリアの本性を知っているからなのか……いやそれでもそれは問題がある気がするぞ……?


 さて置き、俺はエレアノールエミリーに連れられて大広間まで来ると、4人の勇者の姿がそこにはあり、俺は小走りでそれに近付く。


「あ、久遠さんは赤なんだね」


「そう言うお前は白か」


 俺が着せられた服はどうやら、勇者の正装らしいことは、四人が色は違うが鎧と造りが同じ服を着ていることから分かる。俺は赤だが優人は白、結城は青で、弔が黒、十は黄色と、全員何と無くのイメージカラーを身に纏っていた。


「……なんか、戦隊ヒーローみたいだな」


「5人いるしねー……ポーズでも考える?」


「必殺技の方がまだ実用的な気がするが……まあそれは置いておこう」


 取り敢えず、優人を見ると即時エウフラージアの元まで連れて行きたい衝動に駆られるからなるべく視界にいれないようにしないと俺は何を仕出かすか分かったものではない。


「そういえば……」


 と、俺は先程弔に置いてかれた理由を尋ねそうになって止めた。

 何と無くだが聞くのは野暮な気がしたというか、まあそんな感じなのだが、何故そう思ったかは不明。


「どうしたの?」


「いや、あー……この後俺達はどうするんだ?」


「魔王軍が攻めて来た方へ転移で飛んで主力の撃破だって。四天王と魔王が、僕達の担当」


「ふむ、成程な」


「勝てるよね」


「それは相手の力量次第だが……取り敢えず俺が負ける敵が出たら……」


「えっと……」


 終わる気がするなぁ……現在優人の腰にささった聖剣がどれ程の力を持つかは分からないが、取り敢えず優人の飛行能力は雛鳥に近いから、もし魔王が空中戦を挑んで来たら終わるな。

 そう言えば俺は優人達のスキルを知らないが、俺の『リミット・リワインド』のように戦闘向けのスキルが備わっているのなら、何とかなるだろうか。


 ……どちらにせよ、相手次第か。

 辺りを見回すと、数名の騎士が居て、俺達の会話の緊張感の無さに飽きれた目を向けてくる者が殆どだった。どうやら勇者とはいってもまだ若過ぎる俺達が戦闘の要になることが気に食わない奴も居るらしく、その表情は冷たい。

 ただ不愉快なのは、俺を若造を見る目で高々数十年しか生きてない奴らが見ることだ。

 俺はその舐めきった視線を向けてきた命知らずどもに、幾つもの戦場に立った人間の放つ殺気というものを痛感させるように、勇者らしからぬどす黒い人殺しのオーラを騎士共に向ける。




 ……空気が、死んだ。


 どうにもこの国は何百年も平和過ぎたらしく、訓練を積むだけで実戦へ行けない兵士が何世代にも渡って存在しているらしいことは、前に誰かから聞いていた気がする。

 それだけに、それ故に、俺より放たれた絶対的強者の殺気はその場にいた騎士達の心を折るにはむしろ大きすぎる位の代物だった。

 俺達に向けられた視線が、俺一人に向けられるのはその殺気に反応したからだろうが、反応で来てしまう奴は不幸だと思う。戦を前にして、戦意を根こそぎ持っていかれるのだから。


「く、久遠さん?」


「ぬ?」


 急に、刺す様な張りつめた空気が消える。

 別に俺は八つ当たりをしたい訳では無く、理不尽な評価を改めさせたいだけだ。

 友に呼びかけられれば普通に返事をするし、殺気を向けたりなんかする筈も無い。


「いや、どうしたの? 急に怖い顔して」


「? 怖い? 俺の顔怖いか?」


「いや、今は単にカッコいいだけだけどさ」


「……カッコいいのか? 俺のかおぐぅえ!?」


 顔。そう言いたかった筈の俺の言葉は遮られる。何に? 足の裏に。

 しかも、顔面を蹴る為に随分と捨て身の攻撃方法を取ったらしく、蹴られた方向に倒れた俺へ追い打ちが如く人体が伸し掛かる。

 どれだけ勢いを込めればしっかりとした重心移動の出来る俺を転ばせ、尚且つその後も少しの間勢いを保つ程の蹴りを繰り出すことが出来たのか、なんて誰かのケツアタックを顔面に喰らった俺は思う訳だよ。

 超格好悪すぎだろ俺。というか飛び蹴りの後のケツアタックって。


 何処の鬼畜だ……?


「ぐ、軍曹!?」


 あ゛? スヴェトラーナ?


「ン゛ーカッンンー!」


 上から除けろ。そう言いたいのに、まさか声を出すことも叶わぬとは……というか、重すぎないか?

 少年誌の、男児の欲求を掻き立てることを売りにした漫画でこういうシーンがありそうではあるが、実際受けてみると死ぬ。マジで死ぬ。コレ窒息死だわ。

 なんというか、顔面に全体重を乗せられている感じ? 恐らく戦闘に備えた防具を装備しているせいでもあるんだろうが……これ死ぬわ。これに欲情する奴とかバッカじゃねぇの。死ねよ。お前が死ねよこの野郎。


 というか、本気で脱出できない何だコレ。

 Lv10になり、確かな筋力の増強があったにも関わらず、柔道の達人に抑え込み技をされた時の様に動ける気がしない。

 逃れようと必死な俺の腕が、地面に────落ちた。



「久遠さん!? ちょっと軍曹!? 久遠さんが! 久遠さんが死ぬよ? ていうか生きてるよね? 生きてるんだよねコレ!?」


「……っぅ……頭撃った」


「言ってる場合!? 速く久遠さんから……」

「久遠爺様から除けろ。スヴェトラーナ女史」


 優人の言葉を遮った、弔の言葉と共に目に見えない何かがスヴェトラーナの身体を吹っ飛ばした。

 スヴェトラーナの体はまるでゴムボールの様にバウンドし、結構な距離があった壁に激突して初めて静止、周囲が唖然とする中、優人と弔だけは俺の体を揺さぶる。


「久遠さんしっかり!」


「……久遠爺様、息してない」


 窒息したからな。


「しっかりしてよ久遠さん! ……こうなったら!」


 なんて、青白く呼吸が止まったままの俺に対し、優人が取った行動は人命措置を優先した……人工呼吸だった。

 こういう場合、ギャグなら男児が、ラブコメなら女児がと相場の決まっているこの法則は、日本に居る間に見た時代小説による知識だが、俺は存在がギャグの為、ラブコメ的展開は期待出来ない。つまりは、笑い話として片付けるしか無い訳だ。

 心拍が停止した訳では無いから胸骨圧迫は無いが、この絵を目撃した周囲の人間は硬直する。


「ゲホッ!」


「よかった! 呼吸が戻ったんだね!」


「……………………あー優人か?」


 目を覚ました俺は状況が読めぬままに辺りを見回すが、真っ白になった弔、爆笑する結城、茫然とする十のトリプルコンボで、優人がやらかしたことは分かる。


「……何した?」


「え? えっと……人工呼吸?」


「…………」


「……あ、そういえばファーストキスが」


 知りたくないぞその情報!

 いや待ってくれ、そんなことを言うキャラじゃないのは分かってる。だが待ってくれ!

 ……ちょ、え? いや、戦場でそんなことを言うのは愚かだって分かる。だから必要だったならば受け入れるしかない。

 だが……え? 何か、若返ったせいか嫌悪感半端無いんだが? 受け入れがたいんだが!?

 夢オチか? また夢オチか?


 キスネタ多いぞ俺の人生……しかも何だコレ。

 いや、今はそんなことを言ってる場合じゃない。


「弔? 弔! しっかりしろ!」


「あ、久遠爺様の幻が見える―」


「現実だ! しっかりしろ!」


 昔の弔を思わせる言動に懐かしさを覚えたが、眼前に居るのはしっかりと成長している弔。

 真っ白だが。


「久遠、久遠」


「エミリー? 助けてくれ、状況がカオス過ぎてもう俺にはどうする事も出来ない」


 というか、俺自身死にたい気分になっているのだが……?


「……分かった。けど私もお願いがある」


「何だ?」


「あそこにいる御姉様に、────────って言ってきて。その間に何とかしとく」


「分かった」


 何だか知らないが、エレアノールエミリーにしか分からない需要と供給があるのだろう。この状況を打破できるのであれば俺は何でもしよう。

 ついでに優人との接吻が無かったことになるのなら、神に祈ろう。

 戦の神アレースよ、幾万の唄を捧げよう。だから時を戻し、俺にスヴェトラーナの攻撃を回避し、この絶望感が湧きあがる現実を回避させてくれ。

 さて置き、茫然としたアンジェリーヌキャロンの前へ来ると、俺は動かないアンジェリーヌキャロンの肩を揺する。


「おい、アンジェリーヌキャロン」


「っ!? 勇者……? 貴方今……」


「夢かと思った? 残念GE・N・ZI・TUですからぁ~! 優人のファーストキスを奪ったのは貴女では無く……このわ た し だ!」


「イヤァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!?」


 ………………エレアノールエミリーッ!?

 余計な火種を増やしたであろう台詞。エレアノールエミリーに癒えと言われて言ったセリフは、何というか気持ち悪いもので、何故こんなことを馬鹿正直に言ったのか自分でも理解出来ないものだった。

 しかし、弔は真っ白じゃなくなっているし、十も我に返っている。

 ……だが、これだとイタチゴッコだ。



「伝令! 来ました! 魔王軍です!」



 そんな、カオスな雰囲気をぶち壊したのは、一人の兵士、前に門番としてであったヘイジルの言葉だった。



┌(┌ ^o^)┐ホモォ


 前回に続き、どうかしてます。

 一段落したら絶対改変します。

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