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111Affronta  作者: 白米
第二部 Mondiale del RPG Eroe
57/73

057 予想外の想定外

 朝の目覚めは上々だった。

 戦を前にして何時もと同じ時刻に目覚めると体を伸ばし、顔でも洗おうと下へ降りる。

 よく考えたらここにきて朝顔を洗うという当たり前な行為をするのはこれが初めてであると気付き、不清潔なと思いつつ、宿屋を出て2分位歩いた所にある井戸で汲んだ水で顔を洗って水を捨てると、再度宿屋へと戻り、食堂で朝食を摂り始める。


「あ、久遠さんおはようございます」


「む、おはよう。今日は遅いのだな」


「えへへ、学校が無いので寝坊しちゃいました」


 今迄寝ていたらしいエウフラージアは髪がボサボサだったり目が半開きだったりと、未だ眠そうな様子で俺の所まで来ると、照れくさそうに笑う。

 俺は店主特製の朝食に何の障害も無く頂ける有り難さを噛み締めながらにパンを口へ運びつつ、恐らくは今日戦争が始まる事を知っているであろうエウフラージアの緊張感が無いことへ疑問を抱く。


「エウフラージアは今日、何が起こるか知っているのだよな?」


「はい、魔族が攻めてくるんですよね?」


「……怖いとは思わないのか?」


「少しは思いますけど……きっと大丈夫って思うんです」


「何故」


「優人さん達、勇者が居ますから」


 ん、ん゛ー……それは魔王軍が弱いことを望んでいるに相違ない気がするぞ……?

 正直言って俺は4対1でも優人達に負ける気がしないし、あやつらに世界の存亡を託すには未熟すぎる。

 元々、日本で生まれた十代の男女児共の戦闘力なんて有って無いようなものだし、二年であそこまで行けるのは凄いことなのだろうが、それは所詮二年という枠の中ではというだけであって訓練を受けた戦士と戦って勝てるかと問われればそうじゃない。

 まあもっとも、平和ボケしたこの国の兵士にまで劣るということはないんだろうが……いや、スヴェトラーナは回避する様しか見てはいないが、結構な腕を持っていたか。

 勇者が魔王側へ持つ有利な点って聖剣アロンダイトだけではなかろうか。

 ……しかし、それをエウフラージアに言うべきではないんだろうけどな。


「そうか」


「えぇ、そうですよ、勇者様?」


「……む、俺か」


「忘れてたんですか?」


「あぁ、いや、そう言う訳では無いが……」


 聖剣を持たぬ勇者はただの余所者で、本来この国の為に命を賭ける義理の無い人間であることは必須な訳で、俺は戦うと約束したから戦うが、別に勇者であることを意識した訳では無いからな。

 数日前に嘘から出た真が如く何故か獲得していた職業、というだけである気がするし。

 ……本当に勇者か俺。


「……おはよう」


「あ、弔さんおはようございます」


 弔が、寝起きで機能の服装のままにも関わらずピシっとした姿で二階から降りて来たのにはどうやったのか疑問を覚えたが、取り敢えず俺も挨拶することにする。


「おはよう」


「っ……おはよう……ございま、す?」


「「?」」


 何故に敬語。

 どうにも昨日から様子のおかしかった弔だが、一日たった今も十分すぎる程様子がおかしく俺とエウフラージアは疑問符を浮かべるよりほかは無い。

 というかよく考えたら弔に敬語なんて使われたのは一番最初に会ったばかりの頃以来じゃなかろうか。

 ……え、まさか意図的に他人行儀にしているのか?


「弔、昨日から一体どうしたというのだ?」


「え、えぇと……何でも、ないわ」


「明らか何でもあるだろ。怒んないからお爺ちゃんに話してみなさい」

「お母さんに話してみなさい」


 乗るなエウフラージア。俺の場合本当にお爺ちゃんなんだから。

 さて置き、弔は近年稀に見る動揺っぷりで昨日のエウフラージアを思わせるように目を泳がせ、顔を逸らして何やら言葉を探しているようである。

 そして恐る恐るといった感じではあるが、漸くその訳を話し始めた。


「え、と……久遠爺様と」


「俺と?」


「どう……接したら良いのか分からないのよ」


「む?」

「え?」


 俺とどう接したら良いか分からな……え? 一体全体弔は何について悩んでいるのだ……?

 どう接したらいいか分からない、なんて友達以下の知人と話す場合に起こりうることであって、間は置かれてしまっているが10年も前から友だった俺との接し方を考えるのはおかしいぞ。

 自分で言うのもなんだが気を使う相手でもないだろうし、今迄通りで良い筈なのだが。


「千壌土さんは久遠爺様だった。その現実は私を困惑させるに事足りる現実なの」


「そういえば弔さんは何で久遠さんのことを久遠爺様と? 久遠さんそんな歳じゃないですよね?」


「あーっと。俺、何故か若返ったんだよ。実年齢111歳」


「ひゃくじゅ……! お爺ちゃんだったんですねー」


「最初から言ってただろ」


「そういえば……言ってましたね」


 本気にされてなかったらしいな。

 まあそれは兎も角、今は弔だ。……千壌土さんが……つまり今の俺が昔弔と友だった久遠爺様と同一人物であることが問題である。

 恐らく弔はそう言いたかったんだろうが、言われた方としては訳が分からないの一言に尽きる。

 例え若返ろうとも、俺は俺だ。何も変わりない、千壌土久遠という人間だ。


「で、それで何故弔は困惑したのだ?」


「昔の私は久遠爺様の事大好きだったのよ」


「俺も大好きだが?」


「それはLIKEよ。私のはLOVE」


「…………………………うぇぇぇぇぇぇぇ!?」


 どんな年上キラー!? 年齢差四捨五入したら100歳行くぞ!? ジジィもビックリだわ!

 つうかこんな声あげたの何十年振りだよ! もし俺が入歯だったら吹っ飛んでたぞ! 入歯だったことなんて一度たりともないけどな。

 いや、そんなのはどうでもよくて、本当かよ。

 幾ら見た目若いからって流石に限度ってもんがあるぞ。


「……告白もしたじゃない」


「え、いや確かに……って本気に出来るか!? 本気にしていたら俺はただの変態だぞ!?」


 ロリコンという……な。

 一生童子達に近付けなくなるわ。本気で自分が気持ち悪くて。


「……一つ、良いですか?」


「な、何だ? 俺はノーマルだぞ……?」


「じゃなくてです。弔さんが原因としているのは昔の久遠さんが好きだったという現実なんですよね?」


「え、えぇ」


「本来なら子供の頃の事ですし、気にする筈は無いです。……その恋が終わっていたならば」


「……む? どういうことだ?」


 エウフラージアの言っている意味が分からない。というか、理解してはいけないと脳が拒否反応を起こしている節さえある。

 弔は俺と違い理解してしまったようで急ぎエウフラージアの口を塞ぎにかかるがもう遅い。


「弔さんが今も尚久遠さんを好きってことです」


「「…………」」


 え、いや……本気か……? 本気なのか……?

 俺も弔もエウフラージアの言葉に唖然とし、頭の中で自体を整理し終結させようと脳細胞を活性化させ、考えを纏めるが正直どうすれば良いか俺まで分からなくなってしまった。

 そもそも俺は共にそういう感情を抱かない。

 故に何故弔がそういう感情を持つようになったのか理解する事が出来ずその気持ちを汲み取ることが叶わないのだ。

 友の恋を叶えるキューピットは、自分の事となるとハートの矢を射る事が出来ずどうすることも出来ないんだな。


「……この場合、どうすれば良いのかしら?」


「……どうすれば?」


「告白、すれば良いの?」


「それは駄目だ。爺様は許しません。弔をそんな尻軽女に育てた覚えはありませんよ」


「……久遠さんがお母さんだったら良かったのに」


「あれ!? 弔さん!?」


 何か物凄く変な方向へ話が進んでいる気がする。

 その後、カオスになった話の方向を修正出来なくなり、俺は弔の情緒不安定なボケに対するツッコミを全てエウフラージアへ押し付け朝食を食べ終えると手を重ねて「ごちそうさま」と告げると立ち上がり、早々にその場から立ち去ろうとして、エウフラージアに捕まる。


 その目は逃げるなと訴えかけており、掴まれた腕は振りほどける気がしない程に強い力で掴まれている。

 仕方が無いので、俺は未だ思考が明後日の方向へ向かっている弔の話を遮る。



「……弔、そろそろ城へ行こう」


「……そうね」


 よく考えると、魔王軍は今日の何時攻めて来るか分からない訳で、本来はこんな所で時間を潰している暇はない筈なのだ。


「じゃあエウフラージア」


「はい、いってらっしゃい」


 俺と弔は宿屋を出て城へ向かう。

 エウフラージアは、ニッコリ笑いながら俺達を見送ってくれた。


 城への道のりの途中で弔が姿を消した。

 逃げられたのかもしれない。

 ……というかも行かない童子だった弔がこんな老害を恋愛対象にしいたなんていうだけでも驚きなのに今も尚その気持ちを持ち続けていたことには尚の事驚きだった。

 童子が一時の気の迷いとして親しい異性を好むことは別段珍しくも無いが、あの年齢まで行くとそれはもう別物である。

 …………あぁ、もしかして戸惑いっていうのはそういうことか?

 昔好いていた相手との間には一生どうにかなりはしない歳の差という大きな壁があったが、現在俺は弔より年上どころか年下の状況だ。

 今迄思い続けてきて、急にその壁が無くなっていることに気付いてどうすれば良いか分からなくなった、というところか?


 しかし、その感情は幼き日に抱いた幻に近い感情だ。

 友人たる弔にそんな一時どころか過ちである可能性が濃厚な感情を愛であると錯覚して欲しくは無いな。

 俺は人に好かれることはあっても愛される人間ではないからな。



「……あー。色欲と傲慢の匂いがする」


「……メシア?」


 弔が居なくなり、一人街道を歩いていた俺の目に入ったのは昨日出会った隣国の国王、メシア。

 メシアは俺に気付くと微妙な表情になり、俺が近づいて行くと溜息を吐いた。


「よう、パルプンテ」


「誰それ、怖……」


「貴様……ハァ、貴様といると憤怒してしまいそうだ」


「一国の王がそんな怒りっぽくてどうする」


「貴様のせいだろうが。傲慢な奴だな」


 ……?


「前に会った時とは違い、喋り方に奇抜性があるな。キャラ作りか?」


「違う。どちらかというと前回がキャラ作り、だ。面倒になった、怠慢にもな」


 まあ一度素面で接した相手に今更キャラ作りとか意味分からんか。

 というか、一国の王がこんな朝っぱらから……というかよりによって今日この国に居るとか無謀じゃなかろうか。


「メシア、今この国に居るのは危険じゃないのか?」


「あ? あー……まあ大丈夫だ。というか戦いを前にしてそんな態度でいられるお前には嫉妬せざるを得ないな」


「嫉妬?」


「神経図太そうだろう。貴様は」


 失礼だな。

 メシアの言葉に反発しようとして、実例がある事を思いだした俺はそれを口に出そうとして再度弔のことで悩んでいたことを思いだしてどうすれば良いのか分からない自分に嫌気がさす。

 いくら感情の流れを理解することが出来ても、それを解決できなければ何の意味も無い。


「いやいやそうでもないよ。今だって他人からしてみれば下らないことで悩んでいたところだ」


 俺がそう言うと、メシアは少し考え込んだ後、言葉を選んでいう。


「あー。無意味になるだろうが忠告だ。お前の思考は傲慢だ。もう一度考えてみるが良い」


「傲慢……年老いたな、俺は」


「……? 怠慢だな、俺にも分かるように言え」


「あぁ、いや、独り言だ。忠告痛み入る」


「……気にするな。単なる気まぐれだ」


 メシアがそう言った後、俺達は会釈して互いに元々の目的地へと歩き出した。

 メシアが何処へ行くのかは知らないが、俺が向かうのは城だ。



 ……いよいよ戦争が、始まる。

 ※このページは改変する可能性大です。

  前回も。寝ぼけてて良くわからない感じになりました。

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