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111Affronta  作者: 白米
第二部 Mondiale del RPG Eroe
54/73

054 接吻騒動に黒幕

 適当なところでエゼリアと別れた俺は城を出て酒場へと舞い戻った訳なのだが、戻った俺を待っていたのは店主の作った飯だけでなく宴会をやっていた奴らからの質問攻めだった。

 流石に一国の姫があんなんであることは王の沽券に関わる為に言わなんだが、もしあの場で俺が抵抗するかはたまたベルンハルドが俺の救出に成功していたとしたら姫たるエレアノールエミリーの存在に気付く者も居て大変だっただろうがなんとかそんな事も無かったようで、異常なまでに心配していたベルンハルドの質問攻めを除けば飯を食いながらに応対出来るものだった。

 ……ベルンハルドは心配し過ぎ。

 俺ですらここまで心配するのだから愛するアニェッラの事になったら大変だろうな。

 将来心配から来るストレスで禿げるんじゃないか? 今はフッサフサだが。

 ちなみに俺はどんなに年老いてもフッサフサだったぞ! 111歳にもなって白髪一本無い黒髪が結構自慢だったのだ。

 コレに関しては気功の効果である老化減退に含まれる特徴の一つであるのだと思う。

 気功に関しては未だ分からないことが多いモノだったからな。

 生命エネルギーだなんて言われても、それがなんなのか正確に理解出来るのは生物を創り出した神位だろうな。


 そんな質問に埋め尽くされた宴会も日が変わらない内に終わり、酒場に集まっていた連中も今日は早々に退散して行った。

 再び退屈を持てあます結果となった俺は宿屋へ戻り眠りに着くという選択を取らず、再度城へと戻って着ていた。

 誰か話す相手が居ないものかと城内を探索し、起きたらしいエレアノールエミリーを発見した。


 逃げられた。


 ちょっと待てと。

 エレアノールエミリーの行動は早く、俺を視界に入れたその瞬間から既に方向転換を始めており、転移魔法を使える筈にも関わらず自分の脚を使っての逃走を謀ったのである。


 まあ逃がさないけど。


「逃 が さ な い ♠」


「イヤァァァァァァ!? 来ないでッ!?」


 ……やっべこれ俺泣くかもしれない。

 何で俺友達に来ないでとか本気で叫ばれてんの? しかも相手はエレアノールエミリーだぜ?

 エレアノールエミリーが叫ぶとか何事だよ。

 さっき酒場で俺がされたのと同じように後ろから抱き着いた俺だったが、確かな拒絶は、俺の心にロンギヌスの槍がクリティカルヒットしたような衝撃が遅い力を失った俺はそのまま城の床へ倒れこむ。

 つい数時間前まで仲良かった筈の友が何時の間にやら俺を拒絶とかもう駄目かもしれん。

 こんな国とか滅んでもどーでも良いわ。

 ぶっちゃけ人生もどーでも良い。

 鬱だ、死のう。


 そんな訳で、鉄壁の外装を誇るハートを敢え無く砕かれた俺はネガティブ思考全開なのでもう世界の平和とかどうでも良いです。

 生きるのに希望がある奴らで勝手にやってくれ。

 俺はもう明日生きているかすらも危ういよ。


「……く、久遠?」


「……………………」


 へんじがない、ただのしかばねのようだ。


「え、どうしたのさ……?」


「……………………」


 へんじがない、ただのしかばねのようだ。


「ほ、ホラ。私はここに居るよ。久遠の傍にいるよ」


「……………………」


 へんじがない、ただのしかばねのようだ。


「一生一緒に居るからさ。ホラ、元気出してよ。さっきの嘘だから」


「…………ト……」


 へんじがある、ただのしかばねのようだ。


 エレアノールエミリーはグッタリとした俺の体を抱き起し、糸の切れたマリオネットの様になっている俺を近くの壁に寄しかけて呼びかけ続けるも、俺の魂は今ここにあらずといった感じで放心しておりエレアノールエミリーの声は届かない。


「お姫様が何やっているんだ?」


 そんな所に通りかかったのは結城だった。

 未だグランドに居た時と同じ格好をしている結城は腕に本を抱えており、身体を休める気はゼロのようだった。


「久遠が、動かない」


「は? お姫様何やったんだ?」


「……分からない。来ないでって言ったら急に動かなくなった」


「…………」


 結城は『は? 何言ってんだこのお姫様。理由今自分で言ったじゃねぇか』的な顔をした後、何かを思いついたように悪い顔をすると、エレアノールエミリーに耳打ちする。


「彼はお姫様のキスで目を覚ます。そういう呪いに掛かったんだ」


「…………え、でもそんな魔力の反応は無い」


「お姫様に見えない程微量な魔力で構成されているんだ。勇者である俺だから見えるんだ」


「……そう」


 エレアノールエミリーは数回目を泳がせた後、「友達を助ける為、友達を助ける為、友達を助ける為、友達を助ける為、友達を助ける為、友達を助ける為」と何度も呟いた後に瞳へ決意の色が芽生え、動かぬ俺の顔を両手で優しく支えると、顔を近づけ……。


 ギリギリの所で俺に顔を抑えられる。


「あ、あぶっ、危なっ!? もう少しで友の唇が……唇が! 何処の馬の骨とも知らん男の唇と重なるところだったぞ!」


「何処の誰か知ってる。久遠は久遠。……呪い…………解いてみせる……」


「エミリーよく見て! お爺ちゃん目覚めてる! 目覚めてるぞ!」


 エレアノールエミリーは、俺が弁明する今も尚顔を近づけようとすることを止めず、俺は王族の唇を奪ってしまう瀬戸際に立たされる。

 いやそれ以前に、と、友の……しかも必死に決意しなければキスもすることが出来ない初心な友の唇を……こんなクソくだらねー場面で奪ってたまるかい!

 というかエレアノールエミリーは何故にここまで周りが見えていない!


「プッククク……お姫様思い込んだら一直線な奴だったんだな……クク……超ウケる」


「燃え散れ」


 く、クズ野郎めが……自分の趣向の為にエレアノールエミリーを利用するだなんて、必ず俺が燃え散らせてやる。

 というか顔近い! 顔近いぞエレアノールエミリー! 可愛らしい女児の顔がここまで持続的にあると流石に俺も照れるぞ! 嬉しいことは嬉しいが俺は今使命があるから素直に喜べないぞ!

 エレアノールエミリーの唇を守るという重大な使命が!


「え、エミリーお前……! キスの経験とかないだろ……!」


「無い」


「なら好きな人とする時の為に取っておけ……! それが一番なのだぞ……!」


 エレアノールエミリー、ファーストキスである事が発覚。

 尚の事この状況を打破しなければならなくなった訳だが、何故か俺が力負けし始めているという現状。

 な、何故だ……いくらなんでも女児に負ける程筋力が無い訳では無い筈なのに……!


「大丈夫……私、久遠好きだから……!」


「それLIKE! LOVEじゃない!」


 そう言う意味なら俺の方がエレアノールエミリー好きだよ! 大好きだよ! だから頑張っていることに気付いてくれ!

 というかエレアノールエミリー……どんだけ決死の覚悟が必要だったらそこまで周りが見えなくなるのだ。

 俺はそこまでの覚悟や決意を100年以上生きてきて学ぶことが無かったのだ。

 ……その辺は学んでおけよ……安易な気持ちで内戦に首突っ込んでいたのか、俺。


「それでも私は! 久遠がッ! 目覚めるまで、キスするのを止めない!」


「だから俺目覚めてる! 本当にキスが必要なのか、未来予知で確認して見ろ!」


 そう言ったところで漸く、エレアノールエミリーの猛攻が止まる。

 そして数秒目を瞑っていたかと思ったら突如エレアノールエミリーの体から力が抜け、クタッと俺に凭れ掛かる。

 どうやら未来予知で真偽を確かめ俺の言葉が本当であることを理解して力が抜けたらしかった。


「チッ、もう少しで『ズキュゥゥゥン!!!』な展開になったのに」


「結城、貴様に待っている運命は死のみだ。折り畳んでやる。貴様で鶴を折ってやる」


「い、いや待てよ。お前だって美味しい体験を……」


「前言撤回、蛙にしてくれる」


 友のファーストキス奪うとかどんなクズ。死ねよ。


「まあ待て。何も死ぬわけじゃ……」


「物理的に死ね、物理的に殺すから」


 俺はエレアノールエミリーには幸せになって欲しいんだよ。

 というか俺友達の幸せ全力で願う人間だからさ、友が不幸になるようなことする奴は殲滅するって決めてるんだ。

 結城とか殲滅対象以外の何者でも無いだろ。


「久遠さんマジギレヤバい。それヤバいから。明日の戦争、俺、大戦力。分かる?」


「明日の戦争、俺一人、全部片付ける。分かる?」


「OK分かった。……すんませんっしたぁぁぁぁぁ!」


 結城は大股三歩下がったかと思ったら、超アクロバティックな土下座を披露し、頭を俺の足元に差し出している。


「謝る相手、違うだろ?」


「フヒヒ、お姫様サーセン」


「ブッコロ」


 何で俺に対する謝罪は土下座でエレアノールエミリーに対してはそこまで軽い謝罪なんだよ。


「いや待てって。お姫様は別に俺へ対して怒ってないんだって」


「ハァ? 見ろこのグッタリしたエミリーを。精も根も尽き果てているだろう」


 俺の友はこんなにされて怒りを露わにしない人間では無いと思うぞ。

 無駄に使命感を煽られて好きな人に捧げる筈だったファーストキスを俺と終らせ掛けたんだからな。

 流石に老害がそんな状況を創り出させはせぬよ。


「久遠さんが本気でキレてるのは分かる。だから謝ったが、そっちのお姫様には怒りを感じられない。よって謝罪の必要性を感じない」


「単に疲れて動けないから文句の一つも言えないだけだろう」


 もしこれをやったのが結城では無くエゼリアだったら、こんな状況でも死にもの狂いな罵倒が飛び交ったことだろうからな。

 結城は一応勇者だし、きつく言えないところもあるだろうしな。


「ハハ、久遠さんがそう言うならそうなのかもしんねーけど。ならお姫様が正常の時に文句言ってくれ。そしたら土下座でも何でもするからさ」


「……あくまでも現状では謝罪する必要性を感じない、か」


「あぁ。けど久遠さんに対しては本気で悪かったと思ってるよ」


「そうか」


 俺はエミリーが怒ってなければ怒る意味は無いんだがな。




「……久遠さん」


「ん?」


「明日もし魔王を殺すことが出来たら、俺らは帰ることになる」


 帰る……あぁ、地球へか。


「あぁ、アンドレアが言っていたな」


「久遠さんも帰んのか? 久遠さんも、俺らと同じ世界から来たんだろ?」


「……帰らんな。あの世界は見尽くした。もし帰るとしてもこっちの世界を全部見てからだ」


 俺はこの世界を旅する。

 例え新しい武術が見つからないとしても、この世界を巡るのだ。


「世界を見尽くした? 旅でもしてたのか?」


「うむ、今度話してやろうか? 強さの秘訣とかも分かるぞ」


「ハハ。じゃ戦争が終わって帰る前にダイジェスト版を聞かせてくれよ」


「あぁ、戦争が終わったらな」


 語り部になるのは得意だ。

 物事を客観的に見て、自分の人生を面白可笑しく童子達に言い聞かせることは多々あったし、老人の昔話は詰まらないと相場が決まっているのにそんな常識を覆した物語的体験談を童子達は興味津々に聞いてくれたぞ。

 巧みな話術のお蔭だ。


 さて置き、どうにも結城は戦いを前にして眠ることは出来ないらしく、自室へ戻って本を読み耽るらしい。

 話を切り上げると俺は再びエレアノールエミリーを背負い自室へ運ぶべく歩きだし、結城も元々自分が行こうとしていた自分の部屋へと足を進める。

 まさか数時間の内に女児を二回も寝室へ運ぶことになるとは夢にもならなんだ俺は、エレアノールエミリーをベットに寝かせた後は再び城の中を徘徊するのだった。

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