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111Affronta  作者: 白米
第二部 Mondiale del RPG Eroe
50/73

050 低空飛行の結果

 エレアノールエミリーとアンドレアによる教育の元、次元魔法についてまずは座学で学ぶことから始めた俺だが、魔法というのはどうにも一朝一夕で学べるものではないらしいことが分かって来た。

 魔法は、それによって起こる現象を正確に理解しなくとも行使を可能とするが、その代わりとして全く別の法則性を持つ知識を頭の中で蓄積して行き、それを元に魔方陣を展開することで初めて魔法という現象を引き起こすことを可能とするらしい。

 そして、今覚えようと試行錯誤している次元魔法の基礎というのが物凄く難解で、理解出来ないことは無いものの、一日やそこらで頭の中に入れられる量では無いことが一番の理由である。

 王族や貴族といった裕福な家に生まれた者であるのならこれを覚える為に浪費される時間は存在するだろうが、少なくとも平民にはそんなことをしている暇はないだろう。


 そもそも次元魔法とは王族のみが使うことを許された属性の魔法であり、最初勇者達もその便利さから覚えようとしたのだが王によって却下されたらしい。



 覚えるだけでなく、重ねて理解もしなければならない。

 そんなことをアンドレアが言った時俺は立ちくらみをやむなくされたが、法則性のあるこれは一度コツを掴めれば後は簡単に覚えていく事が出来るのだろう。

 青空の元、頭痛に悩まされながらも次元魔法の基礎をやる俺は、転移魔法だけは覚えたいだなんて考えていた自分を殴りたくなった。

 これだけの情報を頭の中に居れて覚えるのを一つで終わらせる気にはなれない。


 ちなみにこれは捕捉だが、先程も言ったように魔法とは起こる現象を正確に理解しなくとも行使可能、つまりは起こる現象を正確に理解していても行使は不可能であるのだ。

 対して超能力は完全に起こる現象を理解していなければそもそも発現しないという魔法と相対する性質を持った能力だった。

 故にもし俺がお得意の炎を使う為に火属性の魔法を使おうとした場合にも何のアドバンテージは無いらしい。

 正直黒剣で事足りる上に聞く限り使い勝手は『発火能力(パイロキネシス)』以下という勤勉意欲を削がれることこの上ない為に俺は一生火属性の魔法を使う事は無いだろう。



「ですから何時もあれほど言ったでしょう! 基礎を大切にしなさいと!」


「……久遠、お兄様怖い」


「だからって俺の背中に引っ付くでない。冷たくて気持ち良いじゃないか」


 現在、授業の合間の休憩で何故エレアノールエミリーがアンジェリーヌキャロンの策略にされるがままだったのかアンドレアに話すと、大変勤勉らしいアンドレアの地雷を踏み抜いてしまったらしく、激怒したアンドレアから隠れる様にエレアノールエミリーは俺の背中からくっ付いて離れない。

 冷え症なのか知恵熱でパンクしそうであった俺にはエレアノールエミリーの肌の冷たさが心地良い。

 けど放せ。年頃の娘が男に抱き着くとは何事だ。


 お爺ちゃんは許しません。許しませんよ。


「強者の後ろに居たら目の前の敵も怖くない」


「後ろというか、上だろう」


 エレアノールエミリーの、人一人の重さもしっかりと伝わってきているから、おぶっているのと何等代わりない。

 LvUPのお蔭で女児一人なぞ重さの内に入りはしないが、それでもしっかりと感じるその重みは子を持たなんだ俺の知るべきでは無い重みなのだよ。


「大体エレアノールエミリーは人に言う前にまず自分の悪い点を……」


 と、俺達の状況なんかお構いなしにアンドレアが説教を続けようとした瞬間、グランドの中心で隕石でも落下したのではないかという程の騒音が鳴り響き、其方を見ると盛大に砂埃が舞っており、状況は全く理解出来ないが少なくとも成功が巻き起こした騒音でないことだけは伝わってきた。


「……俺ちょっと見てくる」


「あ……私の背中ー……」


 いや、背中を譲渡はしない。


「久遠が行くなら私も行……」


「エレアノールエミリーは説教の続きです! そこに直りなさい」


「………………はい」


 名残惜しそうに俺の背中へ手を伸ばすエレアノーエミリーを横目に、歪みないアンドレアへ苦笑しつつ、パンクしそうな頭の冷却も兼ねてグランドの中心へ足を運ぶ訳だが、近付くにつれて神聖化が濃くなっている時点でそこに誰が居るのかは予想が出来た。


「……なんて無様な」


「イテテ……あ、久遠さん」


 砂煙の中心、クレーターを作った現況たる存在は案の定優人であり、その手には聖剣が収まっており、その背には白光する翼が存在していた。


「何をしている? その翼は何だ? 手羽先?」


「食べ物に例えると十ちゃんに食べられちゃうから止めて! ……飛ぶ練習をしてるんだ」


 十……あいつ例え光ってても名前が食べ物なら食うと考えられてるのか。

 いや、そんなのは今どうでも良いか……。


「飛ぶ? カンガルー的な意味では無く鳥的な意味でか?」


「うん。ハジロアカハラヤブモズ的な意味」


 何故モズ科、ナミビアの野鳥をチョイスしたのか。


「上手く行ってないようだな」


「うん……飛ぶっていう感覚が掴めなくて」


 そう言いつつ聖剣アロンダイトを地面に突き刺して手放すと、優人の背から光の翼は消える。

 項垂れる優人に年長者としてアドバイスの一つでもしたいところだが、聖剣アロンダイトによる飛行がというものか俺には良く分らぬし……あ、そうだ。

 よく分らないのなら、よく分れば良いではないか。


「優人、少し聖剣を借りるぞ」


「え? うん。でも何に使う……の?」


 優人が言葉を言い終える頃には、俺は遥か上空へと飛び立っていた。

 聖剣を手にした瞬間に背中から生える光の翼は、腕の様に動き物理的飛行を基準として地上よりグランドの砂を撒き散らしながらその翼を羽ばたかせて飛び立ち、俺は空へ身を置いた。

 夢幻より教わりし飛行術は、思いの外俺の飛行能力を向上させ、翼は生まれた時よりその身に有るかのように自由自在に操れる。

 何時もより近くに感じる太陽を背に、上を見上げる優人に見える位置まで降下してから空を縦横無尽に飛んで見せ、最終的には急降下からの超低空飛行で優人を翻弄した後に結城、十、弔の順でその周りを飛び、ビックリされて何と無く可笑しい気分になりながら最終的には優人の元へと戻り、静かに降り立つと聖剣を優人に返しながら言う。


「と、飛行はこのようにするんだ。記憶したか?」


「うん、久遠さんカッケェェェ! ってことは記憶したよ」


 何も記憶で来てないだと!?

 折角空中で妖精顔負けの俊敏な飛行を見せたというのに優人の目には空で舞う俺の姿は空で舞う姿でしか映っていなかったというのか。

 俺は全然関係無いのに低空飛行中に弔と十のスカートの中から覗く下着の色までしっかり覚えているというのに。

 …………何故記憶しているのだ?


「いや、そうでは無くだな、こういう風に飛ぶという見本を俺は……」


「さ、流石にそれを一日でやれってのは無理だよ」


「諦めるな! 俺だって夢幻に教わった時は『いや、俺羽ないし無理じゃね?』とか思ったものだが案外出来たのだぞ! 最終的に『あれ? 俺コレ飛んでない? 飛んでるよねコレ?』って所まで行ったんだぞ!」


「え、えっと?」


「訳、やってみれば案外何とかなる」


「成程! 確かにやらなければ何も始まらないしね!」


 優人はそう言うと、手に持つ聖剣を強く握り、何故か片翼だけ動かすという奇妙な飛行法を選び、「しぬらばっ!」とか叫びながら転げて行った。

 ……そこからか!? そこからなのか!?

 まさか翼を動かすところから良く分っていないとは思いもよらなかった俺はそんな優人をただ茫然と眺めるしか無い。

 俺に翼の動かし方を聞くのはそのまま人間に腕の動かし方を聞くに等しいことであり、正直神経学的な知識は持ち合わせていない俺にその説明は無理だ。

 どうしたものかと腕を組んで考えていると、俺の肩に手を置く奴が現れ、振り向いてみるとそこには眉間にシワを寄せた弔と泣きそうな顔をした十。そして遠くからは笑いを堪えている勇気が見えた。

 目の前の弔が物凄く不機嫌であるということしか状況が分からん。


「……どうした、と聞いても?」


「何か言い残すことは?」


「状況が読めずに困っている。俺の問いに答えてくれないということは意思疎通が出来てないという事。通訳を呼んで欲しい」


 流石に今の喋り方で通じないならどうしようもない。


「久遠、貴方は15にもなってスカート捲りをするのかしら?」


「……む? スカート捲り? スカート捲りって……アレか? 女児のヒラヒラした洋服を捲り上げる奴」


「……馬鹿なの?」


「ぬ、違ったのか」


「そんなことも確認しなきゃ分からないの?」


「…………」


 ぬぅ……毒舌……昔はこんな子じゃなかったというのに一体何処で足を踏み外したのだろう。

 いや、踏み外すというのは正確じゃないな……育て親が原因だ。

 まあそれはさて置き。


「俺がスカート捲り……あ、飛んでた時の事か?」


 いや、別に俺はそんな目的て低空飛行を披露した訳では無いのだが……。

 むしろエンターティナーとして皆々様方に楽しんで貰おうと思ってやっただけなのだが……というか俺はこの歳で意図的にスカート捲りやるとか思われてるのか!?


「私は兎も角、十は……」


「もうお嫁にいけませんっ……!」


「この通り、もう駄目よ」


「メンタル弱すぎぬか!?」


 ガラスハートどころの騒ぎではない。

 豆腐ハートの次元だぞそれは。


「十は女の子よ、とても傷付き易いの」


「弔は?」


「私のハートは、立法晶炭化窒素」


 強固じゃないか。

 というか分かりにくいから固いことを説明したいならそのままダイヤモンドで良かろうに……。


「……あれ、というか結局、意図的どころか無意識的にもしたつもりなんて無いスカート捲りを事実としてしてしまっていた俺は結果的に何を求められているのだ?」


 まあ確かに見えたしな。結果としては言えなくも無かろう。


「極刑……にしては明日の戦いに支障を来すわね」


「罪重いなスカート捲り……さっき王族に鳩尾食らわせて来たが御咎め無かったぞ……」


「それと比べると確かにそれはおかしいわね。不条理よ。なら、そうね……」


 考え込む弔と一緒に俺も考えてみたが、正直何をすればいいかなんて思い浮かばない。

 ……スカート捲りして女児共に怒られるとか100年以上生きてきて初めての体験だしな。


「目には目を、歯には歯をと考えるのはどうだろう」


「成程、でもそれは貴方に邪な思いが無かった場合にのみにしか対等では無いわ」


「……流石にそれは確かめられないぞ」


 表面意識では絶対無いのだが……心の奥底では『ウホッ! 女児の下着とかマジ興奮するぜぇ!』位思っているかもしれない。

 俺も男だしな、うん。男ならその位思っていてもおかしくなかろう!


「安心して、確かめる術はあるわ」


「ふむ?」


 嘘発見器でもあるのか?


「【これからする質問に嘘偽りなく答えなさい】」


「…………? さっきから嘘なぞついていないが?」


「な……」


「む?」


 む? あれ? もしかして弔は今何かしたのか?

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