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111Affronta  作者: 白米
第一部 Punto di svolta nel mondo
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005 褒賞の不思議

 服は、結構な種類があったが、その中で見つけたのは懐かしきかな袴の存在だった。

 装飾っ気の無い無地の袴。俺は迷うことなく袖を通した。

 袴のサイズは俺の身長と比べて少し大きかったが、過去と同じ様に成長するのであれば、すぐにピッタリになるだろう。

 俺は人生柄か、服装にこだわったことなぞ無かったが、どういう服が一番好きだったかと問われれば、袴一択だった。

 機能性で言えば軍服も中々だったが、機能性だけ。

 今となっては戦場で散って行った戦友達を思い出してしまう為、着てみようとも思わない。


 ちゃんと上下共にあって、ついでにふんどしも見つけた。

 恐らくは同郷の主がこの盗賊に居たか、はたまた略奪したか、その辺は定かじゃない。

 下駄や草履が無いところを見ると後者であろうが、兎も角今は、この袴と言う存在があったことに感謝することとしよう。


 ただ、袴だけを身に纏うとなると、民族衣装丸出しで近状によっては入国に差し支える可能性がある。

 俺は袴の上から盗賊の身に着ける暇が無く放置された防具の中から軽く丈夫と言う実践に置ける装備の上物の代名詞である二つが揃った鉄のを見つけ、身に着ける。

 防具は他に小手、脚鎧と身に着けたが、略奪の為に動きやすさを重視したのか腰鎧が見つから無かった。

 脚鎧は袴の下に殆ど隠れる。

 小手は要らないかとも考えたが、盗賊ですら金に換えずしっかりと持っているところを見ると、標準装備なのだろう。

 恰好で悪目立ちすることは、知らぬ土地に入る際はご法度だ。相手に警戒心を与えてしまうからな。


 俺は袴や鎧の上から何か羽織ろうかとも考えたが、全裸でも大丈夫な気温で厚着は目立つだろうと止めた。

 腰に機能性へ特化させたであろう革のベルトを着ける。

 剣を腰に差すこともでき、ポシェットまでついている。俺はそれを二巻き腰に着け、二本の武器を携帯する。

 武器は常時携帯している奴が多いのか、一本しかなかったが、これは見るからに上物。

 片刃の剣、だがしかし、刀と同じ技法で造られた物だ。それに何処か、異質な気配を身に纏っている。

 自分達が使うのではなく売るつもりで居た為に宝と同じ扱いを受け、放置されたものと思われる。


 ナイフを探したが、見当たらなかった。

 これに関しては別の所で保管されているかまたは常時携帯しているか。

 恐らくは前者。こんな便利なベルトが有るのだから、ポシェットの中に入れてるのではないだろうか。


「ふむ……こんなものか」


 上質な布を使った服は、その辺に落ちていた小汚いリュックの中に、汚れてはいないが着たいと思えず、売り物にもならないであろう服を袋代わりにしてその中に入れてから収める。

 上質な布を使っている豪華な服であっても、汚ければ足元を見られる可能性がある。

 折角舐められるような容姿をしていないのだから、そういう可能性は全て潰して起きたい。

 俺の服に関しては、袴と同様にサイズが合わないモノが多いから売却したのを元手に入手することにしよう。

 できれば袴を見つけたいものだが、まあいざとなれば布を買い、自分で作るという手もある。



 後は宝物庫か。財布代わりになるだろうか、なんてその辺に落ちていた小さな袋をポシェットに入れながら俺は思う。

 宝探し気分で探しに行っても良いが……火による煙のほとんどが外へと逃げてくれるにしても、此方側に入ってこない保証は無い。

 それに、生き残りが居る可能性が無い訳でも無い。

 盗賊と見間違われる可能性だってあるし、出来る限り早くここを立ち去るのが無難。

 となれば……。


 俺は立ち上がり、リュックを背負って女の死体を踏まないように部屋を出る。

 そして向かう先は調理場。

 先程油を探した際に見付けた塩と、これは探さなければならないが出来れば保存食を得ておきたい。

 そしてもう一つ。塩の他にも放置してきたものがある。人だ。


「む? 目覚めていたか。手荒く起こす手間が省けたな」


 縄で拘束しておいた二人の女が目を覚ましている。

 二人共、縄をほどくように試行錯誤していたようだが、ほどけるように結ぶほど、俺は甘く無い。


「さて、動くな。一秒でも長く生きていたければ」


 俺は言う。女達は怯え、縄への攻撃を止める。


「単刀直入に問おう。宝物庫は何処だ?」


「「…………」」


「黙秘か。ちなみに、俺は男女差別する趣味は無く、つい先程も女の死を放置してきたところだ」


 女達は怯えた様な声を上げる。

 状況が状況だけに、単純すぎる言葉でも十分すぎる程の恐怖を与えることが叶うようだ。


「そして、喋る口は一つで良い。もう一つは……要らぬか」


「「…………」」


 尚も黙秘。この女達の思考は分かっている。

 俺が拷問せず、言葉攻めであることから、口先だけの人間であると思い込もうとしているのだ。

 そして、それが違うと心の中で理解してしまい、尚且つ宝物庫の場所を知っている。そんな奴を、俺はその細かな動作で理解してしまった。


 だから、その片方を残し、最初に手に入れた方の剣で、もう片方の首を撥ねた。

 俺にはギリギリで届かず、残りの女には血の雨となるような切り口で。


「……え? ……え? ……い、イヤァァァァアァ!?」


 首無き女の胴体は、血の水溜りに沈む形で倒れ、血の雨が止む。

 女共には教えていない可能性もあったが、それは杞憂だったようで一先ずは安心したな。

 俺はもう一歩踏み出した。


「皆が居る部屋のザムドさんが何時も座ってる椅子の後ろです!」


「……馬鹿にしているのか? 後ろは単なる岩の壁だった」


「魔具でカモフラージュしてるんです! 殺さないで! 殺さないで!」


 ……まぐ? マグ? カモフラージュということは何らかの方法で宝物庫への道を隠しているってことか。

 何時も自分達の居るところに宝物庫を作って居たってことは腕にそれなりの自信もあったのか。

 筋力さえ衰えていなければ是非戦って見たかったところだが、今となっては後の祭り。

 全員アベルの胃袋に収まっているだろう。


「まあ、分かった」


「助けて下さいお願いします! 死にたくないんです!」


「ふむ、お前は他人の命乞いと言う物を聞いたことがあるか?」


「ありません! ごめんなさい!」


 成程、この状況下で即答できるってことは本当か。

 日本じゃあるまいし土下座の風習もあるまいて、女は懇願するように縛られたまま芋虫の様に這いつくばって俺に懇願しているが、もう俺に殺す気が無いことを気付いていないのだろうか。


「分かった、生かそう。その恐怖は盗賊に身を落としたが故。この助命は命乞いを聞く場に居なかった故だ。そのことを努々(ゆめゆめ)わすれるな。」


 俺は女を縛り付けている縄を切り裂く。

 急に自由となった女の体は、血だまりにべチャと音を立てて沈み、すぐに起き上がる。


「あ、ありがとうございます!」


「お前は奥へ進むと何が有るか知っているか?」


「……いいえ。ごめんんさい! 殺さないで下さい!」


「殺さぬと言っておろうが……まあ、なら今から半時程後であれば出入り口の火消しを許可する。そこから好きに逃げ出すが良い」


 俺はそれだけ言って、調理場を漁ることを始める。

 まず塩は普通に確保。

 水は、水筒を見つけたからそれに入れていく。

 次に保存食だが、干し肉を見つけたが、正直狩りで普通に肉を得るから必要も無い気がしないでもないが、一応持っておく。

 次にパンを見つけた。固いがその分長持ちしそうだ。

 調理場ではこの程度で良いか。食料だけで大荷物になっても困る。


 ナイフの代わりに包丁を見つけたが、切れ味が悪すぎる。これだと斬ると言うよりは細胞を潰している感じだ。

 鉄も悪いし、多様性も無い。

 俺はウロウロする事も無く部屋の隅で怯えている女を一瞥した後、調理場を後にし、先程の部屋へと戻る。


 殺さなかったことは甘さだ。

 俺の中で反復される反省点である。ただ、一度殺さぬといった相手に対し何の理由も無く死を与える行為は悪だ。

 生きることへの期待を持たせただけに、ただ殺すより尚のこと達の悪い、極悪と呼ぶに相応しい行為だ。

 殺さぬと言ってすぐに縄を斬ったのは、そいつの眼に抵抗の意思が完全に無かったことにある。

 今から殺意を湧き上がらせ俺に切りかかるには、あの女の勇気が足りない。

 勇気の無い人間は、反抗なんて出来ない。それだけは万国共通で、余りにも無情な現実だった。



 部屋に戻り、ザムドの座っていた椅子の奥を凝視して見るが、とても隠し扉がある様には見えない。

 俺は恐る恐る椅子の後ろに身をのり出し、手を伸ばし、岩に触ってみようと試みた。


「っ……っと」


 しかし、岩に触ることは叶わず、手は岩の壁を歪ませるという形で貫いた。

 成程、カモフラージュか。この岩は立体映像で、視覚的には壁にしか見えないが、実際は単なる空気という訳だ。

 武器はアナログなのに、随分とハイテクだなと思いつつ、俺は椅子を飛び越えて、岩の映像の奥へと足を踏み入れた。

 灯無く真っ暗。入った瞬間に目に入ったのが暗黒とは。もし俺が夜目効かなかったら転んでたぞ。

 俺は慎重に奥へと進み、一度曲がってその奥に明かりを発見した。

 俺は楽しみな心を抑えきれずに走り出した。

 体力に関してもどの位落ちているか確かめなくては、なんて走りながら思いつつ、灯に向かって一直線。俺はあっという間に辿り着いたそこで、唖然とさせられる物を見せられる。



「これ程……ため込んでいたか」


 一番真ん中に会ったのは、洋服が入っていたのと同じタンスだった。

 ただ違うのは、そこには収まり切らず溢れた金属、貴金属、宝石といった宝の山が出来上がっていたからだ。

 そんな中で、唯一規則性のある形をしているのが金貨、銀貨、銅貨だった。

 この三種類が揃っていて、尚且つ銅製品もこの宝の山に含まれていた所をみると、これがこの辺の通貨になっているのだろうか。

 となるとやはり、俺ですら行った事の無いような地域ということになるのだろうが、アベルに関しては動物図鑑にすら乗っていない生物だった。

 世の中は不思議で一杯だが、ここまで同時に不思議へ直面することとなるとは、若返って良かったと思わずにはいられない。


 兎も角、これらが有れば金銭的問題は解決する。

 取り敢えず、さっき拾った小さな袋に日頃使う用のお金を入れて、後は大きな袋を探して来てそこに入れよう。

 俺は(ポシェット)から小さな袋を取り出し、銅貨、銀貨をを中心に袋へ収めていく。

 チャリン、チャリンと袋にお金を詰めていくが、途中で疑問に思った。

 この袋、一体全体何処まで入るんだと。

 俺は最初、20枚位は居れば良い方か程度に考えていたのだが、無心で作業をしていたら何時の間にやら100枚以上を袋の中へと収め、その重量感を片手に感じつつも、袋は満杯になる気配を見せない。


 チャリン。


 何だコレ。


 チャリン、チャリン。


 ……何だコレ!?


 チャリン。コインの奏でる音楽を聞きながら、俺は直面した疑問に困惑するのだった。

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