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111Affronta  作者: 白米
第二部 Mondiale del RPG Eroe
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044 想定外な吐血

 優人がLv10になったという嬉しそうな報告を聞いた俺は、もしここで俺もLv10になったと言った場合には十中八九面倒事になるのを察し、即時何事も無かったかのように立ち去るべきであると虫の知らせ。

 ただ目先に居る人々にここへ転移してきた意味を問われてしまえば退路は断たれてしまう。

 Q.つまりどうすれば良いのか。

 A.逃げる。


 事後に聖剣を貰い受ける契約を済ませているとか、それ以前に俺はそもそも聖剣に興味が無い。

 軍人であった時は射撃訓練も少なくしたが、そもそも武器の火力に頼る銃撃戦が好きでは無い為に銃が好きではなく、同じ理屈で聖剣という武器にも進んで使おうという気はサラサラ持っていない。

 魔族と対峙して見て分かったが、アイツらは確かに上位種に相応しき力を持つものの俺が本気で戦えば勝てないという程では無い……というか、『リミット・リワインド』を使えば戦闘描写なんて無いもののように扱いながら勝利する事も叶うだろう。

 自分の力を過信するつもりはないが、“手加減した手刀”一発であそこまで消耗させられるのであれば例え魔王が魔族の10倍強かろうと容易く勝ち得ることが出来るだろう。


 ……ただ、『リミット・リワインド』を使わずにと言われてしまった場合には、勝てる可能性は激減。

 もしかすると50%を切る結果となるかもしれない。


 兎にも角にも、魔王戦において俺が聖剣を持つ必要性は皆無。

 もし必要ならば、地下に残った最後の一振りたる変わり者の魂が入った偽剣アロンダイトを使えば良い。

 聖剣の2割程度の力しかなかったとしても、俺は全然構わない。

 まあそんな訳で、俺は早々にこの場を離れ、ニヤ付きながらにベルンハルドから分かり切ったその後の近状報告を肴に一杯やりに行こう。仕事から帰って来てると良いんだがな?

 そんなことを考えながらに方向転換せず謁見の間を出ようとする俺の腕を掴んだ者がいた。


 マイフレンド、エレアノールエミリー姫ですね、本当に帰して下さい。

 俺、モノの取り合いとか嫌いなんだよ。

 本来どちらにも所有権の無いモノを見苦しく言葉を吐き連ねながら取り合う、柄じゃないな。

 欲しい物は自分で手に入れるからそんなことになることはまずないんだよ。


「お父様」


「エレアノールエミリーか。どうした? ついに完成をみた勇者の噂を耳にし逸早く見に……」


「此方の勇者も、既にLv10へ達しております」


 あーあ、言っちまった。

 どうやらエゼリアも面倒事になるのを察しその場を離れようとしたようでエレアノールエミリーに捕まっている。

 手を繋いで仲良さそうだね、なんて状況を全く理解出来てない優人はにこやかな笑顔で微笑ましげに此方を見ているが、周囲の人間はエレアノールエミリーの言葉の意味を理解し驚きを隠せずにざわめいた様子である。

 Lv10になった二人目の勇者が俺でなかったのなら、タッチの差ではあるものの少し早く王への報告を済ませた優人が聖剣を授かることで丸く収まったのだろうが、俺であった場合には3人の勇者を圧倒的力で打倒するという大盤振る舞いした御仁であるが故に俺へ聖剣を託した方が良いのではないかという考えもある訳だ。

 どうしてこうなったと言わずにはいられない。

 あいつ等が俺の前に立ち塞がりさえしなければ、いやもっというならベルンハルドを拘束したりしなければ、こんなことにならなかったというのに。


「なんと! それは真か!」


「はい。勇者久遠、カードをお父様の前へ」


「えー……嫌」


「久遠、貴方友達に●●●●されたいの?」


「●●●●!?」


 それは勘弁して欲しいし、どうせ逃げることは出来ないのだろう。

 俺は溜息を吐くと逃げる事を諦め威厳ある歩き方で視線の中を堂々と進み、王の前へ行くと膝を折り、ステータスカードを差し出す。

 カードを見た王は「確かに」と呟いてから唸る。どうやら前回の大盤振る舞いに関しては何とも思っていないようであり、そのことで優人を贔屓する気は全くないようであるが、それが尚の事自体をややこしくする。

 ……もう贔屓でもなんでもいいから優人に聖剣渡しちまって終わりで良いではないか。

 それとは別に報告すべきこともあるし。


「王、恐れながら申し上げることが御座います」


「許す。申せ」


「王国より10㎞程離れた荒野で魔族との交戦になり、それを撃退しました」


「何だと!?」


「その魔族が死に際に気になる事を」


「……申してみよ」


「2日後、この王国を魔王軍による侵略が開始される、と」


「それは真……なんだろうな」


 何だその信頼。こんな得体の知れない人間の言葉の何処にそんな信憑性があるというのか。

 危う過ぎる王の言葉に不安を隠せない俺だが、王に対する態度を改めてしまった以上はそれを指摘する訳にもいかないのだが……あの傲慢な態度のままに行動すべきだったか。

 最初王自身も俺の口調に驚いた顔をしていたし、王が俺をどんな目で見ていたかは容易に想像がつく。


「久遠さんもLv10になったの!? おめでとう!」


「優人、残念だが喜んでは居られなくなったんだよ」


 声を抑えていたせいか、広い謁見の間の中で出口側に居た優人の耳には届いていなかったのだろう。

 優人に魔王軍が攻めてくることを説明すると優人が突っ走りそうになり、俺はそれを静止する。

 やっぱりこの国に留まってる場合じゃなかったんだ! なんて悔しげに叫ぶ優人を宥めながらにサトゥルヌスの言葉だと間接的に俺が原因で魔王軍が攻め入ることになってしまったことは口に出せないだろうなと思う俺の判断は正しいのだろうか。

 多分その事を伝えれば俺の罵り合いが始まるだろうが、今はそんなことをしている暇は無い。



「事態が急変してしまったな」


「王様……」


「聖剣を扱う訓練を行う余裕が無くなってしまった。故に聖剣の所有権は強き勇者のものとするが、決闘で決めるということで構わぬか?」


 どうやら王はLv10になった俺と優人の双方に聖剣を扱う訓練をさせて最も使いこなせる方に聖剣を授けようと考えていたらしい。

 成程な、それなら何の問題も起こらなかっただろうし、合理的だ。……あの短い間に思い付いたのであれば頭の回転は中々速いようであるが。

 ……しかし強き勇者って、俺と優人が戦うということなんだろうが……俺と優人は顔を合わせてどうしたものかと考える。

 俺と優人の間には既に明確な決着がついていて、決着がついてから数日しか立っていないというのにその結果が変わるとは到底思えなかったからである。

 アイコンタクトで取り敢えずそのことを伝えてみようということになり、2年先輩である優人が王に伝えることにした。


「あの、王様……」


「納得いきませんわ! 先にLv10になったのは優人様なのですから優人様が聖剣を持つことになる筈ですわ!」


「ちょ、姫様?」


「えー…………」

「えー…………」

「プ、ククク……空気を……全く読めてない……のじゃ……クク」


 言葉を遮られた優人は困惑の表情を浮かべ、冷めた表情をしているのは俺とエウフラージア。エゼリアに関しては完全に笑いを堪えながらキャラを崩さないよう顔を隠す様に後ろを向いている。

 こんな近くに居たのに人の話を聞いてなかったんだな、このアンジェリーヌキャロン姫は。


「アンジェリーヌキャロン。状況は変わったのだ」


「大体、勝負なんてするまでも無く優人様が勝つに決まってますわ! こんな……えと、顔だけ男に!」


 今罵ろうとして何も思い浮かばなかっただろ。

 顔だけて……姫様それ人間ちゃう、生首や。



「う、うむ……」


 王様もっと頑張れよ、俺と優人に必死の助けの視線を求めんなよ。

 俺はそれを無視し、優人はその視線に気付きすらしないという鈍感さを見せる。

 エゼリア、笑い漏れてるぞ。


「それが分かっているなら何故決闘などと! 魔王なんて優人様一人いれば十分なんですわ!」


「……そ、そうよ! 優人さんが居れば!」

「そうだ! 優人の力に適う奴なんていねぇ!」

「…………優人、最強」


 アンジェリーヌキャロンの言葉に触発されたのか、他の女児共まで優人贔屓なことを言い出し、一度俺に負けてる優人は物凄く気まずそうに俺へ助けを求める視線を送ってきているのだが……お前ら(王と優人)弱すぎんだろ、もっと頑張れよ。

 女の尻に敷かれちまい過ぎだろ。


「…………そんな自信があるなら、戦っちまえば全て解決するだろう。何故それを邪魔するのだ?」


「勝敗の決まった勝負などする必要はありませんわ!」


「いや、魔族というのは基本が人型だった。それを生み出した魔王も同様だろう。故に対人戦の経験を積むことに無意味さは無い」


「そんなの、兵士を相手にすればいいのですわ!」


「……魔王はこの国の兵士にも劣る戦闘力なのか?」


「優人様の手にかかれば誰でも一緒ですわ!」


 もう止めて! 僕のHPはとっくに0だよ! なんて悶え苦しむ優人の様は中々に面白いものであるが、アンジェリーヌキャロンのその暴論には腹が立つものがある。

 しかしなぁ……こういう輩は理論攻めしても屁理屈を捏ねて理解しようとしないからな……。


「優人、もう面倒だから一戦交えてそれで終わらせちまおう」


「え、ここで!?」


「何を言ってますの!? まだ話は……」


「気まずく無くなるぞ」


「よっし久遠さん! 負けないよ!」


 優人の耳元で囁いた瞬間、優人は物凄い変わり身でスクワットらしき準備運動を始め、俺も構える。

 何か体が重い気もするが多分大丈夫だろう。


「王、構いませんよね?」


「う、うむ! 両者共に頑張るが良い」


「お父様っ!」


 王は何も答えずにポーカーフェイスで王座に座ったまま一ミリも動かなくなったが、娘の言葉に何も言い返せない為に感情を殺して無干渉を決め込んでいると分かっているのは俺だけだろう。

 何故ならその顔は王たり得る威厳持つものであるからだ。

 ……娘の言葉から逃れる為にその顔をするって一国の王としてはそれじゃ拙いだろう。


 まあこの国の王には何の期待もしていなかったし、構わないが。

 娘を前にするとここまで無様な姿を晒すのか……。


 さて置き、謁見の間の中心まで来ると優人が剣を構え俺も両腕を剣に見立てて構える。

 周囲の人間が息を呑んで見守る中、俺の勝利を確信している若干名はその出来レースなんて見るに堪えないと言わんばかりに欠伸を洩らしたりしている。

 エゼリアはなにやら俺を盛大に応援するのを必死に我慢している様子だが、エレアノールエミリーは完全に欠伸を洩らす側の人間だ。

 優人は胸を借りる気持ちで挑むようで、その顔は笑みを浮かべている。


「優人様! そんな男、一撃で沈めてしまいなさい!」


「うん、まあ全力を尽くすよ!」


 適当な……。

 アンジェリーヌキャロンよ、優人の返答に満足そうな表情を浮かべているとこ悪いが優人は全然そんなこと出来ると思ってないぞ。


「では余が開始の合図をしよう」


 威厳ある顔のまま、王が言う。


「いざ尋常に、始め!」


「ゲフッ!」


「えっ」


 開始の合図と、ほぼ同時だった。

 俺が盛大に吐血し、その血で床を濡らしたのは。


「…………あるぇ?」


 俺はその言葉を最後に吐き出した血によって出来た血溜まりの上、受け身すらも取らずにぶっ倒れた。

 謁見の間の中を、何とも言えぬ空気が支配した。


 唖然とするエレアノールエミリー。

 何が起こったのか理解出来ないエゼリア。

 ポーカーフェイスを解くことが出来ずにどうする事も出来ない王。

 エゼリアと同じく状況の読めない優人。

 そして謁見の間に居る人間の大多数が、エレアノールエミリーと同様に唖然としたままに、倒れる俺の姿を視界に入れたまま動けずにいた。




「さ、流石優人様ですわ! 一撃も与えず勝利するなんて!」


 そんな中、アンジェリーヌキャロンの言葉に同調する人間は、流石に居なかった。

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