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111Affronta  作者: 白米
第一部 Punto di svolta nel mondo
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003 言語理解の糧

 そいつらの恰好は統一性が無く、その眼は獲物を見つけた様な、何処かギラギラとした感じだった。

 ただ、出会った相手と即時戦闘を行うバトルジャンキーという風では無く、敵意もまともに向けられない、他へ気が散っているような、素人臭が臭う四人の男女。

 男三人女一人と言った割合で、全員が武器を携帯し、鉄の胸当てをしている。

 銃刀法違反とか、そんな日本やシンガポール位でしかまともに確立してないような法律を相手に訴える気なんてさらさらないから、別の観点に着目させて貰うが、それぞれに見出された性質がまるで違うものを、ここという同じ地域で使っていることが、俺は疑問でならないのだ。


「……お前らは、何だ?」


 取り敢えずはその疑問を四人に尋ねてみるが、四人の反応は薄気味悪い笑みを浮かべることだった。


「■■■■■!」


「……言葉が通じないのか」


 これは誤算だった。すべての言語を理解したつもりでいたが、一人が発した言葉は聞き取れない、理解することの出来ないものだった。

 ……独自の言語を活用する少数民族……? いや、そうだとしたら恰好の不統一を説明できない。

 不統一なのは鎧だけでなく服装もだ。オシャレする習慣がないにしても、こいつらはある物をそのまま着ているだけの感じがする。

 まあ、そんな疑問は置いておこう。


「■■■■■■■■■■■■■!」


「…………ふむ、■■……■■■?」


 判断すべき言語が少ないため、余り正確ではないかもしれないが、アラビア語、ドイツ語、ラーオ語etc。取り敢えずは聞いた感じではこの三つを主流とし、言語を構成しているように思えた。

 発音なんかはかなり滅茶苦茶なものになるが、現実問題、相手に通じた様である。


「チッ。何だ話せるのか」


 多分、こう言っている。また少し理解出来た。

 口調を日本語のニュアンスのままに話すことは可能そうだ。


「ご挨拶だな。お前らの言語でもう一度問う。お前らは何だ?」


「へへ……見て分かんだろ全裸野郎」


「いや、分からないから尋ねているんだが……」


 意思疎通が出来ているし、合ってるよな? こいつらの恰好は支離滅裂だ。見て分かる人間が居たら逆に驚きなのだが。


「そうかよ。じゃ、意味わかんないまま死んどけよ!」


 一人がそう言って剣を抜くと、残りの男二人も剣を抜いた。女は、何かを探す様に辺りを見回している。


「チャッカ! 俺らがこいつ片付ける前に荷物見つけ出しとけよ!」


「分かってるよ!」


 ……あぁ。盗賊かこいつ等。剣を振り下されながら、今更ながらに俺は気付いた。

 一番最初に出会った奴らがまさか盗賊とは、何とも幸先が悪い。……ただ。


「服ゲット……か」


 その言葉は日本語で、こいつ等に聞こえない程度の音量で呟く。向かって来たのだ。逃げられたら面倒だ。一人生かしてそれ以外は殺すか。

 ついでに、この体の試運転も兼ねるとしようか。

 俺は、目前に迫る刀身を横に避け、何時もの流れて刀身を折りそうになった押しとどまった。

 なるべく多くの物を手に入れたい。俺はがら空きの腹部に、張り手を押し込む。

 胸当ての下、むき出しの布部分に、内臓全てを押し潰したんじゃないかと言う程に手がめり込む。

 ただ、気血が廻っていないのか、気功による大ダメージを与えることは出来なんだ。……この体でもちゃんと開門しないと駄目なようである。


「カッ……ハァ!?」


 息が出来なかったのだろう。ダメージが声として出るまでのタイムラグ。俺はその隙に力の緩んだ手から剣を奪い取り、回し蹴りで近くに会った樹木に男の体を叩きつける。

 首に蹴りを決め、しっかりとした手ごたえもあった。

 気功は使えずも、技量の衰えは感じられない、間違えなく死んだな。


「うおおおお! よくもクドを!」


 次に向かって来たのは、デブだった。大量の汗を掻き、ダルダルの服が湿って気持ち悪いことになっている。


「……お前の服は、要らない」


 手に入れたばかりの剣は、ロクに手入れをされていない鈍だった。

 きっとデブの身に着けた安物胸当てに向けた攻撃ですら、耐え切れずに折れてしまう事だろう。

 俺は風の抵抗の少ない突きの構えから、常人の眼には写らない速度で19回の突きを胸当て以外の布や肌と言った部位を深くまで貫く。

 当然、致命打を与え損ねる訳も無い。俺より背の高い相手だったが、露出された致命傷を与えることの出来る数少ない場所である首には二撃程ヒットさせたし、即死させるのが叶わなかった時の為、四枝の活動に必要な神経の断裂も完了させている。

 デブの武器は、後で胸当てと共に回収するとしよう。

 服は要らない。


「ヒィ!? クド! ボウト!」


「すぐにお前も逝ける。だから……騒ぐなよ」


 加害者の癖に。

 俺はこの男の首を掴み、最も力のいらない方法でへし折った。

 今の俺に、握力や脚力といった力は期待出来ない。ならばスラムで仲良くなった子供に教わった手法を使うまで。彼らは俺以上に、逃れられない、逃れようのない死の近くにいた。

 餓死の方が多いそこで、俺はどれだけ簡単に人が死ぬか、戦争時以上に教わった。


 さて、残りは女だ。水浴びの際、盗人から荷物を守る為に隠す場所といえば草の茂みだ。逃げていなければその辺を探している筈だ。

 俺は辺りを見回し、人影を探す。


「……逃げたか」


 追うことは確定している。だが、ある程度逃げて貰おう。

 そして、お前達の寝床へと、案内して貰おうか。

 俺は口端を吊り上げる。こいつらは余りに弱すぎた。

 盗賊ならコイツらの身に着けていた鎧は恐らく他人から奪い取ったものだろう。

 しかし、武器を持った相手から物を奪い取るには弱すぎる。恐らくは他に仲間が居て、集団で少数を襲ったのだろう。

 となると、此方の紙幣もそこに蓄えられている可能性がある。こいつらの恰好は明らかに登山する為の物では無い。見たところ食料も持っていないようだ。

 つまりはすぐ近くに帰る場所がある。この周辺にアジトを作っていることはまず間違いないだろう。


 俺は、デブを除いた男達から心情的に身に付けたくない下着以外の服を剥ぎ取り、全員から防具や武器を取り外す。

 現状、俺の力は決して強くない。三つの中で一番軽い胸当てを下着を履かずに着た服の上から身に着ける。

 そして、武器には一度も使われなかった三人目のものを使う。刀では無いが片刃で、一番手入れが行き届いている。

 三人の中で一番几帳面だった男は、一番何も出来ずに死んだという訳か。

 段取りに念を入れる無意味さを感じさせられる。どんな良い武器でも使う人間によっては使う事すら出来ず、使えたとしても必ずといって良い程に寿命が来る。


 なのに心情的に良い武器を求めてしまうのは、自分の戦う爪や牙を持たない人の性か。

 使わない武器や防具は、草の茂みに隠した。

 服に関しては二人の服を合わせてようやく一組になったという感じで余らなかった。

 靴はサイズが合わず、ブカブカだ。草を詰めて紐で固定してあるが、サイズの合う靴を得たいところだ。


 さて置き、今度はこいつらの寝床に押し掛ける訳だが、人数によってはこの体では殺されるかもしれない。

 さっき使った突きの連撃。あれが予想外に筋肉へ負担を与えている。

 筋肉痛とまではいかないまでも、あの程度の事で軋む体では、相手に出来る数も限られてくる。

 まあそれでも、行くのだが。


 俺は、奴らの来た方向にある足跡を見る。

 二手に分かれて、片方は此方に向かって来た男の足跡、もう片方は、俺の有る筈も無い荷物を探す予定だった女の足跡。

 女の足跡を辿って行くと、歩幅から、一度草の茂み辺りまでは歩いているが、そこから走っていることが分かる。

 俺はその足跡を辿って、森の中を進んでいく。眼で足跡を追って前に進み、耳で危険が寄って来て居ないか確認する。

 そしてある音を聞いた時、俺は思い付いた。

 俺はあることをしてから、女の足跡を辿って足を進めるのだった。




「……ここか」


 そして、そこを見つけた。

 人の気配がするそこは、洞窟だった。ここまで人の気配をさせておいて見張りも立てないなんて、愚かな略奪者が居たものだ。

 自分達は奪う側にしかなり得ないとでも考えているのだろうか。

 俺は機会を伺いつつ、洞窟を観察する。

 罠はない。いや、罠も無いか。俺は一度洞窟から目を離し、撒いた種が芽吹き始めているかを確認する。

 そして、ある音でそれを確認。俺は口端を吊り上げて笑う事を止められずにワクワクとした高揚感を抑えようともせず、洞窟の中へ侵入した。


 洞窟の中は暗い。壁と一体になって動かなければ夜目の効かない人間なんかに見つからないと確信できる場所があらゆるところにあった。

 灯が漏れているところを見つけるのにそれほどの時間は掛からなかった。

 女の奇声が嫌と言う程耳に届いていたからだ。恐らくは先程の女が、誰かに熱弁を振るっているのだろう。


 俺は中を覗きこみ、布の服を着た奴らが十人以上居る事を確認した。当然の様に鎧は、付けていない。

 俺はその場から離れ、更に奥へと進む。そして再び明かりの漏れている場所を見つけ、覗き込むと今度は調理場のようだった。

 無論、洞窟の中でする調理なんてたかが知れているだろうし、調理場と呼ぶにはお粗末な出来だったが、そこでは二人の女が良い匂いをさせて料理に励んでいた。

 俺は調理場に入り込んだ。

 そして、女二人を音も無く無力化し、後で色々聞くために近くに会った縄で拘束して床に転がしておく。

 次に、調理場へ潜り込んだ二番目の理由であるものを探す為、片っ端から液体を貯めこめるような壺を開けて行き、中身を確認して行く。

 目的の物はすぐに見つかった。俺はそれを分かりやすい位置に置くと調理場を出て、洞窟の更なる奥へと進み、期待通りだった洞窟構造にまた笑う。



「ハハハ、懐かしいな、悪へ対する徹底制裁。例え地獄へ落ちようとも、俺は何も悔やまないだろう」


 俺は、収まらない笑いが、とても面白かった。

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